やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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あんこうチームの自宅なんですが五十鈴さんと武部さんは作中でも描写がないのであえて濁してますのでそこん所はよろしくです。

ハロウィンはとっくに過ぎちゃいましたがまだまだ続くハロウィンのお話。


それは彼とウサギ達のハロウィン・ウォー【その2】

「比企谷先輩、どうぞどうぞ!!」

 

ハロウィン仕様のM3リーだが、外側だけかと思いきや内装もバッチリ侵食済みである。

 

「お前らこれ後でちゃんと戻せよな…」

 

「えー、せっかく飾り付けしたのに」

 

「ハロウィンっぽい色に塗るの大変だったんですよ!!」

 

そういやM3リーをピンク色にした時も思ったんだけど君達、塗装能力高いよね?戦車道始める前から変なスキル持ってんな…。

 

「えーと、比企谷先輩は…」

 

「そこのいつも空いてる席でいいんじゃない?」

 

案内されてM3リー内部に座る。その転校生に対する都合良く空いてる席みたいなのってなんなの?

 

「そういえばなんでここ誰も座ってないんだっけ~?」

 

…おいちょっと待て、戦車道全国大会優勝校チーム。

 

「M3リーが本来七人乗りだからだろ…」

 

一年共のウサギチームは六人と大洗のチームでも大所帯ではあるが、M3は更に一人定員に余裕がある。

 

「あ!だったら私!七人の方が良い!!」

 

運転中の阪口が何故かテンション高く声をあげる。

 

「どうして?桂利奈ちゃん」

 

「だって七人って何か格好良くない?」

 

正直わかる。侍、ガンマン、アイドル、大罪、オタクだって七人揃えばなんか格好いいのが7という謎の魅力なのだ。

 

「じゃあこれからは練習試合の時は比企谷先輩に乗って貰ったら?」

 

「は?なんでだよ?」

 

「そしたらちょうど七人ですし、それに比企谷先輩っていつもカメさんチームじゃないですか?」

 

「…そうだな」

 

別に深い理由がある訳でもないが、なんとなく最初に乗った流れから大抵はカメチームに搭乗している。

 

いや、理由はあったわ。練習試合となると露骨に干し芋食いだして働かない人いるからね、あそこ。

 

七人の戦車乗り…これは映画化待った無しだな。

 

「まぁM3は七人兄弟の棺桶とも言われてるけどな…」

 

そもそもが七人ってあんまり生存率良くないんだよなぁ…。

 

「えー、なんか縁起悪い…」

 

「すいません、やっぱり無しでいいですか?」

 

「お前らな…」

 

最近の一年共の俺に対するこの扱いよ、やっぱりいっぺんどっかでシメるべきか。

 

「でも、たまには私達と一緒に戦うのも良いと思いますから、その時はお願いしますね」

 

「まぁ、考えとく」

 

うーん…、こんな中でも目立つのは澤の真面目っ子ぶり、やっぱり苦労してそうだなぁこの子。

 

「んで、ハロウィンで家まわるんだろ?どこ行くの?俺ん家?」

 

「いや、比企谷先輩の家はさっき行ったばかりじゃないですか」

 

「何か忘れ物ですか?」

 

「いや、帰る為だが?」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

一年共の沈黙がキツい、誰か何か言えよ。ほら丸山、ここが喋り所だぞ?

 

「こういう先輩にはならないようにしないとね…」

 

「うん、そうだね…」

 

喋ったら喋ったで余計キツいんだが。あと、結局丸山は喋んないのね…。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

【五十鈴宅】

 

「…なんだこれ?」

 

「なにこれ?」

 

「ハロウィン…なのかな?」

 

そんな訳でハロウィンお菓子強奪隊の次なるターゲットは五十鈴なのだが…五十鈴宅に着くなり、俺はもちろんだが一年共もそろって全員その異様な風景に言葉がそれしか出てこない。

 

ハロウィンといえばカボチャをくりぬいて人の顔にしたアレ、ジャックオーランタンを誰もが想像すると思う。

 

それが五十鈴宅にも置いてある。まぁハロウィンだし、置いてある事自体は不思議でもなんでもないんだろうが。

 

ただ問題は置いてあるジャックオーランタンの全てに花が生けられている事である。何を言っているのかわからんだろうが安心しろ、俺もわからん。

 

ジャックオーランタンは提灯代わりに用いるものだが、明かりの代わりに詰め込まれた花がくり貫かれた頭から飛び出している。

 

それが一つだけではなく、いくつも置いてあるのが余計異様な光景に見える。魔界への入り口か何かかな?

 

「…帰るか」

 

俺の第六感が告げている、これは直帰もやむ無しである。ラストダンジョンへ向かうにはさすがに準備不足すぎる。

 

「えー、せっかく来たんですよ!突撃しましょうよー」

 

「とっつげきぃ~!!」

 

なにそのポジティブな突撃精神、知波単の影響でも受けちゃったの?

 

一年共が呼び鈴を鳴らす。…まぁ別に魔王が出てくる訳ではないが、ちょっと雰囲気に押されてビビりすぎてたな。

 

「はい?」

 

五十鈴さん登場、ただし、その手には鋭利な刃持ち。

 

「きゃー!!」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

トリック・オア・トリートの決め台詞を前に敗北する一年共である。

 

ちなみに五十鈴の持つ鋭利な刃とは華道用のハサミである。たかが華道用のハサミで大袈裟なと笑ってる奴が居るならその認識は間違いである、ここでは詳しくは話さないが。

 

「えと?ウサギさんチームの皆さんに比企谷さん、どうかしましたか?」

 

当の本人はいたっていつも通り、状況がいまいち飲み込めず困惑はしているが。

 

「いや、むしろ五十鈴がなにしてんだ?」

 

なんなのこのジャックオーランタンの惨劇、カボチャになんか恨みでもあるの?

 

「私ですか?その…少しお恥ずかしいのですが、華道で新しい作品にチャレンジしようかと」

 

「これが…?」 

 

この魔改造されたジャックオーランタンが五十鈴の新作挑戦の結果らしい。

 

「ハロウィンの話を聞いてふと、カボチャが花器の代わりにならないか試していた所なんです」

 

「…あぁ」

 

そういや前も戦車型の花器で生花の作品を作ってたなぁ。

 

「ハロウィンは元々秋の収穫をお祝いするものですから、せっかくですし秋のお花を生けてみようかと」

 

うーん…そう言われるとこの禍々しいジャックオーランタンの惨状も立派な華道の作品に見えなくもない。

 

「それで、皆さんはどうしたんですか?」

 

「あ、そうでした!!」

 

「五十鈴先輩、トリック・オア・トリート!!」

 

ようやく本来の目的を思い出したのか、一年共がお決まりの台詞を告げる。

 

「ふふ、ハロウィンですもんね。わかりました、少しだけ待っていて下さい」

 

そんな不躾な一年共にも五十鈴は柔らかく微笑むとお菓子を取りに行く、うーん…さすがお嬢様。

 

「ちょうど作っていたものがあったので良かったです、どうぞ」

 

五十鈴が持ってきたものは…カボチャを使ったクッキーか。

 

…うん?今作ってたって言った?

 

「待て五十鈴、これお前が作ったのか?」

 

俺の知る限り五十鈴の料理スキルは包丁も握った事のないレベルだったはずだ、前に西住の家で誤って手を切ってしまった事もあった。

 

「比企谷さん、私だって最近は沙織さんからお料理を習っているんですよ」

 

五十鈴が、普段の彼女からすれば珍しい少しだけムッとした表情を見せる。いや…だって、ねぇ?

 

「それなら比企谷さん、どうぞ御一つ、食べてみて下さい」

 

ズィッと目の前にカボチャのクッキーを差し出された。同時にじっと五十鈴に見つめられて、料理の腕前以前にとても食べにくい雰囲気である。

 

「…それとも、悪戯の方がお好みですか?」

 

「あ、いや…その」

 

…待て、ちょっと待ってね五十鈴さん。この雰囲気でそういうのはちょっと。

 

「…いただきます」

 

カボチャのクッキーを一つ取り食べてみる。口に広がるほのかな甘み、普通に美味い。

 

「…どうでしょうか?」

 

さっきまでやたらとぐいぐい来たと思ったら、今度は急に不安そうに俺の表情を見つめてくる。

 

「いや…美味い、うん」

 

「そうですか、お口に合って良かったです」

 

俺の答えを聞いて安心したのか、五十鈴も満足気に微笑んだ。

 

「…マジで料理、勉強してんだな」

 

武部の料理教室がどんなものかは知らないが、小町もメキメキと料理の腕を上げている辺りなかなかのものなのだろう。…あいつはいったい何処を目指しているのか?

 

「いえ、私なんてまだまだです。作れるお料理も少ないですから」

 

いや、それでも以前と比べたら格段に進歩したといえるだろう。

 

「あ!でも最近はカボチャ料理を作る事が多いので、カボチャを使ったお料理になら少し自信があります!!」

 

少しだけ自慢気に告げる彼女に、俺はあえて考えないようにしていた事を思い出してしまいそうになる。

 

「あ、あの…比企谷先輩」

 

「ん?どうした澤」

 

ちょいちょいと俺の服を引っ張ると澤が恐る恐る小声で話しかけてくる。

 

「ここにあるカボチャって、全部五十鈴先輩が中身をぬいたんですよね?華道の作品の為に」

 

「…そうだな」

 

「じゃあ…そのくりぬいた中身はどこに?」

 

「それ以上は考えるな」

 

君のような勘の良いガキは嫌いだよ、とか言われちゃうよ?

 

このカボチャのクッキーもくりぬいた中身の一つではあるだろうが、この大量のジャックオーランタンの消えた中身については謎のままにしておこう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

【秋山宅】

 

「あれ?ウサギさんチームの皆さんに比企谷殿、みんなで散髪ですか?」

 

「んな訳ないだろ…それより秋山、ほれ、見てみろ」

 

実家が床屋という事で床屋の真ん前に戦車を停める。これ、完全に営業妨害なんじゃないかなぁ…。

 

「って!うわぁあ!M3が!M3がまた見る影もなくぅ!!」

 

それだよ、それを聞きたかった!!(BJ感)

 

「ひどい!あんまりです!!」

 

うっうっうっと項垂れる秋山、その気持ち、よくわかる。

 

「あのー、秋山先輩」

 

「トリック・オア・トリート」

 

「お前ら鬼か悪魔なの?」

 

よくこの状態の秋山に追い討ちかけられるよね。もう止めて!秋山のライフはとっくに0よ!!

 

「いや、でもそこはほら、ハロウィンですから」

 

「悪魔は悪魔でも、小悪魔~的な?」

 

上手い事言ったつもりかよ…、そもそも宇津木に関しては別段ハロウィン以外でも小悪魔的な気がしてならないんだが?

 

「まぁそんな訳で、戦車のあれは今日だけらしいから大目に見てやれ」

 

「比企谷殿がそう言うなら…、えっと、お菓子ですか、散髪してくれた子供達には配ってるんですけど」

 

まぁそこは商売ですもんね。そういや学園艦で床屋って儲かるのかな?秋山からはあまり景気の良い話は聞かないが。

 

まぁ普段海の上の学園艦だし、床屋の数も限られてる。そうすると自然と固定客も多くなるのだろう。

 

「どうしよっか?」

 

「誰か髪伸びてない?」

 

「私はまだ切らなくていいかな?」

 

「私もまだー」

 

「………」

 

「紗希もまだ切らないって」

 

一年共の作戦会議だが…まぁそう都合良く髪伸びてる奴なんて居ないよね。

 

ひとしきり作戦会議を終えた一年共は一斉にチラッとこちらを見る。

 

「比企谷先輩、髪はーーー」

 

「切らねーから」

 

うん、そんな事だと思ったわ。

 

「でもほら、前から気になってたんですけど比企谷先輩、不自然に髪の毛立ってる部分あるじゃないですか?」

 

「そうですよ、そこをひと思いにバスッと!!」

 

「いや、いかねーから…」

 

あと不自然に髪の毛立ってる部分には触れないでくれる?そこはほら、なんかアニメとかでも触れちゃいけない聖域みたいな所あるじゃん?

 

「比企谷殿も私と同じで癖ッ毛なんですよねー」

 

「お、おう…」

 

アホ毛って癖毛に分類していいのか?いや、だからそこら辺は触れちゃいけない聖域だから。

 

「お菓子じゃないけど、これで良ければ…」

 

秋山がリュックを持ち出すとそこに入っていたのは。

 

「ジャジャーン!各国レーション!!」

 

だろうなー、そんな事だろうと思ったわ。

 

「レーションって?」

 

「まぁ簡単に言えば携帯食、野戦食だな。今じゃ災害時とかにも使えるか」

 

「へー、あ!これ美味しそう、名古屋煮込みハンバーグだって」

 

「こっちには中華丼まである!!」

 

「これ、本当に持って行っていいんですか?」

 

「もちろん、あとこれとそれも持ってっちゃってね」

 

一年相手なので当たり前だが敬語を使わない秋山ってわりと新鮮だなーと思いつつ、然り気無く秋山が手渡したレーションがアメリカ製品のヤツなのを俺は見逃さなかった。

 

「…また大量注文したのか?」

 

「や、安かったのでつい…」

 

いや、だから安くてもなんで大量に買っちゃうのよ、全部食べれないのは明白でしょ?

 

「そ、備えあれば憂いなしとも言いますし!!」

 

「結果、その備えをこうやって配ってる訳だけどな」

 

「で、ですが比企谷殿もレーションを持っていればもしもの時も安心ですよ?」

 

「俺にはマッ缶があるからな、10秒チャージで二時間はキープできる。肉体疲労にも最適の飲み物だからな、レーションなんて必要ない」

 

レーションを箱買いするならマッ缶を箱買いする。

 

「いいんですか?比企谷殿、私にはとっておきのレーションがあるんですよ」

 

「とっておきねぇ…」

 

生粋のミリタリーオタクな秋山と違って俺はそこまでガチという訳ではない、軍事全般でいうなら知識量は秋山の方が上だろう。

 

だが、だからこそとっておきのレーションと言われてもいまいちピンとこないのだが。

 

「ラーメンのレーション…、その名もチャーメンです!!」

 

「…なん、だと?」

 

それは…ちょっと、いや、だいぶ気になるじゃないか。

 

「すまん秋山、俺が悪かった。レーションも悪くないよな」

 

「…さすがに変わり身が早い気がしますが」

 

いや、だってラーメンのレーションとか超気になるじゃん?

 

まぁそもそもインスタントラーメンだってレーションみたいなもんだけどね、やはりラーメンは強いのだ。

 

「んで、そのチャーメンってのはどれなんだ?」

 

「これです」

 

秋山からチャーメンなる物の袋を受け取る。

 

イギリス国製だった。

 

俺はそっとチャーメンを元の場所に戻した。

 

「な、何故ですか!?比企谷殿ぉ!!」

 

いや、だってイギリス国って聞くと…ねぇ?むしろこれ、ダージリンさんに送ってあげた方が良いんじゃないかな?


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