やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
これは自分の考えですがこの小説を書く上で一番気を付けたいのは作中での彼女達のやった作戦は彼女達のものなのでそれをあたかも八幡が考えたように改変して彼の手柄にする、みたいなのは絶対やっちゃいけないと考えてます。
今回、対マウスに対して八幡がほぼノータッチだったのはそれが理由です。もちろん、彼らしい作戦はそっちでまだ考えてるんでそれはそれでお楽しみに!!
…ふらふら作戦の意味を最初聞いた時はわからなかったのは内緒。
「我等の…」
「歴史に…」
「今…」
「…幕が降りた」
白旗を上げるⅢ突の横をマウスが通りすぎる。
「残念です…」
「無念です」
「冷泉さん!あとは頼むわよ!約束は守るから!!」
「おぉ…」
同じくルノー、カモさんチームからの通信に冷泉は少し驚き、嬉しそうな声をあげる。
戦車道で好成績を修めれば今までの遅刻が取り消されるのは比企谷から聞いていたが、その言葉を風紀委員長であるそど子から聞いたのは初めてだったのだ。
迫りくるマウスに大洗側も集中放火を浴びせる。ルノーがⅢ号を仕留めてくれたおかげで標的をマウスに絞る事はできた。
だが、止まらない。砲撃の煙が晴れたそこには無傷のマウス…それが再び大洗に向けて進軍する。
「何してるんだ叩き潰せ!図体だけが大きいウスノロだぞ!!」
河嶋の言う事も間違いではない。マウスはその巨体ゆえにスピードは遅い、逃げ回っていればこれ以上の被害は抑える事が出来るだろう。
だが、状況はマウスだけではない、黒森峰の本隊がこちらに迫って来ているのだ。
「市街地で決着をつけるなら、やっぱりマウスと戦うしかない。ぐずぐずしてると主力が追いついちゃう」
黒森峰の本隊とマウス、その両方を相手にする前に、ここでマウスは倒しておかなければならない。
「マウスすごいですね!前も後ろもどこも抜けません!!」
「いくらなんでも大きすぎ…」
武部は自前で書き記していた戦車でーたと書かれたノートに目を通す、そこにはマウスについて書かれたページもあった。
一回戦、サンダースとの試合が終わってから書き始めたこのノートも今では沢山のページができた。
戦車について教えて欲しい、と彼に頼み、一緒に作ってきたノート。…みんなにはちょっぴり内緒だったり。
「こんなんじゃ戦車が乗っかりそうな戦車だよ!!」
「あっ…」
武部のその言葉にみほは前方のマウス、その回転する砲塔へと目をやった。
「ありがとう沙織さん!!」
「…へっ?」
「カメさん、アヒルさん、少々無茶な作戦ですが今から指示通りに動いて下さい!!」
『わかりました』
『なんでもするよー!!』
返ってくる返事に少しだけ罪悪感も出てしまう。これからする事が危険な作戦であるのは、みほ自身が一番わかっている事だから。
「ちょっと負担をかけてしまいますが…」
『今さらなんだ!いいからさっさと言えー!!』
河嶋のその言葉に感謝をしつつ、みほはマウス討伐に向けての作戦を説明する。
ーーー
ーー
ー
「いやいや!あんなのどう倒すの?」
この大洗とマウスとの攻防を見ていた小町の率直な感想。いや、スペック見て想像はできたけど実際見るとこうも無茶苦茶だとは…。
こんなんチーターどころやない!ビーターや!!
「ていうか、あれが最強の戦車じゃないの?」
「まだその話蒸し返すのかよ…」
だから戦車警察に目をつけられるから止めろ。そんなに最強議論したいとか中学生かよ。小町はまだ中学生なんだけど。
「違うわ、最強はかーべーたんに決まってるわ!!」
話がややこしくなるんで参戦しないで下さい…、そんなに最強主張したいとか小学生じゃないんだから。カチューシャさんは高校生だけどね。
「なんたってかーべーたんは大きいんだから!強いのよ!!」
「…その理論ならマウスのが大きいんですが?」
なんでモニターにそのマウスが映ってるのに自信満々に言えるのか…。
「う、うるさいわね!あんなの雪原じゃ使えないじゃない、だからかーべーたんの方が上よ!!」
まぁ…うん、それは間違っちゃないけど、フィールド選べるのズルくない?
「えーと…つまり?」
「重さが188tあるマウスがまともに戦える戦場は少ないって事だ。今回だって市街地じゃなければここまで苦労してない」
不整地なら上手くはめればその重さでズルズル地面にめり込んでくれる可能性もある。それが雪原ともなれば、雪にずぶずぶ沈んでいく様子も簡単に想像できそうだ。
というか重さ188tのマウスが動き回ってるんだから少しくらい道路に影響ありそうなものだけど、そこはつっこまない事、いいね?
「待てよ、そう考えたら…道路に砲撃ぶちこんで無理矢理不整地にするって手もありか」
砲撃で道路を破壊して不整地を作り、あとは上手く誘い出せばマウスはその重さで身動きがとれなくなる可能性もある。
でぇじょうぶだ、壊れた道路はあとで戦車道連盟が直してーーー。
「なかなか面白そうな話だけど、そこまでにしておかないとマックス、そろそろ戦車道連盟に注意されるわよ…」
えぇ…、試合に出てないのに注意されるってどうなのよ、どんだけ戦車道連盟に目をつけられてるの?
「ん?大洗が動いたぞ!!」
安斎さんに言われて視線を再びモニターに戻すと、迫るマウスを前に横一列に並ぶ大洗の戦車。
…今まではマウスに対し、砲撃し撃っては逃げるヒット&アウェイを繰り返していたが、ここに来てこの並びとなると…。
「みほさんも勝負に出るようですね」
確かに、このまま効果の無い攻撃を繰り返しても黒森峰の主力が追い付くだけだ。西住もここで決めるつもりなんだろう。
横一列に並んだ大洗とマウス、共に相手に向けてまっすぐ前進する。突撃か…?いや、西住だ、それはない。
マウスの放った砲撃を大洗側は避ける、と同時に散開した。現在マウスに向かうのはただ1両のみ。
生徒会、カメチームのヘッツァーが砲身を下に向けつつ、全速力でマウスへと突っ込んだ。
両者は正面衝突し鈍い音が響く、いくらヘッツァーが全速力で突っ込んでもマウスにダメージは…。
「わぉっ!」
いや違う…、狙いはそれではない。元々小柄なヘッツァーはそのままマウスの履帯の下へと潜り込んだ。
およそ188tの巨体がーーー浮いたのだ。
履帯が浮き、動けなくなったマウスに向けてM3リーとポルシェティーガー、三式が砲撃、それに反撃せんとマウスは砲塔を回転させてそちらを狙う。
その隙に八九式がヘッツァーを踏み台にし、そのままマウスの上に乗っかった。
マウスの砲塔を回転出来ぬように固定したのだ。
「ブラボー!すごいじゃない!!」
おおはしゃぎのケイさん、ヘッツァーを土台にマウス、そしてその上に八九式と見ていてとんでもないカオスが出来上がっている。
ある意味で三機合体、これはフィギュア化待った無し。
『おい軽戦車!そこをどけ!!』
モニター越しでもマウス搭乗員の怒声が聞こえた。まぁ予想外だよね…、つーかこんなん予想できてたまるか。
『嫌です、それに八九式は軽戦車じゃないしー』
『中戦車だし』
おぉ、煽りおる…。
『くっそ!振り落としてやる!!』
八九式を振り落とそうと砲塔を回転させようとするマウスに八九式も抵抗する。
上がそれだけ騒げば当然、しわ寄せがくるのは下であり、ここでいうならヘッツァーだ。
マウスに加え八九式までプラスされたその重さを受け止めているのだ、見ていて装甲がガリガリ削られているのがわかる。
「えぇっと…大丈夫なの?あれ」
「小町…、まぁあれだ、謎カーボンを信じろ」
うん、自分でも何言ってるかわからんがそう言うしかない。戦車道の試合に出る戦車には安全の為、特殊なカーボン装甲が施されている。
どんな素材なのかとか細かいツッコミは置いといて…、マウスの重量に耐えてくれるのを祈るしかない。
それに、決着はそう長くはかからないはずだ。攻撃も動きも封じられたマウスに対し、あとはーーー。
坂道をのぼり停車したⅣ号戦車が狙いつける。当然、単純な攻撃はその装甲に弾かれるだろう。
狙うなら…砲搭によって隠れていた、後ろにあるスリット。
Ⅳ号の砲撃はマウスのスリットに直撃…、白旗を上げさせた。
「「「「うおおぉおぉおおおお!!」」」」
観客席から歓声が上がる。そりゃそうだ、こんな大物を倒したのだから。
「すごい!マウスを仕留めました!!」
「私達も今度やろうかしら、マークⅥで」
…マークⅥってクルセイダーですよね?ローズヒップ!逃げて!超逃げて!!いや、あの暴走戦車娘ならむしろノリノリで突撃しかねないんだが。
まぁダージリンさんがマウス対策を考えるのも当然か。黒森峰がマウスを所持しているとわかった以上、今後黒森峰と試合をする時はマウスへの対抗策も考えなくてはならないからだ。
「…しかし、黒森峰がマウスまで持ってるとはな」
それを考えるとアンツィオの安斎さんの気持ちがよくわかる。豆戦車主力でマウスと戦うというハードモード確定なわけだし。
「まぁノリと勢いでなんとかするしかないな!!」
軽っ!!
「それでなんとかなるんですか…」
「悪く考えても仕方ないだろ。それに戦いは火力じゃない、今の大洗がそうだっただろ?」
「…ですね」
二回戦でもそうだったが、この人も今ある物を最大限に使い作戦を立てる人だ。逆境に強いというのはそれだけで充分強敵になりうる。
「問題は頭の使い方をうちのみんながもうちょっとわかってくれたらなぁ…」
アンツィオ高校の連中を見てると課題はまだまだ多いでしょうけどね…。
これでマウスは攻略できた…とはいえ、別に試合が終わった訳ではない。
つーかこれだけやってようやく1両相手を落としたという割りの合わなさである。某モンスターズでもギガントモンスターとかモンスター枠3つ使うんだし、戦車道連盟はさっさとチームにコスト制限でも設けた方が良いと進言したい。
黒森峰到着まであと3分くらいってところか…?
次の行動に移る為に白旗を上げたマウスから離れる…が、ヘッツァーはノロノロと速度を落とすと黒煙を吹き出した。
…まぁ、そうだよな。むしろ良くここまで持ってくれたものだ。
マウスの重量を受け止め続けていたのだ。そのヘッツァーが無事…なんて考えはさすがに甘かったか。
やがて動く事もできなくなったヘッツァーは完全に停止し、白旗を上げた。
ルノー、Ⅲ突、ヘッツァー。マウス1両にずいぶんこっぴどくやられたもんだが、相手を考えたらむしろこれくらいで済んだのは幸運だったかもしれない。
生徒会の三人がヘッツァーから顔を出す、Ⅳ号から降りた西住と会話をかわしていた。
戦車道を一からスタートさせたうちの生徒会だが、ここでリタイアか…、本当に勝手だよな。
さんざん人を巻き込んどいて、自分は途中で降りるときたもんだ…悪態の一つくらいついても罰は当たらないだろう。
ふと会長がキョロキョロと辺りを見渡すと、やがて何かを見つけたようにその視線を止める。
というかモニター越しにこちらを見ていた…ってことは、カメラを探してたのか…なんでまた?
「…あら、あれはあなたに向けてるんじゃなくて?」
「いや…まぁ、どうなんですかね」
モニターには笑顔でブイとサインする会長が映っていた、さっきまで考えていた不安なんぞ消し飛ばすかのように。
ったく、本当に…勝手だよな。
「マウスは仕留めましたが…それでも黒森峰側はまだ14両」
「それにヤークト、エレファントといった火力の高い戦車がまだ残っていますね」
「それに対して大洗は5両…、まだまだ厳しいわね」
「それ、計算が違いますよ、ケイさん」
「ん?どういう意味?」
「だってフラッグ車はどっちも1両ですから」
「ふふっ…言うじゃない!ハチューシャ!!」
本番はむしろここからだ。黒森峰本隊総勢14両を相手にこちらは5両、この状況からなんとしても姉住さんのフラッグ車を分断させて、こちらと一対一の状況を作り出す。
「こっからは最後の作戦、『ふらふら作戦』の始まりです」
だから…まぁ、最後くらいは俺も、まっすぐにその作戦名に頷いても良いと思う。
「…ふらふら?どういう意味でしょう?」
「きっと黒森峰の人達をふらふらにさせるのね」
「戦車に乗ってるのにふらふらにって…どうやってよ?」
「比企谷の事だ、たぶんまた精神的に疲れさせてふらふらにさせるんだろう」
「そういう事ね。なかなか冴えてるじゃない、アンチョビ」
…あれれー?おかしいぞー、俺の信用度っていったい?