やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
とりあえず小学校と大学は陸にある、と学園艦は中高一貫、という情報から小町の事もあるので少なくともこの小説内ではあると設定します。
ただアニメの作中では中学生や中学校の描写ってないんでたぶんないんだろうなぁ…。
「決勝戦のレギュレーションでは使用可能戦車は20両ですから、おそらく…相手戦車は」
生徒会、机の上に黒森峰側の大まかな構成を書いた西住は赤ペンで丸をつけていく。
「ティーガー」
キュッ…。
「パンター」
キュキュッッ…。
「ヤークトパンター、ヤークトティーガー、エレファント…」
キュッ、キュキュッ。
「西住、ストップだ。…ちょっと待ってくれ」
聞いてるだけで頭が痛くなってくるラインナップである、ちょっとおかしいでしょ?黒森峰だけうちはもちろん、他校に比べても頭一つくらい戦車の性能が抜き出ている。
さらさらと丸をつけてる西住だが、こんな軽快に丸をつける人なんて赤ペン先生くらいしか知らねーぞ。いや、そもそも赤ペン先生も知らないけど。
「…うん、八幡君の言いたい事はわかるよ」
「改めて考えると戦力の差がひどいな…」
決勝戦ともなれば、向こうも出し惜しみなく戦車を投入してくる。それもどいつもこいつも重戦車ばかり、ドイツだけに…ごめん、ちょっと言ってみただけ。
「どこかで戦車叩き売りしてませんかね」
小山さんがそう言うがアンツィオはその叩き売りの戦車を買って不良品だったしなぁ…。あ、でもうちの自動車部ならそこら辺、普通になんとかしそうな気はする。
「そういえば…こないだ見つかった88㎜はまだか?」
河嶋さんの言う88㎜とは、二回戦の前に武部と一年共が船内を迷子になりながらも見つけたアレである。
「散らばっていたパーツを自動車部の皆さんが組み立てているはずですけど…」
そう、先ほど例えた通り、不良品の戦車でもなんとかしそうな自動車部の面々ではあるが、武部達の見つけた戦車に関しては例外というか…、同じく二回戦を前に見つけたルノーと比べてもレストアに時間がかかっている。
それは自動車部の皆さんが悪いのではない。まず船内にパーツが散らばっていて回収に時間がかかった事、そして何よりその戦車が例外である事だ。
「あれさえあればこの戦況を打破できるはずだ!!」
自信満々にそう告げる河嶋さん。うーん…確かにアレが運営可能ならばこの上ない戦力にはなるだろうが、それでもようやく黒森峰の戦車に対抗出来そうなレベルだろう。
「あっ…電話、はい」
と話していると小山さんの携帯が着信する。小山さんはそれを受けとると一言二言会話を交わして静かに電話を切ると笑顔を見せた。
「レストア!終了です!!」
「よしっ!!」
いや、よしっ!!っていうか…なんつー良いタイミングですか?
まったく、小山さんも河嶋さんも嬉しそうにはしゃいじゃって…子供じゃないんだから。
「…八幡君、なんで準備運動してるの?」
「ん?別に…まぁ、ちょっとそこまでな」
大人な俺はこの程度の出来事では動じないのだ。さーて、ちょっとそこまで行って来るかな、具体的にはレストアの完了したアレを見に!走りで!!
ーーー
ーー
ー
「すごーい!」
「強そう!!」
現場に付くとどこから情報を仕入れたのか、すでに秋山と一年共が居た。あぁ…一番乗りを逃してしまった。
「これ!レア戦車なんですよねー!!」
隣の秋山も嬉しそうに両手をぐっとしている。ぐっとしたな…その気持ち、わかる。
「あぁ…なんせ10両しか作られなかったからな」
そう、わずか10両しか生産されていない、レア中のレア戦車。
「その一つがここにあるなんて…、そして動いている所を生で見られるなんて…」
「全く…胸が熱くなるな…、特にモーター音が良い」
俺と秋山はお互いに向き合うと、どちらからというでもなく、握手を交わした。うん…久しぶりながらなんだこれ?
「あの…先輩達、これってそんなに凄い戦車なんですか?」
そんな俺と秋山の様子を見ていた一年達が声をかけてくる。何?知らんのか?
「見てわからんか?ポルシェティーガーだ」
「マニアにはたまらない一品ですよねー」
「ねー」
あまりのテンションに俺と秋山はお互い向き合って「ねー」とポーズをつけてやっていた。どんなポーズかはなんとなく想像して欲しい。
「秋山先輩はともかく…比企谷先輩にそれはちょっと…」
「…キツい」
「おい、キツい言うな」
気付けば一年共にドン引きされていた。いや…そんなにキツいかな?うん、キツいな…。
「それで…どんな戦車なんですか?」
「まぁ簡単に言うならティーガーと正式採用を争った戦車だな」
…計画段階でね。実戦試験では争うレベルにもなれなかった悲しい物語があるが長くなるので割愛。
「え?じゃあものすごく強いんじゃ…」
「もちろん!主砲の88㎜砲の威力は絶大!装甲だって前面100㎜と重戦車にふさわしいスペックですから!!」
まさに大洗の最大火力だ。どうだ一年共、もっとポルシェティーガーを開発した博士を敬え、そして称えるのだ。
あまり戦車に詳しくない一年達にもその凄さが伝わったのか、彼女達はキラキラした瞳で稼働するポルシェティーガーを見つめている。
そんなポルシェティーガーだが急にその場で立ち止まる、もちろん履帯は稼働したままだ。
「あれ?どうしたんだろ?」
「…まぁ、足周りがちょっとアレだからな」
「地面にめり込むんですよね…」
ポルシェティーガーがそのまま地面を掘り進める。それを眺めていた一年共のキラキラした瞳は困惑したものに変わった。
「あとは…加熱して、炎上したり」
もくもくとポルシェティーガーから煙が上がりだす。それを眺めていた一年共の困惑した瞳は呆然としたものに変わった。
「壊れやすいのが難点なんだけどね」
しまいには小さな爆発音と共にポルシェティーガーから火災発生である。
「あちゃー、またやっちゃった。ホシノー、消火器」
ひょこっと顔を出した自動車部のナカジマさんが特に慌てる様子もなく消火作業を始める。…度胸あるよね、マジで。
ちなみにその光景を眺めていた一年共の呆然とした瞳はなんかもう、濁り始めていた。気を付けなさい、俺みたいになっちゃうよ。
「ちなみにエンジンは電気駆動式でモーターで動く」
「あ!それミニ四駆と一緒だ!私、昔やってた!!」
残念だけど「かっとべ!!」とか言っても戦車はかっ飛ばないけどね。むしろポルシェティーガーのかっ飛ぶ所とか見てみたいものだ。
「いやー、戦車と呼びたくない戦車だね」
会長がそんな一言で締めくくる。せんせー!会長も一年共もポルシェティーガー開発した博士に謝るべきだと思います!!
まぁそんな訳で二回戦前の戦車探しにて俺が試合では使えないと判断した理由がそこである。足周りの弱さでいえば信地旋回すら出来なかった代物なのだから。
…このポルシェティーガーを試合に投入可能にまでしちゃう自動車部マジパねぇな。
「えーと…お取り込み中失礼しまーす!!」
「ん?って小町じゃねぇか、どうした?」
ふと声をかけられて誰かと思ったら小町である。大洗学園の敷地にいったい何しに来たんだ?
「やっほー!お兄ちゃん、本当に戦車道やってるんだね!!」
「むしろ今まで疑ってたのかよ…」
「いやー、こうして実際に見てみるとまた感じる物があるって事だよ、輝いてるよ!お兄ちゃん!!」
グッと親指を立ててくる小町、なにこれうぜぇけど可愛い、うぜ可愛い?略してうぜいだな。
「やーやー小町ちゃん、久しぶりだねぇ」
「会長さんもお久しぶりです。これ、少ないですけど中学校みんなからの義援金です」
「…ありがとね、大事に使わせて貰うから」
小町が会長に渡したのは…戦車道の義援金か。小町は一応、中学での生徒会の役員だしな、代表して持ってきてくれたのか。
そう、実は小町って生徒会の役員なのだ。これにうちの生徒会長が混じり会うと、魔術と科学が交差して録でもない物語が始まるのは目に見えている。
小町は悪知恵こそ働くが基本的にアホな子だからか底が浅い。だがそこに真の悪知恵働くうちの会長が混じってみろ?黒と黒が混じっても黒にしかならない、ジンの兄貴だって逃げ出す怪物の誕生である。
まぁ今日は戦車道の義援金を持ってきてくれただけみたいだが…。
「つーかそれなら俺に直接渡してれば、わざわざこっち来なくて良かっただろ」
俺がそのまま会長に渡せば良いだけだし、それなら怪物も誕生しない。これにはジンの兄貴もにっこりである。
「えー、だってお兄ちゃんに渡すと変な事に使うかもしれないし」
「こ、小町ぃ!?」
妹からの評価が思ったりよりずっと低かった…。いや、さすがに使わないからね?戦車倶楽部で欲しい戦車グッズとかあるけど…ダイジョブダイジョブ。
「冗談だよ。単純に小町が直接渡したかったから、さすがのお兄ちゃんにもこの役は譲らないよ」
小町は明るい表情でそう言うと、くるりと戦車道メンバーの方を向いた。
「みほさん、そして大洗学園戦車道メンバーの皆さん、小町達の学校…守って下さいね」
…まったくなんて妹だ、もう充分怪物だな。ジンの兄貴も裸足で逃げ出すんじゃないか?
「うん…、ありがとう小町ちゃん、頑張るから」
それはとても大切な事で、そして改めて思い出させてくれた。
大洗学園廃校は、なにも自分達高校生だけの問題じゃない。中高一貫の学園艦である以上、中学生である小町達にとってもまた、廃校問題は大きな問題である。
特に受験生である小町達からすれば、今通う中学校も、来年通うかもしれないこの高校も、自分達の学校という訳だ。
「なんなら兄を好きに使っても良いので、なんなりと言っちゃって下さい」
「俺は伝説のスーパーヤサイ人かよ…」
息子です、なんなりとお使い下さい、とか言っちゃったアスパラガスさんがどうなったか知らないの?
「…八幡君を好きに?」
「なんでそこん所だけを抜き出すんだよ…」
ぼそりと呟いた西住だったが、それを聞き逃す小町ではなかった。キラーンと獲物を見つけたかのように西住に詰め寄る。
「はい、もちろんお好きに、です!何をしても良いですし、何をされても良いですよ!!」
「え!ち、違うよ!えと…私、そんなつもりじゃ…」
…じゃあどんなつもりだったのか?大変気になる所だが今は小町を引き離す方が先決だ、物理的に。
「落ち着け西住、まぁ小町のはいつものアレだから」
「う、うん…そうだよね」
なんでちょっと残念そうなのかな?この子。
「ウサギさんチームの先輩達も頑張って下さい!小町達も応援に行きますんで」
「そっか…来年になれば私達も二年生なんだよね」
「小町ちゃんみたいな後輩がたくさんできちゃうね~」
「私達もついに先輩になるんだ!!」
向こうの方で小町が一年達と話している。あの様子を見ると、ポルシェティーガーで下がっていた一年達のテンションも回復したようでなによりだが、ちょっとあいつらチョロすぎないか?
「…決勝戦、勝たないとね」
「…はい!!」
それを眺めていた会長がぼそりと呟き、西住は力強く頷いた。
「んー、でも小町ちゃんと一緒に生徒会ってのも面白そうだと思ったんだけどねぇ」
会長がそんな恐ろしい事を言い出したが、そうなる事は大洗が廃校を回避出来たとしても絶対にならないので安心である。
「来年だと我々はもう卒業していますからね」
「桃ちゃん…卒業できるの?」
「出来るに決まっているだろ!あと桃ちゃん言うな!!」
…なんだろ?何か今後…この先いつ回収されるかわからない壮大な伏線が張られた気がするのは俺だけじゃないと思う。