やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
やっぱりこの三人が本気出すととんでもない、桃ちゃんも砲撃以外は普通に有力ですよね。
「…で、土下座?」
そろそろ降伏勧告から三時間、睡眠をとっていたカチューシャはノンナに起こされまだ少し寝ぼけている。
「いえ、降伏はしないそうです」
「ふーん…そう、待ったかいがないわね」
だがノンナからのその報告に面白くなさそうに目をこするとすぐに気持ちを切り替えた。
「なら、さっさと片付けてお家に帰るわよ」
「では…」
「ちゃんとあいつらにも伝えたはずよ、降伏しなければ今度は容赦しないって」
プラウダ側からすれば勝てた状況であえて見逃してあげたのだ、これ以上はあのフラッグ車以外を全滅させる宣言を守る必要はない。
「さっさとフラッグ車やっつけて終わりにしてやるんだから」
ならばここからは本気だ、大洗のフラッグ車を狙い撃ちにしてやる。
「向こうは我々を偵察していたようですが編成に変更は?」
「必要ないわ、あえて包囲網の中に緩い所作ってあげたんだから、奴等はきっとそこをついてくる」
この三時間の間に大洗がこちらを偵察にくる事くらいはカチューシャも予想していた、その為の罠は最初から用意してある。
「ついたら挟んでおしまいね」
「上手くいけばいいんですが」
「カチューシャの立てた作戦が失敗する訳ないじゃない!それに第2の策でフラッグ車狙いに来ても隠れてるかーべーたんがちゃんと始末してくれる」
フラッグ車の護衛にはKV-2を設置した、先ほどたった一発の砲撃で大洗を窮地へと追いやった重戦車だ。
「用意周到な偉大なるカチューシャ戦術を前にして、敵の泣きべそかく姿が目に浮かぶわ」
意地悪く微笑むカチューシャだがふと気になったのかノンナに尋ねた。
「そういえばあの…ゾンビは?」
「…比企谷さんですか?」
「あぁそう、そいつよ、あいつはどうなるのよ?」
「渡さない、との事です」
「ふーん…、あっそう、別にいいけど」
その報告にカチューシャは少しだけ寂しそうな表情を見せた。
ーーー
ーー
ー
『お待たせしました、ただ今より試合を再開いたします』
ようやくアナウンスが試合再開を告げる、いや、本当だよ…。
「いよいよ試合再開ですね…、もうすっかり暗くなって来ました」
まぁ三時間待ったからね…リアルに、この寒さもあって観客席からいつブーイングが飛んできてもおかしくないレベルである。
つまりここから先は完全に夜戦でもある、吹雪に加えて夜戦ともなれば視界はますます悪くなってくる一方だ。
単純に砲撃が当たりづらくなってくる。大洗、プラウダ共に条件としては同じだろうからどちらが有利とは言えないが。
「大洗は囲まれちゃってるし、どうするんだろ?」
「風も水も、通り道は必ずある、大事なのはそれがどこか見極める事だよ、アキ」
確かにモニターでプラウダの布陣が見れる俺達には、明らかに包囲網の中に手薄な所があるのを見てとれる。
そして大洗も偵察を出しているのだ、それならその場所を把握していても不思議じゃないだろう。
「やはりここは楔を打ち込み、中央突破でしょう!!」
「中央って…一番分厚い所じゃねぇか、狙い撃ちされるぞ」
そんな所に真っ向から特攻とか…相変わらずの突撃脳じゃねぇかと西の案を否定してやった。
「出てきたわね」
建物から大洗の戦車が飛び出し、プラウダ側も砲撃を始める、大洗の先頭はカメチームの38(t)だ。
大洗はそのまま38(t)を先頭に包囲網の緩い所に向かって前進、ほら見ろ西、中央突破なんて普通やらないんだよ。
「…あ、大洗の戦車が進路を変えて」
ん?おや?緩い所に向かうと見せかけた大洗が向かっているのってあれ、カチューシャさんも居る中央じゃないか?
まさか…本当に中央突破するつもりなのか?
「そういえばあなたが居ない間の事なんだけど」
「急になんですか?」
俺が居ない間って、たぶんトイレタイムの時の事言ってるんでしょうけど、呼称を変えるなら姉住さんと一悶着あった姉住さんタイムである。
「大洗は偵察しているのが見つかったのよ」
「…先に言って下さい」
なら話は別だ、偵察しているのがバレているのにあえて布陣を変更しなかったのは何か作戦があったからなのだろう。
西住もそれには気付いているだろうが…それにしたって中央突破とか、大胆にもほどがある。
「見てください比企谷殿、中央突破ですよ!!」
やー、それにしても嬉しそうですねあなた、いや、正直さっきはごめんなさいね、あっさり否定しちゃって。
これが虚をついたのか、さすがのカチューシャさんも慌てて迎え撃つ準備をしたが、その隙を大洗側も見逃さない。
先頭の38(t)が砲撃をかわしつつT-34に一撃を放ち撃破すると、それを口切りに大洗の戦車は次々と中央を抜けていく。
あっ、これは会長と河嶋さん入れ替わったな(確信)、今は会長が砲手なのだろう。
「あの38(t)…確か私達との練習試合では0距離で砲撃を外してましたよね」
え?そうなの?むしろどうやって?
「成功とは、失敗を重ねてもやる気を失わないでいられる才能である、彼女達もあの頃とは違う、という事ね」
「チャーチルですね」
ごめんなさい、たぶん砲撃に関してだけ言えば河嶋さん、あの頃とあんまり変わってないかもしれないです。やる気は十分過ぎるほどにあるのは伝わってくるんだけどなぁ…。
そんな訳でいつか河嶋さんが成功する事を祈りつつ、とりあえず会長と入れ替わってるのは黙っておこう…いや、なんか面白そうだし。
しっかし、やっと本気になったかと思ったが、あの一瞬でT-34を撃破するとかうちの会長どんだけだよ。エンジンかかるの遅すぎでしょ。
いや、会長だけじゃないな、小山さんの操縦もそうだし、河嶋さんだって今まで装填と砲撃を一人でこなしていたのだ、それが装填に専念できるとなれば…。
このポジションこそ、生徒会チームの本気という訳だ。いや…本当にスロースターターにも程があるでしょ、この人達。
ーーー
ーー
ー
「やったな!後続、なにがなんでも阻止!!」
1両撃破され中央を抜かれたプラウダだが後方にはまだ戦車を配置してある、簡単に抜かれる訳にはいかない。
「前方敵4両!!」
「こちら最後尾、後方からは3台来ています、それ以上かも」
視力2.0のそど子が後方を確認、このままだと挟み撃ちになる。
「挟まれる前に態勢乱さないよう10時の方向に旋回して下さい」
「正面の4両引き受けたよ、上手くいったら後で合流すんね」
大洗の戦車が挟み撃ちを回避する為に旋回する中、カメチームの38(t)は前方4両に突っ込んでいく。
「T-34、76に85にスターリンかぁ、固そうで参っちゃうなぁ」
そう言いながらも角谷は強気に微笑む。
「小山、ねちっこくへばりついて」
「はい」
「河嶋、装填早めにね」
「はい!」
38(t)の砲撃ではまともにやって撃破できる相手ではない、T-34を撃破するなら至近距離まで接近する必要がある。
「38(t)でも0距離ならなんとか…」
だがそれは至近距離ならば撃破も可能、という事だ。
「西住ちゃん!いいから展開して!!」
『わかりました、気をつけて!』
「そっちもね」
西住みほは少し不安そうに前方の敵4両に突撃する38(t)を見送った。
4両対1両、それも相手の戦車の性能は自分よりもずっと上。
劣勢なのは明らかだが、彼女達生徒会チームは止まらない。
38(t)の37㎜砲で安定して破壊できるとなれば履帯を狙うのが一番だ、履帯を狙いつつ、可能ならば相手戦車も狙う。
「失敗…もう一丁!」
小山が操縦し相手戦車からの砲撃をかわし、接近し、砲撃を叩き込み。
「もう一丁ッ!!」
動き回る戦車内でも河嶋がきちんとすぐさま装填し、また撃つ。
「せーの!!」
結果、敵4両のうち2両を撃破し、残る戦車も履帯を破壊した事ですぐには行動できないようにした。
「よーし、こんなもんだろ、撤収~」
「お見事です!!」
戦果としてはこれ以上の結果はないだろう、後は再び大洗の本隊と合流出来れば…。
と、その瞬間…38(t)に砲撃が直撃し、吹っ飛んで白旗が上がった。
「動ける車両は速やかに合流しなさい」
撃ち込んだのはノンナである、彼女はすぐに他の戦車に指示を送るとカチューシャの居る本隊へと向かった。
ーーー
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ー
「…マジでか」
生徒会チームの孤軍奮闘にて包囲網も突破したが、38(t)はここで脱落か。
いや、戦果としては味方を逃がした上、更に敵戦車2両の撃破もやってのけたのだ、無双と言って良いくらい十分過ぎるほどの働きだ。
「今の砲撃はノンナね」
「ナオミさんと並んで…高校生戦車道において有名な砲手」
いや、本当にマジパねぇな…、この暗がりで吹雪の中をあの距離から一発ですか、ロシア戦車の照準機ってそこまで精度なかったと思うんですけど。
いよいよ…本格的にこの人が動き出したのか、一回戦のナオミは消しカス作戦でなんとかなったが今の大洗にその余裕はないだろう、そもそも頼みのバレー部は今回フラッグ車だし。
相手側に有力な砲手がいる脅威に対して、今回俺達が切れるカードはない。
それに包囲網は突破出来たが、それは同時に相手フラッグ車からも遠ざかってしまったことを意味する。向こうのフラッグ車は集落から動いていないのだから。
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「何やってるのよあんな低スペック集団相手に!全車で包囲!!」
『こちらフラッグ車、フラッグ車もッスか?』
「アホか!あんたは冬眠中のヒグマのように大人しくしてなさい!!」
逃げる大洗とそれを追うプラウダの状況は依然として続く。
「麻子さん、2時が手薄です、一気に抜け出してこの低地を抜け出す事は可能ですか?」
「了解、多少きつめにいくぞ」
「あんこう2時、展開します、フェイント入って難易度高いです、頑張ってついてきて下さい」
あんこうチームを先頭に大洗の各チームがそれにきちんと続く、無茶な行軍ではあるが遅れるチームも出てこない。
「なんなの、ちまちま軽戦車みたいに逃げ回って」
それを追いかけるプラウダだが夜戦という事もありこのままだと大洗の戦車を見失う可能性も出てくる。
「機銃曳光弾!主砲は勿体ないから使っちゃダメ!!」
牽制と相手戦車の位置の把握の為に曳光弾を撃つ、だがそれは大洗にとっても相手の戦車を把握するチャンスであった。
「見えたぞ」
「カモさん、追いかけて来ているのは何両ですか?」
『えと…全部で4台です』
「フラッグ車は居ますか?」
『見当たりません』
その報告を聞いた西住みほはすぐに喉元のマイクで指示を送る。
「カバさん、アリクイさん、あんこうと一緒に坂を上り終えた直後に敵をやり過ごして下さい、主力が居ないうちに敵のフラッグ車を叩きます」
このまま逃げていても最後には捕まってしまうだろう、それならばこちらの数を割いてでも主力を相手フラッグ車に向けた方が良い。
「ウサギさんとカモさんはアヒルさんを守りつつ逃げて下さい、この暗さに紛れる為、できるだけ撃ち返さないで」
『はい!!』
指示を送りながら坂を上り終えたあんこう、カバさん、アリクイさんチームは左右にそれぞれ旋回、アヒルさん、ウサギさん、カモさんチームはそのまま進む。
それを追いかけるプラウダが通りすぎた事を確認するとあんこう、カバさん、アリクイさんの三チームはフラッグ車を撃つべく再び集落へと戻っていく。
「追え追えー!!」
「三両程見当たりませんが」
「そんな細かい事はどうでもいいから!永久凍土の果てまで追いなさい!!」
敵のフラッグ車は目の前だ、ここで他の事に戦力を割く必要はないとカチューシャは判断した。
偵察こそされたが、プラウダのフラッグ車の位置がしっかりと把握された訳ではないのだ。
「………」
それは西住みほにもわかっていた、彼女は走行中の戦車から立ち上がると辺りを見渡す。ちなみにこれ、普通に危ないので皆さん真似しないように。
「優花里さん、もう一度偵察に出てくれる?」
「はい、喜んで!!」
西住みほは秋山に声をかけると彼女はすぐに返事を返し、斥候として再びⅣ号から降りる。
「どこか高い所…」
キョロキョロと辺りを見渡し、偵察に使えそうな高い建物を探し始める。
これで大洗側のフラッグ車を撃つ作戦は順調だ、だがプラウダ側ももちろんこのまま追いかけっこをただ続けるはずがない。
「遅れてすいません!IS-2、ただ今帰参です!!」
遅れて合流してきたのが生徒会チームとの一悶着で合流が遅れたスターリン重戦車である。
「来たぁ!ノンナ、代わりなさい!!」
「はい」
122㎜砲搭載の重戦車、それに高校生戦車道にて有力な砲手であるノンナが乗り込む。
これこそがプラウダが真の力を発揮できる戦い方である。
ーーー
ーー
ー
「大洗もプラウダも狙うはフラッグ車だね」
「うちはまだ発見すらしてないけどな…」
もう!カチューシャさんったら約束破って、サービス期間は終わったのさって、それどこのフリーザ様ですか?
いや、降伏勧告を反故にした時点でそりゃそうだろうが…それにしたって、ねぇ?
「いよいよクライマックスですね、どちらが先にフラッグ車を撃破できるか…」
「…こんな言葉を知っていて?」
「…来ましたね、ダージリン様」
「えぇ、そうね」
と、恒例になったのか知らんがいつものようにダージリンさんの物真似でもしようかと思ったら、ダージリンさんとオレンジペコがなんか急に身構え始めた。
「諦めたらそこで試合終了とでもいうつもりかしら?」
…前回俺が言ったやつがわかんなかったのがそんなに悔しかったのかねこの人達。
てか調べたのね、安西先生ェ…。