やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
西住みほにとってのラスボスはやっぱりお姉ちゃんですので八幡にラスボスを用意するならここはやはり彼女しか居ない。うん?試合に出てないのにラスボスってどうなん?
学校…といっても戦車道の決勝戦用に用意された廃校であるが、そこで二両の戦車が向き合う。
Ⅳ号戦車とティーガーⅠ、西住みほと西住まほ。
出入り口をポルシェティーガーが物理的に封鎖した事で、この敷地内にはこの二両だけ。
擬似的な一騎打ちだ。
「形の上ではね…ただ、黒森峰がこれを受けるかしら?」
そう、あくまでもこれは擬似的なもので、実際に黒森峰の戦力はまだ多く残っている。ポルシェティーガーがやられれば、その残った戦力が次々と学校内に入り込んでくる。そうなると逃げ場のない袋小路だ。
要するに、姉住さんがそれまで逃げ回れば黒森峰は勝ち確だ。だから厳密には、これは一騎打ちでもなんでもない。
「…ダージリンさんなら受けないですよね、こんなの」
「誉め言葉、として受け取っておくわ」
…この人はまぁ、さらりと涼しい顔で返してくれる。決して対戦相手に恵まれていたとは言えないこの戦車道全国大会だが、この人と当たらなかったのは幸いだったと実感する。
「まぁ、そうですよね。普通はこんな勝負は受けないでしょ」
そう、黒森峰側にとってはこんな一騎打ちを受けるメリットも、理由も、必要もない。なんなら勝利が勝手に転がって来た状況とさえ言える。
「でも、今は普通じゃない。戦車道全国大会の決勝戦です」
「…だったらなおさら黒森峰は一騎打ちなんか乗ってこないんじゃないか?」
そう、決勝戦だ。負ければ廃校の大洗だが、負けられない試合なのはどの高校も同じだろう。
「それを、果たしてみんなが許しますかね?」
「みんな?みんなって誰の事よ?」
【みんな】。これ程曖昧で不特定多数を表す言葉も珍しい。みんながやっているからとか、みんなそう思っているとか。
この言葉には大概いろんな意味で泣かされてきた。だからこそ、こちらに都合が良い時に使う分にはなんと便利な言葉か。
「そりゃこの試合を見にきてる観客、あるいは生中継を見てる…みんなですよ」
会場内の歓声は先ほどからずっと聞こえている。今のこの状況に多くの者が驚き、興奮し、湧いている。
「おぉぉぉお!大洗ー!!」
「いけーっ!!」
そしてその多くの応援先というのが…。
「みんな、大洗を応援していますね」
「判官贔屓…というやつね」
ご明察、判官贔屓とは言葉を酷く言うなら弱っている方を応援してしまう心理現象、要するに同情だ。
わかりやすく例えるなら、テレビを着けたら知らない学校同士の野球の試合中継が行われていた。そうなると大抵の人は負けてる方を応援したがるものだ。それが夏休みの甲子園とかだと、夏休みをエンドレスにエイトする事になるので注意するように。
ただでさえ黒森峰との戦力差は元々圧倒的だったのに、更にはマウスまで持ってこられたのだ。それらを全て乗り越えてのこの状況、観客が盛り上がらないはずがない。
「この状況で逃げ回るのは…確かに、やりづらいですね」
当たり前だが、黒森峰が一騎打ちを回避するのは別に悪い事じゃないのだ、勝ちを目指すなら普通は受けない。
「集団心理は恐ろしいからな。別になんも悪い事やってないのに、何故か自分がすごい悪い事したみたいになる」
だが、観客はそれを許さないだろう。会場はおおいに盛り下がるだろうし、なんならブーイングさえ起こり得る。
「それはあなたの体験談からかしら…」
止めて言わないで!集団心理の恐ろしさなんて嫌って程わかってるんだから。
「加えて黒森峰…西住流は王者の戦い方が売りなんです。こんな場面で逃げ回る戦術を執る…それは王者の戦いと言えるんですかね?」
そしてこれが黒森峰の弱点ともいえる。
何も背負っていないものなら、この場面でも逃げ回っても良いだろう。何を言われても勝ちは勝ちなのだから。
だが、黒森峰程の強豪がそんな勝ち方をすればどうだろうか?
相撲で言えば、横綱は勝ち方にもヤジが入る事があると聞く。横綱相撲という言葉もあるくらいで勝っても横綱らしくない相撲と批判される事があるそうだ。
アホな話だとは思うが、強い者はそれだけで勝ち方にも何かを求められるのだ。
「一騎打ちが嫌だから仲間が来るまで逃げ回って、合流したら全員でリンチとか、まぁそれはそれで王者の戦い方っぽいといえばそれっぽいですけどね」
「比企谷…その言い方、わざとやってるだろ」
いやいや、もちろん本心ですよ。
だが全国大会9連覇、西住流の黒森峰がそんな勝ち方をしても周りはそれを認めないだろう。
試合に勝った所で勝負には負けている。なんて言葉は漫画なんかでは使い古された表現だが、今回はまさにその状況だ。
「まぁ…つまり、黒森峰側は嫌でもこの一騎打ちを受けざるを得ない、プライドが高いってのは大変ですよね」
「一騎打ちはエキサイティングだけど、話を聞くとなんだか…」
「セコいのよね」
「ふふっ、二人共安心して。ねぇマックス、照れ隠しはそこら辺で良いんじゃないかしら?」
「…なんの事ですか?」
微笑むダージリンさんにドキッとしながらも平静を装う。とはいえ、バレているのだろうしそんな行動には何の意味もないだろうから恥ずかしい。
「確かに今言っていた理由もあるでしょうけど、それは決定的理由にはならないわ、確実性はないもの」
観念してため息をつく。ダージリンさんの言う通りで、結局は俺が並べた理由はどれも大洗にとって都合の良い憶測だ。
黒森峰がプライドを捨てて勝ちを目指す事もあるだろう。そう考えると、この一騎打ちに挑むという作戦は不安定要素だらけでとても採用できたものじゃない。
だが、俺も…そしてもちろん西住にも確信がある。この一騎打ちは必ず成立する。
「…相手が西住まほさんですからね」
そう、本当は理由としてはそれだけで充分だ。
西住 まほ。戦車道西住流の長女として、良くも悪くも西住流そのものである彼女。
そう、西住流そのものだ。だからそれをふまえた上で言ってやる…西住流にも弱点はある、と。
モニターを見る。学校の中央で向かい合うⅣ号戦車とティーガーⅠ、キューポラから西住と姉住さんがいつもやっているようにお互い身体を乗り出している。
『西住流に逃げるという選択はない、こうなったらここで決着をつけるぞ』
迷う事なく、その選択を選ぶ彼女はまさに西住流そのもので、素直に感心する。あぁ…もう、この人は本当に、そういう所格好いいよな、いろいろと見てきたポンコツ…んんっ、抜けてる所も嘘みたいだ。
相手が西住まほだからこそ、この一騎打ちは成立する。
『受けてたちます』
西住もそれに答え、それを合図に両者が一気に動き出した、最終決勝の始まりだ。
「………」
本当は、もう一つあるのだ。いや、これは姉住さんが一騎打ちを受ける理由じゃなくて会場が盛り下がる理由でだが。
たぶんダージリンさんはもちろん、ここに居る全員、それを分かっていてあえて言わなかったんだろう。
西住みほと西住まほ、共に幼い頃から西住流を学んできた姉妹。
その姉妹の直接対決だ。そんな物、判官贔屓でもなんでもなく見たいに決まっている。俺も…てかまぁ、誰だってそうだ。
「始まりましたね」
戦車性能は向こうが上だし、姉住さんの能力は一級品だ。ティーガーの搭乗員にもそれにふさわしい者が乗り込んでいる事だろう。
それでも、この一騎打ちにもう作戦はない。西住が正面から姉を倒してくれるのを祈るだけだ。
…この一騎打ちには、だが。
「あとはポルシェティーガーがどれだけもつかね」
出入り口を封鎖しているポルシェティーガーは、今も黒森峰の戦車の集中放火を浴びている。姉住さんと隊列を組んでいて分断させられた奴らだ。
出入り口に陣取っている以上逃げる事はできない、相手の砲撃の的になっている。
このポルシェティーガーが頼みの綱で、撃破されれば黒森峰の戦車は続々と学校内に来るだろう。
一騎打ちを受けたといっても、そんな状況にまでなれば、黒森峰が全車で大洗を潰す理由としては充分だ。
「まぁしばらくは大丈夫でしょ、ちゃんと昼飯の角度にもなってますし」
ヤークトティーガー、エレファントの高火力の重戦車もウサギチームが仕留めたし、パンターが相手ならしばらくはもつはずだ。
「もうお兄ちゃん…お昼はさっき食べたでしょ?」
小町がそんな老夫婦みたいな事を言ってくる、お兄ちゃんまだボケてないからね?
「あのポルシェティーガーのように、車体を少し斜めにして相手の砲撃を弾きやすくする事を昼飯の角度と言いますね」
「へー、そうなんですね」
「はい、ちなみに他にも似たようなもので豚飯、なんて言葉もあるんですよ」
「…戦車乗ってる人達ってご飯に飢えてたの?」
そりゃまぁ戦争中ですし、飢えてたんじゃないの?
しかし、姉住さんと他の戦車の間に割り込んできっちり昼飯の角度で迎撃にあたるポルシェティーガーの自動車部の皆さん。練習をしていたといえ、これをサラリとやっちゃうんだよなーこの人らは。
「今の状況が続くならそうでしょうけど、一人忘れてないかしら?」
「…もちろん忘れてませんよ」
黒森峰はなにも姉住さんだけのチームじゃない、名前は忘れても、そいつの存在を忘れるはずがない。
「まだ向こうは副隊長が残ってますからね」
黒森峰の現副隊長、あいつがポルシェティーガーの迎撃に加われば状況は一気に不利になる。
西住と一騎打ちをしている姉住さんが他の戦車にまで指示を送っている…なんて事は考えにくい。というか、流石のあの人でも無理だと信じたい。
だから今、黒森峰全体の指揮をとっているのは現副隊長さんの方だろう。
「でも意外ね、あなたがそこまで彼女の事を意識していたなんて」
その言い方はいろいろと誤解を生むんじゃないかなぁ…。
「いや…まぁ。せっかく姉妹水入らずの状況なのにそれに割って入ろうなんてのは野暮だよなぁ、小町」
同じ兄妹として、そこら辺当然だよね?小町ちゃん。
「小町としては全然良いけどね、むしろ嬉しいけど」
「こ、小町…」
「冗談だよ。でもお兄ちゃん、家じゃ別に良いんだけど、他所でそういうのは…ちょっと困る」
「い、家では良いんですね…」
「あっはっは!兄妹仲が良いのは良いことじゃない!!」
だよね!さっすがケイさん、わかってるぅ!!
「で、結局どうするつもりなのよ?」
そりゃ決まっている。姉住さんの事は西住達に任せてある今の状況でやる事なんてただ一つ。
「…逸見 エリカは、ここで仕留める」
ここでこいつを倒せば、黒森峰側は指揮を執る者も居なくなり弱体化する。だからここで、確実に倒す。
お前からすれば相手としちゃ不足も良いところだろうが、こっちは全力だ。全力で、お前を倒す為だけに作戦を練った。
「「「「「………」」」」」
あれ?沈黙ってこれ、引かれてない?また俺なんかやっちゃいました?
「…もちろん、俺以外がだけど」
「それを言わなければ格好良かったんだがなぁ…」
「まぁお兄ちゃんですし…、こういう人なんで皆さんもわかって貰えたら」
いや、だってこれはしょうがないでしょ、試合に出てる訳じゃないんだから…。
まぁなんにせよ…、あいつとの妙な腐れ縁もここまでだ。そろそろ決着といこうじゃないか、逸見。
ーーー
ーー
ー
「早く!隊長の援護に行きなさい!!」
『ポルシェティーガーが邪魔で通れません!!』
「何やってるのよ!あんな失敗兵器相手に!!隊長、我々が行くまで待っていて下さい!!」
無線からの返事はない、それは逸見もわかっていた。自分が副隊長になる前からずっと、彼女は西住まほの事を見てきたのだ。
だから今、学校内で何が起こっているかなんてわかりきっている。西住みほと西住まほ、その一騎打ちだ。
西住まほの事は尊敬し、その在り方には憧れている。だから彼女がこの一騎打ちを受けた事に逸見も異論はない。
無論、負けるなんて事があるはずがないと確信している。
だが、逸見は同時に西住みほの事も知っている。かつては同じ黒森峰のメンバーとして、彼女の事だって見てきたのだ。
憧れている隊長。その妹の癖に頼りなくて、おどおどしてて、見ていてどうにもイライラしていた。
それでも、逸見にとって西住みほはーーー。
「ッ…、行くわよ小梅!」
「はい、エリカさん!!」
早く隊長の所へ向かわなくては…、逸見は赤星達に声をかけてポルシェティーガーの所へ向かう。
「…ッ!!」
だが、その前方に広がるのは試合開始序盤にも大洗が使っていた煙幕弾の煙だった。
先が見えないくらい広がった真っ白な煙が、逸見達の前に展開していたのだ。