やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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八幡、誕生日おめでとう!!
いつか八幡の誕生日話を書きたいと思いつつ三年がたつとは…、8月8日だとガルパンの時系列的には戦車道の大会中になるのかな?

武部さんは八幡と同じく数学が苦手科目という事で、まぁ八幡程じゃないとは思いますが。
今回は文字数も多くなって本当に苦戦…というかラブコメ展開は基本的に全部苦戦してます、つまり最近更新してる分は全部。いや…だって普通に恥ずかしいので。

ガルパンのソシャゲのお姉ちゃんはりきりすぎでしょ…、ボコミュージアム閉館させる気なのあの人?
あ、自分はもちろん持ってませんよ…、ちくしょう。


夕暮れの教室の中、武部 沙織は補習を受ける。

「え?は?補習…スか?」

 

「そだよ」

 

正直言って、生徒会室に呼び出された時から嫌な予感しかしなかった。この人達が俺を呼び出す時ってのは、決まって厄介事である。

 

それにしたって補習とか…いや、ないな、きっと何かの間違いだろう。

 

「会長知らないんですか?俺は国語学年2位と成績優秀なんですが?」

 

ちなみに1位は冷泉なので諦めた。なんであいつ授業サボってるくせして高得点なんだよ、これだから天才は。

 

「…よく自分で堂々とそんな事が言えるものだな」

 

「確かに国語の点数は良いんだけど…、比企谷君、数学のテストの結果、覚えてるよね?」

 

「…9点です」

 

なんだよ方程式とか数式って…わかるわけねぇだろ!私立文系ナメんな!!

 

「これは学年でも最下位だぞ、補習は当然だ」

 

「いやほら…戦車道やってると特典があるんでしょ?それ使いますから数学の結果くらいパパって握り潰せません?」

 

「なるか!横着するな!!」

 

「さすがにテストの結果を変えるのはちょっと…」

 

ちょっと…とは言ってるけどできないとは言ってないんだよなぁ…うちの生徒会の闇である。

 

「あっははは!!」

 

「会長、笑ってる場合じゃありません!戦車道で我が校の廃校を阻止しようというのに、その戦車道履修者の中にこうも成績の悪い者が居ては示しがつきません!!」

 

その理論なら、俺が戦車道の授業取ってるの知ってる奴なんてこの学園艦内じゃほとんど居ないんだし、別にいいんじゃない?

 

「いやほら、一年前にも同じような事があったから、比企谷ちゃん、覚えてる?」

 

「…さぁ?都合の悪い事は忘れるようにしてるんで」

 

「たしかその時の数学も9点じゃなかったっけ?」

 

いや、忘れたって言ったじゃん。人がせっかく苦い思い出を忘れようとしてんのになんで掘り起こそうとするの?

 

「一年前からまったく進歩していないじゃないか…」

 

いやいや、学年が上がるに比例して内容も難しくなっていく中での同点数だ、立派に進歩してるといっても良い。

 

むしろ誇るべきだ。比企谷 八幡は立派に戦ったのだ。故に補習なんて必要ないのである。

 

「かーしまも別教室で補習するんだからさ、二人とも頑張ってね~」

 

ダメらしい。いやー、相変わらず良い笑顔するよねこの人。

 

…いや、そんな事よりも今サラっと流そうとしてましたけど、俺は聞き逃しませんからね?

 

「………」

 

「な、なんだ比企谷!何か文句でもあるのか!そんな目で私を見るな!!」

 

そんな目ってこの腐った目の事を言ってるんですかね?うん、そりゃ目も腐りますよ。

 

あー…でも今ので俺も思い出したわ、そういやあの時もこの人補習だったんだよなぁ。

 

まるで成長していない…。安西先生ェ、補習が…したくないです。

 

…真面目にこの人は卒業大丈夫なんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「え?は?補習…スか?」

 

「そだよ」

 

入学式の事故より退院した俺を待っていたのは、生徒会による奴隷のような日々である。

 

入院生活で授業に参加出来なかった分の補習は生徒会の仕事を手伝えばチャラになる。そんな甘い言葉に俺は見事に釣られてしまった。

 

だが、甘い言葉には裏がある。完全に選択を誤ったと後悔していた頃だ。

 

「…生徒会の仕事を手伝えば補習はチャラなんでしょ?約束が違うじゃないですか」

 

この条件があったからわざわざ生徒会の仕事を手伝っているってのに、詐欺もいいところだ。

 

「入院生活の分はそうだけど…今回は数学のテストの結果がね」

 

「悪いがテストの結果まで我々が面倒を見る義理はない」

 

「…そうッスか」

 

チッ…駄目か。思ったより使えねぇなこの人達。

 

入院生活中でも勉強はして来たつもりだが、数学に関してはほぼノータッチだった。やりたくない物は仕方ない。

 

それにしたって高校からレベル上がりすぎだろ。ソシャゲだって過度なインフレがゲームの寿命を縮めるものだし、つまりは人生の寿命を縮めるという事だ。

 

「まぁ数学9点じゃ仕方ないんじゃない?」

 

「…なんで人の点数知ってんですか?」

 

「んー、生徒会長だから?」

 

いや、それ理由になんのかよ…?

 

「かーしまも別教室で補習するんだからさ、比企谷くんも補習、頑張ってね」

 

「か、会長!何も今そんなこと言わなくても…」

 

え?この人も補習なのかよ、片眼鏡かけてていかにも出来る人オーラ出してるのに。

 

…よくよく考えたらなんでこの人片方だけ眼鏡してんの?そっちだけ視力悪いの?

 

「な、なんだ比企谷、文句があるなら言ってみろ!!」

 

「…その眼鏡、オシャレのつもりなんですか?」

 

「!? 比企谷、貴様!!」

 

「も、桃ちゃん落ち着いて!?」

 

「うるさい!桃ちゃんと呼ぶな!!」

 

うわっ…怖っ!なんか知らんがこの人の地雷だったらしい。

 

逃げるように生徒会室から退室させてもらう。何がきっかけで相手の地雷を踏んでしまうかわからないものだ。

 

そう、人は知らずに相手の地雷を踏んでしまうものだ。その対処法は簡単、みんなぼっちになれば良い。

 

人と人とが関わらなければ地雷を踏む事も踏まれる事もない。これこそまさに平和、そう、まさにぼっちこそ平和の使者なのである。

 

生徒会から言われた補習教室に着くと、適当な椅子に座る。気は重いし出来る事ならバッくれたいが、そうすると更に面倒な事になりそうだ。これ以上あの生徒会に弱みを握られてはたまったものじゃない。

 

さっさと済ましてしまうか…と、数学の教科書を広げた時だった。

 

「す、すいません、遅れました!!」

 

がらがらと扉が開いて誰か入ってきた。たぶん俺と同じく補習を受けに来た生徒、つまり数学の補習を受けるくらいには頭の悪いアホである。

 

あ?俺は国語でバランスとってるから問題ないんだよ。世の中バランスで成り立ってるんだから2つを合わせれば平均値だ、問題はない。

 

「…って、あれ?比企谷じゃん、先生は?」

 

教室に入って来たのは妙に明るい女子生徒だった。彼女は教室を見るなりそう声に出す。

 

おい比企谷、なんか話しかけられてんだから答えてやれよ。

 

「なんで無視すんのよ?」

 

だがその女子はなんか知らんが、俺の机の前まで来てそんな事を言ってくる。

 

「…いや、俺に声をかけてるとは思わなかった」

 

「いや、今この教室他に誰も居ないじゃん」

 

…だよね、居ないんだよね。いや、俺のこの反応も当然だ。

 

そもそもだ…こいつ誰だよ?

 

なんで俺の名前知ってんの?しかも知り合い風に声をかけてくるとか、新手の宗教の勧誘かなんかか?

 

「…もしかして、私の事わかんないの?」

 

「…まぁ、簡単にいえば」

 

向こうも俺のそんな雰囲気を察したのか、そう聞いてきたので素直に答える。

 

「えぇ…、私達同じクラスなんだけど」

 

その女子は若干引いていたが俺の方は納得だ。中学校時代、同じクラスの女子に先生からの用事で声をかけたら。

 

『…なんであいつ私の名前知ってるの?』

 

『きっと◯◯ちゃん(プライバシー保護とか知った事じゃないが単純に思い出したくもないので名前は伏せる)の事が好きなんじゃない?』

 

『えー…やだー…』

 

とか言う会話が遠巻きに聞こえたのだ。それ以来、クラスの連中の顔と名前は覚えないようにした。どんだけ自信過剰なんだよあいつら。

 

そもそもクラスの連中も俺の名前知ってたか怪しいくらいだったしな。アレとかソレとか、とにかく指示代名詞を使いたがってたくらいだ。

 

「あっ…でも比企谷って入院してたんだっけ?それなら仕方ないか」

 

なんか勝手に結論を出して勝手に納得してくれたようだ、それならこの話はここで終わりーーー。

 

「私、武部 沙織!よろしくー!!」

 

「…お、おう」

 

うお、まぶしっ!!このコミュ力は間違いない、こいつはスクールカーストでも上位に位置する奴だ。

 

学校には、そしてクラスには不特定多数の人物が集まる事になる。人が多く集まれば集まる程に格差が生まれるのが自然の摂理だ。それは国も会社も、学校もクラスも同じである。

 

俺は間違いなく下の方、それくらいの自覚はもうとっくにしている。

 

そんな俺にも態度を変えずに話かけてくる事がもう、自分がスクールカーストの上位です!と言っているようなものだ。こいつ自身にその自覚があろうがなかろうが…。

 

そしてそんなスクールカーストの上位の奴。しかも女子に声をかけられ、名前を覚えてて貰えてちょっと嬉しくなっちゃってる自分が堪らなく嫌になる。

 

なんだよ、覚えてて貰えてって、入院してたのも知っててちょっと嬉しくなっちゃってるのが…本当に最悪だ。

 

「へ~、比企谷も数学補習なんだ」

 

「…お前もな」

 

それが悔しくてついついトゲのある言い方をしてしまった。

 

「えへへ…数学は苦手だから、あっ!でも家計簿くらいは付けられるからね!!」

 

「…は?」

 

こいつはいったい何を言っているのか、家計簿?

 

「は?って…将来結婚した時に家計簿くらいつけられないと困らない?」

 

いや…、そりゃ困るかもしれないけど、なんだこいつ?

 

「あっ!でもスーパーの割り引きとかも、すぐ計算できないと困るかも…」

 

「…まぁ、そりゃ困るかもしれんが」

 

たしかにチラシとかによくある三割引きとか、パッと見で分かりにくいよね、最初から値引きした金額書いとけよって話だ。

 

「だよねー。よーし、将来素敵な彼と結婚した時の為にも頑張ろー!!」

 

なんか一人で勝手に盛り上がってやる気を出してるし…。しかし、なんなさっきからやたらと結婚とか彼っていうキーワードが目立つ。

 

あぁ、こいつひょっとしてビッチなのかな?

 

仕方ない、こいつの為にもここは一つ、俺も祈ってやるか。

 

将来…武部 沙織がとんでもないダメ男に引っ掛かりますようにっと、これで良し!!

 

武部、光栄に思え。クラスの女子の名前も顔も覚える必要はないと思っていたがお前は別だ、ちゃんと覚えてやる事にする。

 

ただし、『できる事なら今後関わらない方がいい奴』ノートに入れる為に、である。

 

ちなみにこの上位互換に『絶対に許さない』ノートがあり、ここには生徒会のメンバーの名前が登録されていたりする。

 

こういう誰にでも話かけてくるサバサバ系女子には録な思い出がない、用心の為にも覚えておこう。

 

「あっ、先生来たみたい」

 

少し遅れて数学の先生が入ってくる。こうなったらもうさっさと終わらせて帰るか。

 

補習といっても簡易的な問題集だ。それを解いて先生の所へ持って行き、合格点をとれば終了である。

 

見た目とさっきのやり取り的にこいつはアホっぽいし、俺の方が補習も先に終わるだろう。

 

「じゃあね比企谷、私友達待たせてるから」

 

そのフラグは速攻で回収されました。いや、終わったんなら帰れば良いけどね、こっちもその方が気が楽だ。

 

「あと、もうちょっとクラスの人にも声かけた方が良いと思うよ、じゃないとモテないから」

 

うるせぇな、大きなお世話だ。お前は俺の母親なの?結婚通り越してもうかーちゃん気取りかよ。

 

念には念を入れて、もう一度武部が将来ダメ男かクズ男にでも引っ掛かる事を祈りながら、その後の補習はおよそ一時間以上にも及んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「………」

 

あー、そんな事もありましたっけ。と、補習教室に向かいながらふと一年前の事を思い出した。

 

結局一年の間に武部と会話をしたのも、それっきりだった気がする。あいつが数学の補習に来たのもそん時くらいだったし。

 

その後は教室で特に交流があった訳でもない。今にして思えば、彼女なりに空気を読んでいたのかもしれんが。

 

あの時は将来、武部がダメ男に引っ掛かる事を願ってしまったが…現在の彼女を見れば、引っ掛かる所か釣り針すら見つからないようだ。

 

教室じゃ男子と親しげに話してる姿をよく見かけたし、正直ずっとビッチだと思ってたんだけどね。まさかの恋愛経験皆無だったとは。

 

早く誰か貰ったげて!女子力高くて料理上手で気配りもできるとか、今時こんな有力物件なかなか無いからね!!

 

…そのスペック聞いただけで飛びつく奴ってだいたいはダメ男なんだよなぁ。

 

それに、もしこれで本当にあいつが将来ダメ男に引っ掛かりでもしたら、あの時の俺の念が通じてしまった事になってそれはそれで責任感を感じてしまう。

 

がらがらと補習教室の扉をあけると先客が居た。

 

「あれ?比企谷じゃん、比企谷も数学補習なの?」

 

「…すまん武部、俺が悪かった」

 

「え?なんで急に謝るのよ?」

 

良し、とりあえず謝った訳だし俺は悪くないな、うん。

 

「気にするな、つーかお前が補習の方が珍しいだろ」

 

武部が数学の補習に来たのはあの日くらいだが、俺はもう常連客みたいなものだ。先生にもいつも「またお前かよ」みたいな顔をされる。

 

はいそこ、学園艦って先生居たの?ってツッコミは禁止だからね。いや、気持ちはわかるんだけど。

 

「あ、そういえば一年生の時に初めて補習した時も比企谷と一緒だったよね、覚えてる?」

 

「…まぁ、そういやそうだったか」

 

正確にはついさっきまで忘れてた訳だが、武部の奴はよくそんな事覚えてるな。

 

「あの時に比べて比企谷も変わったね」

 

「…バカ言え、数学のテストの結果なら一年前と変わらず9点だったぞ」

 

「いや、そこは変わらないとダメでしょ」

 

なんだか俺の考えが見透かされてる気がして、ついムッとなって反論すると武部は呆れた声を出す。

 

「だいたい、それを言うならお前だって今日補習じゃねぇか」

 

「…今回のテストなんだけど、ちょうどあっちの試験と重なっちゃって」

 

あぁ…あれか。つまり今回のテストはそっちを優先したって訳なのだろう、そりゃ補習にもなる。

 

「…結果はどうだったんだ?」

 

「ふふん♪じゃーん!比企谷、ほら、合格だよ!!」

 

武部が嬉しそうに見せてきたのは、なんと第二級アマチュア技士免許証である。

 

こいつ、マジで取りやがったのかよ…二級って普通に難しいやつだぞ。

 

「どうこれ!この写真、なんならお見合い写真にだって使えるんじゃない?」

 

自慢する所そこかよ。そもそもお見合い写真開いたら女子高生って、それでお見合いしたいと思う男は社会的にアウトである。

 

「しかしよく合格できたな」

 

「麻子に勉強手伝って貰ったおかげなんだけどね」

 

たしかに冷泉ならスラスラ問題を解きそうではあるが…普段の戦車訓練を見ててもあいつ、人に教えるのは下手くそだった気がする。幼馴染みな分、少しは冷泉の教え方がわかるのだろうか?

 

どちらにせよ…こうして数学が補習になるのを覚悟してまで勉強した末の合格だ。彼女の努力の結果といえる。

 

「比企谷も…参考書とか選んでくれてありがとね。あの参考書すごくわかりやすかったから」

 

「…ん、まぁ気にすんな。大したことじゃない」

 

本当に大したことじゃない。そもそも第二級アマチュア無線技士免許用の参考書なんて俺にもわからん。

 

なので無線関係に詳しそうな、それ相応の適任者から話を聞いただけである。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

それは二回戦の始まる前くらいだったか。

 

ふらっと立ち寄った本屋でたまたま武部を見かけたので、くるりと華麗に反転して店から出ようとする。

 

「いや、なんでそこで逃げようとするのよ!!」

 

…捕まった。うん、捕まるよね、一回バッチリ目があっちゃったもんね。

 

「なにしてんだ?ゼクスィならこのコーナーには無いぞ」

 

「うん、今月号はもう買ったからそれは良いんだけど」

 

買ったのかよ…結婚情報誌を定期購読してる女子高生なんてこいつくらいじゃないのか?

 

「じゃあ何を…、なんだ?」

 

武部の居るコーナーだが、資格関係の専門書のコーナーである。うむ、どう見ても場違いだ。

 

「えっと…これは」

 

そう言いながら慌てる武部の手にあるのは…なになに?『ハムを目指そう』?。

 

「…ハムになんの?」

 

御中元に貰うと嬉しい天狗のやつ?やだもー、武部さんったら、これ以上肉付き良くなりたいのかしら?

 

もしかしてあまりの男っ気の無さに暴走して、デブ専狙いに的を絞った訳じゃないよね…。

 

「ならないよ!?あと今すっごく失礼な想像してるでしょ!!」

 

なんでわかんだよ…、エスパーなの?

 

「あ、いや…ハムにはなりたいんだけど、そっちのハムじゃないっていうか…」

 

「アマチュア無線の事だろ」

 

「知ってんじゃん!!」

 

ツッコミに忙しい奴だなー、まぁさせているのは俺なんだが。

 

アマチュア無線の事をハムという。ちなみになぜアマチュア無線がハムなのかはいろいろと諸説あるので、それは各々で調べて欲しい。

 

「なんでまたアマチュア無線なんだ?よく知らんがこれ、普通に難しいらしいぞ」

 

「うん…、ほら。私通信手だから、こういった知識があった方が良いかなって」

 

「…そこまで考える事もないだろ」

 

いつぞやか、サンダース戦の後に武部がそういうのに悩んでいた事を思い出した。

 

隊長の西住は当然として、その指示に答える操縦をしてみせる冷泉、試合の勝敗を決めた五十鈴の砲撃。

 

秋山も装填はもちろん、試合前の偵察と大活躍。

 

だが、武部だってサンダース戦で無線が傍受されて通信機が使えない中、メールで各戦車に指示を送るという離れ技をやってのけた。まさにシャインニング・指圧士さんである。

 

「でもほら、こういう資格持ってる女の子ってこう…出来る女!って感じでモテそうじゃない?」

 

そっちが主目的かよ!だいたいアマチュア無線の資格持ってる女子ってマニアックなイメージしかないんだけど?

 

「あのな武部…」

 

教えてやろうかと思ったが、彼女はふるふると首を横に振ると。

 

「うん、だから私!この資格取ってみる!!」

 

…あぁ、うん。さすがの武部もアマチュア無線が男受けするとは思ってないようだ、それは嘘か。

 

彼女も自分なりに何か出来る事はないか考えての決断なのだろう。だったら俺が口を挟む話ではない。

 

「あ…、でも比企谷、みぽりん達にはこの話、内緒にして欲しいんだけど」

 

「…まぁ、いいけど」

 

まぁあいつらが聞いたら変に気を使わせたとか思いそうだし。

 

「んー…でも参考書とか問題集ってどれが良いんだろ?比企谷、わかる?」

 

「わかる訳ないだろ…」

 

「でも比企谷、本とかよく読んでるじゃない?」

 

なにその理論?たしかに本は読んどけ!とは言うが、それでわかったら本って万能すぎんだろ。

 

「無線の知識なんてさっぱりだ、専門書なんて読んだ事がないに決まってんだろ」

 

「そっか…」

 

残念がっているが、むしろ通信系の知識なら俺より通信手である武部本人の方が詳しいだろうし…、専門家みたいなもんだろ。

 

いや待てよ。…専門家か、そういえば一人心当たりがあったな。

 

「そういや、そういうのに詳しそうな奴に心当たりがあるな」

 

「え?だれだれ?」

 

「たぶんお前も知ってる奴だ、無線関係ならそいつが適任だな」

 

なにしろ…通信傍受機打ち上げて大洗の無線を傍受しちゃうくらいですもんね。

 

携帯を取り出してそいつに電話をかける。

 

『も、もしもし!な、何?急に電話なんてビックリするじゃない』

 

「いや、だからってそんなヒステリックにならんでも…」

 

『なってないわよ!!…で、なんの用なの?』

 

「あぁ、アリサ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

 

はい、そんな訳でアリサである。

 

やり方はまぁ…誉められたものではないが、無線傍受とかあっさりやっちゃう辺り、こいつの通信手としての技量と知識は相当なもんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

後でアリサの奴にも礼をしとかないとな…と、補習を受けながら心の中で呟く。

 

つまり補習内容が全く頭に入って来ない、数学とかわかる訳ないだろ!ふざけんな!!

 

「ん~!終わったぁ!!」

 

隣では武部が自分の補習範囲が終了したのか、大きくのびをした。ちょっと…おへそ見えちゃってるし胸強調されてんだけど?

 

「ん?どうしたの比企谷?」

 

しかも無自覚かよ。いや全く…女子力やらなんだ狙うより、そういう不意討ちに男の子は弱いという事をいい加減学べ。

 

「いや…帰るのか?」

 

というかアマチュア無線の勉強してた武部より遅い俺って…。

 

「んー、みぽりん達には遅くなりそうだったから先に帰ってもらったし…」

 

彼女はそう言って机に肘を乗せると、両手を頬に当てて俺の方を見る。

 

「比企谷が終わるまで…待ってようかな」

 

「…まだかかるぞ、別に先に帰ってればーーー」

 

「別にいいよ、待ってるから」

 

「…そうか」

 

「うん、待ってる」

 

ふと、窓から差す夕暮れの日差しが武部を照らす。

 

料理上手で女子力が高く、気配りも出来て、努力家で。

 

恋にも戦車にも一直線の魅力的な女の子。

 

本当にうちの学園の男共って女子を見る目がねぇのな…。このままじゃマジで将来、ダメ男に引っ掛かっちゃうかもしれねぇぞ。


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