やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
また待たされる事になるのか…。良いんだ、待つのは慣れてるんだ(最終章二話から目をそらしつつ)。
「逸ノ宮の事は考えなくて良い」
「…誰?」
あんこうチームのメンバーが揃いも揃って首を傾げる。しまったー、通じないよねそりゃ。
「向こうの副隊長な、戦車喫茶で突っ掛かってきた奴だ」
「エリ…逸見さんだよ、八幡君」
横から西住が訂正を入れてくる。戦車喫茶で突っ掛かれたのは自分だというのに相変わらずだな。
「じゃあ、エリ逸見さんな」
「え?あ、あの…そうじゃなくてね」
「いやみぽりん、これわざとでしょ」
というか普通わかるでしょ?どれだけ天然なのよこの子は。
しかし、とっさに名前の方を出してしまいそうになる辺りが黒森峰時代の名残なのか、あの頃の現副隊長と西住の関係にもいろいろあるのだろう。
「それで…考えなくて良い、とはどういう事でしょう?」
「まぁこれは向こうの副隊長に限った事じゃないが、タイマンにまで持ってけたらあとは一騎打ちに集中すれば良いって話だ」
「でも…」
西住が言いたい事もわかる。学校内で一騎打ちに持ち込んだとして、外ではまだ仲間が黒森峰と交戦しているのは確実だろう。
「余計な事を考えてて勝てる相手じゃないだろう」
「それは…、うん」
「相手は西住殿のお姉さん、去年の戦車道MVPですからね」
今さら言う事でもないが、単騎性能でいっても恐ろしく強い。そんな相手を前に他を気にする余裕なんてまずないだろう。
「だが、ポルシェティーガーが突破されれば私達の負けだぞ」
「そうならない為に、こっちはもう予め作戦は決めただろ」
姉住さんとの一騎打ちが始まれば、西住は指示が出来なくなるだろうが。そのとき各チームが独自でどう判断して動くかは、ある程度はすでに決めてある。
最終決戦を前に、こっちのチームがどれだけ生き残っているかはわからんが、準備は万端だ。
「そこで問題なのは向こうの副隊長だ。一騎打ちになれば、こいつが西住の姉ちゃんに変わって全体の指揮を執るだろう」
逆を言えば、こいつさえ倒せば黒森峰の指揮系統は間違いなく落ちる。頭を失った時の黒森峰の脆さは、去年の戦車道全国大会で立証済みだ。
「だからこっちは気にせず、お前らはタイマンに集中すればいい。逸岬はこっちでなんとかする」
「だから逸見さんなんだけど…」
「おぉ!比企谷殿に背中を預ける、という事ですね!!」
そうそう、お互い背を向け合うって事ね。ちなみにこれには対立って意味もあるから日本語って難しい。
いや、まぁ…茶化すのは置いといても、そもそも俺に背中を預けてどうするのよ? 女の子が無防備に男子に背中を晒しちゃいかんでしょ。
「あぁ任せろ、猫田達がなんとかすっから」
「か、格好悪い…」
知ってるから、だからそんな呆れた顔は止めたげて…。
「そういえば…作戦会議の時にアリクイさんチームの皆さんとなにやらお話してましたね」
「煙幕弾を多めに積んでいたな」
気付いてたのか…この作戦はあいつらに任せるのが一番だ。つーか他に適任が居ない、戦車性能的にも中の人の筋肉的にも。
「一つやりたい事がある、聞いてくれ」
今さらながら却下とかされないよね? と少し心配になりながら、猫田達にも伝えた作戦をここであんこうチームにも話す。
「それは…ある種のハメ技のような物では?」
聞こえてくる第一声がそれですか…というか五十鈴さん、お嬢様なのによくハメ技とか知ってるね。
「生憎とこういうやり方しか知らないからな、別にルール違反でもないだろ」
王道の作戦なんて、それこそ西住に任せておけばいい。なら、俺は俺で考えられる事をやっていくだけだ。
「たしかにルール違反ではありませんが…なんというか、その…」
「そうね、比企谷っぽいかな」
「あぁ、なかなか良い小悪党振りだと思う」
それ、絶対誉めてねぇだろ…。
「どうだ西住、いけそうか?」
「………」
あとは西住のGO待ちなんだが…え?なに急に黙っちゃって、やっぱり駄目だったか?
「西住?」
「え?あっ…ごめん、うん…いけると思う」
…良かった。ここまで準備しといて没とか、悲しすぎて俺がラノベ作家なら筆を折るかエタってた所だ。
「本当、勉強になるなぁ…」
ーーー
ーー
ー
あの時、彼女が小さく呟いたその言葉はどういう意味だったのか。いや、たぶん反面教師とかそんな感じなのだろう、きっと。
俺の方こそ、教わってばかりだったのだから。
「ここで煙幕ですか」
試合序盤にも見せた煙幕を再びこの市街地で展開させる。
煙が広がる平原とは違い、建物が密集した市街地での煙幕はより濃く、現副隊長が率いる隊の面前に広がっているだろう。
現に彼女らはこの煙幕を前に、一旦停止を余儀なくされている。そりゃいきなり突っ切ろうなんて思わないだろう。
「まるで忍者ね!!」
ケイさんが言うと忍者じゃなくてニンジャに聞こえるなぁ。この人も日本人だからサムラーイ魂とか持ってるはずだけど。
「足止めとしては効果は十分ですが…」
「こんなの、すぐに突破されるわよ」
そりゃそうだ。ただ煙幕を張っただけなら、警戒さえしとけばすぐに前進して突破するのも簡単だろう。
最初の煙幕は逃げる為に使ったが今回は違う、もう逃げ場もないのだ。
「もちろん…今度はこっちも攻撃しますよ、応戦です」
煙幕の中から放たれた砲撃が現副隊長の隊へと向けられる。砲撃自体はまるで的外れの所に着弾し、一瞬河嶋さんが砲手なの? とでも勘違いしてしまいそうだ。
当然だ。煙で視界を奪われているのは黒森峰だけじゃなく、こちらも同条件なのだから、狙いを付けれず当てられるはずがない。
当たったらラッキー程度の威嚇射撃だ、黒森峰からすれば恐れる事はないだろう。
「そんな消極的なやり方じゃ黒森峰は止められないわよ」
カチューシャさんの言う通り、現にモニターを見ても現副隊長が指示を送り再び動き出そうとしている。
散発的な攻撃じゃ意味がない、装填の間に黒森峰は煙幕を突破しようとするだろう。
ならーーー、連続攻撃ならどうか?
「ッ!煙幕の中からまた砲撃が!!」
追撃、砲撃自体は見当違いの所に着弾こそすれ、煙幕の中から二連続で砲撃が放たれた。
「なるほど!煙幕の中に二両隠してるのか!!」
「いや、ちょっと待って!大洗の残ってる戦車って…」
今、観客席の多くの者がモニターに映る大洗の残存車両を確認している事だろう。モニターでも煙幕のおかげでその中の様子はわからないからだ。
Ⅳ号は学校内でティーガーⅠと一騎打ち。
ポルシェティーガーはその学校内へと続く出入り口を封鎖中。
八九式は別の所で黒森峰の戦車を引き付けている。
だから残っているのは三式中戦車、これが煙幕の中にいるとして、他にもう戦車は残っていない。
居ないはずなのに、煙幕の中からは連続して砲撃が放たれ、それが今もまだ続いている。
モニターで状況が把握できる観客席でさえ、これほどのどよめきが起こっているのだ。その場でこれを体感した現副隊長からすれば、まるで狐に化かされたような気分だろう。
大洗が隠していた戦車があったのか?とか。撃破したと思っていた戦車が実は生きていたのか?とか。
どちらにせよ。あの煙幕が不気味過ぎて迂闊に行動はできなくなるはずだ。
「どうして皆さん驚いているんですか?」
そんな中で小町が一人、ハテナと疑問を口にする。まぁ知らないもんからすればそうだろうな。
「戦車ってのは連続で砲撃は撃てないんだよ。撃つには新たに砲弾を装填する必要があるし、砲弾も結構重いからな」
もちろん砲弾によって差はあるがマジ重い、日頃練習の準備やら後片付けやらで砲弾運んでいる俺が言うんだから間違いない。
「はい、私も装填手ですから良くわかります」
そういえばオレンジペコは装填手だったな。小さめな身長でチャーチルの砲弾の装填は大変だろうとは思うが、聖グロリアーナだから試合中も紅茶飲むんだよね?紅茶片手に片手で砲弾掴んでたりするの?
カエサルも自宅でトレーニングしていたし、秋山もトレーニングしてると言っていたが、地味に見えてわりとキツいポジションだ。
つまり当然だが、装填のスピードはそのまま戦車の攻撃速度に影響する。
なら…それこそさっきの冗談ではないが、片手で砲弾を軽々と持ち上げられるような奴が装填手なら、その攻撃スピードも恐ろしく速くなる。
「たった一両で…どうやってあの攻撃速度を出しているんだ?」
「わかった!自動装填装置がついてるのね!!アリサが欲しい欲しいって言ってたやつがあったわ」
残念ですがハズレです。つーか、うちにそんな金銭的余裕はありません。
「いえ、筋肉です」
自動装填装置も顔負けの装填が可能である。そう、筋肉ならね。
「…何言ってるの?お兄ちゃん」
妹が酷く引いた顔をしているがこれは仕方ない。俺だって正直今でも信じられないんだが、山籠りしたアリクイチームのパワーがこれである。
なんたって片手で砲弾持ち上げるどころか、投げて渡し合いしてるもんね、あいつら。
ーーー
ーー
ー
「ーーーってのが、俺の考えた作戦なんだが」
余った煙幕弾をアリクイチームに渡し、俺は自分の狙っている作戦を話した。
「わ、私達がそんな大役を…」
「不安なり…」
アリクイチームの三人は予想した通り不安な表情だ。山籠りで筋肉こそついても、自信の方はまだついていないようだ。
その気持ちはよくわかる。今でこそ大人気だが、前までの猫田は教室内で一人ゲームをしている姿をよく見かけていた。
西住が転校してくるまでは、俺と共に二大ぼっちとして教室内で浮いていた存在なのだ。まぁ俺と猫田が特に会話という会話をした事はないが、それでもある程度のシンパシーは感じていた。
「お前ら戦車ゲーじゃ無双だろうが…」
SAO(戦車・アタック・オンライン(ここ大事))で俺がどんだけやられてるか。
…そういえば最近、姉住さん達を見かけなくなったな。まぁさすがに、そこは決勝戦を優先してるんだろうが。
「げ、現実とゲームとじゃ違うし」
「やっぱり、リアルは厳しいぴよ…」
うーん、そうだよね、現実って厳しいんだよなぁ…。
と、そんなアリクイチームに思わず共感しそうになっちゃうが、ここは説得するしかない。
「まぁ待て、お前らはゲーム以上の事が出来るんだぞ? 言ってみればチートだな」
「…チート?」
ぴくりとアリクイチームがその一言に反応する。当然だ、オタクはチートって言葉が好きすぎる(俺調べ)。
あと異世界とか転生とか、チーレムとかって言葉好きだよね。最近は最弱とか底辺系が流行ってるんだっけ?
まぁ流行りがどう変わろうと、このチートって言葉がキーワードなのは今も昔も、たぶん未来永劫変わらないだろう。
「戦車ゲーでもお前ら以上の装填スピードは出せないだろ」
SAO(戦車・アタック・オンライン)は戦車のカスタマイズで装填スピードを早める事だってできるが、それには勿論ゲームのシステム上の限界がある。
つーか誰が片手で砲弾を掴んで装填するのを想定してゲームバランス考えるかって話だよ…どんな筋肉してんのこいつら。
もうこんなのチーターやない、ビーターや!!…これ以上は怒られそうだし、止めとこう。
まぁ、チートって本来ズルって意味だから山籠りまでして鍛えた猫田達は違うんだが。自信をつけさせるって意味ならこれで充分だろう。
おまけに最近筋トレでその筋肉もますます強くなっているし…出てくる作品間違えてない?バトル漫画とかでも活躍できそうだよ。
「私達がチートを使える…」
「な、なんかやれそうな気がしてきたなり」
「この戦いが終わったら故郷に帰って結婚できそうな気がするにゃ」
「いや、お前それ、最後の死亡フラグだぞ…」
そう呆れて言うと猫田は待ってましたとばかりに少しだけ微笑む、あぁ…ツッコミ待ちだったのね。
「こういうネタが通じるのって嬉しいっちゃ」
まぁ渾身のネタが通じなかった時の悲しさは良くわかる。俺も自虐ネタが通じにくくて困ってんだよなぁ。
こうして謎の一体感を得た所で付け加える。
「んで、ここからが一番の本題なんだがーーー」
ここが一番の無茶というか、無理難題を押し付ける事になるが、成功すれば大金星だ。やって貰わねばなるまい。
ーーー
ーー
ー
「………」
煙幕での足止め、ここまでは成功だ。
あとは実際に現場にいる逸見がそれにどう対応するかだ。あいつにとっては本当に煙幕の中に正体不明の敵が居るのだから。
足を止めての応戦?それは良い、煙幕の中で姿が見えない三式なら、そう簡単に砲撃には当たらないはずだ。
煙幕が晴れるまで待つ?それも良い、アリクイチームには余った煙幕をありったけ積んである。早々に無くなる事はないだろう。
来た道を引き返して別のルートからポルシェティーガーの所へ向かう?まぁ良い、単純に時間は稼げるし、三式中戦車が自由に動けるから、ポルシェティーガーの援護に回れる。
逸見エリカを倒すとは言ったが、全ては西住が姉を倒すまでの時間を稼げればそれで良い。
だが、向かってくるなら?正直煙幕を越えられたら、一両しか居ない三式なんてすぐに倒されるだろう。
だから、向かってくるならーーー。
「…ここで決着をつける」
俺のやり方で、ここで仕留める。