やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

158 / 205
あぁぁぁああ!年号がぁ!年号が変わっているぅ!!

そんな訳で?令和一発目の投稿です、西住姉妹の対決の詳細については全部書くのも野暮ですしあの戦いを文字に書いて再現する自信が無かったので見ていない人、気になる人は是非アニメで見よう!!(ステマ)。


最後の決着を彼女達へ。

「こちらレオポン。なんかねぇクロ校が無理矢理乗り越えて来たから気をつけてね、ってゆーかあんた達強引だって!!」

 

激しい砲撃戦の末に中央広場に戻ってきた二両の隊長車だが、レオポンチームからのその通信に状況は一変した。

 

「みぽりん!敵が近付いているから急いで!!」

 

「やっぱり一撃をかわして距離を詰めるしか…」

 

こうなると、もう撃ち合いを続ける猶予は無い。時間をかければ、それだけ黒森峰の戦車がこの中央広場に集まってくる。

 

「優花里さん!装填時間、さらに短縮って出来ますか!!」

 

「はい!任せて下さい!!」

 

西住みほの言葉に秋山は間髪入れず答える。

 

「行進間射撃でも可能ですが、0.5秒でも良いので停止射撃の時間を下さい、確実に撃破してみせます」

 

その意図に気付いた五十鈴の言葉に西住みほは頷いた。

 

「麻子さん、全速力で正面から一気に後部まで回り込めますか?」

 

「履帯切れるぞ」

 

西住みほの指示に冷泉は答える。出来る出来ないの話ではなく、それをやってしまえば履帯がもたない、そうなるともう戦えなくなる。

 

「大丈夫、ここで決めるから」

 

「わかった」

 

西住みほは再びキューポラから上半身を出す。どのような結果になろうと、次の攻撃が最後になる。

 

その西住みほを、逸見エリカはすでに眼前にとらえていたーーー。

 

「見つけたわ…」

 

全速力だった。

 

罠にかかった、仲間を犠牲にした、足止めにもあった。

 

西住流は、たとえなにがあっても前に進む流派だ。それが王者であり、黒森峰であり、彼女の信念だ。

 

そして、彼女はこの決着の舞台に間に合った。西住みほを再びその視界にとらえる事ができた。

 

「今度はもう…逃がさないわよ!!」

 

もはや射程範囲内だ、この距離なら砲撃は確実に届く。

 

手が届く。あの…西住みほに。

 

ここまで全速力で、何があろうと突き進んでこれた彼女だからこそ、この状況に至った。

 

…だから、限界だった。

 

「な、何っ!?」

 

「履帯がっ!!」

 

電信柱に正面からぶつかり、仲間とポルシェティーガーを踏み台に乗り越え、それでも全速力を出し続けた履帯にも限界がきた。

 

停止射撃の瞬間、車体が大きくぶれる。ティーガーⅡはすぐに停止する事ができなかった。

 

「…ッ!!」

 

逸見エリカの目前から彼女が、西住みほが消えていく。

 

「待っーーー」

 

手を伸ばしても届く事はなく。

 

「ッーーー、追いなさい!早く!!」

 

言いかけの言葉を飲み込み、逸見は指示を送る。

 

もう間に合わない事はわかっていても、その最後を見届ける為に。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

中央広場、向かい合ったⅣ号戦車とティーガーⅠ。

 

この二両の、二人の西住流の、姉妹の戦いは激戦だった。

 

旗色は悪い。Ⅳ号戦車の方はシュルツェンも剥がされていて、ボロボロなのが一目でわかる。

 

単純な戦車性能でいえばティーガーⅠには敵わない。さらには、その搭乗員はあのまほさんと、そのまほさんが選んだ選りすぐりのメンバーだ。

 

性能で負けてるなら腕前でカバーする、なんてアニメや漫画御用達なご都合主義が通じるはずがない。

 

…それでも、それでもだ。

 

性能の差は変わらない、それはもうどうしようもない事だ。

 

だから、どうやっても最後はあいつらに頼る事になってしまう。

 

それは、この一騎討ちを目標に掲げた時からわかっていた事だというのに。

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「比企谷って、最近他のチームのみんなとよく話してるよね」

 

「…そうか?」

 

武部に言われてみれば…まぁ、決勝戦を前に作戦について話したり、声をかけられたりなんやらしてる気はするが。

 

「え?なに?なんかダメなの?」

 

「あの、ダメとかそういうお話ではなく…」

 

「というか…なんですぐにその発想が出てくるんだ?」

 

いや、基本的に否定され続けて来たからつい条件反射で。

 

「それだけ比企谷殿が頼りにされている、という事ですね」

 

もしくは良いように利用されているかだな。しかし、あんこうチームの奴らもいきなりどうしたんだ?

 

「で、それがどうかしたか?」

 

「えと…そのね?私達にも何か作戦とかないかなって」

 

「無いな」

 

「即答っ!?」

 

いや…そりゃ無いでしょ、つーかそもそも必要が無い。

 

「お前らは一騎討ちをどうするかを考えれば良いんだよ、下手な小細工はいらんだろ」

 

一対一での戦いとなる以上、余計な作戦に頼るよりその方がずっと懸命だろう。

 

「そうそう、その一騎討ちだよ!みぽりんのお姉ちゃん無茶苦茶ヤバいじゃん!!」

 

それだと姉住さんが単なるヤバい人にしか聞こえないからな。

 

「調べたのか?」

 

「みほさんと優花里さんが教えてくれたんですが…」

 

あぁ、そういう事か。西住は前から姉に対して劣等感があったし、秋山が姉住さんがいかにすごいか熱弁する姿は容易に想像できる。

 

それが過大評価と言えなくもないのが姉住さんのヤバい所なんだが…。やっぱりヤバい人じゃん。

 

「しかも相手はあのティーガーですよ!!」

 

「ティーガーってそんなにすごいの?」

 

「もちろんです!第二次世界大戦の時なんかは、連合軍にティーガー恐怖症とまで言われた最強の戦車ですから」

 

「鋼鉄の虎」

 

そう、だからこそ強力な『虎』の名前を持っている。虎がなぜ強いかって?もともと強いからよ。

 

「虎…ですか、強そうですね」

 

しかも他にもパンサーやら象やら居るんだよなぁ…。まぁ、うちもチーム名だけなら対抗出来そうな気はする、カバは地上にて最強。

 

「だ、大丈夫、私達はあんこうだから」

 

「それはなんのフォローだよ…」

 

虎対あんこうとか、異種格闘技戦にも程がある…が。

 

「…まぁ、あんこう強いしな」

 

「え?そうなの?」

 

なんだ西住、知らないで言ってたのかよ。

 

「肉食で小さいサメくらいなら普通に食うからな、あれ」

 

「カモメやペンギンを食べた、という報告もあったな」

 

そもそも実物のあんこう見たことあるか?歯とかめっちゃギザギザで見た目もグロいから、完全に怪獣映画で出てきそうなフォルムだし。

 

…よくあれを食用で食べる発想が出てきたもんだ。いや、実際食うと美味いんだけどね。

 

「そこ、生々しい話禁止!あんこう食べれなくなっちゃうから!!」

 

「ていうか…みんな詳しいんだね、あんこう」

 

「小さな時から食べてましたから」

 

「鍋が有名だけど、お刺身や唐揚げにもできるし、皮はコラーゲンたっぷりで美容に最適だから」

 

その年で美容を気にするとか、なんかもう武部が20代のOLに見える。その頃には結婚出来てるといいね!

 

「でもそっか…あんこう。私達、あんこうチームだもんね」

 

…そういえば、なぜあんこう?いや、これは他のチームにも言える事だが。確かウサギチームの一年共はエンブレムに似たウサギのストラップを大野が持っていた気がする。

 

そう考えると、チーム名にも各チームそれぞれの思い入れがあったりするんだろうか?

 

あんこうチームで言えば、秋山がサンダースに偵察に行った映像に編集で入れてたあのあんこうのイラストが元だな。Ⅳ号戦車にも同じイラストがあるし。

 

「あっ!じゃあ私達もあんこうになろう!!」

 

…西住みほさんが乱心した。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

と、いう事ではなく。いや、一瞬本当にいきなり何を言い出したんだこの子?とは思ったが。

 

「見てみて比企谷!じゃーん!!」

 

武部がくるりと背中を見せてくる。戦車道用のパンツァージャケットに着替えた彼女達だが、その背中には戦車に描かれたものと同じあんこうのイラストが描かれていた。

 

「どう?可愛いかな?」

 

「いや、可愛くはねぇだろ…」

 

そもそも、そのあんこうのイラスト自体、ピンク色でタラコ唇のなんともいえない仕上がりなんだが。

 

「もー、そこは可愛いって言う所じゃん!わかってない!!」

 

はい、そんな訳で…いやどんな訳で?彼女達あんこうチームのパンツァージャケットの後ろには、あんこうのイラストが追加された。

 

私達自身があんこうになるんだよ!ってこういう事なのね。…てっきりあんこう音頭用のあのぴっちりスーツをまた着るのかと思ってた人、残念でした。

 

「えと、思いついた私が言うのも変なんだけど…みんな良かったの?」

 

「もちろんです!西住殿!!」

 

「はい、とっても可愛らしいです」

 

「あぁ、私達らしくて良いんじゃないか?」

 

らしい…と言えば、そうなんだろう。

 

こういうゆるゆるとした、ふわふわしたやり取りはこいつららしいと思える。

 

「あんこうと言えばこんな話もあるな」

 

ふと冷泉が思い出したように呟く。このあんこう豆知識まだ続けるのかよ…、まるであんこう博士だな。

 

「産卵期になると、オスのあんこうはメスに補食される事があるらしい」

 

…やだ、あんこう怖い。

 

そういえばカマキリなんかにもそんな習性があった気がする…人間社会のみならず、自然界全般において女性が強いってのが鉄則なのだろうか。

 

「へ、へぇ…そうなんだ」

 

「ふふっ、面白い話ですね」

 

…いや、まぁその、あんまりこっち見ないで下さいません?居たたまれないというか、反応に困るんだが。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

これであんこうがどれだけ強いかは伝わっただろう。いや、マジで。

 

モニターを見る。いつものように上半身を出す西住のパンツァージャケットには、今もあんこうのイラストが見える。

 

今はお互い停止して向かい合っているが…次、どちらかが動いた瞬間、それが決着の時になるのは明白だろう。

 

こちらに時間的猶予はなく、そしてそれは姉住さんもわかっているだろうから。

 

『前進ッ!!』

 

西住が動く、ティーガーⅠを中心に旋回しつつ近付く。

 

まほさんはその場で車体を旋回させ、砲身はⅣ号戦車からそらさない。

 

『撃てッ!!』

 

Ⅳ号戦車の砲撃はティーガーⅠの装甲に弾かれ、通らない。

 

『撃てッ!!』

 

反撃に来る砲撃はⅣ号戦車を僅かにかすめる。

 

その撃ち合いが終わった、その瞬間だった。

 

「あ、あれはっ!!」

 

Ⅳ号戦車は旋回の勢いをそのままに、ドリフトしながらティーガーⅠへと向かう。

 

その姿には見覚えがあった。

 

「まさか!CV33ターン、別名ナポリターンか!!」

 

…違う、そうじゃない。

 

「あれは…私達との試合で最後に見せた…」

 

そう、聖グロリアーナとの練習試合、最後に西住達がやったものと同じだ。

 

ただ違うのは、あの時よりもさらに速く、鋭い。

 

「あんなの、履帯切れるわよ!!」

 

「覚悟の上、という事でしょう」

 

「エキサイティングッ!!」

 

ドリフトしているⅣ号戦車の履帯が、車輪がバラバラと外れていく。ツチヤが普段ドリフトドリフト言っているが、戦車でそんな事をすればそうなるのは当たり前だ。

 

だから西住は、この突撃を最後の賭けにしたのだろう。

 

グロリアーナの時は失敗した、だったら…今度は。

 

「…行け」

 

背後へと回り込むⅣ号戦車、それを捉え続けるティーガーⅠの砲身。

 

砲撃は、爆発は同時だった。

 

至近距離での撃ち合いによる黒煙が二両を包む。

 

「どっちなの…」

 

モニターからでは状況がわからない、戦車道連盟からのアナウンスはまだ来ない。

 

煙が晴れていく、ゆっくりと。

 

Ⅳ号戦車はもう動けないだろう。無理なドリフトにより履帯が切れ、ティーガーⅠの砲撃は車体を大きくえぐっていた。

 

ただ、それでも。

 

『黒森峰フラッグ車、走行不能』

 

その一撃は、ティーガーⅠの中心を捉え白旗を上げさせた。

 

『よって…大洗学園の勝利ッ!!』

 

大歓声があがる。観客席の皆が立ち上がり、大きな拍手に包まれた。

 

…終わった。勝ったん…だよな。

 

「…すいません、ちょっと」

 

周りの皆が拍手する歓声の中、俺は立ち上がると【大洗学園『WIN』】と映し出されたモニターから背を向けて歩き出す。

 

「ちょっとハチューシャ!どこ行く気よ!!」

 

「え?あー、えと…トイレです、飲み過ぎちゃって」

 

「おいおい、せっかく勝ったのにそれじゃ締まらないぞ」

 

あーなんと言ったらいいか、どうすっかな。

 

チラッと視線で小町に助け船を求めると、小町はやれやれしょうがないなぁ…とでも言いたげに呆れた表情を見せる。

 

「あー、その、兄はですね」

 

「構わないわ、御行きなさい」

 

「…ダージリンさん」

 

だが、小町より先にダージリンさんが柔らかく微笑むと、俺を送り出してくれた。

 

「あなただもの、そういう時もあるわ」

 

「ありがとうございます。…淑女ですね」

 

最大限の感謝と、少しばかりの皮肉。

 

「あら、今頃気付いたのかしら?」

 

そんな皮肉をダージリンさんはジョーク混じりに受け止めてくれた。

 

「いえ、惚れ直したんですよ」

 

だから俺もジョーク混じりに答えると、観衆を背に観客席から出口へと向かう。

 

「だ、ダージリン様、お顔が真っ赤です!!」

 

…なんか後ろの方でそんな声が聞こえてきた気がするが、それは拍手の音と混じってすぐに消えた。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

会場を出ても、背後の歓声や拍手は止む様子はなく。それを背中に受けながら俺は歩いている。

 

別段、目的地があった訳ではない。ただ、人が居ない所へと行きたかった。

 

会場内に多くの人が居るとはいえ、ここにもまだまばらに人を見かけるので仕方なく、その足は人の少ない方へと向かっていく。

 

…そろそろだろうか?平原まで来ると辺りを見回し、誰も居ない事を確認した俺は。

 

「…やった」

 

ただそれだけ、一言つぶやいてガッツポーズを取る。あぁ!もう、それだけでなんか恥ずかしい!!

 

あぁそうです、恥ずかしかったんです!あの歓声の中、周りと一緒に拍手すんのも、ガッツポーズ決めるのも恥ずかしかっただけという体たらくっぷりだ。

 

捻くれ具合もここまで来ると最早芸術だな。つまり俺は人間国宝と言っても良いのだろう…違うか?うん、違うな。

 

そのままひとしきり騒いでふと我に返り、ようやく冷静になれた。賢者モードである。

 

「…ん?」

 

そして賢者モードになると…なんだ?なんか聞こえてくるな?

 

…つーかこの音、拍手じゃね?

 

「…げっ!」

 

誰か居たの?こんな何も無い場所で?

 

いやいや、それは無いだろう。拍手という事は試合を見ていたんだろうが、こんな場所から見てるとか、俺レベルの捻くれ者に違いないぞ。

 

そろりそろりと拍手の聞こえる方へと向かうとーーー。

 

「…………」

 

そこにはモニターを見つめながら柔らかく微笑み、拍手を送る西住 しほさん。

 

西住流師範にして、あの西住姉妹のラスボス系母親がいた。

 

「…!」

 

しほさんはいったい何を感じ取ったのか、俺に気づくと拍手をピタリと止める。

 

「………」

 

「………」

 

き、気まずいなんてもんじゃねーぞ、これ!どーすんの!!

 

「…ここは蚊が多いわね」

 

「いや、それで誤魔化しきれると思ってるんですか?」

 

「…………」

 

し、しまった!ついツッコンじゃったよ!!つーか今ので誤魔化そうとしてるとか、あの姉妹あってのこの母ありなの!?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。