やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
しかし小町と各隊長との会話回し続けると話進まねぇ…、泣く泣くかなりの会話カットしてもほぼ一話使っちゃうとか。
さて、ついにこの日がやって来ました。第63回戦車道全国大会、その決勝戦。
今回のフィールドは陸上自衛隊も実際に演習に使用している東富士演習場がメインステージではありますが、市街戦も出来るように市街地も用意された広大なフィールド。
天候は去年と違って快晴、これなら雨が降る心配もないでしょう。
実況はここまでくればもういろいろ諦めもつく私、比企谷 八幡。そして今回の豪華ゲストはなんと妹の小町、よし、いつもの終了!!
あ、ついでに付け加えると市街地は戦車道の試合用にわざわざ用意されたもので当然無人、ご安心下さい。…戦車道連盟も金あるなぁ。
「だからハチューシャは私達と試合を見るって言ってるでしょ!!」
「えー、せっかくだし、ここでみんなで見れば良いじゃない」
ダメですか?うん、ダメだよね、妹さえ居れば良いとはいかないらしい。つーかあの人まだ駄々こねてるのかよ…。
駄々っ子しているのは去年の覇者であるプラウダ高校の隊長カチューシャさん。それを肩車しているのは同じく副隊長のノンナさんだ。
【駄々っ子してる覇者】って、その字面だけ見るとすげぇな、このパワーワードっぷり。
そして、そのカチューシャさんを宥めているのが、強豪サンダースの隊長であるケイさんである。
しかしカチューシャさんも強情っつーか…、たぶんアレだな、俺がどうとかより自分の思い通りにならないのが面白くないのだろう。
ただこうやって駄々をこねられ続けると落ち着いて試合観戦もできないし、どうしたもんか。
「とりあえずパスタ茹でて良いか?」
「いや、いきなり何言ってんですか…」
唐突に謎の料理宣言をかましたのはアンツィオ高校の隊長、安斎…もといアンチョビさんである。
「いや、お腹が減ってるから機嫌が悪いんだと思ってな、何か食べてお腹いっぱいになれば機嫌も直るだろ」
いや、子供じゃないんだから。それにあの人の場合、たぶんお腹いっぱいになったらまたお昼寝とかしちゃいそうだ。あー、うん。やっぱり子供だったわ、そういえば。
まぁそんな訳で元々の聖グロリアーナの方々に加えてプラウダ、サンダース、アンツィオの隊長格が集まっている訳だ。
なんとも豪勢な顔触れじゃないか、これだけ集って10年もあれば天下も取れそうである。まぁ天下人は天が決めるらしいけど。
まだ駄々こねているカチューシャさんから視界を変えると、小町がぼーっとしているのに気付いた。
「どーした小町?」
「いや、お兄ちゃんこそどーしちゃったの!?この状況、なんかとんでもないよ!!」
いや、まぁ…うん、とんでもないよね。本当にどういう状況だこれ?
「もしかして戦車道やってればモテるって…そういう事なの?」
え?なに?まだその都市伝説信じてたの?もう武部くらいしか信じてないと思ってたんだけど。
「そ、そういえば…戦車道をやってるとモテるんだったな、という事は私も…その、モテモテになったり…」
居たよ!安斎さんあなたもですか…、そもそも安斎さんは現状で充分モテモテじゃないか。ただしアンツィオ校の生徒に、ではあるが。
あー、そういや武部も持ち前のおかん属性で一年共を筆頭にモテモテだな。戦車道をやってるとモテる事が実証されてしまったらしい。…男に、とは言ってないのでセーフ。
「………」
駄々をこねるカチューシャさんが不機嫌なのはそうだが…今までスルーしてたけど一番不機嫌な人が居るんだよなぁ。
「あ、あの…」
「あら、なにかしら?マックス」
そう、ダージリンさんである。言動こそいつものように物静かで紅茶を嗜んでいるが、あふれでる不機嫌のオーラは半端ない。俺みたいな凝の使えない一般人でも感知できるくらいだ。
「すいません、やっぱり小町、お邪魔でしたか?」
小町もそれを感じ取ったのか、遠慮がちに声をかける、こういうコミュニケーション能力はさすがというか…。
「いえ、お気になさらないで小町さん、歓迎しますわ」
そしてダージリンさんの方も小町には柔らかい笑みを見せてくれた。俺には不機嫌オーラ全開だというのに…。
「ありがとうございます!ダージリンさん!!」
「紅茶のお味はいかがかしら?」
「いやー美味しいです。うちでは兄に合わせてコーヒーを飲む事も多いので、紅茶も良いものですね」
「そう言って貰えて嬉しいわ、でも私も最近ではコーヒーを飲む事もありますのよ?」
「え?そうなんですか?」
「えぇ、マックスコーヒーを彼に教えて貰ってね。だから聖グロリアーナの伝統に従って、彼にマックスコーヒーの名をプレゼントしたの」
「なんだか兄がすいません…」
「なんでそこで謝るんだよ」
マックスコーヒーの布教活動は大事なのだ、つーかもっと全国の自販機にあっても良いだろ。
「お兄さんからあなたの事は聞いていたわ、可愛らしい妹さんね」
「いえいえ、ダージリンさんの方こそとても綺麗な人で、小町びっくりしちゃいましたよ。本当にお兄ちゃんの知り合いなんですね」
「そうね…同じ船で共に過ごした仲、かしらね」
「涼しい顔して嘘つかないで下さいよ…」
「あら、忘れたのかしら?同じ船で一緒にプラウダに行ったじゃない」
期間短ッ!!捏造するにしてもちょっと無理ないですかそれ…。
「ほほぅ…これはなにやら小町的にもポイント高い展開ですな」
なんのポイントだよ。さっきから小町のテンションが妙に高くて心配になってくる。
「あー、でも小町、戦車道の事はまだあんまり知らなくて、皆さんと一緒だと迷惑かけちゃうかもです」
「ふふっ、それなら私がいろいろと教えてあげましょうか?」
「本当ですか!ありがとうございます、ダージリンさんってなんだかお姉様、って感じですね!!」
「お、お姉様…?」
「あ、すいません、なんとなく雰囲気が…」
まぁわからんでもないけど、この人普通に「お待ちなさい、タイが曲がっていてよ?」とか言い出しても違和感ないし…。
「お姉様…、ふふっ♪そう、小町さんのお姉さん…ね」
…なんか知らんけど、どうやら機嫌が直ったらしい。というか表情がめっちゃ緩みまくってるまであるんだけど、この人。
そんなに小町にお姉様と言われたのが嬉しかったのか、…まさかこの人、小町狙ってるの?やめて、アリア様がどっかから見てるから。
「すいません、小町の奴が変な事言って…」
「構いませんわ、良い妹さんね」
「…そうですね」
基本アホな子ではあるが。…本当に、俺には勿体ないくらいだと思う。
「それに、私も妹が居るの」
「…そうなんですか?」
ダージリンさんの妹…やっぱり紅茶飲んで格言とか言うんだろうか?なんかちっさいダージリンさんをそのまま思い浮かべてしまった。
「ダージリンさんは才色兼備のお嬢様って感じだなー、こんな人が小町のお姉ちゃん…いや、お姉様。…良い」
「ちょっとダージリン、独り占めは良くないわよ。私だって、まだあまり小町と話してないんだから」
「そうだぞ、今ペパロニ達がパスタを持って来てくれるらしいからな、小町も食べてくれ」
「ケイさんは明るくて一緒に居て楽しそうだし…、アンチョビさんは面倒見が良くて甘えられそう、ゆくゆくは…お姉ちゃんにしたい…」
「ちょっとそこ!何勝手に宴会の準備始めてるのよ!!」
「でも、さっき食べた料理がまた食べたいと言ってましたよね?」
「ま、まぁ、持ってくるっていうなら食べてあげない事もないけどね!!」
「ノンナさんは厳しさと優しさがあってしっかり者の姉タイプかなぁ…、カチューシャさんは…、んーさすがの小町もノーコメント」
「さっきから何ぶつぶつ言ってんだお前」
「んー、秘密だよ♪でもこれに大洗の皆さんまで考えると…あー!小町も迷っちゃう!!」
うぜぇ…、だいたいなんでお前が迷ってんだよ…。
「コマーシャ、迷うなら来年はプラウダに来ると良いわ!特別に歓迎してあげるわよ!!」
どうやら小町がどの学園艦に行くのがいいかで迷ってると思ったのか、カチューシャさんが自信満々に声をかけてきた。
「歓迎って、カチューシャさん来年は卒業してるじゃないですか…」
…してるよね?改めて確認しますけど三年生ですよね?高校三年生なんですよね?(大事な事なので要確認)。
「っぐ…、わかってるわよ…それくらい」
おや、軽く返したつもりだったがえらく動揺させてしまった、あぁ…なるほど。
「来年以降が心配ですか?」
カチューシャさんもノンナさんも三年生だ。来年にはこの二人が卒業する事を考えると、プラウダの戦力ダウンは避けられないだろう。
「…問題ないわ、ニーナ達にカチューシャ戦術は教えてるもの。だからコマーシャ、安心してプラウダに来れば良いわ」
とはいえ…この人もやっぱり隊長だな、来年に向けてもうやれる事はやっているって事だろう。
「…あのー、コマーシャって小町の事ですか?」
うん、正直いつツッコミいれようか迷ってたんだけどね。コマーシャって何?CMかよ、小町の名前からしたらお米のCMみたいになっちゃうんだけど。
「ハチューシャの妹だからコマーシャよ」
「そういえばお兄ちゃん、ハチューシャってお兄ちゃんの事?」
「まぁ…あだ名みたいなもん、か?」
ただし、俺の名前を覚える気のないカチューシャさんが付けたものだが。
「でもエイトボールの方がクールで良いニックネームじゃない?」
「マックスコーヒーが一番気品に溢れていますわ」
「あなた達何言ってるの?ハチューシャはハチューシャよ、カチューシャが呼ぶって決めたんだから」
なんの戦いしてるんですか…あなた達、比企谷 八幡君はちゃんとここに居ますからねー?
「すごい!お兄ちゃんがまともなあだ名付けられてる!!」
「そこ感動する所かよ…」
まぁ確かに、中学の頃に付けられた歴代あだ名シリーズに比べればずっとマシだ。ちなみに歴代嫌だったあだ名一位は言いたくない。俺の心が持たない。
「マズイぞ…アンツィオには比企谷のあだ名が無い、比企谷、何か好きな料理はあるか?」
「いや…、そこで無理して対抗しなくても」
ドリアが好きとか言い出したらアンツィオの奴等、俺の事ドリアって呼びそうだし。下手したらドドリアとか呼ばれそうまである。
「大丈夫です、黒森峰からも特にあだ名とかありませんから」
あぁ、いや、あの現副隊長さんは俺の事、それとかこれとか言い出しそうで、ある意味中学時代のあだ名なんだが。
「そうか!つまり我々アンツィオはあの黒森峰とも同格という訳だな!!」
この人のスーパーポジティブ感マジぱねぇな…。
「皆さん、お茶の準備が出来ました」
と、宴もたけなわに…おや?おかしい、まだ試合すら始まっていないのに。
まぁ話しかけてきたのはオレンジペコだ。この各隊長の集いにも動じなくなったあたり、この子も、もう慣れちゃってるね、さすがに。
「あ、小町も手伝いますよ、オレンジペコさん」
「いえ、お客様にそんな真似はさせられません。それに小町さんのおかげでダージリン様の機嫌も戻りましたし、ゆっくりしていて下さい」
手際よくティータイムの準備を始めるオレンジペコは、ダージリンさんに聞こえないように小さく小町に耳打ちをする。
「皆さん、何を飲まれますか?今日は最上級の茶葉を用意しました」
ほう、最上級とな?紅茶で有名な聖グロリアーナが、わざわざこう伝えるという事は本当に良いものなのだろう。
となると…ここでいただくのは当然。
「マックスコーヒー」
「マックスコーヒー、お願いね」
「マックスコーヒーを頼む」
「決まってるじゃない!マックスコーヒーよ!!」
「では…カチューシャと同じものを」
「ペコ、おかわりはマックスコーヒーをいただくわ」
「…………………わかりました」
…なにこれ新手の嫌がらせなの?いや、俺も頼んじゃったうちの一人なんだけど。
まさかマッ缶がここまで感染拡大するとは俺も正直思ってなかった。そうか、これが俺のマッ缶道だったのか。
マッ缶が最上級の紅茶に打ち勝った瞬間だった。これは比企谷流家元として鼻が高いね、そんな流派無いけど。そもそもそんな道ないんだけど。
「うちの兄が本当にすいません…、オレンジペコさん、小町には紅茶、お願いできますか?」
ちょっとー、なんでうちの妹は俺を出して謝ってるの?実際ダージリンさんもこの件は関わってるんだからね?
「小町さん…!あ、あの!!お友達になりましょう!!」
そんなに嬉かったのね…悪いオレンジペコ、このマックスコーヒー飲んだら次は紅茶飲むから。
「小町さんも人気者ね」
「まぁ、小町は昔からあんな感じですから」
しかも小町の場合、コミュ力抜群なくせして一人でもそれはそれでエンジョイできる、次世代ハイブリッドぼっちなのだ、なにそれ最強かよ。
「小町さんが聖グロリアーナに入学すれば、あなたも来てくれるのかしら?」
「…まだ諦めてなかったんですか」
そんな事より…一献くれまいか?
オレンジペコから百万石のマックスコーヒーを頂いて心して飲み、一息つく。
…まぁ、この人達はここまで応援に来てくれたんだ。それに、これはどうせ結果次第で遅かれ早かれ分かる事でもある。
だから、伝えても良いと…、俺はそう思う。
「大丈夫ですよ。大洗は勝ちますから、廃校にはなりません」