やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
来年の6月か…思ったより早かったな(錯乱)。
…完結までどのくらいかかるのだろうか、そしてこの小説はその時までやっているのだろうか?
「…困りました」
そこは選択授業にある華道の部屋。学校内でも数少ない畳のある部屋で、五十鈴 華は自らの作品を前に悩んでいた。
大洗学園の必修選択科目は、なにも戦車道だけでない。茶道、華道、書道といった比較的メジャーなものから、香道、長刀道といったマイナーなものもある。
あと忍道とか仙道なんてイロモノ系もあったりする。忍道とかもうジャンル変わっちゃって火影を目指す話になりそうだってばよ。
ちなみにこの必修選択科目の提出書類だが、*印に希望の無い生徒は自動的に戦車道の選択となる…と、小さく書かれていた。詐欺師がよく使う手口と一緒なんですけど?
…俺って西住を戦車道に入れるごたつきでこの書類提出するの遅れてたけど、だから戦車道にされたの?
さて、なぜここに五十鈴が居るのか?まさかの戦車道を辞めて華道に移ったのか?と思われそうだが違う。
準決勝の会場で五十鈴の母親と少し話をしたが、近々生け花の展覧会があるらしく、五十鈴もそこに作品を出すべく華道の部屋を借りたのだ。
戦車道を選択していても彼女は華道の家元の娘であり、それを疎かにするつもりはない…というのは、日頃から花に触れている彼女を見ていればわかる。
それはわかる。わかるんだけどね…なんで俺も付き合わされてるの?しかも正座だよ?いや、もう五十鈴の華道教室のおかげで正座にも慣れちゃったけどね。
もはや正座しても苦にもならないので、怒られる時は最初から正座して反省してるっぽく見せられる特技を身に付けたまである。これ、社会に出たら有能なスキルじゃないか?
そんな俺の邪な正座と違って、五十鈴は真剣な表情で自分の作品と向かい合っている。こっちが美しい正座なのだろう。
華道の生徒から借りた着物を着て作品を前にする彼女は、こうして見てても絵になるようだった。普段戦車を前にする彼女とはまた違った印象を受ける。
「比企谷さん」
「…ん、お、おう」
そんな五十鈴に声をかけられて反応が遅れてしまった。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
まさか見つめててぼうっとしていたなんて言える訳もない。しかし、着物というのはどうしてこう…男の妄想をかきたてるのか?
それはきっと日本人としての性なのだろう。日本人に生まれたからには巫女さんやメイドさん、シスターに惹かれるのは性というわけだ。…違うか、違うな。
「…この作品について、どう思いますか?」
「どうって言われてもな…、俺みたいな素人の意見、参考にならんだろ」
展覧会に出す作品について五十鈴が悩んでいるのは見ていてわかるが、素人目で見た所で特に的確なアドバイスができる訳ではない。
「みほさんとは作戦会議でいろいろご相談されていると聞いてますよ?」
「あれだってどんだけ却下くらってると思ってんだよ…」
いや…意外と容赦ないんだよね、あの子。やっぱり西住流なんだよなぁ…。
そもそもあれは昔から戦車が好きだった延長線でまだなんとかなっているが、華道に関してはさっぱりだ。花の知識なんてあるはずがない。
「心配いりません、私も却下する所は却下しますから」
あぁ、そこら辺君も容赦なさそうだよね…。華道モードの五十鈴さんはガチ、覚えておくといい。
「だいたいお前ならなんとかなるだろ」
むしろ俺が下手に余計な事したら五十鈴の作品を台無しにしそうなまである。
「信頼してくれているんですね」
「…そんなんじゃなくてだな、華道に関しちゃって話でーーー」
急にそんな事を言われて恥ずかしくなり、慌てて否定しようとすると五十鈴が手を伸ばしてきた。
彼女は俺の頬に手を当てる。
「信頼は嬉しいですけど…、私も、たまには甘えたくなる時もあるんですよ」
そして柔らかく微笑むと手を引っ込めた。…表情は柔らかいが、なんだろうか…?少しだけ責められている気もした。
「…素人の目から見た意見だからな」
だからだろうか、罪悪感…という訳でもないが自然と五十鈴に乗せられてしまった。
「展覧会には様々な方が見に来てくれます。いろいろな方々の目から見ても納得できるものにしたいので」
あぁ、そういう事なら俺も納得。目が腐った奴の意見も必要だもんね。
さて、そんな目が腐った奴の意見はと言うと…うん、よくわからんのが本音だ。いや、見た目には良いとは思うんだけど。
「…何に悩んでるんだ?」
「なにかが足りないような気がするんです」
…って言われてもな。
「花が足りないって事か?」
「いえ、花の方はこれ以上加えてもバランスが取れなくなるかと…」
「えぇ…」
じゃあどうしろというのか…、華道の家元の娘さんが十分と言っているのに他にどうしろと?
「なんか矛盾してないか?」
「作品を作るというのはそういう物だと思います」
ふむ、そこら辺はこだわりというか…結局は本人が納得しないといけない所なのだろう。
「なにかが足りない…ね、そういや前にもそんな事言ってたな」
「あの時は恥ずかしい所をお見せしました…」
むしろ正座させられて説教受けてた俺の方が恥ずかしい姿だったんですが?
「その足りない何かを見つける為に戦車道を始めたんじゃなかったのか?」
「はい、そのおかげで力強い花を生ける事ができました」
「そっか…」
自分の作品に足りない何かを見つけるために、アクティブな戦車道にチャレンジした…と、五十鈴は言っていた。
「…ん?そう言うって事は作品の仕上がりには満足しているんじゃないのか?」
「あら…言われてみれば確かにそうかもしれません」
いや…あら、じゃなくて。じゃあどうしろというのか。
力強い花を生ける事が出来たと彼女は言う。それでも何かが足りないと…そうなるとあとはMPが足りない!!とかか?
「まてよ…」
いや、そもそも前提が間違ってるんじゃないか?事花に関して五十鈴がわからないものが俺にわかるはずがない。
戦車道だってそうだった。基本的な戦術やら戦略だけなら西住で十分だ。俺がやってきた事なんて、相手への嫌がらせや不意討ちなどの盤外のやり方ばかりだ。
今回も同じように考えるなら、花は五十鈴の満足のいく出来なのだからそこは見なくていい。
…え?じゃあもう話終わっちゃわない?生け花なのに花を見ないってどうなの?
「どうかされました?」
「いや…花器を見てた」
とりあえず物理的に、文字通り花を見ないようにしているだけだけど。
「花器…ですか?…あっ!!」
「え?何?」
「これです!比企谷さん、ありがとうございます!!」
急に五十鈴が立ち上がると俺の手をとってぴょんぴょんとはしゃぐ。こういう所がなんというか…普段のお嬢様な印象とは違って、年頃の女の子としての可愛さもあるというか。
「…んで、結局なんなの?」
「比企谷さん…今から戦車倶楽部へ行きましょう!!」
…なぜここで戦車倶楽部?いや、好きだけど戦車倶楽部。
五十鈴がここで言い出したって事は何か華道に関係する物でも置いてある…はずないか。
まさか展覧会の会場に戦車で乗り込むつもりじゃないよね、このお嬢様は。
ーーー
ーー
ー
さて、それから少し経って、生け花展覧会の当日である。
「わぁー!素敵だね!!」
「お花の香り~」
ふと見ると五十鈴以外のあんこうチームの四人が会場に来ていた。というか五十鈴がこの話をした時、見に来るとか言ってたからな。
「いつも鉄と油の匂いばかり嗅いでますからね、私達」
それって女子高生の送る青春としちゃどうなんだろう…。
「華さんのお花は…、え?八幡君!?」
「…おう」
見つかったよ…。いや、そりゃ見つかるよね、同じ会場にいるんだから。
「どうして比企谷さんも居るんだ?しかもそんな着物まで着て」
「…まぁ、いろいろあってな」
具体的に言うと、今朝がた何故か華道モードの五十鈴さんがものすごい剣幕の新三郎さんと共に家にやって来たと思ったら、無理やり拉致された。
この着物も新三郎さんの物で無理やり着せられたと言っても良い。やめて!八幡に乱暴するつもりでしょ!エロい同人誌みたいに!!
ただし着せたのは五十鈴ではなく、新三郎さんである。やはり時代はしん×はち、なのだろうか…。
…どこかでメガネかけた腐女子さんがぐふふとか言ってそうで背中がゾクリとなった、鼻血拭いて擬態しろし。
「へ、へぇ~、比企谷が着物着てるのって初めて見た」
「ま、まぁ普段着るもんでもないしな」
いや、そんなまじまじと見られても困るんだが…。
「とてもお似合いですよ!比企谷殿!!」
ほんと止めて、ストレートに誉められると反応に困る。よし、少し評価をねじ曲げて受けとるか。
ようはこの着物って新三郎さんのやつだから、つまり俺と新三郎さんがお似合いだという事だろう。…やっぱりしん×はちなんだよなぁ…。
「それよりお前ら、五十鈴の作品を見に来たんだろ?」
「うん、会場が広いからどこにあるのかわからなくて」
迫り来るしん×はちの波に対抗するべく、さっさと話題を元に戻す事にする。
「こっちな、たぶん見たら驚くぞ」
あんこうチームの四人を連れて五十鈴の作品まで案内する。
「わぁ…すごい!!」
「戦車に…お花が」
戦車にお花…この発言に誰もが「いったい何を言っているんだ?」とでもツッコミそうだが事実なので仕方ない。
花を生ける花器、それが戦車の形に作られているのだ。あの日、戦車倶楽部で特別に注文したオリジナルである。これは欲しい、あとで五十鈴に譲って貰えないかな。
五十鈴の言う足りない物、それは花の力強さに負けないバランスがとれる花器の力強さ…なのかは知らないが。なるほど、これは花の知識だけでは気づけなかったものではあるか。
しかし…それにしたってそこで戦車型の花器をチョイスするとは、五十鈴 華…やりおる。今度家の玄関にも飾ろう(譲って貰う前提で)。
「来てくれてありがとう」
しばらく五十鈴の作品を見ていると俺達に気付いた五十鈴が来てくれた。
「華さん、このお花…すごく素敵です」
西住は五十鈴の作品を見ながら素直な感想を口にしていた。
「力強くて、でも…優しい感じがする、まるで華さんみたいに」
「…この花は、皆さんが生けさせてくれたんです」
西住に言われて五十鈴も優しく微笑んだ。…この雰囲気、百合の花も追加して生けるつもりなの?
「それと…その花器は比企谷さんが」
「え?そうなの!?」
「いや…特にアドバイスしたって訳じゃないだろ、あれ」
結局は五十鈴が自分の力で作り上げた作品だ、そこは誇るべきだろう。
「無理を言って来てもらいありがとうございます。今日、どうしても比企谷さんにもこの作品を見せたくて、新三郎にわがままを言ってしまいました」
「いや…まぁ、暇だったしな、別にいい」
…来てもらったっていうかほぼ拉致だったような気がしないでもないけど。
「皆さんのおかげでこの作品は完成しました」
「そうなんですよ」
ふと、向こうから誰かがやって来る。…と思ったら五十鈴の母親だった。
「この子の花はまとまってはいるけれど、個性と新しさに欠ける花でした」
五十鈴の母親はそのまま五十鈴の隣まで来ると少しだけ言葉を溜める。
「こんなに大胆で力強い作品が出来たのは…戦車道のおかげかもしれないわね」
「…お母様」
「私とは違う…、あなたの新境地ね」
「…はい!!」
五十鈴の母親が微笑むと五十鈴も嬉しそうに微笑んだ、こうして見てると親子で良く似ているな。
「それにしても、あの戦車型の花器には驚いたわ」
「特別に頼んで作って貰ったんです」
「まぁ!ふふふっ…」
五十鈴も自分の納得のいく作品を作り、母親もそれを認めた。
…これで五十鈴家のお家騒動も無事解決、って所だろうか。
「…華さん、良かった」
ふと横を見ると、西住がなんとも言えない表情で楽しそうに会話する五十鈴と母親を見つめていた。
あぁ、西住の方も母親とは相当拗れてるんだよな…。しかし、あの母親か…嫌でも脳裏にあの強面がフラッシュバックしてくる。
…こっちのお家騒動はまだもう少しかかりそうだな。
ーーー
ーー
ー
「比企谷さん」
「…ん?」
展覧会も終わり、そろそろ帰ろうかと新三郎さんから借りた着物を返していると、五十鈴に声をかけられた。
「まだいろいろ用事が残ってるんじゃないのか?」
戦車道をやっていてもそこは華道の名門五十鈴流、華道のお偉いさんっぽい人となにやら話ていたのは見ていたが。
「はい、ですが…比企谷さんがお帰りになる前にお礼がしたくて」
「いや、礼される事なんて特にないだろ」
花は元々五十鈴が生けたものだし、あの花器だって結局は五十鈴自身で気付いたものだ。
「それでは私の気がすみません。受け取って下さい、今日のお礼ですから」
ふむ、お礼にプレゼントって事はあの戦車型花器か?ふふ…、わかってるじゃないか、そういう事なら仕方ないなー、本当は遠慮しようかなって思ったけど相手の気持ちを無下にするのは良くないもんね。
「…比企谷さん、これを」
そう思っていて五十鈴から渡されたのは持ち運びできるような小さな箱に花が生けられたものだった。
「…おぉ」
予想と違い…そして、予想以上のプレゼントに思わず言葉が出てこない。
「これ、五十鈴が生けたのか?」
「はい、展覧会の作品の合間で申し訳ないのですが…」
「…いや」
充分だった…というか、展覧会の作品を仕上げる片手間でこんなクオリティのものを作ってた事に逆に驚くくらいだ。
しかし、まさか俺が女子から花を渡される日が来るとは…小町が聞いたらなんと言うだろうか。
「これ、なんて花なんだ」
色とりどりの花だが、メインで使われているこの白い花はなんだろうか?
「それは…えと」
…なんでそこでちょっと顔を赤らめるのだろう?もしかして今さら花の名前すら覚えていない事にちょっと怒ってるのか?
「アザレア…です」
「アザレア…?」
なんか聞いた事があったような…花言葉とかなんだっけ?
「それと、私、家に帰る事も許されました」
「そっか、それは良かったな」
「はい、…その時は比企谷さんも一緒に、ですよ」
「…なんでだよ」
「ふふっ、その花の意味がわからないようでは、まだまだ華道について教える事がたくさんありそうですから、今以上に厳しく指導させて頂きますね」
「…勘弁してくれ」
いや、本当に。なにその笑顔、超怖いんですけど。
「比企谷さん、ふつつか者ではありますが、今後ともよろしくお願いします」
そう言い柔らかく微笑む彼女。しかし、五十鈴はやっぱり天然というか…どこかズレている。
いやほら、今時ふつつか者、なんて言い方。嫁入り前じゃあるまいし普通言わないだろう…。