やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
沙織
『ついに明日は決勝戦だね!ねぇ比企谷、決勝戦って生放送されるんだよね?』
八幡
『みたいだな、まぁ基本的に車内に居る武部にはあんまり関係ねぇんじゃねぇの?映らないし』
沙織
『いつ映っても良いようにバッチリ決めとかないと!!』
八幡
『…メール届いてないの?ねぇ、本文読まずに返事だけ返したの?黒ヤギさんか白ヤギさんなの?』
沙織
『あっ!でもそれで私のファンが増えちゃってモテモテになったらどーしよー!?』
八幡
『寝ろ』
「え?ちょっとちょっと、どういう事?」
「大洗が廃校だと…?」
さらりと流した言葉ではあるが、流石の各高校の隊長さん達も驚いてるな。あぁ、ダージリンさんは静かにお茶飲んでるけど。
「ハチューシャ、説明しなさい」
「学園艦の数が多いから、経費削減の為にも目立った成果の無い学園艦は解体されるって文科省からのお達しなんですよ、うちもその対象です」
まったく…勝手に増やしといて自分達の都合が悪くなったらこれだもんな、計画性とかないの?
「成果…なるほど、それで戦車道ですか」
「それで今年から大洗の戦車道が再開したのね」
そういう事です。てか、成果っていうなら決勝戦まで来れただけで充分だと思うんだが。こうなると文科省は単純に大洗を潰したいだけな気もする。
「そういえばアリサもそんな事言ってたけど、まさか大洗も対象だったなんてね」
あぁ、そういや一回戦、孤立して大洗の全車両に追われる事になったアリサの奴が、逃げながらそんな事を喚いていた気がする。
苦し紛れに言ってたんだろうが、まさか核心をついてくるとは…これは反省会案件ですね。
まぁケイさんが知らないのは仕方ない。リッチでアメリカンなお金持ち高校のサンダースだ、学園艦解体の話とは無縁だろう。
同じくお嬢様学校の聖グロリアーナ、戦車道の名門プラウダ高校もそうだろう。
「…うちの学園艦は大丈夫なのか?」
アンツィオは…うん、心配ですよね。大洗と同じく貧乏らしいし、ただ最近は恋人達の聖地(笑)とかで人気ですし大丈夫だろう。
「でも戦車道大会で優勝すれば廃校は阻止できるんだよね、お兄ちゃん」
「あぁ、逆を言えば負けたら廃校なんだけどな」
「大洗にとって負けられない戦い、という事ね」
「何言ってるのダージリン?負けて良い試合なんてあるわけないわ、カチューシャは全力を出した事に後悔なんてしてないんだから」
「そうね、相手にどんな事情があっても試合は試合、お互い全力でぶつからないと!!」
あぁ、うん。まぁわかってましたけど結構容赦無いよね、この隊長ズさんも。
「結果的に大洗が負けて廃校になっても、ですか?」
「もしそうなってたらみんなプラウダに来れば良いのよ。カチューシャは心が広いんだから、大洗の全員を受け入てあげる」
…うーん、自分のお昼寝時間で学園艦全体の授業時間を遅らせる権限を持ってるこの人が言うと、本当に出来そうで恐ろしい。
「えー、それならサンダースに来るべきよ。大洗のメンバーならみんなすぐ一軍に上がれるわ」
もともと大所帯でリッチなサンダース、うん、これもあっさり受け入れられそう。
「そ、それならうちはあれだ!えと…うちにくれば歓迎会を盛大にやるぞ!三日三晩の宴会だ!!」
それ、アピールポイントなんですか?
「人気者ね」
「そうですね、あいつらが聞いたら喜びますよ」
まさかここまで各強豪校に引っ張りだことは、戦車道を再開してここまで来たのは無駄じゃなかった、という事だ。
彼女達の戦ってきた軌跡は確実に残っている。なお、言い方を少しだけ変えるなら、就職活動が成功したーーみたいなもんであるが。
「あら?あなたもよ、マックス」
「…はい?」
一瞬、ダージリンさんが何を言ってるのかわからなくて唖然としてしまった。
「それに、ハチューシャはカチューシャの家来になるんだから大洗のメンバーはプラウダに来るべきよ」
「うちは共学だから、エイトボールも居る事を考えたらサンダースが一番よ、アリサだって喜ぶわ」
「いや、ここはやはりアンツィオに来てほしい…。じゃなくて来るべきだ!!」
「………」
そのせいか、まだ続く三人の会話が耳に入り、それでも結局言葉は出てこない。
「ふふっ、妬けるわね」
「…からかわないで下さい」
俺の心中を見透かしたような顔をされてちょっと…いや、まぁかなり恥ずかしい。
「でも、熱い紅茶も良いけど、熱すぎても飲めないものよ。あなたを最初にお誘いしたのは私だという事、忘れないでね」
それは牽制だろう。その牽制は他の三人の隊長に向けたものなのか、それとも俺に向けられたものなのか。
…どちらにしても、いいかげん胃が痛くなってきた。
「だってさお兄ちゃん!どうするの?どこ選ぶの!?」
そんな俺とは真逆に小町はものすっごいイキイキしてる、さっきから妙にテンション高いし。
「そもそも選ぶ必要は無いだろ…、大洗が負けなきゃ良いんだし」
ここは沈黙が正解…。こりゃなんとしても大洗には勝ってもらわないとな。
「そうだな、それが一番だ」
「比企谷さんも作戦を立てているとは聞いてますが、今度はどんな作戦を考えたんですか?」
「どんなってか…まぁ、いろいろと」
「あら、今回はたくさんあるのね、それは楽しみだわ」
そんな楽しめる様なものじゃないんだけどな…そもそも黒森峰相手に通用するか怪しいもんだし。
「しかし比企谷は試合に出ないのによくいろいろ考えつくな。うちの子達も、もうちょっと考えてくれればいいが…」
「まぁアレですよ、私に出来る事をひとつずつ叶えただけです」
「「「「………?」」」」
え?何その反応、みんなピンと来てないの?なんとなく似てるイメージあったんだけど。
ちょっと誰か阪口の奴呼んで来てー、あいつなら今頃爆笑してくれてるから。
『ただ今より、決勝戦、黒森峰女学園対大洗学園の試合を開始します』
「始まりましたね」
俺の自信満々なネタもスルーされ、いよいよ試合が始まる。
巨大モニターに大洗、黒森峰の試合参加戦車が表示されていく。うん、実は相手の戦車はここで知る事が出来るのだ。
ちなみに白旗が上がった戦車は、この一覧表から除外されるのでわかりやすい。
「あれ?大洗は準決勝からまた一両増えたのね」
「何!?秘密兵器か?買ったのか!!」
大洗側が注目されるのは、なんといってもポルシェティーガーだ。決勝戦からの登場に加え、そのレア度を考えれば当然である。
「買えませんよ、ようやく修理が間に合ったんです」
「でもあれ、ポルシェティーガーじゃない。あんなのまともに動くの?」
その疑問は尤もですが、まともに動けないならそもそも試合には出しません。
さぁ、大洗の秘密兵器、自動車部のチートっぷりの初披露だ。
大洗側の戦車が出揃っても、巨大モニターではまだ黒森峰の戦車が表示されていく。当然だよね、だって8両対20両だもん。
ティーガーⅠ、ティーガーⅡ、ヤークトティーガー、エレファント、ヤークトパンター…見てるだけでお腹いっぱいになりそうな面子だ、胸焼けしそう。
「…ん?」
黒森峰の試合参加戦車。その最後の一両を見て俺は、一瞬何かの冗談かと思った。
…いや、あの戦車って…確かに戦車道のレギュレーションには違反してないけど、そんな事ってある?
「…ダージリンさん、あれ」
「どうやら黒森峰も本気のようね」
「いや…そもそも黒森峰はあんなのまで持ってるんですか?」
いくら王者といってもやりたい放題が過ぎませんかね…?
「ちょっとノンナ、去年はあんなの無かったはずよね!?」
「はい、おそらくは今年から導入されたのかと」
…そりゃそうだ。よくよく考えれば、あれが前から黒森峰にあるなら、黒森峰の副隊長をやっていた西住が、その存在を知らない訳がない。
作戦会議の段階で、西住からそんな話は出なかった…つまり、あれは。
「去年優勝を逃した黒森峰が、今年優勝する為に用意した秘密兵器…といった所かしら」
うわあああぁ…大人のする事じゃない!!
いや…大人だから出来るんだろうが、それでもちょっと大人気なさすぎるだろ西住流。
「秘密兵器…つまり我々でいうP40と同じという訳だな」
…長年屋台でお金を貯めてやりくりしてやっとP40を購入したアンツィオと、一年でアレ買っちゃう黒森峰、ひどい格差を見た。
「ねぇお兄ちゃん、あれってそんなすごい戦車なの?名前可愛いけど、ほら!千葉県のデスティニーランドのマスコットみたいな!!」
「おい小町それ以上は止めとけ、というかあそこはパンダのパンさんが人気だったんじゃないのか?」
「あー、パンさんも良いよね。でも…小町的にはやっぱりボコが一番可愛い!!」
あぁ、相手があの包帯ぐるぐる巻きの熊ならどんなに良かった事か、きっと今日もどこぞのソーシャルゲームのレイドでぼこぼこにやられているのだろう。
…あまりの衝撃に現実逃避してたわ。試合開始早々、話題のその戦車は市街地へと向かっていく。
これはたぶん姉住さんの指示だろう。つまり、俺達が最終的に市街戦に持っていこうとしてるのは読まれているって訳か。
ーーー
ーー
ー
「相手はおそらく、火力にものをいわせて一気に攻めてきます。その前に有利な場所に移動して長期戦に持ち込みましょう」
ついに決勝戦がはじまります、私はみんなの前で作戦の確認をします。
「試合開始と同時に、速やかに207地点に移動して下さい。では、各チーム乗り込んで下さい」
「「「「はいっ!!」」」」
…黒森峰の、お姉ちゃんの強さは私が一番よくわかってる。でも。
「………」
生徒会の人達に頷くと皆さんも頷き返してくれました。たぶん、一番危険な役目になるはずなので心強く思います。
そのままⅣ号戦車の所で立ち止まり、そっと手を当てました。
黒森峰は…、お姉ちゃんは強い。でも…負けられない。
作戦が上手くいっても…最後はお姉ちゃんに勝たないといけない。
「…頑張ろうね」
ふと呟くと沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さんが私の手に手を重ねました。
「…みんな」
みんなで少しだけ微笑みます。うん…そうだよね、戦うのは私だけじゃないから。
「行こう!!」
「「「「「おーーーっ!!」」」」」
ーーー
ーー
ー
「これより決勝戦だ。相手は初めて対するチームだ、決して油断するな」
『『『了解っ!!』』』
「まずは迅速に行動せよ、グデーリアンは言った【厚い皮膚より速い足】と…行くぞ!!」
試合開始の合図と共に黒森峰の全車両が動き出す。
秘密兵器たるそれを含む数両を市街地へと向かわせて、ほぼ全車両で大洗を狙う。
試合開始地点は黒森峰も大洗もそれぞれ離れていた、すぐに遭遇する事はないはずだ。
そもそも重戦車の多い黒森峰は、そう簡単には大洗に追い付けない。会場内のほとんどの者もそう予想を立てていただろう。
「大洗の狙いは207地点、山頂だ。陣地を作成される前にこれを叩く、森の中を進め」
『『『『了解!!』』』』
だが、森の中をショートカットすれば別である。足回りの弱いドイツ戦車による森の進軍は負担ではあるが、だからこそ相手の虚をつく事もできる。
「見つけ次第フラッグ車を狙いなさい、一気に叩き潰すのよ!!」
『エリカ、油断はするな』
「問題ありません、どんな作戦を用意してきたか知りませんが、その前にけりをつけてあげます」
もちろんこの不整地の進軍を容易く行う事こそ、日頃の黒森峰の訓練の賜物でもある。
「敵、発見しました」
「よし、全車両、撃ち方用意!!」
観客のほぼ全ての者の予想に反して黒森峰は試合開始早々に大洗に到達、その圧倒的な火力による攻撃が開始される。
「撃ーーー、ッ!?」
だがその瞬間、黒森峰の全車両の視力を奪ったのは真っ白な煙だった。