やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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茨城県に行って地味に一番嬉しかった事、自販機にマックスコーヒーが売ってる!!
いや、自分の住んでる所はまったくと言って良いくらい見かけないんですよこれが。

いやー、しかし大洗楽しかった、また機会があれば行ってみたいです。


こうなると、彼には昼飯を食べる所がない。

【祝!大洗学園、戦車道全国大会決勝戦進出!!】

 

「うわぁ…」

 

朝登校すると、デカでかと校舎にそんな垂れ幕がかかっていた。

 

いや、垂れ幕だけじゃなくて戦車型のアドバルーンまで飛んでいて、ここにも【祝!戦車道】の文字。

 

「生徒会が勝手にやっただけだから…」

 

立ち止まり見上げていると、風紀委員長のそど子さんに声をかけられた。その呆れた様子からして、あの人達はもうやりたい放題のようだ。

 

「あぁ…えっと、準決勝、お疲れ様でした。大変だったでしょ?」

 

演習こそ経験はあるが、風紀委員のカモさんチームにとって初の公式試合。それも舞台は雪原で相手はプラウダという強敵、さらに負けたら大洗は廃校という真実もあった。

 

会社でいうなら、新入社員がいきなり「これミスったら会社潰れるからね?」と言われて難しい仕事を任されたみたいなものだ。なにそのブラック企業、戦車道恐ろしすぎだろ。

 

「問題ないわ、これが風紀委員の力なのよ!!」

 

マジかよ、風紀の力ってすげぇ。

 

「比企谷君、あなたも風紀委員に入ればその目も治るはずよ、どう?今なら私がその髪を切ってあげても良いわよ」

 

「いや、入りませんし…」

 

「じゃあ髪だけでも…」

 

いったいなにがじゃあなのか。

 

風紀委員はそど子さんの独裁政権により、入るには髪型をおかっぱ頭にすると義務付けられている。これで人数が100人以上も居るというのだから驚きである、よくみんな入る気になるよね。

 

つまり大洗でおかっぱ頭を見たら風紀委員と思え、場合によっては良い目印でもあるので逃げやすい分逆効果な気もするが。

 

はぁ…、しかし垂れ幕はともかくアドバルーンまで使うとは盛り上がってんなぁ、全部生徒会の企みだろうが。

 

決勝戦に向けて生徒会はついに一般生徒にも廃校の旨を伝えた。理由は少し下世話な話ではあるが義援金の募集である。

 

何度も言っているが戦車道は金がかかる。戦車、弾薬、燃料、部品、本来なら金持ちだけが出来る貴族の遊びみたいなものだ。

 

アンツィオがP40を購入できたのだって、長年屋台でコツコツと資金を集めたからだ。継続は…うん、今は置いておくか。

 

だが大洗には金も無ければ、そのような時間も無い。義援金がどれだけ集まるかわからないが、決勝戦を前にやれる事はやっておきたいのだろう。

 

「…はぁ」

 

教室に入るとざわざわとクラスの連中が騒いでいた。朝から元気だねぇ、何か良いことでもあったのかい?

 

まぁ理由はもうわかっている。クラスの連中が集まっているのは西住の席だ。

 

「決勝戦進出おめでとう、西住さん!!」

 

「準決勝見たよ、俺マジファンになりそう」

 

「え、えと…その、ありがとうございます」

 

いやー、すっかり人気者だねぇ。転校したての頃、ぼっちだったのが嘘みたいだ。

 

そんな訳で西住も今じゃクラスの人気者、当然と言えば当然だ。特にクラスの連中は準決勝を直接見に来てる奴らも多く居る。

 

本人にその気は無いだろうが、西住は試合中、ほぼ戦車から上半身を乗り出しているので目立つのだ。姉住さんもよくやっていたし、たぶんあれは西住流の戦い方なのだろう。

 

大洗学園の決勝戦進出、そしてその隊長である西住が人気者にならない理由はないだろう。

 

いや、西住だけじゃないな、武部も五十鈴も元々ぼっちではないが、今じゃうちのクラスどころか他のクラスの連中にまで囲まれている。

 

さらには猫田だ、以前までは休み時間とくれば一人で携帯ゲームをしていた彼女だが。

 

「猫田さん、筋肉触らせて下さい!!」

 

「お、おっけー…」

 

「や~ん、硬い~!!」

 

…なにあれ?

 

まぁそんな訳で準決勝で遺憾なく発揮されたその筋肉もあって、試合初出場でありながら猫田も大人気である。

 

以前は西住、猫田、俺によるぼっち三国志だった我がクラスも、今では俺一強と孔明さんの天下三分の計は大成功である。さすがは時計塔の若きロード、孔明欲しい。

 

「………」

 

当たり前だが俺が教室に入っても誰も見向きもしない。いやーありがたいんですけどね、自分の席まで行きやすいし。

 

「…あ」

 

途中西住がこちらを見て何か言いたげだったのをスルーして席に座ると、イヤホンで音楽を聞きながらホームルームを待った。

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「…しまった」

 

あいったー…。

 

昼休み、いつも飯を食べているベストプレイスに行こうと思っていたら雨が降り出してきた。

 

常に海上を移動している学園艦の天候は山以上に変わりやすく、天気予報とかあんまりあてにならない。

 

さて、こんな時はどこで食べるか?まず思い付くのは学食だが、人が多いので周りがわいわい騒いでる中、一人で飯なんか食っていると目立って居心地が悪い。

 

以前ならこういう時は教室で食べていたが、今だと西住達がいらん気を回してきそうだ。それは…うん、止めて欲しい。

 

久しぶりにあそこで食べるか…。

 

ふらふらと向かった先は戦車倉庫である。…トイレだと思ったやつは後で屋上来い。久々にキレちまったよ。

 

ここなら雨風に当たる事は無いし、昼休みにわざわざ来る者も居ない。それに戦車を眺めながら食べる昼飯というのもなかなかオツなものだ。

 

ふわりと香る鉄と油の匂いが逆に心地よい、よし、今日はⅣ号戦車にするか。

 

「…良い匂いだな」

 

Ⅳ号戦車に登って昼飯用に買ったパンを広げていると、キューポラから誰かが顔を出してきた。

 

「…冷泉、なんでお前がここに居んだよ、授業どーした?」

 

Ⅳ号戦車の中に居るとか、あきらかに今ここに来たばかりとは思えない。

 

「自主的に休養した」

 

…要するにサボりじゃねぇか。この天才め、いつの間にか戦車倉庫をサボりスポットにしてやがるな。

 

「比企谷さんもそうだろ?」

 

「勝手にサボり仲間に加えるな、昼飯食いに来ただけだ」

 

「もう昼か、パン、私にも分けてくれ」

 

「いや、分けねーけど…」

 

「メロンパンで良い」

 

人の話聞いてる?なんでちょっと我慢した風な言い方してんだよ。

 

「今から購買に行っても売り切れてるんじゃないか?」

 

「だろうな、授業サボったお前が悪い」

 

「ぐぬぬ…」

 

冷泉を無視してパンを食べようかと思ったがこいつ、じっと見てくるのでどうにも食べづらい。なんで何も悪い事してないのに後ろめたい気分で飯を食わねばならんのか。

 

「…メロンパンな」

 

「すまない、感謝する」

 

買ってきたメロンパンを冷泉に向けて投げ渡した、見事にキャッチした冷泉は封を開けてもぐもぐと食べる。

 

「後で婆さんに言いつけてやる」

 

「…!?そ、それは困る!!」

 

…なんかだんだん冷泉の扱い方もわかってきた気がする。

 

「あれ?八幡君と麻子さん?」

 

「…げっ」

 

戦車倉庫の入り口からひょこっと西住と五十鈴と武部と秋山が顔を出した。

 

「ちょっと!人の顔見るなりげって何よ!!」

 

「お二人共ここで昼食ですか?」

 

「…こいつはサボりだけどな、まぁたまたまだ」

 

「ちょっと麻子、また授業サボったの!もう!!」

 

「自主的に休養しているだけだぞ、沙織」

 

だからそれがサボりなんだよ…、ったく。

 

「なんでお前らわざわざこんな所来てんだよ…」

 

「それが…教室や食堂だとゆっくり食べられなくて、外で食べようにも雨が降っていますし」

 

あぁ…まぁそうだよね、すっかり有名人だもんね君達。

 

「それで今日は戦車と一緒にご飯を食べようかと思いまして」

 

発案者は秋山か…納得。

 

「八幡君、雨の日はここで食べてるの?」

 

「…別に、今日はたまたま戦車を見ながら食いたい気分なだけだ」

 

…冷静に考えたらどういう気分なんだそれ?

 

「えと、だったら…その、私達もここでご飯食べてもいいかな?」

 

西住が遠慮がちに聞いてくる、ちょうど俺がⅣ号の上に乗っているので必然的に上目遣いでどうにも断りにくい、卑怯だよなぁ…。

 

「まぁ、別に…どこで食べようと西住達の自由だろ」

 

「うん!じゃあ一緒に食べよ!!」

 

え?そうなるの?俺もうさっさとパン食べてどっか行こうと思ってたのに…。

 

「いや…、その、俺は別に、もう食べ終わるし」

 

冷泉にパンを与えといて良かったかもしれない、おかげですぐに立つ理由も出来た。

 

「別に良いでしょ?それに…ここなら誰も来ないと思うし」

 

「………」

 

前々から教室での様子を見てて気付いてはいたが…たぶん武部にはバレてるな。さすがおかんというか…その気配りの良さはさすがだ、本当になんでモテないんだこいつ。

 

…ひょっとしてうちの男子って目が腐ってんじゃない?あ、それは俺か。

 

「あ、そういえばお母さんがお弁当で戦車作ってくれたんですよ!比企谷殿も見ませんか?」

 

「なにそれ?新しいキャラ弁なの?」

 

新ジャンルにしても新しすぎだが、もしかしてこれを機会にトンカツで出来た戦車とか戦車寿司とか生まれそうな勢いである。

 

「といってもお母さんが言い張っているだけなんですけどね」

 

「すごいじゃん、よくできてるよ」

 

「食べるのがもったいないですね」

 

武部が秋山の広げた弁当を写メにとっているがそれより五十鈴さん、その膝にある大量のサンドイッチはいったいなんなんですかね?

 

「あ、ありがとうございます」

 

秋山も恥ずかしそうだが嬉しそうだ。

 

「キャラ弁かぁ、私も今度挑戦してみようかな」

 

「自分で作ったキャラ弁を自分で食うのか?」

 

普通の弁当ならまだしも、キャラ弁でそれをやると結構悲しくない?いや、そもそもキャラ弁とか作った事も食べた事もないんだけど。

 

「別に自分で食べなくても…みんなで食べればいいじゃない」

 

「良いんですか?武部殿の戦車のキャラ弁、楽しみです!!」

 

秋山が簡単に釣れた。…しかしまぁアレだね、ますますおかんポジションっていうか、武部はどこに向かっているのか。

 

恋に一直線なのは結構だが、その直進で大丈夫?道間違えてない?

 

「…比企谷も食べてよね」

 

「は?いや…なんでだよ?」

 

「なんでって…えと、ほら、いずれ素敵な彼が出来た時に作ってあげる練習というか」

 

「お前の料理スキルなら練習とかいらねーだろ…」

 

「ありがと、でも…あんまり嬉しくない、かも」

 

せっかく誉めてんのに…、道、間違えんなよ。

 

「…そういえば、生徒会新聞の号外、見ました?」

 

「あ、うん…すごかったね」

 

なんだか妙な空気になりそうなのを察してか、秋山が話題を変える。変えたのは良いが…あれねぇ。廊下の掲示板のあちこちにでかでかと貼られていたので嫌でも目についてしまう。

 

一面はもちろん戦車道の決勝戦進出についてで、生徒会三人のコメント付きであった。河嶋さんのコメントをバッサリカットした辺りはグッジョブといえる。なんでも三時間は喋っていたとか。

 

製作者は大洗学園放送部の王 大河、あの練習試合の時にあんこう音頭を録音した憎いあんちきしょうのあいつだ。マスゴミなのであまり関わりたくない人物でもある。

 

巨大垂れ幕に戦車型アドバルーンに生徒会新聞、それだけ生徒会も必死という事だろう。

 

「決勝戦は大洗学園一丸となっての戦い…になりそうですね」

 

それくらいはやらないと勝てない相手だ。義援金がどれだけ集まるか不安だったが、今朝の西住達の人気者な様子を見ているとそこそこには集まりそうである。

 

「決勝戦はあの黒森峰ですもんね…」

 

「黒森峰ってそんなに強いのか?」

 

「そりゃもう!全国大会9連覇の強豪ですから!!」

 

「それに…みほさんのお姉さんが隊長なんですよね」

 

「…うん」

 

自分でも一度しほさんを焚き付ける為に言ったが、決勝戦は西住流対西住流、姉妹対決になる。

 

これまでの試合を見た限り、黒森峰のフラッグ車は姉住さんだ、衝突は避けられないだろう。

 

「でも…こんな状況で言うのも少し変ですが、私は嬉しいです、皆さんと戦車道をしてここまでこれたのが」

 

秋山は大洗が戦車道を再開させる以前から、戦車道が大好きだったような奴だ。

 

再開する前の大洗なんて、それこそそんな武道あったっけ?程度の認識だった戦車道が、今では学園全体を巻き込んでの廃校撤回の最後の砦になっている。

 

「聖グロリアーナとの練習試合も、サンダース、アンツィオ、プラウダとの試合も、練習も、戦車の整備も…練習帰りの寄り道も、みんな楽しかったですね」

 

俺は戦車道が嫌いだったのでどうでも良かった。だが、ずっと好きだった秋山は戦車道の無い大洗学園で一人、ずっとそれを抱えていたのだろう。

 

「うんうん、最初は狭くておしり痛くて大変だったけど、なんか戦車に乗るのが楽しくなった!!」

 

…でもクッションを持ち込んだ事は許さないからね、絶対にだ!!いや、楽しそうなら良いんですけど。

 

「うん、私も楽しいって思えた。…前はずっと勝たなきゃって、そればっかりだったから、だから負けた時、戦車から逃げたくなって…」

 

その逃げた先の大洗が戦車道を再開して、しかも負けたら廃校だもんな、よくよく考えたらなんて皮肉だ。

 

転校したての学校だ、それもぼっちだった西住にとっては廃校になろうが正直関係なかったはずだ。

 

それでも西住はここまで来た。再開したばかりで素人だらけのメンバーと、お世辞にも強いと言えない戦車で大洗学園を決勝戦まで連れて来たのだ。

 

「みんな、聞いてくれないかな?その…去年の決勝戦の話なんだけど」

 

そっか…話すのか。いや、それに関して俺が口を挟むつもりはない、いつか自分から話したいと西住は言ったのだから。

 

去年の戦車道全国大会、その決勝戦、彼女は川に流された戦車の乗員を助ける為に単身、フラッグ車から飛び出した。

 

そのせいでフラッグ車は撃たれ、黒森峰は10連覇を逃したのだ。

 

「私、あの試合テレビで見てました、西住殿の判断は間違ってなかったと思います!!」

 

「…優花里さん」

 

「助けに来てもらった選手の皆さんは、西住殿に感謝してると思いますよ」

 

そう言って微笑む秋山、そう、それは間違いない。

 

「比企谷殿も、そう思いますよね?」

 

「…俺の意見は良いだろ、別に」

 

間違いないが…、俺は秋山程西住の意見を全面的に肯定はできない、だからここで口を挟む必要はないだろう。

 

「ううん…聞かせて、八幡君」

 

「…西住?」

 

「私は、もう逃げないから」

 

「………」

 

去年の戦車道全国大会の決勝戦において西住がやった事に関して、正直にいえば思うところはあった。

 

姉住さんとのあのサンダース戦での一件でも、プラウダ高校で御茶会をやった時でも、それを言うつもりはなかった。なぜならそれはもう終わった話だからだ。

 

「別に間違ってないだろ…」

 

そう、間違っていない。仲間を助ける為に動いた西住の行動はとても彼女らしく、素敵なものだ。俺には絶対に真似出来ないだろう。

 

「…正しいとも言えない、けどな」

 

ただ、その判断が正しかったのか?と言われたら、それに対しては頷く事は出来ない。

 

西住達には悪いが、ここは譲れない。


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