やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
俺ガイル三期ついに来た!嬉しくもあり、終わっちゃう悲しさもあり、ガルパンも最終章進むとこうなるだろうなぁ…。
それはまだ、戦車道全国大会も始まる前のお話。
大洗学園という高校が聖グロリアーナ女学院に練習試合の申し込みをした日の事である。
「大洗学園との練習試合、受けるんですか?」
電話を終えたダージリンが受話器を置くと会話を聞いていたオレンジペコ少し驚いた声を上げた。
聖グロリアーナ女学院といえばかつて戦車道全国大会にて準優勝経験もある、高校戦車道において4強の一角とも数えられている。
そんな自分達を相手に聞いた事のない高校がいきなり練習試合を申し込んで来たのだ、聖グロリアーナからすれば不躾な申し出と言ってもいいだろう。
「えぇ、受けた勝負は逃げませんわ。それに…私達を試合相手に指名する、それには何か意味がありそうじゃなくて?」
「…よほど自信がある、という事ですか」
そうでもなくては、初試合にわざわざ強豪校を相手になんて選ばないだろう、オレンジペコはなるほどと頷く。
「大洗学園ですか…確かにデータは残っていますが、どれも古いものが多いですね」
アッサムが早速聖グロリアーナのデータベースにアクセスし、大洗学園の情報を調べてみるがそこにあるのは20年も前のものばかりだ。
「昔戦車道をやっていて、最近復活させた…との事ですが」
「データを見ればかつてはかなりの強豪校だったようですね、この戦力のままだとすると…厄介な相手になるかと」
戦車が残っているのなら、それはそのまま戦力となる。今年戦車道を再開させたのにも何か理由があるのだろう、と。
「案外、今年の全国大会の台風の目になる、事もあるわね」
「ダージリン様はそれも踏まえて練習試合を受けたんですね」
「ふふっ、さぁ…どうかしらね、ペコ、紅茶のおかわりを貰えるかしら?」
「はい、ダージリン様」
不敵に微笑みながらカップを差し出すダージリンにオレンジペコはティーポットで紅茶を注ぐ。
「………」
それを受け取ったダージリンだが、すぐに紅茶に手をつけず、注がれた紅茶を眺めていた。
「あの…ダージリン様?」
「…ペコ、あなたマックスコーヒー…という物は知っていて?」
「…はい?」
ふと、ダージリンからかけられた言葉にオレンジペコは思わず聞き返してしまった。
「えぇっと…コーヒー、でしょうか?私は紅茶派なのでコーヒーはあまり詳しくは…」
「えぇ、そうよね、私達はみんなそうですもの」
「紅茶は私達、聖グロリアーナの生徒の嗜みですからね」
そう、聖グロリアーナといえば紅茶、紅茶といえば聖グロリアーナと言っても過言ではない。
それはティーポットとカップをイメージした校章から物語っており、社交性を重んじる聖グロリアーナの生徒は定期的にお茶会を開く義務さえある。
もちろん戦車道においてもそれは強く反映されており、彼女達の名前はもちろん、『どんな走りをしても紅茶を溢すような真似は淑女として恥ずべき』と厳しく規則されている。
彼女達の居る場所も【紅茶の園】とまで呼ばれ、聖グロリアーナ生徒にとっては憧れの場所だ。
それほど、聖グロリアーナ女学院にとって紅茶とは、切っても切れない関係なのである。
「あの、ダージリン様、もしかしてコーヒーが飲みたかったんですか?」
「まさか、私ももちろん紅茶派でしてよ」
それは聖グロリアーナ女学院戦車道隊長のダージリンにとっても当然の嗜みだ、ダージリンの名前も代々受け継いだ大切な紅茶の名前である。
「ただ、今回の大洗学園…一つ気になる事があるの」
「…はぁ、確かにデータがないのは気になりますが」
「そこは試合をしてみないとわからないでしょう?違うのよペコ、大洗学園は…共学なのよ」
「た、確かに…今回電話をしてくれた人も男の人でしたし、少し緊張しちゃいました」
少し恥ずかしそうにオレンジペコは答える、電話での対応こそ努めて平静を装ってはいたが…実際の所かなり緊張をしていた。
聖グロリアーナ女学院は名前の通り女子校であり名門校だ、となればそこに通う生徒は生粋のお嬢様ばかりになる。
学園内にも女子が多いのは当たり前だが、教師等の大人以外、つまり同世代の男性となれば彼女達にとって未知の存在とも言える。
「ど、どうしましょう…ダージリン様、私、なんだか緊張してきました」
大洗学園との練習試合となれば、男性…少なくとも電話の相手は確実に来るだろう、その時どう対応すれば良いのか?
戦車道は乙女の嗜み、今まで同世代の男性に会う機会が少ないとなれば緊張してしまうのも無理はないのだ。
「落ち着きなさいペコ」
「ですがダージリン様!もし何か粗相があれば聖グロリアーナの品位が…」
少し大袈裟だが、聖グロリアーナ女学院はお嬢様学校。となれば他校相手にはそれ相応の対応が求められるというものである。
「男性相手のもてなし方、これは…データにもない難問ですね、お茶会を開くにもどんな紅茶が好みなのか…」
「データがないなら私達で作れば良いのよ、アッサム、その為の情報を手に入れたわ」
「さすがね!ダージリン」
「ふふっ、いらない取り越し苦労をするより、前もって計画する方が大事なのよ」
「チャーチルですね。ダージリン様、それってもしかして…」
「えぇ…マックスコーヒーよ」
【マックスコーヒー】電話での僅かなやり取りの中で相手が好みと答えた飲み物がそれである。
あまりの即答と突拍子の無さにダージリンが戸惑いを見せた程の未知なる飲み物、それがマックスコーヒーなのだ。
「もちろん、我が校の紅茶で満足して貰えればそれで良いのだけど、何かの参考にはなるでしょう?」
「そうですね、相手の好みがわかれば、それに合わせた茶葉も用意出来ますし」
「ですがダージリン、私達はマックスコーヒーという物を飲んだ事が…」
そう、そこでこの問題である。普段紅茶を嗜む彼女達にとってはマックスコーヒーもまた、未知の飲み物だ。
名前からコーヒーだという事がわかっても、それがどんなコーヒーなのかがわからない。
「誰か…マックスコーヒーを知っていそうな人がいれば良いんですけど」
ふと呟いたオレンジペコの一言にダージリンが顔を上げる。
「アッサム、ローズヒップをここに呼んでちょうだい」
「なるほど…彼女なら」
アッサムもダージリンの言いたい事がわかったのか、ローズヒップに連絡を入れる。
そこからは数分もかからなかった、ドタドタと廊下を走る音が聞こえたと思ったらローズヒップがバタンッとドアを開ける。
「お呼びでごさいますか!ダージリン様!!」
「ローズヒップ…廊下は走ってはいけませんと何度も言っているでしょう、それに扉はもっと静かに」
「あはは…ダージリン様に呼ばれて急いで来たんですよ、きっと」
ハァ…と額に手を当てるアッサムにオレンジペコがフォローをいれる。
この一連の流れで理解しただろうが、赤毛かかったこのローズヒップという少女は聖グロリアーナの中でも風変わりな生徒である。
「ローズヒップ、あなた…マックスコーヒーという物は知っていて?」
「マックス!もちろんでございます!私、スピードは常にマックスでございますから!!」
「そういう事を言ってるんじゃありません…」
「マックスコーヒーという飲み物があるらしいんですが…ローズヒップさんは飲んだ事がありますか?」
「もっちろんでございますよ!オレンジペコさん!マックスといえばこの私、学園艦に来る前はよく飲んでましたから!!」
「それは良かったわ。ローズヒップ、私達もそのマックスコーヒーを一度飲んでみようと思っていたの、今度のお茶会で用意出来ないかしら?」
「わ、私が…皆様のお茶会の用意を!?」
ローズヒップからすれば…というより、聖グロリアーナの生徒にとってそれはとても名誉な事でもある。
紅茶の園はそれほど聖グロリアーナの生徒の憧れの場所なのだ。
「わかりました!このローズヒップ!粉骨砕身の思いでマックスコーヒーをご用意いたしますわ!!」
そう言うとローズヒップは返事も聞かずにまた走り出してしまった。
「あぁ、また廊下を走って行ってしまって…」
「それほど嬉しかったんでしょう、あれだけ張り切ってくれているもの、楽しみに待ちましょう」
優雅に答えて見せたダージリンだが、その言葉は次のお茶会で後悔のものとなる。
次のお茶会、ローズヒップが用意したものはまさに彼女達聖グロリアーナ生徒にとって未知の物。
「えぇと…これは?」
「はい!マックスコーヒーですわ!!」
用意されたのは黄色のカラーリングに刺々しいギザギザのついた缶ジュース。
日頃ティーポットとカップで紅茶を嗜む彼女達にとってそれはその時点で戸惑いが出てくるのも無理はない。
「ささ!どうぞダージリン様、ぐいっと!!」
「え、えぇ、ありがとう…ローズヒップ」
ローズヒップから缶を受けとるダージリン。笑顔も少しひきつってしまうが彼女があれだけ張り切って用意してくれたものだ、今さら断るつもりはない。
「…せめて、カップにいれましょうか」
聖グロリアーナの生徒として、隊長として、優雅な姿勢は崩すまいと缶を開け、カップに注いだ。
「そうですね、せっかくローズヒップさんが用意してくれましたし」
「えぇ、いただきましょう」
オレンジペコとアッサムもそれに続く、三人の目の前にはカップに注がれたマックスコーヒー。
聖グロリアーナといえば紅茶、紅茶といえば聖グロリアーナ。それほど紅茶と聖グロリアーナは切っても切れない伝統ある関係だ。
もちろん彼女達も紅茶派で、普段コーヒーは飲む方ではないし、これからも紅茶派なのは変わらない。
そんな彼女達がこのお茶会で紅茶以外を飲むというのは、ある種の革命に近い事だったのかもしれない。
「…あら、これは」
それが聖グロリアーナの戦車道に、また、彼女達に与えた影響が吉と出たのか凶と出たのかはその時の彼女には知るよしもないのだろう。
ーーー
ーー
ー
「…そういえば、そういう事がありましたわね」
ふと懐かしむようにその時に使っていたティーセットを見てダージリンが呟く。
まだ一年もたっていないが、それほど今年の戦車道全国大会は彼女にとって思いの強い日々となった。
「ダージリン様、お客様が参られました」
「えぇ、通してちょうだい、ペコ」
オレンジペコに声をかけられ、ダージリンが答える。
優雅に華麗に…平静に、落ち着いたいつもの声で。
それでも…自然と浮わついた声が出ていた事には彼女自身も気付かない。
「ようこそ聖グロリアーナ女学院へ、歓迎しますわよ、マックス」
「…どもッス」
それも仕方ない、戦車道全国大会が終われば…。終わってしまっては『大会で会う』という事もなかったのだから。
「もちろん、お茶の用意はできてますわよ」
「…いや、エキシビションの打ち合わせって聞いてたんですけど?」