やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
待望…されているか知りませんけどついに八幡とエリカさんの和解話…を書くつもりだったんだけどなぁ…、タイトルで察して、うん。
「………」
寮の階段を降りていくと現副隊長さんが階段脇に座っていた。
「…あなたは話さなくていいの?」
「部外者は口を挟まないで欲しいんじゃなかったのか?」
去年の戦車道全国大会の事で言えば俺は全くの部外者だ、そもそも去年の話で言えば戦車道自体が無縁だったのだが。
「そういうお前はどうなんだよ、当事者じゃねーのか?」
「馴れ合いをするつもりはないわ」
まぁあの場にこいつが残ってても性格的に落ち着いて話が出来るとは思えんが。
「それに…あの子を倒すのはこの私だもの、必ず叩き潰してあげるんだから」
なんかサイヤ人の王子みたいな事言い出したぞこいつ、どこのベジータ系女子なのか。
それならいっそ「もうダメだぁ…、おしまいだぁ」とか言ってくんねぇかな?
「あぁそう…、まっ、お疲れさん」
「なによ急に、気持ち悪いわね」
せっかく労ってやろうかと思ったのに気持ち悪いはないだろ…。え?そんなに気持ち悪いかな?
「今日のお前ほどじゃねーよ、わざわざ大洗まで来てあの二人を会わせるとかな」
「別に…小梅が去年の事を気にして決勝で全力を出せなかったら困るから、ただそれだけよ」
まぁ…こいつがそう言うならそういう事にしておくか。
「勘違いしないで、別にこんな事しなくてもあなた達なんて黒森峰の敵じゃないわ、これは全力で叩き潰す為よ」
「そうかよ、ならせいぜい叩き潰されないように注意しとくわ」
とは言ったものの黒森峰の主力戦車は屈強なドイツの重戦車だ。これほど叩き潰す、押し潰すが似合う戦力差もそうないだろう。
ここまで明確な戦力差があるんだから勘違いなんてする訳がない、それをわざわざ言葉の頭に「か、勘違いしないでよね!!」とか言うから一気にツンデレ臭くなるんだよ。え?言い方違うって?
「じゃあな…」
現副隊長さんに背を向けて歩き出す。
ツンデレだろうがなかろうが、勘違いだろうがなかろうが、今日彼女が赤星を連れてここに来たのは間違いない。
去年の決勝戦から今までの赤星を俺は知らない。だが、あの様子を見るとずっと西住の事を気にしていたのは間違いないだろう。
そんな赤星を連れてわざわざ黒森峰からヘリで大洗まで来て、嫌っている俺を頼ってまで西住と会わせようとした。
プライドの高いこいつが自分が嫌っている奴に頭を下げて頼る、なんて簡単に出来る事じゃない。…いや、よく考えたら下げてはないな、むしろ高圧的に脅してたまであるが。
それでも、彼女のその行動は本当に黒森峰の今の副隊長としてのものに感じた。
「黒森峰の現副隊長さん」
だから…まぁ、いつもの皮肉の呼び方とは違い、本当の意味でそう呼んでしまっても間違いではないだろう。
…わかっていた事ではあるが、黒森峰は姉住さんだけじゃないな、こりゃ。
ーーー来るべき決勝戦に向けて思いを馳せつつ、俺は前を向いて歩き始めた。
「え?ち、ちょっと待ちなさい!どこ行くつもり!?」
……キャンセルされた。おいおい、人が締めのモノローグに入りきってる時は喋りかけんなよ、恥ずかしいだろ。
「どこって…おうち帰るんだけど?」
「私はどうするのよ!!」
いや…知らんし。つーか考えてなかったのかよ…、じゃあなんで西住と赤星と別れたの?
「今からあいつらの所混ざって来たらいいんじゃねぇの?」
「そんな事出来るわけないでしょ!どんな顔して混ざれっていうのよ!?」
…格好つけて颯爽と去って行ったはいいが行く宛も特にないので結局戻って来ちゃう現副隊長さんの図。
どんな顔と聞かれればなんとも面白い顔が見れそうでちょっと俺まで混ざりたくなって来たぞ。
「私、この学園艦には来た事ないのよ?」
「だろうな」
偵察であちこち行った事がある俺が言うのもなんだが、普通に学園艦で生活していたら他の学園艦に行く事なんてめったにあるもんじゃない。
「そんな場所で私を一人で放置するつもり?」
「そこで待ってればいずれ赤星も戻って来るだろ」
階段脇に座り込み、あとついでに体育座りでもしてればすごく絵になる気がするな。タイトルは『なんかすごい寂しそうな人』。
「ふざけないで、小梅が戻って来るまであんたも付き合いなさい!!」
「馴れ合いはしないんじゃなかったのかよ…」
「当たり前よ、そもそもあなたとは馴れ合う…までもいかないでしょ?」
「まぁ馴れ合いって本当なら事前に示し会わせて事を運ぶって意味だからな、つまり今日はもう俺達馴れ合ってる」
「またつまらない理屈を並べて…」
あと男女間での馴れ合い夫婦なんて言葉もあるがこいつは黙っておこう、うん。
「じゃあどうすんだよ…二人でここで待ってるの?嫌なんだけど」
「私だって嫌よ」
矛盾って言葉知ってるかな?その上に咲いてる花なの?
せっかく少しは見直したと思ったのに…見直してみたらやっぱり黒森峰の現副さんだわ、こいつ。
「あー…俺はちょっとこの後行く所があるから、予定あんだよ」
「さっき自分で家に帰るって言ってたでしょ、なんですぐバレる嘘をつくのかしらね」
しまった…、あ、いや、本当だし。
「いや、帰る前に戦車倶楽部?とかちょっと寄ってこうと思ってたんだよ」
ここで咄嗟に出てくるのがそこくらいしかないのが悲しい。
「…戦車倶楽部があるの?」
「え?まぁ…あるけど」
え?知ってるの戦車倶楽部、さすが我が聖地。全国展開しているだけあるな、いや、しているか知らないけど。
「ふーん…こんなパッと出の学園艦にもあるのね」
つーか黒森峰は戦車道の名門校なんだからその学園艦に戦車倶楽部もあって当たり前か。むしろ戦車道やってなかったうちの学園艦にあったのがおかしいくらいだろうし。
「ならそこに連れて行きなさい、良い暇潰しになるわ」
「なんでだよ…」
たぶん他の戦車倶楽部がどんな感じなのか気になったのだろう、その気持ちはわからんでもないが。
「…あの準決勝での歌」
「こっちだ、少し歩くぞ」
弱味を握られている状況のなんて弱い事か…、結局こいつに付き合うはめになるのか…。
ーーー
ーー
ー
「ここな」
「へぇ…思ってたよりしっかりしてるじゃない」
現副隊長さんを連れて戦車倶楽部へ、現副さんはキョロキョロと店内を見回している。ふふん、なんならインスタに上げちゃっても良いんだぜ?
「まぁ黒森峰の学園艦に比べたら小さいわね、品揃えもうちより少なそうだし」
「あ?人に案内させといてふざけんなよ、今度是非とも行ってみたくなるじゃねーか」
「怒ってるのか羨ましいのかどっちなのよ…あんた」
両方…いや、羨ましい、うん、羨ましいよ!!ごめんなさいね、嫉妬して。
黒森峰の戦車倶楽部かぁ…、戦車道といえば黒森峰だしきっとすごいんだろうなぁ。
「品揃えも代わり映えはなさそうだし、特に今さら見るものもなさそうね」
しかしこいつ、店内でよくここまで悪態つけるものだ、店長さんに出禁にされない?いや、また来る機会があるかは知らんけど。
「……え?」
「…なんかあったか?」
ふと現副さんの視線がある一点で止まり、釘付けになっていた。なんだろうかと見てみると。
【限定品プラモデル、ティガーⅠ、黒森峰仕様モデル】
あぁ、そういや前からそんなもんあったなぁ、俺は戦車道に興味がなかったんで黒森峰仕様とかされてもいらねぇと買わなかったが。
しかしそんなもんでこいつがここまで食い付くのか?
『去年の高校生戦車道MVP、西住 まほ選手の乗るティガーⅠを忠実に再現した一品、なんと今なら西住 まほ選手のサイン入りブロマイド等、豪華特典付き』
あっ…(察し)。
「ま、まさか…こんな場所で売ってるなんて、黒森峰じゃすぐに完売してもう諦めてたのに…」
え?これすぐ完売したの?姉住さん人気ありすぎだろ、さすが西住流の有名人と言いたい所だけど黒森峰の生徒ってそんなミーハーなのか?
まぁ黒森峰なら姉住さんに憧れて入学した奴まで居そうだからな、つーかこの現副隊長さんがそうまであるかもしれない。
「どうして隊長のが売れ残ってるのよ!ふざけないで!!」
「…なんで俺が怒られる訳?大洗は今年から戦車道スタートしたんだしそんなもんだろ」
俺が買わなかったくらいだから誰も買わない。…いや、秋山辺りは買ってるかもしれないが、うん、たぶん買ってる。
戦車グッズと戦車道グッズは似て非なるものだ、秋山はその2つを極めようというのだから修羅の道である、具体的には金欠でよく嘆いている。
「………」
なんかさっきから現副さんがチラチラ俺を見てきて鬱陶しい、買いたいなら買えばいいだろ。むしろ今を逃したら買えなくなるぞ。
「…俺ちょっと向こう見てくるわ」
「え?そ、そう?わかったわ」
まぁ好きにさせといてやるかと戦車倶楽部内の一角にある休憩スペースの椅子に座り、まだこちらを気にしてる現副さんを眺める。もうバレてるんだけどね、こいつ姉住さんの事好き過ぎだろ。
なるべく見ないようにしてやるか…、そういやこの休憩スペース、古い月刊戦車道の雑誌が置いてあったな。ほら、ゲーセンでゲーム雑誌が置かれてるみたいな感じ。
「…ん?」
ふと古い月刊戦車道の表紙の中から気になる記事を見かけた。
【黒森峰の新たな副隊長、逸見 エリカ選手に電撃インタビュー!!】
逸見…?現副隊長さんの事かな?うん、新たな副隊長って書かれてるし間違いない。
なんだあいつ、インタビューとか受けてたの?まぁ西住の後任として副隊長に任命されたんならそら注目はされるか。
どれどれ、どんな意識高い言葉を言っているのやら。何かやらかしてないかな?
人をあんこう音頭で散々脅してきたんだ、こっちも何かネタでも掴めれば対抗できるかもしれない。
『ついにやって来たわに!』
…わに?
インタビュー冒頭、デカデカと書かれたその一言に俺は混乱した。
ビシッとなんか格好良くポーズをとる現副隊長さんとそこに書かれた『ついにやって来たわに!』の文字。
…わに?
「…待たせたわね、べ、別にあれを買ってきた訳じゃないけど、ちょっと欲しいものがあったから」
そう言って袋を手に持つ現副隊長さんだが、そんな言いわに…じゃなくて言い訳も耳に入ってこない。
「…わに?」
「…は?あ!な、なんでそれがまだそこにあるのよ!!」
現副隊長さんは俺の見ていた月刊戦車道を取り上げると悲痛な声をあげる。
「なにお前、変わったキャラ付けしてんのな…」
語尾にわに付けるとか今まで見たことないキャラ付けである、うん、これはない。
「そんな訳ないでしょ!月刊戦車道の誤植よ!!」
まぁさすがにそうだよね…、災難というか写真の格好つけたポーズと合わせてより可哀想になってくる。
「誤植のあった雑誌は全部回収したって聞いてたのに…」
「まぁその…いいんじゃね?ほら、チャーチルだってクロコダイルがあるし、戦車道と関係無いって訳でもないだろ」
あとほら…ジャンプに載ってるワニ先生の漫画も面白いし、同じくジャンプで昔やってた漫画の魔王軍百獣魔団長の獣王さんは大活躍だったじゃないか、メイン盾で。
「それで慰めてるつもりなの!?しかもそれ、イギリスの火炎放射つけたトンでも戦車じゃない!!」
ついでにいえばそのトンでもぶりからドイツ軍の恐怖の的になったという、ドイツ戦車主体の黒森峰にとって天敵ともいえる戦車である。
…戦車道で使えるのかな?あれ。
「忘れなさい…、てか、この話蒸し返したら許さないわよ」
「あんこう音頭何度か蒸し返してるお前がよく言えるな…」
「………」
「………」
なんだろう、初めて俺と現副隊長さんの意見が一致したような気がする。
「お互い、忘れる事にするか…」
「…あなたと意見が合うのも癪だけど、そうね」
こうして…、俺と逸見 ワニカさんは少しではあるが互いを認め合った、これもまたひとつの馴れ合いの形ではある。
ちなみに本編のわにネタは元ネタがあるので知らない人は『ついにやって来たわに』で検索してみて下さい。