やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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今年最後の更新となりました、いやー、この小説書き始めた頃はここまで長くなっちゃうとは正直予想してませんでした。
来年にはガルパンアニメ本編分のストーリーは完結しそうです、たぶん、いや、きっと、恐らく。
そこからどうするかはまだ決まってませんがまずは本編ですよね、皆さんも良いお年を!!


そして、黒森峰の秘密兵器が動き出す。

「ふん、相変わらず甘いわね…、その甘さが命取りなのよ」

 

双眼鏡で大洗のやり取りを眺めながら逸見は各車に指示を送る。

 

「全車、前進用意!…丘を越えたら川に沈めてやるわ!!」

 

前進を始める黒森峰だが、その背後からエンジン音を響かせないように静かに迫る一両の戦車。

 

「よーし…」

 

みたび現れたのは生徒会、カメさんチームのヘッツァーである。もう一度黒森峰を混乱させる為に奇襲を試みる。

 

「後方7時敵、11号車、やれ」

 

だが西住まほはその気配を感じとり、ちらりと後ろを向くと指示を送る。

 

「ありゃ!?」

 

西住まほからの指示に発射された砲撃はヘッツァーの近くに着弾、直撃こそ無かったがこうなると奇襲は無理だろう。

 

「うひゃあ~!さすがに三度目はないかぁ!!」

 

黒森峰側もこれまで散々状況をかき乱してきたヘッツァーには警戒している、こうなるとこれ以上の奇襲は難しいだろう。

 

もはや単独で行動する意味もなくなったヘッツァーは後退して合流地点へと急ぐ、大洗の仲間が川を渡る事を願って。

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「あっ!M3が動きました!!」

 

エンストを起こしたM3リーをワイヤーでくくりつけ、大洗の車両が引っ張る中、ようやくエンジンが動いてくれた。

 

そう、西住が各戦車を跳躍してM3まで来たのはワイヤーをくくりつける為なのだ。今さらながらよくあの距離ジャンプしてこれたよね、牛若丸なの?

 

「これでなんとか…」

 

とはいえ、頼みの綱だったヘッツァーの奇襲は失敗、つーか姉住さんがニュータイプすぎた。警戒してるだろうとは思ったがあぁも簡単に気づかれるとか、ないわー。

 

西住もそうだが、この姉妹直感スキル高すぎんだよ…。

 

M3リーが動いたおかげでなんとか無事に川を渡りきれた。進軍する大洗に追い付き始めた黒森峰の一斉射撃がくるが、ギリギリでそれをかわす。

 

「危なかったな…」

 

「ラビット達、動いて良かったわね!」

 

「なんですか?そのラビットって…」

 

「ほらあのM3、ウサギのイラストがあるじゃない、だからラビットよ」

 

あぁ、そういう事ですか。じゃあカバチームはヘヴァだね!どこぞの汎用人型決戦兵器感がある。

 

そうなるとアヒルもカモも英語ではduckなのでサンダース方式ならチーム名が被っちゃうな。もういっそのこと、合同にしちゃえば磯辺もバレー部が復活出来てニコニコだろうに。

 

「やったよお兄ちゃん、これでまた逃げられるね!!」

 

「違うな、逃げてるんじゃなくて誘い込んでんだよ」

 

それ大事だからね、審判の皆さんもそこら辺ちゃんとわかってくれてるよね?

 

俺から言わせれば逃げ回って相手の燃料切れやら狙う消耗戦も普通にありだと思うが、戦車道のルールがそれを許さない。ルールを守って楽しいデュエル!!

 

余談だがフラッグ戦には時間制限があるが、殲滅戦には無いらしい。それ1日で試合終わるの?

 

「誘い込む…ですか?では大洗はどこに」

 

「…市街地ね」

 

「わかりますか」

 

ダージリンさんが的中。まぁわかるよね、このルートだと他に選択肢はないし。

 

「市街地…、では市街戦ですか?練習試合を思い出しますね」

 

それ、こっちとしてはあんまり思い出したくないんだよなぁ…大洗の負けた試合ではあるし、つーか俺のやらかした試合だし。

 

「大洗と市街戦ね。それも楽しそうだし、今度やってみたいわ」

 

「あら、サンダースはないの?私達はあるわよ、それもカチューシャ達が大洗を囲んでやったんだから」

 

「負けてしまいましたけどね」

 

「う、うるさいわよ!!」

 

というかあの村を市街と読んでいいのか微妙な気もするが…。

 

「そういえば小町が最初に見た試合も大洗の街中でした」

 

「遮蔽物が多いから小回りのきく戦車が有利になる。アンツィオも得意だぞ、うちはCV33が主力だからな!!」

 

「…撃破はどうするんですか?」

 

「ぴ、P40があるじゃないか」

 

震え声…、P40って一両だけですよね?しかも本当にそれやるならP40は構造上、車長が砲手も兼任する必要があるのでこの人の場合、隊長、車長、砲手ととんでもオーバーワークになる、ブラックすぎんだろ。

 

モニターを見るとちょうど大洗の戦車は市街地に向かう橋の前まで来ていた、カメチームとの合流地点でもある。

 

無事カメチームと合流できた大洗は順番に橋を渡っていく、最後にポルシェティーガーを残して。

 

「…ん?」

 

あれ?なんでポルシェティーガーは橋渡んないの?もしかしてまた壊れたのか?

 

予定ではこの橋は破壊する事になっている。うん、さらりと言っちゃったけど壊すんだよ。

 

市街地に向かうのならこの橋が最短ルートだ。黒森峰も大洗を追ってくる以上、必ずここを通ってくる。

 

だから壊しとく、戦車が通れなくなるくらいに。そうすれば黒森峰は嫌でも遠回りをしなくてはならなくなる。

 

でぇじょうぶだ。後の修理やらこの橋を普段使ってる人達へのお詫びやらはどうせ後で戦車道連盟さんがなんとかしてくれる、構うな、存分にやれ!!

 

この話を聞いた自動車部の皆さんが壊すのは自分達に任せてと立候補したので任せてたんだけど…、え?マジでまたポルシェティーガー壊れたの?

 

だがそのポルシェティーガーはエンジンをふかしながら一気に進み始め…その負荷のかかった橋が綺麗に粉砕されていく。

 

…すごっ、てっきり砲撃で破壊するかと思ったけどこんなやり方でいくとか、ツチヤ…単なるドリフト狂いじゃなかったのか。

 

これにはさすがにⅣ号から顔を出していた西住も唖然呆然、本当に自動車部の人達が決勝戦に間に合って良かったね。

 

こうして黒森峰を再び遠ざけた大洗側はようやく市街地へと辿り着いた。

 

…辿り着いた、か。ここまで長かったな。

 

だが…西住達はまだ知らないのだ、市街地にいるアレの存在を。

 

試合開始早々、姉住さんが大洗そっちのけで一両だけ市街地に向かわせていた事を見ると、あの人も薄々こうなる事を予想していたのだろう。

 

Ⅲ号戦車が市街地からひょっこり顔を出す。先ほどからちょくちょく大洗の動向を伺っていたやつだ、恐らくは偵察用だろうか。

 

大洗からすれば市街戦の準備をする為にも本隊が来るまでに叩いておかねばならない相手だ、Ⅲ号を叩く為に進む。

 

逃げるⅢ号とそれを追う大洗の戦車、少し細い入り組んだ団地までその追いかけっこは続く。パッと見れば大洗は追い詰めているようにも見える。

 

だが…そこには、その先には。

 

ゆっくりと、だが、その存在は、あまりにも大きい。

 

まるで壁が動いているようにさえ思える、大洗の行く手を遮るそれは。

 

「…マウス」

 

「来ちゃった…マウス」

 

「地上最大の…超重戦車」

 

Ⅷ号戦車マウス、第二次世界大戦中にドイツで試作された超重戦車。

 

そう、超重戦車である。ティーガー等の重戦車の更に上、超がつくとそれはもうゴットやら身勝手やらゴールデンやらいろいろインフレを起こすのは当然の事として。

 

このマウス、全長10.085m、全幅3.670m、全高3.630m、その重量は驚きの188tである。

 

わかりにくいなら連邦軍の白い悪魔、MSのあれが全備重量60t、つまりマウスは3ガンタムの重さになる。

 

「でかッ!お兄ちゃん!なんなのあれ!?」

 

「あれがマウスな、さっきお前が名前だけ見て可愛いっつってただろ」

 

つーか名前しか見てなかったのかよ、黒森峰の中で明らかに1つおかしかっただろアレ。

 

「マウスが188tでCV33が2tだから…、あー、えーっと、何倍だ!?」

 

「その前に判断基準がCV33中心になってるのに疑問を持った方が良いと思うんですけど…」

 

そういえばアンツィオ高校の奴ら、横転したCV33を二人掛かりで戻してたし、その計算ならアンツィオの生徒が188人いればマウスだって持ち上げられるな。よし!あいつら呼んでこよう(錯乱)。

 

…そりゃ錯乱したくもなる、黒森峰がこんな隠し球を持っていたのは完全に誤算だ。

 

だいたい、試作品で2両しか作られなかったこれを黒森峰が使ってくるなんて誰が予想できるというのか。

 

「でも…なんであれがマウスなの?見た目と名前が全然違うし」

 

「情報秘匿の為にあえて真逆の名前をつけた、と言われているわね」

 

それが今じゃ、あのハハッ!!って笑うネズミのランドの規模を考えればわりと妥当にさえ思えてくるな…。

 

このマウス、ただ単にでかいだけなら…まぁ、まだ良かったんだけどね。

 

マウスの砲撃が大洗へと向かう、近くに着弾したヘッツァーはその衝撃に車体を大きく揺らした。

 

…なんとか当たらずにはすんだか…いや、当たりゃ一発で白旗だっただろうが。

 

そんな訳で主砲の128mm砲の威力は絶大、副砲ですら75mmと火力に関しては申し分無いスペック。

 

大洗側も反撃を試みるが放つ砲撃を真正面から受けてもびくともしない。当然か、ヤークトティーガーでも無理だったのにマウスを貫けるはずがない。

 

その重量に偽りなく、装甲は前面装甲だと200mm、おまけに避弾経始により防御面では圧倒的だ。

 

こんなとんでもスペックでしかも2両しか試作品の作られなかったレア中のレア、ロマン戦車だ。これを相手チームが使ってさえいなければ感激して泣いちゃいそうまである。

 

ただ今はもう、別な意味で泣いちゃいそうまである。

 

「…お兄ちゃん、あれどうするの?」

 

「どうしたもんかなぁ…」

 

そもそもマウスの事なんて頭になかった、事前にそれを知っていればある程度対策を立てる事は出来ただろうが。

 

西住が元々居た所だからと偵察しなかったのは失敗だったか…いや、今さらそれを言ってももう遅いけど。

 

「うちのかーべーたんならマウスだって倒せるわよ!かーべーたんは強いんだから!!」

 

あぁ、どうなるかは別としてそれはちょっと見てみたいかも…。でも残念ながら大洗の最強火力であるポルシェティーガーでさえ88mm、マウスの装甲を貫くのは不可能だろう。

 

「安心して小町さん、マウスにも弱点はあるわ」

 

「え?そうなんですか?」

 

「速度の遅さ…ですよね」

 

超重戦車故にそこはどうしようもないんだろうが、速度に関してははっきり言って遅い。

 

姉住さんが試合開始早々にマウスを市街地に向かわせたのも、この速度の遅さを考慮しての事だろう。

 

「スピードは出ないから、逃げ回るってのも一つの手だけど」

 

「ですが、このまま放置しておけば黒森峰の本隊が追い付いた時に…」

 

マウスと黒森峰の本隊との挟み撃ちになる。前にはマウス、後ろには黒森峰の本隊、状況としちゃ最悪だ。

 

市街戦で決着をつけるなら、マウスを黒森峰の本隊が来るまでに落としておく事が必要不可欠だ。

 

…時間制限付きでこの化け物戦車と戦うのか。

 

「ちなみにマックス。この状況、あなたならどうするかしら?」

 

「どうするって…どうもできないでしょ?試合に出てないんですから」

 

「私は、あなたならどうするか聞きたいの」

 

って言われてもなぁ…、真っ向から挑んでも砲撃は弾かれるだろうし、放置するにしても黒森峰本隊が来るし。

 

モニターのマウスを見る。今のこの戦力、状況であれを相手にするとなると…。

 

「…生き埋めにでもしますか」

 

「穏やかじゃないわね…」

 

「お兄ちゃん…」

 

ちょっと!そんな冷たい目で見ないで!!例えばの話だからね?

 

「いや、狭い所に誘い込んで周りの建物砲撃でぶっ壊せばマウスは身動きがとれなくなるかなと」

 

なんせあの大きさだ。狭い所なら旋回は満足にとれないだろうし、動きさえ完全に止めてしまえば砲身くらいなら破壊は狙える、確実性は薄いが。

 

「「「「………」」」」

 

無言。あの、冷たい目で見られてる上に無言って圧力ハンパないんだけど…。

 

「…やっぱり、あなたと戦うのは面白そうね」 

 

「そうね、大洗の強さの秘密がちょっとわかっちゃったかも」

 

「今度は全力で倒してあげるんだから!覚悟してなさい!!」

 

「我々だって負けないぞ!!」

 

「だってさお兄ちゃん!良かったね!!」

 

「何が?全然良くないでしょ?戦うとか倒すとか言われてるんだけど…」

 

つーか試合に出ない俺にそれを言われても…この人達、試合そっちのけで俺に砲撃向ける気じゃないよね…?

 

と、今はマウスだ、西住がこの怪物をどうするかにかかっている。

 

幸い、今は大洗の全チームがいる、全員でかかればなんとか…。

 

「ッ!!」

 

マウスの再びの砲撃が着弾したのはすぐ横の建物だった。そういえば、出てくる時に壁に砲身をぶつけていたから照準系が少し狂っている可能性はあるかもしれない。

 

だが、そんな僅かな希望よりも今はこの状況だ。

 

砲撃により崩れた瓦礫が、僅かに前に出ていた風紀委員、カモチームだけをその場に残し、他チームと分断したのだ。


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