やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
きっと汗だくな戦車道女子が…おっと、これ以上は止めておこう、いろいろアレだから。
…ダージリンさん達はこんな暑い中でも熱々の紅茶を飲むんだろうか?
『喜べ比企谷!これから宴会だ!!』
開口一番、電話を受けるなりコレである。うん…宴会ね、なんの宴会をやるのか知らないが、アンツィオの皆さんが楽しそうでなによりです。
「…そっすか。おめでとうございます、楽しんで下さい」
あれ?でもよくよく考えるとこの人ら昨日も前日入りから宴会してなかった?
『おいおい、何を他人事みたいに言っているんだ?大洗の優勝を祝しての祝勝会だぞ、大洗が居なくてどうする?』
…だよね、このタイミングでこの人から連絡が来るなんてそれしかないよね。
「いや、俺達はその…あれがあれで表彰式終わったら帰ると思うんですが?」
『ん?角谷の奴はむしろノリノリだったぞ?』
会長がノリノリとか逃げられる気がしねぇ…。
『それでな、角谷に聞いたら二人が黒森峰の所に居ると聞いたからな、ちょうど良いし頼みがある』
「はぁ…なんですか?」
『黒森峰を誘ってくれ、聖グロリアーナとサンダース、プラウダにはもう声をかけてある』
「…………黒森峰を、大洗の祝勝会に、ですか?」
…正気かこの人?
『あぁ、簡単だろ?』
これを簡単だと言ってしまえる簡単な頭で羨ましい…。※本気で羨ましがってます。
「決勝戦は俺達が勝ったけど、今からその優勝記念で宴会やるから君らも来ない?」とか言っているもんだ。うん、さすがにこれはない。
「いや、黒森峰は厳しいんじゃないですか?負けたその日に相手を祝う気にはなれないでしょ」
『そうか?もちろん負けたのは悔しいが、それだけ相手が強かったんだ、素直に祝福するものだろ』
…まぁ、アンツィオはそうだろうな。思えば二回戦が終わった後もずっと俺達を応援してくれていた。
その器の大きさには素直に感心する、ドゥーチェと呼ばれるのも納得と言える。
だが…黒森峰が、てか、うん。一人は確実にめっちゃ文句言い出す奴がね。具体的には現副隊長さんとか。
『なら黒森峰の残念会も兼ねての宴会にするか!!』
「いや、それだとなんか大洗の優勝が残念みたいになっちゃうんだけど…」
決して混ぜちゃいけない2つである。【祝勝会兼残念会】とか字面だけでもわかるこの酷さ。
『とにかく任せたぞ!私達は宴会の準備があるからな、アーヴァンティッ!!』
「………」
なぜか試合も終わった今、俺に史上最高難易度の仕事が降りかかって来た訳だが…どういう事なの?
…まぁ、正直無駄だとは思うが言うだけ言ってみるか。
ーーー
ーー
ー
「よし、潰すわ。そこに座りなさい」
ほらー、やっぱりこうなるじゃないですかー。
現副隊長さんがめっちゃ睨んでくる。ここにティーガーⅡがあったらすぐにでも乗り込みそうなレベル。
「落ち着けエリカ」
「ですが隊長!よりにもよって私達を祝勝会に誘うなんて侮辱としか思えません!!」
まぁアンチョビさんに悪気がある訳ではない、というかむしろ、あの人の場合は善意100%なので余計にたちが悪いんだが。
「えっと…祝勝会するの?」
「みたいだな、会長がもう話を進めてるらしい」
西住も初耳らしく驚いている。どうやら俺達が黒森峰に向かっている間に話が決まったらしい、ちょっと段取り良すぎないですかね?
「気持ちはありがたいが…」
「…ですよね」
その曖昧な答えには仕方ないと言うしかない。だからこそ、俺も誘ってもムダだと思っていたのだから。
ここで一番の問題となるのは現副隊長が騒ぎ立てる事ではなく、姉住さんが西住流の後継者という点だろう。
西住流の後継者が敗れた相手の祝勝会に参加する…、お堅い考えを持つ者にとってはそれだけで問題になりそうな案件だ。
特にあの西住流師範代の母住さんが何を思うかは考えるだけで鳥肌ものだ。あの人絶対通常攻撃が全体攻撃で二回行動してくるよ、武部も将来結婚したいなら見習うべきではある。
「すまないみほ、祝勝会、楽しむと良い」
「うん…、お姉ちゃん」
西住にもそれはわかっているのだろう。残念そうではあるが素直に頷いた。
姉住さんのその複雑な表情を見れば、姉の気持ちは充分に伝わるのだろう。
まっ…ここら辺は仕方ないよな。姉妹の和解はなったんだ、これからは会おうと思えばいつでも会えるだろうし。
「…そろそろ表彰式が始まるな、西住」
「あっ…うん、それじゃあね、お姉ちゃん!!」
「あぁ」
姉に別れを告げて少し歩く、だがそこで西住は立ち止まる。
「西住?」
「ごめん、八幡君、…ちょっとだけ」
くるりと再び姉住さんへと振り返ると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「お姉ちゃん、やっと見つけたよ!私の…戦車道!!」
それはいつぞやか、彼女と話していた話。
一度戦車道を離れた彼女が悩み、考えた答えがその言葉にはあるのだろう。
「…見つけたのか?」
「うん、見つけたよ」
その答えがなんなのかは俺にはさっぱり思いつかないが、隣を歩く西住の表情を見れば不思議とそれは間違いではないのだろうと思わされてしまう。
「八幡君、手伝ってくれてありがとう」
「…俺、何かしたっけ?」
はて?俺、また何かやっちゃいましたか?と思案してみるがどうにも思いつかない。チート主人公御用達な無自覚煽りは嫌われるが、思いつかないものは仕方ない。
「うん、私の知っている事、知らない事。いっぱい…たくさん」
「まぁ…その、行き掛かり上の成り行きだ、気にすんな」
そもそも無自覚を演じた所でなんだかんだ西住はこういう所が鋭い、気恥ずかしさに俺もいつもの誤魔化しにキレがないのを感じる。
「ほれ…さっさと戻るぞ」
なのでさっさと戻るように西住を促す、この後表彰式もあるので時間がないのは本当だし。
…つーか、本当に宴会すんの?他の学園艦まで巻き込んで?どういう規模になるんだよそれ、準備だけでも間に合わないんじゃないか?
ーーー
ーー
ー
「………」
大洗の陣営へと戻る二人を西住 まほは眺めていた。彼女にしては珍しく、ぼーっとしている。
「あの…隊長、これで良かったんですか?」
「あぁ、これから決勝戦の反省会とお母様への報告もある」
「…反省会。すいません隊長、私達が不甲斐ないせいで」
「そんな顔をするなエリカ、負けはしたが準優勝も立派な戦績だ。それにこの敗北で黒森峰がより強くなればそれで良い」
「…はい」
西住まほはそう答えるが、逸見エリカは納得出来ていない。
自分が尊敬する西住まほ、この人を優勝させたかった。去年のあれは間違いだったんだと証明したかった。
だが、今年もまた自分達は敗れた、隊長の指揮に応える事が出来なかった。
そもそも…私達は最初から西住流に頼ってばかりだったのだから。
「…あの、エリカさん」
「わかっているわよ、小梅」
隊長の為に何か出来る事はないか、考えると答えはすぐに出た…とても癪ではあるが。
…これはあの子の為でも、ましてやあの男の為ではない。隊長の為に自分に出来る事。
「それにしても隊長、あいつ…」
そう自分に言い聞かすと、逸見エリカは西住まほに声をかける。
「比企谷の事か?エリカは最近、よく彼の話をするな」
「なっ…!してません!気のせいです!!」
いきなり出鼻を挫かれて声をあらげてしまう。そして、そんなにもあの男の話をしていたのかとイラついてしまった。
ーやっぱり許さないわ、あいつ。
と、出所のわからない怒りをこの場には居ない彼に理不尽にぶつけつつ、今目的はそれではないので一呼吸置く。
「それで、彼がどうかしたのか?」
「失礼だとは思いませんか?いきなり大洗の隊長を連れて来て隊長に会わせろ、ですよ」
「…エリカ」
隊長の言いたい事はわかる。だが、その前に、この言葉を伝えなくてはならない。
本音を言うなら癪に障るが、今あの男の言葉を借りるのが一番効果的なのは自分でもわかっている。
何故なら逸見エリカ、彼女にも姉が居るのだから。
「妹が姉に会うのに理由が居るのか?ですって。屁理屈だと思いませんか?」
「………」
その言葉に西住 まほは驚いた表情を見せたが、それも一瞬だった。
「エリカ、この後一つ予定を入れたいが…構わないだろうか」
「はい、もちろんです隊長」
「すまない」
西住 まほは携帯を取り出すと電話をかける。相手はすぐに出てくれた。
『まほ?』
西住 しほ、彼女の母親が電話に出る。
「お母様…一つお願いがあります」
少しだけ躊躇した。これはきっと、西住流に反する物になるのだから。
『なにかしら?』
「本日の試合の報告ですが、明日でも大丈夫ですか?」
『…構わないわ、私も今日は"ちょうど予定があった"所よ』
「…ありがとうございます」
短いやり取りで通話は切れる。西住 まほにとっての小さな反抗は、あっさりと通った。
「…お母様」
ーきっと、お母様もわかっているのだろう。そうでないと予定がちょうど入る、なんて事はないのだから。
「みんな、素直じゃないですね」
「…なによ小梅、何が言いたいの?」
そのやり取りを見つめていた赤星の言葉に、逸見が苦々しく答える。
「いえ…その、エリカさんと比企谷さん、少し似ているなって」
「どこがよ…本当にやめて、鳥肌が立ってくるわ」
あっ…これは本当に嫌がっている顔だ、と赤星は心の中で苦笑してしまった。
ーーーそういう所が本当に似ているなぁ。
ーーー
ーー
ー
「…なんぞこれ?」
「…すごいね、もうほとんど準備できてる」
大洗の陣営へと戻るとそこはすっかり宴会の準備が出来てしまっていた。つーか早すぎませんかね?
「どうだ、これがアンツィオの機動力だ!恐れ入れー!!」
いや、マジで恐れ入ったわ。この機動力を戦車道で生かせたらとんでもない事になりそうなレベルではある。
「今日は腕によりをかけて沢山作るッスよ!」
「お二人共、沢山食べて下さいね」
いつの間にかペパロニとカルパッチョ、てかアンツィオメンバー総出でお出迎えである。屋台はもう良いのだろうか?
「いや、たくさん食べてって言われても、材料ももうあんまりないんじゃないか?」
ただでさえ屋台やっていたアンツィオ高校に、大洗の宴会にまで材料を回せる余裕があるとは思えない。
「そこはノープロブレム!サンダースが全力で支援するから!!」
そこでケイさんの登場である。後ろにはトラックに積まれた山ほどの材料、物量としてもやりすぎである。
アメリカンな物量にアンツィオが加わって最強に見えるまであるが…逆にこれ、食べきれるのか?
「覚悟なさい、もう嫌ってなるくらい食べさせてあげるんだから!!」
「ん?アリサか、居たのかお前?」
「居るわよ!なんでよ!当たり前でしょ!!」
いや…、せっかくだしたかしと二人でこの後しっぽりしているものかと思ったんだが…。
「アンツィオの料理も良いが、せっかくだしサンダースの料理も食べてくれ」
「バーベキューの準備もOK、ステーキにピザもあるわよ!!」
聞いてるだけでお腹の膨らむラインナップ…。
「いや、ピザならアンツィオにもあるんじゃないですか」
「違う違う、うちのはピッツァだ」
「アメリカのピザとイタリアのピッツァは別物ですからね」
あー、なんか聞いた事はあるような、生地の厚さとか違うんだったか?
「じゃあどっちが美味いか勝負ッスよ!!」
「どっちも美味いですわー!!」
…なんか向こうで右手にピザ、左手にピッツァを持った見覚えのある赤みがかった髪の女生徒が見える。
どうでもいいが【右手にピザを、左手にピッツァを】、とだけ書くとなんか格好いい気がする…気がするだけだが。
「こらローズヒップ、まだ始まっていないのに食べてはいけません、失礼ですよ!!」
「ですがアッサム様!早く食べないとせっかくの料理が盗られてしまいますわ!!」
ローズヒップにアッサムさん?そういえば試合の時は見かけなかったが、ダージリンさんも来てるんだしそりゃ居るよね。
「あっ!マックスコーヒーさんじゃありませんか!お久しぶりですわ!!」
ローズヒップは俺を見つけるなり駆け寄って来た。うーん…この子犬感には俺も思わず警戒心を解いてしまう。
「おー、よしよし、久しぶりだな、何してたんだ?」
「もちろん!ダージリン様やアッサム様のような立派な淑女になる為のお勉強ですわ!見ての通り私!ずいぶんレベルがアップしましたの!!」
すげぇ…、見ての通りまるで成長していない。安西先生を泣かせるんじゃないよ。
「落ち着きなさい、まったく…お二人共、優勝おめでとうございます」
そんな騒がしいローズヒップと違ってアッサムさんは流石の淑女っぷりだ。むしろ聖グロリアーナ最後の砦と言っても過言じゃなくなってきたんだよなぁ…。
「あ、ありがとうございます」
「…アッサムさん達も試合を見ていたんですね」
どうやら俺達とはまた別の場所で見ていたのか。まぁあの場でローズヒップが混じっていたら、それこそカオスだっただろうしありがたい。
「えぇ、おかげで有益なデータが沢山とれました。ふふふっ…」
いやぁ…うん。早速最後の砦崩壊したな、なんなのその邪悪な笑みは…。
「アッサムはデータマニアなのよ、変わっているでしょう?」
「ダージリンさん、いや…まぁ、はい」
その、まるで自分は普通、みたいな言い方は個人的にどうかなーと思うんだけど黙っとこう。
「聖グロリアーナも宴会に参加するんですね」
こういう騒がしいのは…いや、ローズヒップが居るし意外と言う事はないんだが。
「友人の勝利を祝うのは当然でしょう?優勝は強いか弱いかで決まるものではない、優勝するのにふさわしいかで決まる、おめでとうみほさん、あなたの勝利よ」
「ダージリンさん…、はい!!」
これは…えと、チャーチルじゃないよね?誰の格言なんだろうか?とちょっとスマホで調べてみるか。
…野球のノムさんだった。あの人すげぇな、そしてまさかのダージリンさん、ノムさんリスペクトである。
今思えばマウスが出てきた時のあれもそうだったのか…。
「ただ…みほさん、こんな言葉を知っているかしら?」
次はどんなノムさんの格言が飛び出すのだろうかと引き続きスマホの画面を見ていると…。
「友情は不変と言っても良いが。色と恋が絡めば別である」
…思わずスマホを落としてしまった。