やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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感想でもよく書かれてましたが前話は本来ならアニメの7話のエピソードでした。
なぜ時系列をわざわざ入れ変えたのか、今回の話を読んで貰えればだいたいわかるとは思います。

今年のゴールデンウィークは大洗に初めて行った事で執筆意欲がむちゃくちゃ上がりました、滑り込みでのゴールデンウィーク最後の更新です。

あぁ…終わっちゃった。


ひねくれながらも、彼の言いたい事はそこにある。

それは誰が悪いという話ではなく、言ってしまえば運が悪かった事故のようなものだ。

 

去年の戦車道全国大会、黒森峰とプラウダ高校の試合での事だ。西住の乗るフラッグ車を含んだ黒森峰の中隊はプラウダの策略で崖道に追い込まれた。

 

プラウダ側からの砲撃で地面が崩れ、西住の前を行く戦車が崖から川に転落した。

 

試合当日は大雨だった、川は氾濫し、流されていく戦車、雨のせいで救助もすぐにはこれないだろう。

 

そんな状況で西住はフラッグ車から一人飛び出し、転びながらも崖を降り、川を泳ぎ、潜って仲間を救助したのだ。

 

突然車長である西住を失ったフラッグ車の乗員は混乱し、後からやってきたカチューシャさんに撃破され黒森峰は10連覇を逃した。

 

西住の判断が正しかったのか、間違いだったのか、それはわからない。だが、その話を知ってから心にずっと引っ掛かっていた事はある。

 

「ちょっと比企谷、なんでそんな事言うの!!」

 

「そうです、みほさんは仲間を助ける為に行動したんですよ」

 

西住以外のあんこうチームの奴らが非難するように俺を見てくる、こいつらにこんな風に見られるのは久しぶりだな…。

 

「ううん…いいの、私のせいで10連覇出来なかったのは本当の事だから」

 

私のせい…ね、どこまでも自分で背負おうとする奴だ。

 

だが、西住も、他のあんこうチームの連中も勘違いしている。

 

「はっきり言っとくけどな、試合の勝敗なんざ今はどうでもいい、それはもう終わった話だろ」

 

「…え?」

 

俺が言いたいのは、ずっと心に引っ掛かっていた事はそこじゃない、黒森峰が勝とうがプラウダが勝とうがそこは関係ない。

 

「試合当日は大雨だった、川は氾濫し、戦車が流されるくらいのな」

 

「…そうですね、私もテレビで見てましたから知ってます」

 

つーか吹雪だった準決勝のプラウダ戦の時にも思ったけど、そんな悪天候の日に試合なんてやるなよ…、中止しろ、まったく…。

 

「そんな中でだ、前から事情を知らないプラウダ側の戦車が砲撃を撃ってくる中、西住は生身で飛び出し、崖を転んで傷付きながらも降りて、戦車が流されるくらい氾濫している川に飛び込んだ」

 

「…あ」

 

「…あの日、一番危険だったのは誰だ?川に落ちた戦車の乗員か?違うはずだ」

 

戦車道の競技に使う戦車には特殊な謎カーボンがコーティングされている、そのおかげで砲撃が直撃しても中の乗員の安全はある程度保証されている。

 

水圧の方にももちろん限界はあるだろうが、すぐにどうこうなる訳ではないはずだ。

 

「…西住、お前だろ」

 

もしプラウダ側の砲撃が当たっていたら?

 

もし崖を降りる時に足を滑らせていたら?

 

もし氾濫する川に流されていたら?

 

そのどれもが命に関わる事だ、二次災害の危険性だらけだった。

 

「そ、そうだよみぽりん、危ない事しちゃ駄目だよ!!」

 

「私…あの時は何も考えられなくて、ただ、助けなきゃって思ってた」

 

まぁ…そうだろうな。状況からいっても、そんな事を考えている余裕もなかっただろうし。

 

仲間を助ける為に行動した西住はきっと間違っていないだろう。ただ、その為にやったこの行動を、俺は正しいとは言えない。

 

「えと…つまり、比企谷殿が言いたい事は」

 

「みほさんに、危険だったと伝えたかったのではないでしょうか?」

 

「それならそうと最初から素直にそう言えば良いのに…ツンデレか?」

 

「別にそんなつもりはねぇよ…、ただ自分の意見を言っただけだ」

 

あ、しまった。この言い方じゃ本当にツンデレじゃねぇか…。

 

「冷泉殿、これは捻デレって言うらしいですよ、小町殿が言ってました」

 

ちょっと小町ちゃん!なんか余計な事あんこうチームの皆さんに吹き込んでない?

 

「まぁ…その、そんな訳だ、うん」

 

…どんな訳だ?要約すると…えーと。

 

「…あんま無茶すんなよ、見てて心臓に悪いからな」

 

「…ありがとう八幡君、うん、気を付ける」

 

いや、砲弾飛び交う戦場で戦車から上半身乗り出している時点で絶対わかってないでしょ?本当に見てて心臓に悪いからね、君。

 

それにたぶんだが、また同じように仲間が危機に陥った時、きっと西住ならまた助けにいってしまうだろう。

 

…だってそれが、西住みほという少女なのだから。

 

「…お前の姉ちゃんも、もしかしたらそこを一番言いたかったのかもな」

 

「…お姉ちゃんも?」

 

「もし小町が同じ事やったって知ったら卒倒するぞ、俺」

 

卒倒して、後から叱り付けて、きっと大喧嘩だ。

 

「…あの試合の後は、私のせいで負けたんだって、試合が終わった後もずっとそれしか考えられなかったけど」

 

西住は天井を眺めながら呟く。

 

「いろんな人に、心配かけてたんだ…」

 

「………」

 

黒森峰の頃のメンバーも、姉住さんも、菊代さんも、きっとあの母ちゃんだってそうだろう。

 

とはいえ西住が悪いという話ではない。結果的に流されていた戦車の乗員は彼女によって救われたのだから。

 

だからあれは誰が悪いという話ではなく、ただ運が悪かった事故のようなものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「やっちまった…」

 

昼休みももう終わる頃、あんこうチームの連中と一緒に教室に向かうのを見られるのもなんなので、適当に理由つけて先に戦車倉庫から出た俺はため息をついた。

 

決勝戦を前にして少し余計な事を言ってしまったかもしれない。確かにあれは俺が言いたかった事であるが、なにもこのタイミングで言う必要はなかったか。

 

この蟠りがある中での決勝戦、はたして黒森峰相手に西住が全力を出せるのか?

 

「…ん?」

 

携帯が着信を知らせる、こんな昼休みも終わりの頃にかけてくるとは誰だ?

 

【現副隊長】

 

…本当に誰だ?現副 隊長?変わった名前の奴も居たもんだが、生憎と俺にそんな知り合いは居ない。

 

知らないのでとりあえず無視しておく。あー…午後からの授業のなんとかったるい事か、冷泉のようにサボってしまいたい。

 

そのまま携帯を放置して午後の授業を済まし、放課後思い出したかのように携帯を見ると。

 

「うわぁ…」

 

着信履歴がものすごい事になっていた。なんなの現副さん、ひょっとして俺のストーカーなの?

 

さすがにもう無視する訳にもいかないか…。

 

「…はい、もしもし」

 

「あ ん た ねぇ!どんだけ電話させるつもりなのよ!!」

 

出るなり耳元ですげぇ怒鳴られた…耳がめっちゃキンキンする。

 

「電話に出れなかったんだよ、現副さん」

 

「変な略し方しないでよ!逸見 エリカよ!!」

 

自分から自己紹介してくれたので思い出す手間が省けた。電話の相手は黒森峰の現副隊長、逸見……、逸峰 エリカさんだ。

 

「こっちはあんたと違って暇じゃないのよ、電話したらさっさと出なさい」

 

こんだけ電話かけて来て暇じゃないと言うのか、すげぇなこいつ。

 

「…なんの用だよ」

 

本当になんの用だがさっぱりなので思わず無視してしまっていた。いや、だってこいつは決勝戦の相手、黒森峰の現副隊長なのだから。

 

「…今週の日曜日、暇よね」

 

「なんだよその決めつけ、予定あったらどうすんの?」

 

「どうせないでしょ?」

 

…ないけど、いや、確かにないんですけどね。なんだよどうせって?

 

「いや…ほら、その日はちょっとあれがあれだから…」

 

「暇ならいいわ、頼みがあるの」

 

「人の話聞かねぇ…、つーか頼み?」

 

…聞き間違えか?こいつが俺に頼みだ?

 

「えぇ、しょうがないから頼ってあげるわ、実は…」

 

「だが断る」

 

「ちょっと!まだ何も言ってないじゃないの!!」

 

だから言われる前に断ったんだよ、絶対厄介事だ。

 

「それが人にものを頼む態度かよ…、そんなんで俺が素直に言うこと聞く訳ねぇだろ」

 

マッ缶を持ってこい、ダースでだ。そしたら交渉のテーブルについてやらん事もない。…わりと簡単に動くね、俺。

 

「そ、ならいいわ」

 

…ん?なんだ意外にあっさり引き下がるんだな、もっとぐたぐだ言ってくるもんかと思ってたんだが。

 

「…準決勝、見たわよ」

 

「ん?それがなんだよ?おめでとうとでも言ってくれんの?」

 

「そうね、確かにおめでたかったわね、あの踊りと、歌」

 

…おう、マジかよ。

 

「あれ歌ってたのあんたでしょ?」

 

あぁ…電話越しでも向こう側で現副隊長さんがニヤニヤしているのがわかってしまう。

 

「…なんの事だ?」

 

「とぼけたってムダよ、声でわかるんだから」

 

「クラスの連中にさえバレなかったのに…」

 

「あんた、どんな学校生活送ってるのよ…」

 

おい、そこで普通に心配するな、逆に悲しくなっちゃうだろ。

 

「忘れてくれ…」

 

「…頼みを聞いてくれたら忘れてあげてもいいわよ」

 

「それ、頼んでるんじゃなくて脅迫してるっていうんだからな?」

 

「たまにだけど私、ネットサーフィンをしたりもするから」

 

SAO(戦車・アタック・オンライン)で結構強プレイヤーだったので今さら驚きはしないけどね。ネットチラつかせるとか完全に脅しじゃねぇか…。あと、本当にたまになの?

 

「とりあえず…話だけでも聞いてやる」

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー 

 

ー 

 

日曜日というと世間一般でいう休日である。

 

船舶科や農業科は基本的に日曜日であろうが容赦なくそれぞれ持ち場の仕事があるが、俺のような普通科の一般生徒にはそれはない。

 

加えて今日は戦車訓練もないのだ、まさに最高の休日である。

 

最高の休日になる…はずだった、だったんだよ。

 

「…来たか」

 

音に気付いて空を見上げる。そこにあるのは以前、サンダースとの試合の後にも見た黒森峰のヘリである。

 

「…ちゃんと居るみたいね」

 

学園艦の隅っこにこっそりと着陸したそのヘリから降りて来たのは、例の黒森峰現副隊長さんだ。

 

いつもいつも俺が他高校に偵察に行くと思ったら大間違いだ、今回は逆に相手チームが偵察に来るっていう新展開を狙ってみた。

 

「約束は守れよ、戦車倉庫のある学園方面は立ち入り禁止だからな」

 

…なんて事はさすがにない、つーか俺が手引きしている事を知られたら河嶋さんにあとで何言われるか。

 

とりあえず偵察はさせないよう、学園付近へは行かせないようにした。なのでヘリも学園艦の隅っこに着陸させたのだ。

 

「ふん、安心しなさい、もともとそんなつもりはないもの」

 

へぇ、せっかくの機会だというのに案外義理硬い所もあったりするのかね。

 

「そもそもこんな弱小校、偵察なんてする価値もないでしょ?」

 

しかし毎度の事ながら一言多いよな…こいつ。

 

じゃあなんでこいつがここに来たのかというと当たり前だが観光ではない、例の頼みってやつだ。

 

最初は本当に話だけ聞いて適当にあしらおうと思っていたが、話の中身を聞いて考えが変わった。

 

「小梅、ついたわよ」

 

「…ここがみほさんの居る、大洗学園」

 

現副隊長さんが呼び掛けてヘリからもう一人降りてくる。黒森峰では姉住さん、現副隊長さん以外では初めて見る顔だ。

 

「あ、あの…はじめまして、赤星 小梅です」

 

赤星 小梅、彼女こそ去年の戦車道全国大会の決勝戦で川に転落した戦車に搭乗し、そして西住に助けられたその人である。




プラウダ側からの砲撃に地面が崩れ、西住の前を行く戦車が崖から川に転落した。

試合当日は大雨だった、川は氾濫し、流されていく戦車、雨のせいで救助もすぐにはこれないだろう。

そんな状況で西住はフラッグ車から一人飛び出し、転びながらも崖を降り、川を泳ぎ、潜って仲間を救助したのだ。

八幡「…ふむふむ」

つまり西住は水没しかけの戦車のキューポラを水中で開けて中の乗員を全員、戦車が流される程急な川から引っ張りあげたのか。

八幡「…どうやって?」

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