やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

146 / 205
ガルパンと俺ガイルのクロスオーバーで書かせて貰ってる中、作中のこの台詞は絶対いれたい!!っていうのがやっぱりあるんですよね、印象的な台詞はたくさんあるので。
ただ八幡が観客席で基本的に八幡目線で進むのでいれられずもどかしくなる事も何度か…。



それは彼と彼女とウサギの話。

「ウサギさんチームがエンスト…」

 

M3リーからの通信を受け、沙織は慌てて西住みほに伝える。

 

『私達は大丈夫です!隊長達は早く行って下さい』

 

『後から追いかけます!!』

 

通信越しに澤と大野の声がそう伝えるが、すぐ後ろに迫る黒森峰がそれを許すはずがない。

 

いや、それ以前に…。

 

「危ないっ!!」

 

流れはそこまで急でないにしろ、ここは川のど真ん中だ。隊列が崩れた事もあり、川の流れを受けたM3リーの車体が大きくぐらついた。

 

「このままだと横転しちゃう!!」

 

「もたもたしていると黒森峰が来るぞ」

 

「でも、ウサギさんチームが流されたりしたら…」

 

それは西住みほにとって、再び訪れた選択の時だった。

 

去年程川は荒れていない、救出に時間をとられればそれだけ黒森峰に追い付かれる可能性もある。

 

だが、目の前に危険な状況の仲間が居る事は同じだった。

 

「………」

 

西住みほは答えを出せず、うつむいた。震える手をなんとか落ち着かせようとする。

 

思い出すのは去年の戦車道全国大会、その決勝戦での記憶。

 

彼女にとって、あの判断が正解だったのか、間違いだったのか、まだ答えは出ていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー 

 

 

「………」

 

「震えているのね」

 

「…え?あ、いや」

 

ダージリンさんに言われるまで気付かなく、それを指摘されると適当に言葉を探して返す。

 

「…マックスコーヒー成分が切れただけです」

 

「そんなアルコール中毒みたいな…」

 

「似たようなもんですよ…」

 

誤魔化す為にマックスコーヒーの注がれた紅茶のカップを手に取る。

 

水面は波打ち、まるで俺の心境を現しているようで情けなくなってくる。

 

M3リーは今だ動く様子がない、ここまでダメとなると自力での復活は望み薄だろう。

 

となると救出が必要である。幸い、ポルシェティーガーにも使用したワイヤーがあるので、それを使って引っ張ればいい。

 

だが…そんな時間があるのか?黒森峰がそれを許すか?

 

キーワードを当てはめれば共通するワードこそ多いが、状況は去年とは違う。

 

一番問題になるだろう命の危険性までは無いはずだ。川は去年程荒れてないし、戦車が水没するような事故は起こらない。

 

だから、ここでM3リーを…仲間を見捨てて先に進むという選択をしても、彼女を責める者は居ないはずだ。

 

「お兄ちゃん…」

 

「…心配すんな、小町」

 

不安がる小町を安心させてやる、西住がどちらを選択するかなんてわかりきっている事だ。

 

それは、俺が今まで見てきた西住の話だけじゃない。思えば最初から…俺は彼女に憧れて、惹かれて、焦がれていたのだから。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

それはまだ、戦車道も始まってない頃の事だ。

 

「…はぁ」

 

戦車道を復活させると意気込む生徒会から、西住勧誘の依頼を受けていた俺は、選択授業の説明会を終えてため息をついた。

 

西住への戦車道勧誘ファーストコンタクトは、なぜか彼女を虚ろ目にさせ、武部と五十鈴からは怒られ、あげく告白失敗扱いにされたと、散々な結果だったからである。

 

つーか、西住のおどおどとしたあの小動物感…あれで本当に戦車道経験者か?生徒会の人達、勧誘する相手間違ってない?

 

戦車道は戦車に乗り込んで戦争ごっこをやる女子のお遊びなんだろうが、それでもあいつを戦車と結びつけるのは無理があるだろ。

 

「西住の前の学校は…黒森峰?」

 

勧誘の為、生徒会から貰った資料を見る。そういや自己紹介でそんな事言ってたな…興味無かったし覚えてなかったけど。

 

「黒森峰…全国大会9連覇、西住流」

 

パソコン室を借りて調べてみる。おっ…ドイツ戦車か!にしても西住流ねぇ、戦車道に流派とかあるのがもう胡散臭いけど。

 

てか…西住って名字から見て、あいつその流派の娘なのかよ、しかも副隊長ってますます結び付かねぇな。

 

「…ん?」

 

【去年の戦車道全国大会決勝戦、黒森峰の副隊長の行動には賛否両論!?】

 

それは去年の戦車道、その決勝戦の動画だった。

 

試合決着間近、川に流される戦車とそれを救出する為にフラッグ車から飛び出した一人の選手。

 

彼女はプラウダ側の砲撃を気にも止めず、豪雨の中で崖を滑り落ち、傷付きながらも…躊躇う事なく川へと飛び込んだ。

 

自らの命を危険に晒して、仲間を救出してみせた。

 

「………」

 

…言葉を失った。これが本当に、あの普段教室で俺と同じくぼっちで、クラスメイトに声をかけられておどおどしてた西住なのか?

 

…それ以前に彼女はなぜ、こんな事を迷いなくできる?

 

副隊長だから?いや…フラッグ車を離れたその行為は、むしろ責任の放棄に等しい。

 

だったら…仲間の為?チームメイトの為?友達の為?そんな事がありえるか?

 

極限状態になれば、人間の本性なんてものはすぐに炙り出される。

 

普段教室でウェイウェイ仲良さそうにしているリア充共だって、大袈裟だが、命の危険ともなればお互いに自分を優先するだろう。

 

当然だ。誰だって他人より自分が可愛いだろうし、友達なんていっても普通、そんなものだ。

 

どれだけ上っ面で仲良しこよしを演じてようが、こんな場面で動く事なんて普通しない、出来ないはずだ。

 

仲間を助ける為に、何もかも捨てて、命の危険さえ省みず、行動する。

 

その行動した結果がどうなるかも、わかりきっているというのに…。

 

結果、黒森峰のフラッグ車は撃破され、彼女は救出した仲間とただそれを眺めているしかなかった。

 

「…変な奴」

 

…出てきた言葉が単なる強がりなのは、自分が一番よくわかっていた。

 

そんな物、この世の中には存在しないと勝手に決めつけていたのだから。

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「行ってあげなよ」

 

「…え?」

 

沙織さんに声をかけられて、ようやく私は今の状況を飲み込む事が出来ました。

 

「こっちは私達が見るから」

 

「沙織さん…でも」

 

ウサギさんチームのみんなの事はもちろん助けたい…でも、また去年みたいな事になったら…。

 

「それに…、八幡君にも」

 

『…あんま無茶すんなよ、見てて心臓に悪いからな』

 

ふと、戦車格納庫での彼の言葉を思い出す。

 

「比企谷の事?それなら気にしなくて良いと思うよ…むしろ思いっきり心配させてやるくらいがちょうど良いのよ」

 

「えぇ…」

 

さっきまで私を安心させる為に微笑んでくれていた沙織さんですが、急にむーっと頬を膨らませてちょっぴり拗ねた感じになりました。

 

「みんな、比企谷が入院してた事は知ってるよね」

 

「確か…車にはねられた、とは聞いてますけど」

 

「入院中はおばぁと同室だったらしいな…、だが、それがなんなんだ?沙織」

 

「うん、ウサギさんチームのみんなに聞いたんだけどね?その事故って、学校から逃げ出して車に轢かれそうになったウサギを庇ったからなんだって」

 

…そんな事があったんだ、でも、それってーーー。

 

「それでよくあの時、西住さんにいろいろ言えたものだな…お前が言うなとはこの事じゃないか」

 

「見事にご自分を棚の上に上げてますよね…」

 

「お二人共、厳しいですね…」

 

うん…二人の目がなんだか怖い…でも。

 

「それって、なんだかすごく八幡君らしいね…」

 

自分はウサギを助ける為に入院するくらいの大怪我をしたのに、私には危ない事はするな、だもんね…。

 

自分の事しか考えないと言っているのに、自分の事を考えない人。

 

本当に、変な人だなぁ…。

 

「だからみぽりんも、それくらいはしても良いと思うよ、この前の仕返しよ!仕返し!!」

 

「えぇっと…そんなつもりはないんだけど、でも…」

 

あの時の選択が正しかったかなんて、今でもわからない。

 

でも…あの時も、そして今も、私は助けたいって思ったから。

 

だから…きっと、これで良いんだよね。

 

「優花里さん、ワイヤーにロープを!!」

 

「はいっ!!」

 

優花里さんからワイヤーとロープを受け取ると、私はキューポラを開けてⅣ号の外へと身体を乗り出しました。

 

 

ーーー

 

「前進する事より、仲間を助ける事を選ぶとはな」

 

「みほさんはやっぱり、みほさんね」

 

西住みほを見送ったⅣ号戦車の中で、彼女達が微笑み合う。

 

「だからみんな…西住殿について行けるんです。そして私達は、ここまで来れたんです」

 

「そうだね」

 

「私…この試合、絶対勝ちたいです。みほさんの戦車道が間違っていない事を証明する為にも…絶対に勝ちたいです!!」

 

華が両手をギュッと握り、沙織も優花里も麻子も、みんなで頷き合う。

 

「無論、負けるつもりはない」

 

「その通りです!!」

 

「もちろんだよ!みんな!みぽりんを援護して!!」

 

沙織が他の戦車道チームにも無線で指示を送る。黒森峰の戦車は当然こちらを待ちはしない。

 

動けないM3リーをワイヤーで固定するにしても、どうしても時間はかかってしまうだろう。

 

その作業の間、黒森峰の戦車を足止めする為にも、大洗学園戦車道チームが一丸となり守らなくてはならないのだ。

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「…まぁ、そうだよな」

 

Ⅳ号戦車から西住が身体を出し、そのまま戦車の上で立ち上がる。

 

西住がどちらを選ぶかなんて、最初からわかっていた事だ。

 

「ミホーシャ…なにする気なの!!」

 

「そりゃ助けるんでしょ、動けないM3を」

 

「ッ…!!」

 

カチューシャさんが少し複雑な表情を見せる。あぁ…去年の事を気にしてるのか…なんだかんだ根は素直というか、悪にはなりきれないんだよな、この人。

 

「あの事故の事なら、カチューシャさんが気にする必要はないですよ」

 

「ふ、ふん…なんの話かわからないわね」

 

「戦車道は戦争じゃない、道を外れたら戦車が泣く…とはいっても、みほもよく決断したわね」

 

「いや…、たぶん西住一人じゃ決断は出来なかったでしょうね」

 

西住がどちらを選択するかなんてわかっていた事だ。ただ、こうやって決断する事が出来たのは、彼女達の後押しがあったからだろう。

 

「まぁ…その、Ⅳ号に乗ってるのは西住だけじゃありませんし」

 

「あなたもそれに含まれているのかしらね、マックス」

 

「まさか、むしろ邪魔してただけかもしれません」

 

というか…その可能性の方が高いまである。

 

西住はロープを自分の身体にしっかりと結び付けると一度深呼吸し…。

 

大きくーー跳んだ。

 

川に流されないように一列の隊列を組んだ大洗の戦車。その一両一両を足場にし、M3リーに向けて跳躍を繰り返す。

 

試合会場の誰もがそれに釘付けだった。歓声をあげ、あるいは微笑み、そしてある者は悔しそうに。

 

「カチューシャには、あんな事出来ないなぁ…と思ってるでしょ?」

 

「…違うわよッ!!」

 

ノンナさんに言われて怒鳴りながらむくれているカチューシャさん、まぁノンナさんはからかい半分で言ってるんだろうが。

 

正直に言えば、図星をつかれて動揺してしまった。

 

…ノンナさん、それ大当たりですよ。まぁ俺の心境なんぞ当てても嬉しくないでしょうけどね、この人は。




※作中設定では。

八幡「………」

比企谷八幡、ウサギの代わりに車にひかれる→入院。

西住 みほ、豪雨の中、砲弾飛び交う戦場を突っ切り崖から転び落ちながらも荒れ狂う川に飛び込み仲間を救出→たぶん無傷。

八幡「あれ?なんか俺の身体が貧弱みたいに見える!不思議!!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。