やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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祝、三周年!!という事で活動報告にちょっと書きました、あと最終章二話についてもちょこっと。
とりあえずしばらくは最終章二話のネタバレになりそうな話はNGでお願いします、いや、当然語りたいんですけどね。

ここまで書いといてなんだけど文章で泣く描写や笑う描写書くのってムズいよね…「うわーん!!」とか泣いてる描写も文章だとギャグにしか見えないジレンマ。
登場キャラ全員丸山ちゃんなら解決だな、うん。


考えてみると違う、彼と彼女のスタート地点。

「…つまりあれか、試合が終わって安心したら疲れがどっと来たと」

 

「うん、ごめんね…」

 

怪我はしてないようだし、そんな所だろう。くっ…秋山の奴、それであの慌てようとかどんだけ西住の事好きなんだよ。

 

すっかり俺まで慌てて…いや、まぁとりあえず今はいいか。

 

「ったく…しっかりしろ、隊長」

 

取り越し苦労に一息ついてほれ、と西住に向けて手を伸ばすーーー、ん?

 

ん?あれ?伸ばして気付いたけどこれって…。

 

「あ、ありがとう…」

 

西住がその手を掴んだ。…あぁその、拒否されたらそれはそれで辛いんだけどね。この流れだともう仕方ないというか。

 

「どうしたの?」

 

「あ、いや…」

 

…ここで変に意識するのは西住にも失礼だよな、うん。

 

ここは変に意識せず、恥ずかしさを消す為にも心の中であの栄養ドリンクのCMをイメージするのだ、ファイトーいっぱぁつと!!

 

「お疲れさん…」

 

西住の手を引っ張って立ち上がらせる。そもそもこの試合…いや、この大会の立役者が、試合が終わったというのにいつまでも出てこないんじゃ格好つかないだろう。

 

「八幡君もお疲れ様…」

 

立ち上がった西住はまだふらふらと危なっかしいが、やがて気付いたように俺の手を見ると急に顔を赤くした。

 

「降りられそうか?」

 

「…うん、大丈夫だよ」

 

そっか、大丈夫そうなら良かった。

 

「…西住?」

 

…大丈夫ならそろそろ手を離してくんない?そろそろあの肉体疲労時の栄養補給CMのイメージでどうこう出来る絵面じゃなくなるんだが。

 

「やっぱり、もうちょっとだけ手伝って欲しい…、かも」

 

もう完全に吹っ飛んだCMのイメージはもう捨て置いて、だいじょばないと言うなら仕方ない…よな?うん、仕方ない。

 

西住の手をとったままⅣ号戦車から降りる。戦車道メンバーからの視線が痛いんだが…、これは西住を心配してたんだろう。

 

その証拠に…ほれ。

 

「西住殿ぉ!ご無事でしたかぁ!!」

 

秋山が早速西住に駆け寄っていた。さすが忠犬秋山、だからってあの慌てようは正直どうかと思うが。

 

「みほさん」

 

「みぽりん、大丈夫?」

 

「みんな心配させてごめんね」

 

武部と五十鈴も加わる。…冷静に考えたら冷泉が風紀委員に呼び出される余裕があったくらいだし、そりゃ西住が怪我とかしてるはずなかったか。

 

でもあれだな、あんこうチームのみんなが西住に駆け寄った事でまたぼっちが誕生したな、無論俺だ。

 

でも良いもん。なぜなら俺には戦車があるからな。いつも、どんな時でも俺を支えてくれた…かもしれない未来があった可能性も捨てきれない、うん。

 

Ⅳ号戦車を見る。映像でははっきりと見えなかったが、近くで見ると本当にボロボロだ、あちこち傷ついている。

 

「この戦車でティーガーを…」

 

「えぇ…」

 

戦車を知らない奴でも名前くらいは知っているだろう。それくらいティーガーはドイツ戦車最強説を産み出した有名な強い戦車だ。

 

…知ってるよね?たぶん知ってる、知ってると良いなぁ…。

 

まぁそのティーガー相手に勝利したのだ。なおⅣ号戦車もドイツ戦車なのでドイツ戦車最強説は揺るがない模様。

 

「お疲れ様でした!!」

 

武部がⅣ号戦車に向けて深々と頭を下げる。

 

「…なによ比企谷、不思議そうな顔して?」

 

「…いや、実際不思議だし、どうした急に」

 

「そりゃあずっと乗ってたんだし、愛着も出るでしょ」

 

戦車道を始める前は戦車のせの字も知らなかった武部が、こうしてⅣ号戦車に声をかけるまでになるとは。

 

ちなみにその頃の武部でもティーガーの名前くらいは知っているだろう…たぶん、きっと。…知ってると良いなぁ。

 

「なによ、変なの?」

 

「いや、最高だ。俺も毎日やってるから気にするな」

 

「それは変かと…」

 

「うん、さすがに…」

 

え、引かれた…なぜ?

 

「別にそれくらい普通だよな?秋山」

 

「はい!愛情をもって接すれば戦車は必ず答えてくれます!!」

 

「ナカジマさんもポルシェティーガー修理するとき戦車に声かけてたしな、普通だ」

 

それもなぜか赤ちゃん言葉で、バブみを感じる…。

 

「ゆかりんとナカジマ先輩はなんか比企谷と意味合いが違う気がするんだけど…」

 

酷い男女格差を見た気がする…。ほら、イメージしてみるがいい、戦車に向けて話す秋山やナカジマさんと俺、そこに何の違いが…。

 

イメージしたら違いがありすぎて死にたくなってくるから、これ以上は止めておくか。

 

「西住!!」

 

Ⅳ号戦車を眺めていると、生徒会の三人が声をかけてきた。会長はいつも通りに見えるが小山さんは瞳に涙を見せている。

 

廃校宣言をされてから今日まで、そもそもの大洗学園の戦車道は彼女達から始まった。

 

ゼロからのスタートから足掻き、じたばたし、願いを叶えた。

 

「西住、この度の活躍…感謝の念に堪えない、本当に…本当にーーー」

 

河嶋さんが西住に礼を述べる、最後の方はもう言葉になってなくて。

 

「ひぐっ…ありが…、うわぁあぁあん!!」

 

「桃ちゃん泣きすぎ…」

 

大粒の涙と共に泣き崩れそうになる河嶋さんを小山さんが優しく抱き寄せた。

 

普段、徹底的に弱味を見せようとしない河嶋さんが…。あぁいや、弱味を見せようとしないだけで見せてないとは言っていないけどね。

 

そんなこの人が、人目も気にせずに泣いたのだ、…情けないなんて思うはずがない。

 

もっと情けない、プライドが邪魔をして人前で素直に喜ぶ事すら出来なかった奴が今ここに居るのだから。

 

「西住ちゃん」

 

会長はそんな河嶋さんを優しい目で見ると西住に声をかける。

 

「これで学校、廃校にならずに済むよ」

 

「…はい!!」

 

これで大洗学園の廃校の理由とされていた目立った活躍が無いーーーは、解消されたはすだ。それも文科省が力を入れている戦車道の大会での全国大会優勝だ。

 

「私達の学校…守れたよ」

 

会長はにっと微笑みを浮かべ、西住に勢いよく抱きついた。あー…うん。この感じ、この人はいつもの会長だわ。

 

「…ありがとうね」

 

だから、西住に抱き付いて顔を見せない会長の表情をここで覗くのはきっと野暮なんだろう。

 

「そんな、私の方こそ…ありがとうございました」

 

最初はもう完全に傍若無人からの無茶振りで、強制的で、ブラック企業真っ青なパワハラみたいなもんだった。

 

でも、そんなきっかけがあったから、西住はこの大洗で再び戦車道を始める事になった。

 

彼女達生徒会が居なければ、廃校に立ち向かわなかったら、西住が戦車道を好きになる事は無かっただろう。

 

だから…お互いにありがとうと。

 

「ついでに比企谷ちゃんもね」

 

「俺はついでですか」

 

西住から離れた会長は、またいつもの調子に戻って声をかけてきたので、俺もいつもの調子で返す事にする。

 

「ん?ひょっとして比企谷ちゃんも抱き付いて欲しいの?」

 

「なんでそうなるんですか…」

 

本当にこの人は…本気なんだか冗談なんだか。

 

「これで生徒会からの罰は終わりですね」

 

西住へのきっかけは強制的な勧誘にある訳だが、俺の場合『高校生活を振り返って』の作文だった訳だ。

 

思い返せばあの作文への罰が俺に戦車道を始めるきっかけとなった。

 

「ん?何言ってるの比企谷ちゃん」

 

「ん?いや、言われた通り戦車道手伝ったでしょ」

 

「そうだね、でも最初なんて言ったか覚えてる?」

 

最初?最初に騙された時の話で言えば、西住を戦車道に勧誘する事だったか?

 

「生徒会の仕事を手伝って欲しいって話だよ」

 

…そういえば大元でいえばそういう話でしたね。ちょっと生徒会の仕事を手伝って欲しいとかなんとか。

 

「…範囲は?」

 

「決めてないね」

 

「…期限は?」

 

「いやー、あの時は比企谷ちゃんが快諾してくれたからね、助かったよ」

 

快諾…?喜んで引き受ける?ちょっと知らない単語ですね。

 

生徒会の仕事とかいうがばがば範囲に、ちょっととかいう決めていない期限…、何を言っているのかわからないと思うが安心しないでくれ、俺もわからん。

 

わかる事はただ一つ、うちの生徒会ブラックすぎんだろ…。

 

「よーし、じゃあ行くぞー!!」

 

そんな会長が撤収の号令を告げる。ブラック企業ならせめて定時退社くらいはしときたい、もう夕方だけど。

 

「あ、あの…会長、少しだけ良いですか?」

 

だが西住が何か言いたげにもじもじしている。その視線はチラリと別の方向を向いていた。

 

…あっちは黒森峰の待機してる場所だな、向こうも撤収の準備は終わってるみたいだが。

 

「ん、そうだね、行ってきなよ」

 

「ありがとうございます」

 

会長が答えると西住はそっちに向けて走り出した。…が、その足取りは途中で歩みへと変わり、やがて立ち止まる。

 

…やっぱりまだ姉と正面から会うのを少し躊躇っているのか、緊張しているのか。

 

そんな西住を見送っていると不意に背中を押された。え?いじめ?

 

「…なんだよ?」

 

文句でも言ってやろうと後ろを見ると、更に文句を言いたげなあんこうチームの連中が…いつの間にか冷泉まで合流してこちらを見ている。

 

「なんだよ…じゃないでしょ、何やり終えた顔でぼーっとしてるのよ」

 

「みほさん一人にカチコミに行かせるつもりですか?」

 

いや、カチコミとかそんな物騒な話じゃなくて…つかよくカチコミなんて言葉知ってますね。

 

「行ってあげて下さい、比企谷殿」

 

「西住さんの力になるといい」

 

…そんな大袈裟なもんでも無い気がするが。

 

「それに、もしかしたら…みぽりんが黒森峰に帰っちゃう、かもしれないし…」

 

少し不安な表情を見せる武部達。…まぁ、その可能性が全く無いとは言えないが。

 

もう戦車道が嫌いだった西住は居ない。それなら彼女が黒森峰に戻り、かつての仲間と…姉と戦車道を始める未来もあるのかもしれない。

 

「それは大丈夫だろ」

 

だが、それは無いと俺は断言する。西住が大洗で戦車道をやる理由はそれだけじゃないからだ。

 

「…なんでそう言い切れるのよ?」

 

「お前らが居るからな」

 

だから彼女は再び向き合い、戦い、ここまで来れたのだから。

 

つーか西住がちょっとあんこうチーム好き過ぎる。この様子じゃもうとっくに告白とかしてんじゃないか?

 

「あ…!それなら、そうね…大丈夫そうかも」

 

「なるほど、言われてみれば!!」

 

「安心しました」

 

「言っといてなんだがお前ら、すげぇ自信だな…」

 

西住に好かれてる自信が凄すぎる。やっぱり俺の見てない所では相当ゆるゆりな展開とかあるんだろうか…?

 

戦車という密閉された空間に女四人…、何も起きないはずはなく。

 

「…本人が気付いてないのが、また変な話だな」

 

ボソリと冷泉の呟いた言葉に聞こえない振りをして、わざとらしくため息をつく。

 

「んじゃ、ちょっと行ってくるわ」

 

あんこうチームに見送られながら西住を追いかける。西住の方はまだ踏ん切りがついていない事もあり、すぐに追い付く事が出来た。

 

「西住」

 

「ふぇっ!?は、八幡君、どうしたの?」

 

突然声をかけられてびっくりした西住に、さて、どう言い訳したらいいものかと考えて。

 

「あー…俺も挨拶しときたい人が居るし、一緒に行っていいか?」

 

「あ…うん、大丈夫だけど…、お姉ちゃんの事?」

 

「いや、赤星にだけど」

 

そもそも言い訳なんて考える必要は無かった事を思い出した。そうそう、挨拶は大事だよね、これを逃すとまた次いつ会えるかもわからないし。

 

そんな訳でさぁ行こう!今行こう!すぐ行こう!!

 

「………」

 

「ん?どうした西住?」

 

「…なんでもないよ、じゃあ行こう」

 

え?なんか急に速歩きになって足取りめっちゃ進んでるんだけど…どうしちゃったのかなー?


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