やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
…始まるのかぁ。
さて黒森峰だが、俺と西住が入り口に着く時にはもうあらかたの撤収作業は終了したのか、戦車も収納されていた。
大洗もだいたいの作業は終わっているが、そもそも車両数が8両なのに対し、黒森峰は20両に更にマウスとかいうデカブツまであったんだが…それで撤収作業が同じくらいとか、黒森峰がきっちりしているのか大洗がぐたぐだだったのか、きっと後者なんだろうなぁ…。
「…お姉ちゃん」
ここから姉住さんと会う訳だが、よくよく考えると今まで試合が終わった後、相手から来る事はあってもこっちから対戦相手の所へ行くなんて事はした事なかったな…。
黒森峰側からすると完全な煽りに見える。特に西住は去年の負い目もあるだろうし余計に躊躇してしまうだろうしな。
あんこうチームの連中も、それがわかっているから俺に西住についてくよう言ったのだろう。
つまり、俺に西住姉妹を繋ぐパイプ役になれと、そういう事だ。
…ん?あれ?これあきらかに人選ミスじゃね?コミュニケーションガチャ回したら星1キャラ出ちゃった感があるんだけど?
とはいえ、星1には星1の意地というものがある。というかこのままなにもしないと強化素材にされるか売却される未来しか見えない。
「西住、ちょっと待ってろ」
「…え?」
スマホを取り出す。姉住さんに直接電話をかける…のはやりすぎだな、そこは西住が踏み出すべき案件だ。
となれば仕方ない。赤星だ、赤星に電話をかけよう。いやー仕方ないよなー、届け!俺の電波よ!!
「なんか、八幡君が急にすっごくいきいきしてる…」
アドレス帳の『あ』の欄に赤星の名前は無かった。…だよね知ってた。…知らないままの方が良かった。スマホの力を過信したな…。
思春期高校生男子がそう簡単に女子のアドレスを聞けるとか思うな、彼等は基本的に後の先を狙う。
後の先とか超かっこいい。尚、要するにただの受け身である。
あ、詰んだわこれ。こうなったら、アリサに電話して無線傍受機で赤星のアドレスをゲットする方法を考えるか…。
元々俺のアドレス帳に登録してある数は少ないので、あいうえお順で開くと『あ』のすぐ下に『い』の名前も出てくる。
「………」
【逸なんとかさん(現副隊長)】
知らない名前がいつの間にか登録してあるとかわりとホラー。てか、かなりホラー。
「こ、今度はすっごくがっかりしてる!?」
いや、うん、さすがにわかってますけどね…。仕方ないかー。仕方ないかぁ…。
くっ…お遊びで現副隊長さんから名前変えたのが仇になったか。
ーーー
ーー
ー
「…何の用よ?私も暇じゃないんだけど」
はい、そんな訳で逸……、逸希?とにかく黒森峰の現副隊長さんを召喚する事に成功した。
期間限定、黒森峰ガチャは無事に爆死である。
まぁ暇じゃないとか言うわりにはちゃんと来てくれる辺り、やっぱりコイツは根は真面目というか律儀というか…。
「そもそも、どういう神経していれば試合の後に呼びつけられるのかしらね?嫌味なの?」
…そうでもないというか、まぁ言っている事はごもっともです。
そんな現副隊長さんなんで機嫌がすこぶる悪いのは見るからにわかる。呼び出しに応じてくれただけ御の字だったな。
「ご、ごめんなさい…逸見さん」
そんな現副隊長さんを相手にするのは今の西住には酷だろう。
「ふん…まぁ良いわ。それで、用件はなんなの?」
現副隊長さんは、そんなおどおどした西住を一瞥して本題に入ろうとする。
「あー…、まほさんに会いたいんだが」
ここで姉住さんと呼んでも通じないだろうし、通じた所でなんか怒りそうだしなコイツ。
「隊長に…?って!ちょっと待ちなさい!名前で呼ぶなんて隊長に馴れ馴れしいわよ!!」
どっちにしろ怒るのかよ…。いや、だって西住隊長じゃ西住と被るし紛らわしいだろ。
どうにかして現副隊長さんの怒りをおさめさせようと思案していると、ギュッと後ろで服を掴まれる。
「…西住?」
振り返ると西住がむ~っとした表情で俺の服を掴んでいた。
「まほさんって言った…」
「え?いや、まぁ言ったけど…」
「まほさんって言った」
いや、だから言ったけど。え?ダメだったの?姉住さんって『名前を言ってはいけないあの人』的な扱いなの?
「で、いまさら隊長に何の用かしら?元副隊長」
「………」
現副隊長…逸見 エリカの西住に対する言葉は相変わらず刺々しく、西住は少しだけ顔を伏せる。
戦車喫茶の時はただ単純に気に入らなかった。ただ、今はその時よりも逸見の事を知っている。
だからといって逸見の言いたい事、気持ちもわかる。…なんて言葉は当事者でもない俺が言っていいものではない、それは酷く傲慢だ。
「違うな。黒森峰の隊長じゃなくて、まほさんに会いに来たんだよ」
だからそこには触れない。代わりに1つ、当たり前の言葉を置いておく。
「はぁ?何言ってるの、同じ事じゃない」
「妹が姉に会うのに理由がいんのか?」
それは本当に当たり前の事だ。
黒森峰の元副隊長が今の隊長に会うのではなく。
西住流から半ば破門混じりの扱いを受けた者が西住流後継者に会う訳でもない。
妹の西住みほが、姉の西住まほに会う。
本当はそれだけで良かったんだ。黒森峰も大洗も、戦車道でさえ関係の無い話だ。
例えば小町だ。あいつはアホな子ではあるがしっかり者で要領も良い、自慢の妹だ。
だが、そんな小町でもどうしようもない時はもちろんあるし、むしろ最近では受験勉強でわりとヘトヘトだ。目も着々と腐りはじめてきててやっぱ兄妹だと安心する反面、お兄ちゃんみたいになりそうで怖いなぁ…。
そんな小町が助けを求めるなら俺は全力で応える。お兄ちゃんに任せなさいのポーズだってとってやる、え?いらない?
そんな時、小町は俺がそれを断らない事はわかっている。それが長年一緒に育った家族というものだ。
「だろ?西住」
なら、西住の中の姉はどうだろうか?それは他でもない、彼女だけが答えを持つ事のできる問いであり。
「私は…」
その答えはもう出ている。
「逸見さん、私…お姉ちゃんに会いたい」
…思えば戦車喫茶から今日まで、ずっと下ばかり見ていた西住が初めて逸見に対して正面から向き合った。
「…本当に腹立つわね、あんた達」
クルリと背を向けると逸見は歩き出す。…って、マズイな、怒らせたか?
「何やってんのよ、隊長に会うんでしょ?ついてきなさい」
…単なるツンデレだった。逸ンデレ エリカさんだ。
いや、こいつに限ってはデレはねーな。ツンツンだわ、ひらがなにするとつんつんでなんかちょっと可愛いじゃねーか。
ーーー
ーー
ー
逸ンデレさんに案内され撤収の指示を出している姉住さんの元につく、俺の仕事はここまでだろう。
姉住さんが俺と西住に気付いたのか、少し驚いた表情を見せた。珍しいものが見れて嬉しくも思うが、主役はもちろん俺ではない。
「…ほれ、行ってこい」
「うん…」
俺は姉住さんに軽く手を振ると西住に声をかける。少しずつ、西住は姉の前に進んだ。
「…………」
姉妹の間に言葉はすぐには出てこない。西住は何か言いたげにしていたが、踏ん切りがつかないのか。
なら、そんな妹を前にしているなら、この人なら必ず答えるはずだ。
「優勝、おめでとう」
最初の言葉は短く、だけど。
「…完敗だな」
その柔らかい表情に、西住もさっきまでの緊張がなくなり、姉妹はお互い微笑み、手を繋ぐ。
心配はしていなかったが、ずいぶんと回り道をしたものだ。…あのシスコンさんめ。
「みほらしい戦いだったな、西住流とはまるで違うが」
「そうかな?」
「そうだよ」
そうだよ(断言)。
「…うん、そうかも。でも私だけじゃない、みんなが居たから、ここまでこれたんだと思う」
「そうか、良い仲間に出会えたな」
「うん!!」
…さて、あとは姉妹の会話だ。俺が入る必要はないだろうし、だからって西住を置いて帰る訳にもいかないか。
とはいえここは黒森峰の本拠地、ただ突っ立っているのも目立つ…というかもう目立っている気がするが、どうするか?
よーし、とりあえず赤星を探そう。まったく、星を探すとかロマンチックにも程があるだろうに、ロマンチック探すよ。
「一ついい?」
「…なんだよ?」
現副隊長さんが居た。まだ居たのか…いや、そりゃ居るよね、案内ありがとうございます。
「…あの煙幕と電信柱、考えたのはあんたね」
「なんで俺だって断定すんの?いや…俺だけどさ」
「やっぱりね。姑息で嫌らしい、あんたにお似合いのやり方だったわ」
「なんでその二つを組み合わせて的確に俺を連想出来るんだよ…」
コイツの中でどんなイメージなの?俺。
「ただ、これだけは覚えておきなさい。次にあなたがどんな姑息なやり方で来ても、今度は私が勝つ。これで勝ったとは思わない事ね」
ビッと格好つけて指差してくる。…いや、人を指差すんじゃないよ。つーかそもそもだ。
「…いや、あれは作戦失敗だろ、お前倒せなかったんだし」
これ以上の死体蹴りは止めたげて、こっちはあんだけ自信満々にフラグ立てて失敗してんだから。
「相変わらず卑屈ね。素直に結果を受け取る事も出来ないのは、やっぱり負け犬根性が染み付いているからなの?」
俺自身の勝敗は別として、一応勝ったのは大洗なんですが…。
「残念だが、この手の汚れは洗ってもなかなか落ちないんだよ、カレーうどんの汁みたいなもんだ」
「もう少し洗剤を多めにいれたら?あ、ごめんなさい、そうしたらあなたの方が消えてしまうものね」
「人を汚れ扱いするんじゃねーよ…」
負けてちょっとは大人しくなるかと思ったが、罵倒皮肉がキレッキレだなコイツ…すげぇイキイキしてるし。
「あの…エリカさん、比企谷さん」
「こ、小梅!いつからそこに居たの!?」
赤星…だと!?なぜここに?まさか自力で脱出を?そして俺に会いに来てくれたのか(無言の腹パン)。
「だいぶ前からなんですが…その、二人共会話が丸聞こえで…」
「えっ…?」
言われて辺りを見回す現副隊長さん、というか俺もだが、すっかり注目の的であった。
…うわー、やっちゃったよ。てかよくよく考えたら当たり前か、ここは黒森峰の本拠地だもんね。
「あ、あの…副隊長、その人は?」
「い、いいから撤収準備を急ぎなさい!早く!!」
「もう終わってますけど…」
それで誤魔化すのは無理があるだろ、軍隊ばりの段取りの良さが仇となったな…。
「おい…なんとかしろよ」
「うるさいわね、なんで私が…あっ!」
お、どうやら妙案が浮かんだ様子だ。さすがは我等の頼れる現副隊長さんだ。ちなみに俺の現副隊長さんは河嶋さんになる…うん、頼れるね!
「こいつはあれよ、戦車の履帯狙うよう指示してた奴よ」
…そんな最悪の紹介があってたまるか!こいつ、爆弾の前により大きな爆弾置いて誤魔化しに走りやがった!!
特に露骨に反応したのはヘッツァーに二度も履帯を破壊されたチーム直下(仮)だろう。
「へー…この人がそうなんですか、へー…」
目が一切笑っていないんですけど…、どんだけ履帯修理が大変だったのかは充分伝わってくる。大変だよね、重いもん。
「いや…あれはヘッツァーが勝手に…なぁ西住?」
これには姉妹水入らずの会話をぶち破ってでも西住になんとか弁明をして貰わねば…。
「履帯修理の報告は多いとは思ったが、やはりあれは比企谷の作戦だったのか…」
「うん、すごいんだよお姉ちゃん!八幡君、『戦車が駄目なら人から潰せ』だって、私そんな戦い方もあるんだなって驚いちゃった」
OK西住。久しぶりにお姉ちゃんと会話できてテンション上がっちゃってるのはわかるけど、ちょっとはブレーキ踏もうか?
「あれには私達も苦労させられた。履帯修理の速度を上げる訓練もこれからはもっと必要だな」
OK姉住さん。久しぶりに妹と会話できてテンション上がっちゃってるのはわかるけど、ちょっとはブレーキ踏もうか?
誰かこの天然戦車道姉妹を止めて!履帯修理の訓練とか考えただけでクソ面倒くさくて、黒森峰の選手が可哀想になってくるんだけど!!
だが、一番可哀想なのは遠回しにその訓練が始まる事への逆恨みを受けるであろう俺である…。
「きっと橋を壊したのもこの人が…」
それは風評被害なんだよなぁ…。
黒森峰各選手からの視線が鋭く居たたまれない…、何かこの状況を変える事ができる事件は起きないのか?
そう考えているとなんと俺のスマホが電話を告げる。このタイミング…神か!?
「すいません!ちょっと電話が来たんで失礼します!!」
まだ見ぬ神に感謝してスマホを見る。
【アンチョビさん】
やたらとピザとかパスタが好きそうな神である。つーかもう、画面を見るだけで今後の展開が予想できるんだけど…。