やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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最初に比べて登場人物が増えて来たので当たり前といえば当たり前なんですが八幡とあんこうチームを久しぶりにじっくり書けた気がします。
なんだかんだとこの絡みが一番書きやすいけど、一番気を使う絡みでもあります。


そして、彼はあんこうチームと共に。

「…?」

 

蝶野教官との話を終えて退出、扉を閉めたと思ったら妙な寒気に襲われた。

 

長年ぼっち生活にて培われた俺の第六感が告げているのだ、今すぐにでもここを離れろと。

 

ぼっちはKY(危険予知)には敏感なのだ、おまけにKY(空気を読む)もできる。むしろ読みすぎてもはや空気と一体になれるレベル。

 

例えぼっちとは呼べなくなっても、ぼっちだった頃のスキルはまだ残ってるとかなんとも熱い展開だ。経験は決して無駄にはならないのである。

 

てっきり説教をされると思っていたので、蝶野教官の呼び出しは思った以上に早く終わった。

 

時間を確認すると祝勝会はまだスタートしたばかり。となれば…だ。

 

「せっかくだし、どっかで時間潰すか…」

 

そう、経験は無駄にならない。このチャンスを徹底的に生かすのだ、サンキューぼっち!!

 

いや…ほらさ、まずスタートが良くない。ただでさえ聖グロリアーナから黒森峰まで多くの生徒が参加している祝勝会だ、会場内でのグループなんてとっくに出来上がっている事だろう。

 

そこに後からのこのこやって来た奴の居場所なんて無いのだ。入院生活から遅れて学校入りした俺や、転校したてのぼっちだった西住が正に良い例だろう。

 

そもそも参加者の大多数が女子とか…いや、あれ?俺以外全員じゃないの?無理無理、浮いちゃう浮いちゃう。

 

祝勝会も言い方を変えれば打ち上げなんだろうが、下手すれば俺が打ち上げられちゃうまである。…そのままお星様にでもなりそうだ。

 

まぁ…さすがに行かない訳じゃない。祝勝会の終わる一時間…いや、30分くらい前にしれっと参加して、あたかも結構長い間居た雰囲気だけは出しておく。

 

そして祝勝会の締めに拍手でもあるなら、ぱちぱちやっとけば今日を乗りきる事ができるだろう。

 

涙が出てくるくらい最高のプランだ。本当、経験って大切だなぁ…サンキューぼっち!!

 

あとはどこで時間を潰そうか…と考えながら建物から出る。そういやここ、戦車道本部なんだよな。まぁ蝶野教官が呼びつけた場所だし当然か。

 

それにしたって車だけじゃなくて戦車用の駐車場まであるとか…10式戦車も置いてあるし、その横にはⅣ号戦車も…。

 

「…Ⅳ号?」

 

「あっ!比企谷殿を発見しました!!」

 

「もー!遅いんだから!!」

 

双眼鏡で俺を覗いているのは…いや、この距離で双眼鏡使う必要はないんだが、秋山だ。それに武部が答える。

 

要するにあんこうチームの奴らだ…いや、なんでここに居るの?

 

「お疲れ様です、比企谷さん」

 

「あぁ…まぁ、お疲れ」

 

「で、何を怒られていたんだ?」

 

「別に怒られてねぇよ…」

 

五十鈴と冷泉にも出迎えられ…いや、冷泉は違うな、うん。遅刻サボりで呼び出し常習犯なお前と一緒にするな。

 

「で、何しに来たんだよ…。祝勝会始まってんだろ、主役が居なくてどーすんだ?」

 

よりにもよって大洗隊長チームであるあんこうチーム不在とか、さすがに場も盛り下がるだろう。チャーシューラーメンを頼んだらチャーシュー抜きだったら俺はキレる。

 

「ううん、まだ始まってないよ」

 

「は?時間ならとっくに…」

 

「さっき八幡君も言ってたけど、主役…っていうより、みんなが揃わないと」

 

「はい、なので我々がお迎えに上がりました!!」

 

えーと…つまりだ、その、なんだってばよ?

 

「祝勝会まだやってないのか?」

 

「だからさっきからそう言っているでしょ、みんなもう待ちくたびれているんだから」

 

いや、それはさすがに想定外だわ…。基本的に全てのイベント事からは外れて生きていたし。

 

「………」

 

「? 比企谷さん、どうかしたんですか?」

 

「感動しているんだろう」

 

「違う」

 

「ひ、否定が早いね…」

 

断じて違う。ただちょっとアレだ、なんつーか…そう、新鮮な気分だ。

 

上手く言葉に出来ないのがもどかしいが、ぼっちじゃないってのはこういう事を言うのか…。

 

「別に先に始めてても良かったんだぞ…」

 

なんかもう申し訳なさすぎて、やっぱりぼっちの方が良いんじゃないかと思ってしまうのは、俺の性格のせいなのか。

 

「ううん、そういう訳にもいかないよ。みんなも八幡君が戻るまで待つって言ってたから」

 

「それにしたって迎えにまで来んでも…」

 

いや、もし迎えに来なかったら俺は終了30分前の合流を考えていたので、ずっと祝勝会が始められなかったんだが…暴動でも起きそうだな。

 

「比企谷の事だから、またなんだかんだ理由つけてサボるんでしょ?」

 

バレテーラ。いや…サボりませんよ?例え終了間近での合流でも参加は参加だ。

 

近代オリンピックの父、ピエール・ド・クーベルタンは言った、『参加する事に意義がある』と。

 

そこに明確な時間指定が無い以上、短時間とて参加はしたのだ。意義を得る事に変わりはない。

 

ポケモンを出してすぐ引っ込めたって経験値は貰えるのだ。

 

「露骨に目をそらしてますね…」

 

などと屁理屈を訴えても通用する気がしないのが悲しい所だが、ここはあんこうチームの作戦勝ちを素直に誉めておくか。

 

「あはは…、それじゃあみんな、戻ろう」

 

「…いや、ちょっと待て、Ⅳ号動くのか?」

 

決勝戦でティーガーを倒したとはいえ、最後のドリフト旋回で履帯がやられていたはずだが…。

 

「そこはもう、自動車部の皆さんが!!」

 

自動車部万能すぎ!!まぁ車体に弾痕が残っているのでとりあえずは走れるようにしただけのようだが。

 

「わざわざⅣ号直してまで良く来たな…お前らだって疲れてんだろ」

 

試合後のこいつらはかなりヘロヘロだったし、迎えに来るとしても他に誰か居なかったのか?

 

「それは…私達が八幡君を迎えに来たかったから、かな?」

 

「…そう、なのか?」

 

「えぇ、そうですね」

 

「そうそう、ちょっと目を離すとすぐにどっか行きそうだもんね、比企谷って」

 

「お前は俺のかーちゃんかよ…」

 

気恥ずかしくなり、とりあえずⅣ号に乗り込む。五人乗りに六人で乗り込むのだからやはり狭いし、いろいろ近い…つまりはヤバい。

 

「そういえば練習試合の時もこうやって迎えに来ましたね」

 

「あぁ…あったな」

 

家の目の前で秋山の吹くラッパとⅣ号による空砲ぶっぱをされたアレだ。あの後ご近所さんから白い目で見られたのは言うまでもない。

 

「まったく…手間がかかるな、比企谷さんは」

 

「ここまで自分の事を棚に上げられるといっそ清々しいな…」

 

君も寝坊して迎えに来られた側だからね?むしろ迎えに来られても寝てた分、余計にたちが悪い。

 

それで思い出したが、前回よりまだマシなのは冷泉が操縦席に居るからか。あの時は寝てる分スペース更にとってたしな。

 

「それじゃあ麻子さん、お願いします」

 

「ほーい」

 

なんとも気の抜けた返事と共に冷泉がⅣ号を走らせる。

 

「こうしてると本当に練習試合の時みたいで懐かしいよね」

 

「私達にとって最初の試合、とても緊張しました」

 

「私は初めてイギリス戦車が生で動いている姿を見られて感激でした!隊列もとても美しいです!!」

 

こうなると…自然と話は練習試合、聖グロリアーナとの試合になる。

 

「しかも!比企谷殿はクルセイダーに搭乗させて貰えるとは、羨ましい話です!!」

 

「お前、それ実際乗ってから言えよ…」

 

ローズヒップの乗る戦車の運転を一度体験してみるといい。ローズヒップもそうなんだが、今思えば一番ヤバいのはあのクルセイダーの操縦手なんじゃないか?

 

「あの時はいきなりクルセイダーが目の前に来てびっくりしたよね」

 

「あれは邪魔だった…」

 

「…悪かったよ」

 

…ん?いや、なんでそこで俺が謝るんだ?普通にドンパチやってる戦場のど真ん中に出たローズヒップが悪い案件だろこれ。

 

「あれには私も驚いちゃった」

 

「…驚いてたっけ?」

 

あの混乱の中でも西住と一瞬目が合ったはずだが、特に慌てていた様子はなさそうに見えたが。

 

「えと、試合中だったから、私が慌てちゃうとみんなも困っちゃうし…」

 

少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。冷静を装おってたのね…、こういう所はさすがは西住流というか。

 

「負けはしましたが、聖グロリアーナとの試合は良い経験となりましたね」

 

「最初はいきなりの試合が準優勝の経験もある強豪校で大丈夫かとも思ったんですが、さすが比企谷殿!我々の経験を考えてあの試合を組んだと、そういう事ですね!!」

 

「お、おう…」

 

言えない、あちこちの高校にしらみ潰しに電話をかけて断られまくっただけだというのは…。

 

「…それにしたって比企谷、なんかダージリンさんと仲良いよね」

 

「まさか毎試合一緒に試合を見ていたとはな」

 

「まぁ…成り行きでな」

 

むしろ、そこは自分とは全く関係ない試合なのにわざわざ毎試合見に来てたダージリンさんサイドにツッコミを入れるべきな気がする…。

 

「一緒にお茶して会話して…、これもうデートじゃん!!」

 

「なんでだよ…、そもそも聖グロリアーナだけじゃない、黒森峰が居た時もサンダースやプラウダが居た時もあった」

 

「それはそれでなんか腹立つ!!」

 

なんて理不尽な怒りをぶつけられるのか…、相変わらず恋愛脳というか。

 

「でも、表彰式の時はお一人でしたね。それもあんなに後ろの方に」

 

「そうそう、せっかくなんだし、もっと前で見ててくれれば良かったのに…」

 

「ん?あぁ…そうだけど。いや、良くわかったな」

 

表彰式にも多くの人が参加していたのだ、その中でよく俺が一人で居るとわかって…。いや、たぶん俺=一人で居ると結びつけているだけか?

 

「「「「「………」」」」」

 

そう考えていると、何故かあんこうチームが沈黙する。

 

「私は…視力が良いからな」

 

とは冷泉の言葉。そういえば視力2.0なんだっけ?視力が良いとどこに誰が居るのかまでわかるんだろうか?

 

「私、花を見つけるのは得意なので」

 

とは五十鈴の言葉。彼女らしい、華道に通じた言葉。しかし花に例えればあまり綺麗な花ではないだろう、俺は。

 

 

「偵察なら私に任せて下さい!!」

 

とは秋山の言葉。とりあえず良くわからんが人を偵察対象にいれないで欲しい。

 

「比企谷は…ほら、一人で居る分余計に悪目立ちするっていうか」

 

とは武部の言葉。それすっげぇ残酷だから、どうりで教室でたまに注目されてひそひそ後ろ指を指されてる訳だ、周りみんな鬼かよ。

 

「私はその……八幡君を探してたから」

 

とは西住のーーーーん?

 

「あぁ!みぽりんズルい!!」

 

「えへへ…、ごめんなさい」

 

…とりあえず、赤白のシマシマボーダーシャツを着たメガネのおっさんを探せ!!みたいなもんかな。…うん、なんであの本、あのおっさんを執拗に探させるんだろう?

 

「…ちゃんと、見ててくれたんだね」

 

「そりゃ表彰式だしな、他に見るもんもないだろ…」

 

「うん、ありがとう…」

 

お礼を言われる事なんて何もない。本当に…何一つとして。

 

他に見るもんもない…ではない、そもそもが他に出来る事がないのだ。

 

何も力になれない奴が頑張れなんて言葉をかけるのもおこがましい話で、俺は見ている事しかできなかった。

 

もし…だ、これはもしものあり得ない話で。

 

もし俺が彼女達と共に戦場に出る。そんな日が来るのなら…こんな感情とも決着を着ける事ができるんだろうか?

 

あんな表彰式の大きな舞台じゃなくて良い、俺は別に拍手喝采を望んでいる訳じゃない。

 

ただ、彼女達と並んで、共に胸を張る事ができればーーー。

 

「そろそろ到着ですね」

 

…らしくない、そんなもしかしての妄想はするだけ無駄なのに、それもこれも蝶野教官が妙な話を持ち出してきたせいだ。

 

元々歩いて行ける距離だ、それが戦車での移動となると祝勝会の会場まではすぐにつく。

 

キューポラから顔を出すと各高校の生徒達が手を振って出迎えてくれるのが見えた。

 

「みんな、祝勝会楽しみだね!!」

 

「はい、私もお腹が空きました」

 

「甘い物が必要だ、糖分が足りない」

 

「うう…でもあれだけいろいろ料理があるとカロリーが…」

 

「私は各校の皆さんと戦車について熱く語りたいです!!」

 

凱旋と呼ぶには距離は短くても、人も少なくても。

 

それはまるで、俺と彼女達との小さな凱旋パレードのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…もちろん、俺が遅れた事に一部の連中は文句たらたらだったのは言うまでもない。いや、そこは蝶野教官が悪いでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「よーし!みんな、グラスは持ったかー!!」

 

祝勝会、テーブルを囲んでズラリと並ぶ各高校に向けて会長が音頭をとる。

 

大洗学園、聖グロリアーナ、サンダース、アンツィオ、プラウダ、黒森峰。

 

もちろん隊長達だけじゃない。料理を用意してくれ、会場の準備をしてくれた各高校の生徒が大勢だ。

 

「「「「「イェーイ!!」」」」」

 

わりとどの高校もノリノリだよね…、俺はこういうノリは苦手だから絶対やらんけど。

 

驚いたのは黒森峰もわりとノリノリだという事だ。いや…普段からノンアルコールビール飲んでるんなら違和感もないが。

 

「ほら、エリカさんも、イェーイ、ですよ?」

 

「嫌よ、私はやんないわよ」

 

「イェーイ」

 

「…え?まさかあいつもやってるの?」

 

赤星がやるなら俺もやる、はっきりわかんだよね?

 

「干し芋は持ったかー!!」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

続けてしーんとなる会場内。そりゃそうでしょうよ、これだけ静まってるのにダメージを全く受けてない会長のメンタルがヤバい。

 

「あ、あの…会長」

 

「それじゃあ乾杯の前に…隊長」

 

「え?はい…」

 

突然呼ばれて驚いている西住に会長はにっこりと微笑む。あの笑顔の時は大抵なにか良からぬ事を企んでいる時だ。

 

「何か言え」

 

「えぇ!?」

 

ここでこの無茶ぶりである。この手の『何か面白い事言って』系の雑な前振りはとにかくひどい。なにがひどいかって、その後何を言っても笑える確率は低いからである。

 

「えと…、その、あの……」

 

案の定西住もしどろもどろだ。そんな彼女を会場の全員が見つめているので西住は視線をあちらへこちらへ。

 

決勝戦の西住が嘘のようなおどおどっぷりである。

 

「パ、パンツァー…フォー!!」

 

「「「「「「おーーーーーーーー!!」」」」」」

 

あ、上手い事言うの諦めて逃げたな、これ。




次回はおそらく最終回となるでしょう、ここまで読んで下さった皆さんに最大級の感謝を!!

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