やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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【迷子の女の子が居ます、声をかけますか?】

はい←
いいえ

【残念、あなたは警察に逮捕されました。】

…実際、この場面に遭遇したら積みじゃない?


どう見ても、カチューシャは高校生には見えない。

「人が多いな…小町の奴、ちゃんと来てるよな?」

 

小町と合流する為に一度ダージリンさん達と別れた俺は、小町との待ち合わせ場所に向かうべく会場内をうろうろとしていた。

 

待ち合わせ場所に向かうべくうろうろしていた、というのもおかしい話だが、これは仕方ない。

 

さすがに全国大会の決勝戦の会場ともなると人が多い。特にこの辺りは食べ物やら戦車グッズやらの屋台が多く出ていて賑わっている。

 

つまり人が多い分、混雑していて歩きにくく非常に鬱陶しい。チッ…、待ち合わせ場所を間違えたか。

 

とはいえ小町だって良い歳だ。今更迷子の心配なんてしていないが、きっとお兄ちゃんを待っててくれているはず!…待っててくれてるよね?

 

ちなみに両親は二人共仕事である。大洗学園の存続をかけたこんな日にまで仕事しないといけないとか、社蓄って本当に悲しいなぁ。

 

まぁ仕事は比企谷家の存続と俺の生活がかかってるので、両親には働く細胞の如く仕事をしてもらおう。

 

「…ん?」

 

人混みの中、小学生くらいの女の子が一人で居るのを見かけた。さっきからあっちへこっちへと移動しているが、この人混みのせいで思うように動けないようだ。

 

見たところ近くに親らしい人は見えない、とすれば迷子だろうか?他の場所なら別に良いんだろうが、これだけ人が多いとあの歳くらいの子が一人で居るとマズイんじゃないか?

 

とはいえ、ここで不用意に話しかけたりしないのが俺、薄情者とでも言われそうではあるが仕方ない。

 

昨今では男子高校生が小学生女子に声をかけても事案になる可能性がある。迷子の相手さえ出来ない世の中になってしまったのだ、つまりは社会が悪い。

 

まぁこれだけ会場が広ければ迷子センター的なものもあるだろうし、なんなら近くにスタッフを見かけたら軽く迷子っぽい女の子が居る事を教えるくらいはしても良いだろう。

 

…そうするとあの迷子の見た目くらいは説明しないとマズイか、ちょっと近付いてみるか。

 

「うぅ、ノンナぁ…、どこ行ったの…」

 

「………」

 

近付いてみてわかったが、この迷子に見覚えがあった。というかプラウダ高校の隊長、カチューシャさんじゃないか。

 

8歳児の平均身長くらいの背丈ではあるが、信じられない事に俺の一つ上、れっきとした高校三年生なのだ。きっと酒の名前がコードネームの変な組織に妙な薬でも飲まされたのだろう。

 

…良かった、迷子なんて居なかったんだな。よし、解散!!

 

「か、カチューシャを一人にするなんて…し、シベリアに送ってやるんだから…」

 

カチューシャさんは人混みの中、不安そうにキョロキョロとしていた。近くにノンナさんが見当たらないので、たぶん探しているのだろう。

 

まぁ…知らない人じゃないし。なにより俺より年上だから声をかけても事案は発生しないだろう。…しないよね?大丈夫だよね?

 

「カチューシャさん」

 

「ひゃうっ!だ、誰よ!!」

 

突然声をかけられて警戒の声をあげるが、その表情は俺の顔を見るとパァッと明るくなった。

 

「ハチューシャじゃない!!」

 

うわー、すっげぇ嬉しそう。ちなみにこれは俺に会えたからとかそんなんじゃなくて、一人で不安だった所に知ってる顔が居たからだろうな。

 

「どうも…、どうしたんですか?こんな所で」

 

「決勝戦、見に行くって言ったでしょ?このカチューシャ様が直々に見にきてあげたんだから、黒森峰なんてバグラチオン並にボコボコにやっつけなさいよ」

 

バグラチオン作戦を再現できるなら是非ともしたい所だ。ここは忠実に再現する為にもソ連戦車を下さい。

 

つーか…見にきてあげたって言っても、ついさっきまで迷子だったんですよね?

 

「…今日はノンナさんは一緒じゃないんですか?」

 

さすがにカチューシャさん一人でここまで来たというのは考えにくい。というか一人で来てたらあんな不安な顔してないだろうし。

 

「ノンナは…その、迷子なのよ!!」

 

うわー…とんでもない事言い出したよこの人。

 

「はぁ…迷子なんですか?」

 

あなたじゃなくてノンナさんが?

 

「そうよ、だから今探してあげてるの、まったくしょうがないわね」

 

すげぇなこの人、言いきったよ。…高校生のやる事じゃない。

 

「という訳でハチューシャ、あなたもノンナを探すのを手伝いなさい」

 

「いや…なんで俺が」

 

「カチューシャの決めた事は絶対よ!なんか文句あるの?」

 

なんという暴虐っぷり、声かけない方が良かったかもしれない…。

 

「とりあえず…迷子センターでも行きます?」

 

「行く訳ないでしょ!!」

 

チッ…ダメか、なんなら迷子センターにこの人預けられないかなって思ってたんだけど。

 

「だいたいノンナさんを探すって…あてはあるんですか?」

 

「カチューシャに良い案があるわ。ハチューシャ、ちょっとそこでかがみなさい」

 

「…なんでですか?」

 

「いいから早くするのよ!!」

 

訳もわからず言われたまましゃがむと、カチューシャさんが乗っかってきた。…おい。

 

「ちょっと、動かないでよ!乗りにくいじゃない!!」

 

「いや、いきなり何してんですか?」

 

「肩車よ、高い所から探せばノンナも見つけやすいでしょ、そんな事もわからないの?」

 

わかるはずがないし、そんなどや顔されても…。

 

「ほら!さっさとしなさい!!」

 

えぇ…やっぱやらないと駄目なの?でもやらないとすげぇ駄々こねそうなんだよなぁこの人…。

 

カチューシャさんを肩車して立ち上がる。…正直出来るか不安だったんだが思いの外あっさり立ち上がれた。

 

…というか軽っ!この人マジで高校三年生なの?

 

「ふふんっ、やっぱりカチューシャの思った通りだわ、よく見えるもの」

 

「んで…ノンナさんは居ましたか?」

 

なんだろうか…見た目小学生女子を肩車しているこのシチュエーション…。

 

ま、まぁ俺はロリコンじゃないから、変に意識なんてしないけどね。そういえば昔小町にもやったっけとか懐かしく思うくらいだ。

 

「ちょっと待ちなさい…、あっ!居たわ!ノンナ!!」

 

俺の頭の上でカチューシャさんがぶんぶんと元気よく手を振る。ちょっと…あんま動かないで、せっかく意識消してるんだから。

 

「カチューシャ!!」

 

あちらも無事こっちを見つける事ができたのか、ノンナさんがやって来て…。

 

「…それと、比企谷さん、こんにちは」

 

まずカチューシャさんを見て安心し、その後、下で肩車している俺を見ると…その表情が一変した。

 

怖い怖い怖い怖い!!なんかすっげぇ睨まれてない!?

 

「か、カチューシャさん、ノンナさんも見つけたんでそろそろ降りませんか?」

 

「あら、もう疲れたの?体力無いわね」

 

無いのは精神力の方なんですが…。なんかもうゴリゴリ削られてんですけど。

 

「んじゃ、俺はこの辺で…」

 

カチューシャさんを降ろして別れを告げる。これでカチューシャさんも無事ノンナさんと再会できた訳だし、めでたしめでたしって事で。

 

「ちょっとハチューシャ!どこ行くのよ!?」

 

「いや、どこって言われても…」

 

「今から試合見るのよ、あんたも来なさい」

 

えぇ…そうなるの?いや、すぐ隣に居るノンナさんが怖いんで遠慮したいんだけど。

 

「いや…二人の邪魔するのもアレですから」

 

「私は構いませんよ、私も比企谷さんとは個人的にゆっくりと話をしたいと思ってましたから」

 

だから怖いって!絶対尋問的なやつだよこれ!!下手すれば拷問にまで発展するまである。

 

「あー…その、ダージリンさんと約束があって」

 

「なに?私とダージリンとでダージリンを選ぶの?」

 

「いや、そういう訳じゃないんですが…」

 

どんだけわがままなの…、人の言う事聞かねぇし。

 

「なら私がダージリンに話をつけてあげる、それなら良いでしょ?」

 

「妹とも約束があるんですが…」

 

「良いわよ、カチューシャは心が広いんだから、ハチューシャの妹なら特別に歓迎してあげる」

 

プラウダの包囲網がここに完成された瞬間だった、包囲殲滅戦が得意と言うだけはある。

 

「はぁ…まぁその、とりあえず妹に会う約束があるんで、良いですか?」

 

「構わないわ、行くわよノンナ」

 

「はい、カチューシャ」

 

とりあえず付いてくるらしい…。まぁそれはこの際良いんだけどね、諦めたし。

 

「…なんで腕を掴むんですか?」

 

だがわからないのはカチューシャさんが俺の腕を掴んでいる事だ、ちなみに反対側ではノンナさんと手を繋いでいる。

 

つまり、カチューシャさんを真ん中に挟んで俺とノンナさんが両側を歩いている図である。…なんだこれ?

 

「ま、またはぐれたら困るでしょ!!」

 

どれだけさっきまで一人で居て心細かったんだよこの人…。

 

「しかし人が多いですね、決勝戦って毎回こうなんですか?」

 

そりゃ他の競技に比べても大会の規模が違うだろうが、普通高校生の競技に自衛隊とか来ないもんね。

 

「そうですね、去年は雨が降っていましたが、それでもたくさんの方が来ていました」

 

ポロっと出た疑問に答えてくれたのは意外にもノンナさんだった。

 

「みんなプラウダが優勝するのを見にきてたのよ」

 

えっへん、とどや顔するカチューシャさん、小学生感があって可愛らしいね。

 

「いい、ハチューシャ。大洗は絶対に勝つのよ、大洗が黒森峰に勝ったらプラウダは黒森峰より上って事なんだから」

 

まぁ…去年勝っていて今年戦わなかった事を考えるとそういう力関係になるのか。

 

「まぁ…やれるだけの事はやったはずです」

 

「何か策があるんですね」

 

「一応は…」

 

というか作戦無しの真っ向勝負ならわりと瞬殺されかねない戦力差だし。

 

「また準決勝みたいな面白い作戦を期待してるわよ、…あ」

 

と、カチューシャさんが立ち止まる。間に居るカチューシャさんが止まると自然と両側の俺とノンナさんも立ち止まる事になった。

 

「どうかしましたか?カチューシャ」

 

「良い匂い…」

 

言われてみれば…確かに美味しそうな匂いがする。まぁこの辺は飲食の出店が多いのでたぶんそれだろう。

 

「アンツィオ名物の鉄板ナポリタン、出張営業だよ~!美味しいパスタだよ~!!」

 

「甘~いジェラートもありますよー」

 

「さぁさみんな!試合の前に是非ともアンツィオの美味しい料理を食べてってくれ!!」

 

といつかアンツィオ高校の連中だった。決勝戦の会場にまで店を出しているとは、相変わらず商魂逞しいというか…。

 

まぁ人がたくさん居る今日みたいな日は、この人達にとっても稼ぎ時なのだろう。それにしても、昨日宴会やってたらしいがちゃんと起きれて良かったね。

 

「美味しそう…ノンナ」

 

「カチューシャ、お昼ご飯まではまだ時間があります」

 

なにこの人、カチューシャさんのおかんなの?

 

「うっ…わかってるわよ、でも…」

 

チラチラッとアンツィオの屋台を見るカチューシャさん。んー…そういや、あれだ、腹が減ったな。

 

「すんませんノンナさん、お腹すいたんでちょっと屋台寄って良いですか?」

 

「ハチューシャ…、し、仕方ないわね!まったく食いしん坊なんだから!!」

 

どっちが食いしん坊万歳なんだか…、まぁアンツィオ高校の人達もわざわざ来てくれたんだし、挨拶くらいはしとかないとな。

 

「いらっしゃい!…あれ?あんた確か大洗の…」

 

「比企谷さん、こんにちは」

 

「ん?おぉ!比企谷じゃないか!久しぶりだな!!」

 

なんかマックスやらハチューシャやら呼ばれてると、こうやって名前で呼ばれるのが逆に違和感あるな…。

 

「どーも…、儲かってますか?」

 

「ふふん♪当然だ! なにしろ我がアンツィオ高校自慢の料理だからな、これは売り上げが期待できるぞ」

 

ウキウキしている安斎さん。決勝戦でこれだけ人が集まってきてるんだし、確かにアンツィオ高校の料理は美味い。

 

案外、来年には屋台の売り上げで戦力強化されたアンツィオ高校が、台風の目になる可能性もあるかもしれない。

 

「これなら決勝戦後の祝勝会も豪華なものになるはずだからな、期待していいぞ!!」

 

…いや、戦車は?というか昨日も宴会してたんですよね?

 

「なによあんた達、知り合いなの?」

 

「いや、知り合いもなにも2回戦の相手だったんですが…」

 

カチューシャさん知らないのかよ。いや、そりゃそうか、思えば大洗の事も直前まで知らなかったくらいだからねこの人。

 

「アンツィオ高校の皆さんはじめまして、プラウダ高校のノンナです」

 

「アンツィオ高校のアンチョビだ、よろしくな」

 

あ、やっぱ自己紹介はそれなんですね。そういえばカチューシャさんはソウルネームだとして、ノンナさんは本名なんだろうか?

 

「地吹雪のカチューシャとは私の事よ、覚えておきなさい」

 

「そうか、あんた達がプラウダ高校か、大会で戦えなかったのが残念だな」

 

2回戦…仮にアンツィオが勝ってたら次はプラウダと試合でしたもんね。大洗といい、ハードモードすぎんだろ。

 

「ふん、戦ってたらあんた達なんてボコボコよ」

 

「アンツィオを甘くみるなよ、我々はそう簡単にはやられない。…じゃなくて勝つ!!」

 

「エプロン姿で言われても説得力がないわね…」

 

いや、本当だよ。しかし制服にエプロンって…なんかこう、良いよね?

 

俺から言わせれば裸エプロンとか言い出すやつはにわかだ。制服にエプロンこそ至高ですね、わかります。

 

…安斎さん似合ってんなぁ。

 

「まぁそれはそれとして。せっかく来たんだ、うちの料理を食べていってくれ、サービスするぞ?」

 

「ノンナ…」

 

「…そうですね、では一ついただいても?」

 

結局カチューシャさんのお願いには負けちゃうのね…。

 

「そら持ってってくれ、しかしこう見るとお前達、なんか親子みたいだな」

 

「はぁ!?あんた何言ってんのよ!!」

 

何言ってるというか…見たまんまの事を言ってると思うんだけど、それだけカチューシャさんとノンナさんが親子っぽいのだ。

 

「ありがとうございます」

 

なんでこの人今お礼言ったの!!なんで嬉しそうなの!?

 

「あぁ、比企谷と合わせて仲の良い親子に見えるぞ」

 

「………」

 

…あ、死んだわこれ。何言っちゃってくれてんのこの人!?


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