やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
プラウダ高校の漫画が出ますね、去年の決勝戦の事も書かれてるっぽいですが…、どんな内容でもそこはほら、漫画はパラレルって事でなんとかなりません?
というか八幡がガルパン世界にいるのがもうパラレルどころの話じゃありませんし。
「よし、みんな揃ったな!今から決勝戦に向けての作戦会議を始める!!」
例によって、いつものように空き教室に集まった大洗戦車道チーム。いよいよ決勝戦に向けての作戦会議が始まるのだ。
負ければ廃校。この事実を前に、流石にいつもノー天気なこいつらも真剣に…。
「決勝戦って生放送されるんだよね?」
「オシャレしとかないとね~」
…なってなかった。おい武部、一年共のこれは間違いなくお前の影響だろ、なんとかしろ。
「そっか!私もオシャレしないと!何着て行こうかな…、ねぇ比企谷、何が良い?」
「何着てくって…パンツァージャケットしかないだろ」
なんとかしろというか、本人をもうなんとかして欲しい…。決勝戦だよ?戦場に行くのであって、婚活パーティーに行く訳じゃないんだから。
いや、人によっては婚活パーティーが戦場となっても良いのかもしれないけど…、誰とは言わない優しさがそこにはある。
「えー、でも可愛い勝負服の方が良くない?」
「戦車に似合わないだろ…、いつものにしとけ、せっかく似合ってるんだから」
だいたい勝負服っていうなら、パンツァージャケットがまさにそれでしょ?戦車に乗る為のもんなんだから。
「え?ほ、本当に!?」
あ、いや…今のは戦車に似合ってるって意味なんだけど、まぁ武部がそれで納得するならいいか、…うん。
「キャプテン!決勝戦で注目されるなら、そこでバレー部の部員が募集できるかもしれません!!」
「ナイスアイデアだ近藤!よーし!今から早速作戦会議だ!!」
バレー部にいたっては、作戦会議の間に別の作戦会議始めちゃったよ…。おい、これじゃ収集つかなくなるぞ。
しかし…それも当然か。一回戦から比べて人もチームも増えたからな。一回戦の時点で騒がしかったっていうのに。
「えぇい!貴様ら静かにしろ!次は決勝戦なんだぞ、しかも相手はあの黒森峰だ!!」
「黒森峰…ついにドイツ戦車が相手か、敵にまわるとなると恐ろしいな」
「この恐ろしさ、まるでペリーの黒船ぜよ」
「それを言うなら織田信長の鉄砲隊だろう」
「ならばこちらはチャリオットで対抗すべきか」
「「「それだ!!」」」
それだ!!じゃねーよ…、なんで時代逆行してんの?
「あの黒森峰って…、黒森峰ってそんなに強いの?」
「そういえば月刊戦車道によく名前載ってるよね?」
「…あなた達、その雑誌学校に持ってきてないでしょうね」
風紀委員のそど子さんが、一年共に目を光らせている間に話を進めるか。
「西住」
「…うん。皆さん、次戦う黒森峰は、私が居た…学校です」
「隊長は西住ちゃんのお姉ちゃんだからね。つまり、今回は相手も西住流って訳」
…それもドイツ戦車揃い踏みに加え、それに乗る訓練を積んだエリート様によって真価を発揮した西住流だ。
「わかりやすく説明するなら、俺達がリセマラで大当たり引いたくらいの無課金勢だとして…相手は廃課金勢だな」
「わ、わかりやすいにゃー…」
「課金に頼るなんて邪道なり!!」
それな、マジそれ、ほんとそれ。でも君達が言ってもあんまり説得力無い気がするからね?
「八幡君…リセマラって?」
「ん?あぁ…ゲームで欲しいキャラが出るまでスタートを繰り返すって意味だ。リセットマラソンの略だな」
そういや西住はあんまりゲームとかやらないし知らないか、あの苦痛ともいえる作業。
「そういうのがあるんだ…、でも大当たりってなんだろ?」
いや…どう考えても君でしょ?本当、いい加減俺のアカウントにも大当たりで出て来てくれませんかね。
「わかりにくいな…、比企谷、バレーに例えてくれ」
「あ?…そうだな、相手は有名選手をスポーツ推薦でとりまくってる強豪校で、こっちは無名校だな」
これ、戦車道で例えてもあんまり変わらない気がするな。黒森峰が推薦とかやってるか知らないけど。
「ヘルマン、それなら歴史に例えてみるとどうだ?」
「秀吉の小田原攻めくらいの戦力差」
「ちょっと!それなら風紀に例えなさいよ!!」
「レースに例えたらどうかな?」
いや…大喜利やってるんじゃないんだから、もう良いでしょ?
チームが増えるとそれだけツッコミ所が増えてくるというか…うちの戦車道チームは個性バラバラすぎだろ。
「そんな訳で今回は戦力差が絶望的だ」
俺の話を聞き、さっきまでの騒がしさが嘘のように静かになる。ほどほどに緊張感は持ってくれたようだ。
「だが、そんなのいつもの事だろ」
「え?」
ざわざわとする戦車道チームを前に話を続ける。緊張感は必要だがそれでガチガチになっては戦えない。
そう、絶望的な戦力差なんて最初からずっとそうだった。聖グロリアーナの時も、サンダースの時もプラウダなんて本当にそうだ。
あれ?なんか一つ忘れてる気がするけど…まぁいいか。
「さっき西住が言ってただろ、自分が元居た学校だって…。つまり、こっちは黒森峰の作戦をある程度は読めるって事だ」
「…セコい」
「ゲスい、の方があってるんじゃない?」
「こういう先輩にはならないようにしないと」
一年共がなんか冷たい表情をしているが…俺のこと言ってるんじゃないよね、うん。
「ちょっとみんな!そんなこと言っちゃ駄目だよ、せっかく作戦考えてくれた比企谷先輩に失礼でしょ!!」
…バッチリ聞こえてるし。フォローのつもりかもしれんが、澤はなんでピンポイントで俺が考えたってわかるの?優しさって時に残酷なんだよなぁ。
「それに黒森峰の使うドイツ戦車にも弱点はあるからな。…ではここで問題です。ドイツ戦車の弱点はなんでしょう?」
「はぁ?」
うわ…一年共「急に何言い出したのこの人?」的な顔で見てきやがる。せっかくちょっとでもテンション上げてやろうと問題風にしてやったのに。
「えぇっと…そのね、ただ教えるよりも自分達で考えた方が身に付くかなって」
「なるほど、さすがは西住隊長!!」
「よーし!当てるぞぉ!!」
一年共の反応の差が露骨すぎて八幡泣いちゃいそうなんだけど…。やっぱり大事なのは何を言うかじゃなくて、誰が言うかじゃねーか。
「はい!!」
勢い良く手を上げたのは秋山だった。うん、だよね知ってた。
「誰かわかる奴居ないのか?」
知ってたから華麗に秋山をスルーして他の戦車道メンバーを見渡す。
「ひ、比企谷殿!!」
いや、そんな落ち込まなくても…。秋山がノリノリで答えだしたらクイズにならないし、当然解答権はない。
「わかりました!!」
「磯辺さん、どうぞ」
「根性なら私達は負けない!!」
いや、そういう話じゃなくて。つーかそれ、ドイツ戦車に根性が無いって言いたいの?
「ネトゲじゃドイツ戦車のパラメーターって高いぞな」
「でもドイツ戦車はコストが高いから、きっとコストオーバーが弱点ぴよ」
あぁ、コスト制限とか良いよね。むしろ実際の戦車道に採用したらどうかなって思えるくらいだが…ところがどっこい、これが現実でコストは無制限である。
「うむ、やはりここは私が行くしかないな」
スッと手を上げたエルヴィンを秋山と同じくスルー。
「な、なぜだ!ヘルマン!!」
ドイツ戦車の知識でいえばこいつも相当だからな、黒森峰相手だと考えると頼もしいとも言えるが。
「足周りだね、ティーガーとか修理が大変だって聞くし」
さらりと正解を言ってくれたのは自動車部のナカジマさんだった、今回が初めての参加とは思えない。
「知ってたんですか?」
「戦車の整備をする事になった時、いろいろ調べてたから」
「そうそう、いつかティーガーの整備とかやってみたいかも」
「なんならその足周りの弱点も改善したいね」
…この人達、ちょっとガチすぎませんかね?なんでこんな人達がうちみたいな平凡な学園艦にいたの?
「まぁそんな訳で、ドイツ戦車は足周りが壊れやすいのが弱点だ。重戦車が相手なら、機動面ではこっちに分がある」
「それに、逃げ回れば相手の燃料切れも狙えるかもね」
うわっ!さすが自動車部の人達、そんな事まで知ってるのね。つーかここまでトントン拍子に話が進むと逆に違和感を感じる。
「じゃあ逃げ回るの?なんだかコソコソしてる不良みたいね」
「じゃあそど子…やらないの?」
「もちろん命令ならやるわよ。命令っていうのは規則と一緒なんだから」
わりと頭が硬い風紀委員の人達だとは思っていたけど、そこはしっかりしているのね、ありがたい。
「でも西住殿、逃げ回ってばかりではルール違反と捉えられるかもしれませんよ」
「そんなルールがあるんですか?」
「はい、戦闘の意志が無いと判断されるかもしれません」
そうなんだよなぁ…、単純に逃げ回っていいならとことんまで長期戦に持ち込むって戦略もあったんだが、それは出来ないらしい。
「うん、だから逃げるのはあくまで相手を誘い込む為にしようかなって」
「うむ、兵法の基本だな」
「でも誘い込むってどこに?」
そう、そこが今回の対黒森峰の重要な所だ。
今回の試合会場は富士演習場がメインだが、試合会場はそこだけではない。
…というか、だだっ広い所で黒森峰と真っ向からぶつかっても、こっちに勝ち目がないのはあきらかだ。ならどうするか?
「ここはやっぱ、基本に立ち返るのが一番だな」
「えっと…比企谷先輩、それってどういう意味ですか?」
「初めて試合した時を思い出せ」
「初めての試合って…あの模擬戦?」
「比企谷先輩が西住隊長にボコボコにされちゃったあの試合ですか?」
そっちじゃねーよ!あんなの試合にすらならなかったわ!!
「八幡君が…ボコ」
いや、西住もそこに露骨に反応しなくても…つーか俺ボコじゃないから、確かにボコボコにやられた戦歴しかないけどね。
「…聖グロリアーナの試合だよ、お前らが逃げ出したな」
「比企谷先輩ってデリカシーないよね…」
「うんうん」
いや、お前らの方がよっぽどないだろ…。
そんな訳で、メインで戦場になるのは大洗と聖グロリアーナとの練習試合と同じ、市街地だ。幸い決勝戦の会場には市街地用のフィールドも用意してある。
なぜ市街地かというと、単純に障害物が多く道幅も制限されるからだ。重戦車の多い黒森峰にとって、戦いにくい場所なはずだ。
それに開けた所とは違って、死角も多いので遭遇戦もやりやすくなる。聖グロリアーナの時とは違って地の利は無いが、それでも他のフィールドで戦うよりはよっぽど現実的だろう。
それに…市街地、ここでないとあの作戦が使えない。決勝戦の勝敗を決めるといってもいい、あの作戦を。
「メインは市街戦、そこであんこうチームが相手のフラッグ車と一対一で戦える状況を作る」
「つまり…みほさんのお姉さんとタイマンを張る、という事ですね」
あぁ…うん、あってるんですけどね。五十鈴さんはなんでこう…ちょっと物騒な言い方をするのか。
そう、人間の言葉にはタイマンってのがある、これがわしらと奴のタイマンなのだ、混ぜるな危険!!
これは今まで戦ってきた対戦相手全てに言える事だが、大洗の戦力で真正面からぶつかって勝てる相手は居なかった。
そんな大洗学園がここまで勝ち進んでこれたのは、大会のルールが相手フラッグ車を撃破すれば勝ちのフラッグ戦だからだ。今回も、もちろんフラッグ車を狙う。
だが、黒森峰のフラッグ車は姉住さんの乗るティーガーⅠ。戦車の性能だけで言っても今大会最強だろうし、生半可な奇策でやられる相手ではない。
相手が最強ならこちらも最大戦力をぶつける。大洗ならばもちろん、西住達あんこうチームだ。
「…あんこうは相手フラッグ車と一対一の状況を望みます。その為には皆さんの協力が必要不可欠です」
フラッグ車はあんこうチームのⅣ号戦車、例え他のチームがやられても一対一に持ち込めれば勝機はある。
「その状況を作り出すのはもちろんだが、なるべく無傷でな、全ての戦いを勇者のためにせよ、だ」
こういう犠牲を良しとした作戦は西住も好きではないだろうが、選択肢も他にない。
「あたしそれ知ってる!漫画読んでた!!」
阪口が嬉しそうにぴょんぴょん跳び跳ねて上機嫌だ。こいつ漫画とかアニメとか特撮大好きだもんね。
「しかし、どうやってその状況を作り出すのだ?」
「まぁメインは相手チームの分断だな、市街地内で挑発してバラバラにする」
「ヘイト稼ぎはゲームの基本にゃー」
「まさにメイン盾ぞな」
とても言いにくいんだけど今回の場合、君達がね…。
「挑発って…それもなんか不良みたいね」
「どうすればいいのかな…?」
んなのなんでもいいと思うけど、風紀委員の三人は真面目だし、そういうのパッと思い付かないのか。
「黒森峰は所詮…先の大会で負けた敗北者じゃけぇ…。とでも言っとけ」
「じゃけぇってなんだ?…そもそもそんなあからさまな挑発に乗る奴いないんじゃないか?」
いるんだよなぁ…。いやほら、黒森峰の現副隊長さんとか引っ掛かりそうじゃない?ハァ…ハァって言いながら。
「比企谷先輩のそういうところ良くないと思います!!」
さっき上機嫌だった阪口がもうブーブーと不機嫌になってる。あぁ…この子ツーピース大好きだもんね。
「え、えっと…、すぅっ…、み、皆さん!!」
誰のせいだかわからないが(すっとぼけ)、また騒がしくなる戦車道メンバーを見ておろおろとしている西住だったが、やがて深呼吸して一息つくとみんなに声をかけた。
「…えと、その、皆さんが大変なのは…わかってます、でも…」
西住は各戦車道チーム、そしてそのメンバー一人一人を順番に見回して言葉を続けた。
「この大洗学園は…私の大切な母校で、だから、あの…守りたいんです」
最初は黒森峰から、そして戦車道から逃げる為にやって来たのだろう。
大洗に来たのは本当にただの偶然で、戦車道が無い学校の中からたまたま選んだだけなのだ。
そんな彼女が…この大洗学園を大切な母校と言ってくれた。
…正直、嬉しかった。いや…ほら、俺とか昔から住んでたからね、さすがに愛着はあるからたぶんそれだよ。
「決勝戦…、私も一生懸命落ち着いて、冷静に頑張りますので…皆さん!頑張りましょう!!」
「「「「「おーーーーーーーー!!」」」」」
西住のその宣言に、戦車道メンバーが声を上げる。…こりゃ士気については文句のつけようがないな。
「…あ?」
文句のつけようがないと思っていたのに、何故か戦車道メンバーの全員が文句を言いたげな目で俺を見ていた、え?
まさかここにきて「え?ところでなんで君がここにいるの?呼んでないんだけど?」とか言われないよね…?
「「「「「「おーーーーーーーー!!」」」」」
俺を見ていた戦車道メンバーが再び声を上げる。いや、さっき見たし、もっかいやる必要ある?
声を上げた戦車道メンバーが再び文句を言いたげな目でこっち見てくるんだけど…なにこれ?
「…なにぼーっとしてるの?比企谷」
「…何が?」
「ささっ、比企谷殿もどうぞこちらに」
「いや、だから何がだよ?」
「そんなに離れていては完成しませんから、生花と同じです」
…あっ、そういう事か。ようやくわかった、んで全力で嫌なんで勘弁して下さい。
「露骨に嫌がってるな。諦めろ比企谷さん、私もやるんだ」
お前それ俺を巻き込みたいだけだろ…、いや、本当に勘弁してくんない…?こういう空気に混ざるノリがわかんねーんだけど。
「八幡君も一緒に…ね?」
つまり混ざれと…このノリに…こいつらはそう言っている訳だ。しかも混ざるまで延々繰り返すつもりらしい、もうさっさと作戦会議の続きしません?混ぜんな危険ってさっき言ったでしょ?
「それでは…皆さん、決勝戦、頑張りましょう!!」
「「「「「おーーーーーーーーーーー!!」」」」」
「お、おぅ…」
声は小さく、上げる手も小さく。
それでも…、悪くないと思える自分が居ることに驚いた。
もうずっと前から、勝ち負けで言えば…結局俺はこいつらには負けているんだろう。
所詮、比企谷 八幡は敗北者じゃけぇ…。