やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
皆さんのGW中のせめてもの暇潰しとなれれば幸いです。
昨今のアニメ界隈では第三話の悲劇なるキーワードが存在しているのを知っているだろうか?
有名なところではあえて名前を伏せるが其魔法少女アニメの第三話にて、とあるベテラン魔法少女がマミった事で一躍有名になったのでこのキーワードに聞き覚えのある者もいるだろう。
しかし主要の人物が第三話に死亡する…というのはなにもその魔法少女の話だけでなく、わりと昔からある展開だったりする。
1クール、およそ12話のアニメ構成の中で第三話とは起承転結の起の終わり、物語のターニングポイントになる事が多いのだ。
つまりこれは製作陣がそのアニメの世界観を伝えるには三話はかかる、ともとれる。
我々はこの事から学ぶ事が多い、例えばアニメを一話切りしてはいけないとか、ライトノベルを一巻だけで判断してはいけないとか。
それは得てして人にさえ当てはまる時がある、第一印象だけで人を判断してはいけないと、せめて第三印象くらいを得て判断すべきだと。
俺が間違っていた、七ツ見 エリカ、いや…逸見 エリカは実は良い奴だったのだ!!
「黒森峰はドイツをモチーフにした建物が多いんですよ、ほらそこの建物とか見てください」
すぐ横から聞こえる天使の囁きに思わず将来はドイツ風のおうちに住みたいよね!とか言ってしまいそうになる。
現在、姉住さんのポルシェで移動中なのだが運転席は当然姉住さんが運転中だ、そして逸見はすぐに助手席へと陣取った。
もうマジすぐ、速攻、ちょっと露骨にがっつき過ぎません?あいつ?
だがおかげで後ろの席は自然と俺と赤星が座る事になる、俺の隣には赤星がガイド役を買って出たのか、一生懸命黒森峰の紹介をしてくれている、かわいい。あかわいい星。
サンキュー逸見、見直した。やはり人は第一印象だけではわからないものだ。いや…第三印象どころか話数的には第173印象くらいかかってる気がするが。
だが位置取りが悪く、アウトバーンを走行中の車内で俺の位置は学園艦側、赤星が海側である。
「あそこにはノンアルコールビールの工場もあるんですよ」
「お、おう…あれな」
つまり、必然的に流れる景色を見るはめになっている俺は赤星の横顔を見る事が出来ないのだ、なにこの生殺し?黒森峰流の…いや、西住流の新手の拷問なの?
くそっ…座席が逆なら赤星の横顔を合法的に眺める事が出来たのに、まさか位置取りに失敗するとは。
戦いにおいて位置取りが勝敗を分けるのは明白である。あの円の達人、ノブナガさんだって位置取りが悪いから風呂敷に包まれたもんね!
「なによあんた、さっきから気持ち悪いわね」
と、助手席からこちらを睨み付けるのは逸見…いや、八ツ見 エリカだ、やだ…八幡と八で被っちゃった。
「…もしかして車に酔ったのか?だとしたら私の運転にも問題があるが」
「そんなはずありません!隊長の運転は完璧です!!それにこの男は元々気持ち悪いですから気にする必要はありません」
「フォロー入れる為に人ディスるの止めてくんない?」
うん、結局はやはり人は第一印象が8割、アニメならアバン9割、ライトノベルなら挿し絵が10割を占めちゃうのが現実なんだよなぁ…。
とはいえ、俺が勝手に盛り上がって盛り下がったのだ、そこに姉住さんが責任を感じる必要はないだろう。
そもそも姉住さん、普通に運転上手いしね。ハンドルさばいている姿が絵になる、たぶん何をさばいても絵になるんだろうなぁ…、あんこうさばいたりとか。
「本当、運転上手いですね」
「戦車操縦の応用だ、上手い…というより経験だな」
当然、戦車事に操縦系統は違うが、例えばうちのカモチームのルノーなんかも操縦はハンドル操作だ。
子供の頃から戦車を動かしていたと聞く姉住さんだ、車の運転もその延長線上なのだろう。
そういや西住はそこん所どうなんだろ?操縦は苦手とは聞いていたが。
「免許取るの大変だったでしょう?」
「隊長が?そんな訳ないでしょ?この運転技術よ」
「何言ってんだてめぇ?」みたいな圧が助手席から飛んでくる、運転については俺も文句はない、完璧だ。
「免許取得に必要なのは運転試験だけじゃないだろ」
「えっと…それって筆記試験の事ですか?」
「そうそう、それな、マジそれ、むしろそっちが一番ヤバいまである」
「はぁ?何言ってるの、隊長は筆記だって完璧よ」
「…いや、比企谷、もしかして君は運転免許の試験を受けた事があるのか?」
「え?隊長!?」
「いや、前に自動車部に筆記試験の過去問見せて貰いましたからね」
というより無理やり見せて来たと言った方が正しいか、バレー部の影に隠れがちだが自動車部も部員獲得にわりと手段を選ばないんだよ。
そもそも現部員4人の内ツチヤ以外の3人は三年生、卒業組だ、ぶっちゃけバレー部より状況が悪い。…来年マジどうしよ?
「じゃ問題な、原付き…『原動機付き自転車は公道を50km以上で走ってはいけない、○か✕か』」
「原動機付き自転車って確か…30km以上で走ったら駄目、ですよね?」
「簡単じゃない、答えは○よ」
はいぶぶー、とそういうスイッチが用意してあるなら押してやりたい。
「答えは✕な」
「ハァ!?嘘つくんじゃ…」
「エリカ、✕で正解だ」
「隊長まで!?」
「あの、どうして✕なんですか?」
「赤星もさっき言ったろ、原動機付き自転車は30km以上で走ってはいけないって、それが正解だ」
決められた速度は30km以上なので問題文が50km以上というなら間違っている、という理屈らしい。
決められた速度が30kmなら50kmもアウトだと思うんだけどなぁ…。
「えと…それって正解にも不正解にもとれるんじゃ?」
赤星はかしこいなぁ。そんな赤星に更なる理不尽を与えるのは個人的に気が引けるがこれも将来、赤星とドライブに行く為だ、許して欲しい。
え?俺赤星に運転させんの?控えめにいって情けなくない?
「じゃあ次な、『夜の道路は危険なので気を付けて運転しなければならない、○か×か?』」
「そりゃ…○よね」
九ツ見君の答え!!はいぶっぶー、次回の回答権剥奪です。
「不正解な、答えは✕」
「はぁ!?なんでよ!!」
「エリカ、✕なんだよ…」
「えぇ…?」
姉住さんは沈痛な表情を見せる、さすがは免許取得済み、顔付きが違う。
「いいか?車は昼夜問わず気を付けて運転しなきゃ駄目だぞ、戦車と同じだ」
「さっきの問題といい日本語がおかしいだけな気がしますけど…」
そうなんですよ、自動車取得の為の筆記試験を受けていたらいつの間にか日本語のややこしさを存分に味わう羽目になる、それが自動車免許の筆記試験である。
ともかく、免許問題は出題側が必ずこういう悪意あるひっかけ問題を用意してくるのが通例なのだ。何故かは知らん。「簡単に免許取られたら悔しいじゃないですか!!」の精神が出題側にあるとしか思えない。
「結局、正解不正解なんてのは考え方次第なんだよ、どちらにもとれる問題出してふるいにかけるのが目的なんだから」
出題側の意図を読み取り○か×かを判断するこの試験は半ば心理戦のようである。自動車どこ行った?
「…自動車免許の問題ってあんたが作ってるんじゃないの?」
いや、俺もよほどひねくれた奴らが作ってるとしか思えないけどね。むしろよくこんな悪意のあるクソ問作れると感心さえする。
まぁ、世の中試験と名の付くものは往々にして理不尽が付きまとうものだ、というか世の中がもう理不尽まであるが。
…自動車免許かぁ、やっぱ将来的には持っていた方がいいんだろうなぁ。
小町や赤星を助手席に乗せて頭文字をDに運転する俺の姿が目に浮かぶがこの場合のDはdeadのDになる気がしてならないので考えものである。
ーーー
ーー
ー
「着いたな、ここでプレゼントを買うつもりなんだが」
ようやく目的地に到着したのか、姉住さんが駐車場に車を止める。
あぁ、着いてしまったか、赤星とのドライブもここまで…帰りは絶対横顔を見ていても不自然にならないポジションをゲットしよう。
「ここは…?」
黒森峰といえば厳粛なイメージが付きまとうがここはいくつかの店舗が集まっていて人で賑わっている。
「はい、アウトレットモールみたいなものと思ってもらえたら」
「なるほど…」
まぁアウトレットだよね、もちろんわかる。なんたって大洗にも大洗シーサイドステーションというアウトレットは存在している。
ちなみに旧名は大洗リゾートアウトレット、なぜリゾートの部分が消えたのかは各人調べてその歴史を知って欲しい。大洗はリゾート地、皆さん一度は来てみてね。
数多くの店舗が密集するアウトレットモールならば西住へのプレゼントを探すのにはうってつけという訳だろう。
「でも…」
それはわかる、だがわからない事はそもそも…だ。
「西住へのプレゼントなら本人連れて来るのが一番でしょう?」
いや、マジこれ。そもそも最初からずっと考えていたのだ。
今日の主目的は西住へのプレゼント、それなら西住本人を呼んで直接選んで貰えばそれで済む話ではないか?
「…せっかくの贈り物だ、より効果の高い方法をとりたい」
「…つまり?」
「戦場で最も効果的な戦術というならやはり奇襲作戦だろう、相手の不意を突いてこそ、高い戦果を得る事ができる」
「妹に不意突いてなにするつもりなんですか…」
うーん…、ちょっとこの人、スキルポイント戦車道に極振りしすぎじゃないですかね?痛いのが嫌だったから極振りしたのかな?
「よ、ようするにサプライズですよ!サプライズ!!」
フォローするように赤星が両手をパンと閉じる。なるほど…これがサプライズか、尊すぎて確かに効いたぜ。
「サプライズねぇ…」
しかしなんかもう、この言葉だけでどうにも乗り気になれない、サプライズとかいかにもウェイ系が好きそうなイメージが強いのだ。
「そもそもあんた、プレゼントとかしたことあるの?もちろん家族以外よ?」
十ツ見 エリカが疑うようにジロッと俺を見てくる。はっ!見くびって貰っちゃ困るな。
「ガキの頃貸したマリオテニスが返って来ないんだけど?それって贈り物にカウントされんの?」
「隊長、この男、絶対役に立ちませんよ」
ちょっと判断早すぎませんかねぇ…。いや、マジで返って来ないというか、貸したら急によそよそしくなって一切遊ばなくなったんだよ。
翌日からそいつは別の奴らと教室でマリオテニスの話題で盛り上がってたなぁ…。
「じゃあお前は役に立つのかよ?」
「ふん、なんで私があの子のプレゼントを選ばなきゃならないの?」
「いや、何しに来たんだよ…」
姉住さんに誘われてウキウキだったのに目的が西住へのプレゼントと聞いて落胆したこいつの表情が目に浮かぶ。
ついでに俺も居ると聞いて目が死んでたりしないだろうか?
「と、とにかく!いろいろ見て回りましょう!ね?」
俺と十一ツ見 エリカの間の険悪なムードを察知してくれたのか、赤星が間に入ってくれる。
「そうだな…」
アウトレットモールのフロアマップに目を通すと様々な店舗があるようで、規模の広い。
「とりあえず効率良くするためにローラー作戦で手分けします?」
「ふむ、確かにそうすれば全ての店舗を網羅できるな」
「そうね」
「じゃあ集合場所をここにして一時間後くらいに合流します?俺ちょっと地理に疎いんで赤星が居れば助かるんですけど」
スキルポイント戦車道極振りな姉住さんにこの効果的な作戦の異論がある訳がなく、十二ツ見 エリカはそもそもプレゼントを選ぶ気がない。そして俺は赤星とショッピング、控えめに言って最高の采配では?
「えぇ…あの、みんなでお店をまわるんじゃないんですか?」
「しかし、これだけの広さに加えて店も多い、ならば速やかに店舗をまわる必要がある」
「みほさんへのプレゼントも大事ですけど、私達…今日はみんなで遊びに来たんですよ?」
…いや、その、なんかごめんなさいね。ほんと。あまりこういう事に慣れてないんで。
「…あぁ、そうだな。すまない小梅、あまりこういう事に慣れてなくてな」
姉住さんが少し戸惑いながら赤星に謝るというなんとも珍しい場面を見た。あと姉住さんの答えが俺と全く同じ事にぼっちシンパシーを感じてしまう。
「…遊びか、あぁ、そうだ。今日私達は遊びに来たんだったな」
繰り返して呟くその言葉に姉住さんは頬を少し緩ませる。
…そんな物見せられたら、こっちだって付き合うしかないだろう。
見れば十三ツ見 エリカも同じ気持ちなのか、少し柔らかい表情で姉住さんの言葉を待っていた。
「それでは、みほへのプレゼントを探しつつ、全力で遊ぶとする。各員、店先の商品に注意しろ」
…うーん、この戦車道脳さんめ、そしてシスコンさんめ。
問題『赤信号では必ず停車しなければならない』
答え『×』
問題『青信号ならば進んで良い』
答え『×』
問題『車は交通標識を守らなくてはならない』
答え『×』
問題『車の窓から空き缶を捨ててはいけない』
答え『×』
※マジで出た過去問です。
書き終わって気づいたけどエリカさん車の免許くらい持ってるよね…、まぁそこは多少ね?