やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
アニメ【やはり俺の青春ラブコメは間違っている。完】、みんな是非とも見てねー(ダイレクトマーケティング)。
…ところでメイドさんとかがよくやるスカートの裾ちょっと上げて挨拶するやつの名前なんていうんだろ、動作は説明できるのに名前は説明できない。
「エキシビションについてはこちらの資料にまとめておきましたので、ご確認下さい」
アッサムさんから言われて資料を受けとる、さすが仕事が早いというか…計画性があるな。行き当たりばったりなうちの生徒会にもちょっとは見習って欲しいものだ。
「…試合場所は大洗で良いんですね」
「もちろん、あなた達の優勝記念ですもの」
「そりゃありがたい、移動も楽ですし」
「そこですか……」
オレンジペコに苦笑いをされる、もちろんそれだけじゃない。試合フィールドが大洗となれば地の利はこちらにあるという事だ。
逆にいうと前回は地の利があっても負けてしまった訳だけどね、それに関してはこっちも素人集団だった訳だし、ほら、反則とかやっちゃうのも素人だからね。仕方ないよなー。
「マックスさん、今回は私達クルセイダー隊も参戦いたしますわ!聖グロ一の俊足の力、お見せしますわよー!!」
「…大丈夫なんですか?」
横でふんす!と息を荒くしているローズヒップを見て一気に不安になる、そういやこの暴走特急娘とは直接戦った事は無かったな。
「なにがかしら?」
なにがもかしらも…、大丈夫この子?暴走しすぎて民家に突っ込んだりしない?
「それに、仮に何かあったとしても戦車道連盟から補助金が出るわ」
「いや、それ絶対わかってるでしょ…」
この人もだいぶ良い性格しているよね、蝶野教官が聞いたらまた笑顔で圧かけてきそう、なぜか俺に。
まぁ…前回の練習試合の時点ですでに旅館が一つ戦車に突っ込まれてるんですけどね、その旅館も戦車道連盟からの補助金で新築に建て直されていた。
…うちにも戦車突っ込まねぇかな。いや、補助金狙いとかそれは置いといて、戦車が突っ込むのは縁起が良いらしいし。
なんで縁起が良いのかとか聞かれてもあれだが、まぁ砲弾を受けるのも小町の受験の受かるとかかるし、なんかそんな感じ。知らんけど。
そもそも試合フィールドは大洗町であって大洗の学園艦じゃないから、比企谷家が巻き込まれる事はないんだけどね、それを言うなら実家が学園艦で床屋してる秋山も同じか。
…あいつの場合部屋の戦車グッズがぶっ壊れそうだが、戦車が突っ込んだのなら本望とか言い出しそう。あれ?結構闇が深くない?
とりあえず、ローズヒップが多少暴走しても問題はなさそうという事だ、たぶん。責任は聖グロリアーナにあるし。
「あの時とは違うのは、あなた方だけじゃなくてよ」
「…ですね」
そう、前回の練習試合にローズヒップ率いるクルセイダー隊は登場しなかった、主にローズヒップがやらかしてるせいだが。
機動力に優れた巡航戦車、クルセイダー隊が敵を撹乱している間にチャーチルやマチルダといった強固な装甲と連携力をもつ歩兵戦車が浸透強襲戦術を仕掛けてくる。これが聖グロリアーナの真の戦い方という訳だろう。
「他にはなにか問題はありませんか?」
「…いや、大丈夫だと思いますよ」
ざっと資料に目を通してみても予算的にもスケジュール的にも問題はない、会場が大洗なのも前回試合した実績があるので今回も話せばすぐ用意を進めてくれるだろう。
「では戦車道連盟の方にも話は進めておきましょう」
「じゃ、大洗方面の調整はこっちで進めておきます」
…マジで順調というか、順調すぎてこちらのやることがむしろ少なくて申し訳ないとさえ思えてしまう。
さすが聖グロリアーナ、学校間で合同で何かやるってのはこういうのを言うんだよと。どっかの意識高い系の会議ばっかやってるろくろとか回してそうな生徒会にも教えてやりたいくらいだ。それある!!
「それで、あなたはどの戦車に乗るのかしら?」
「…………は?」
ふと、会った事もないはずの誰かを妙に鮮明に妄想しているとそんな声が聞こえてきた。…は?
「…なんの話です?」
戦車に乗る…?誰が?
不意打ちにそんな事を言われたので思考が追いつかない、今はエキシビション試合の打ち合わせ中のはずなんですが、聖グロリアーナの戦車に乗せてくれるのだろうか?
「もちろん、あなたが試合で乗る戦車の事よ」
そんな混乱している俺を楽しむように、紅茶を一口飲みながらダージリンさんが答える。
「…いや、乗りませんよ、てか、男が乗っちゃまずいでしょ」
戦車道は乙女の嗜みだ。…そこに(笑)をつけて馬鹿にするつもりはもうない。
「でも、あなたも乗る事があるんでしょう?みほさんからもあなたと戦った事は聞いているわ」
「そりゃ…、校内で練習試合をやるくらいはですけど、非公式ですよ、非公式」
例えるなら車の免許が無い人だって私有地なら運転できる、みたいなものだ。
てか、西住の奴何言ってんの?おれ、君にボコボコにされてるんだからね…。
「なら問題はないわ、エキシビションの意味、あなたならわかるでしょう?」
「…公式に記録しない試合、ですよね」
「なら、あなたが戦車に乗る事も問題ないはずよ」
…いや、問題しかない気がするが。さすがイギリス好きなダージリンさん、とんでもない屁理屈というか、口八丁手八丁というか。
「それでも、いきなり知らん男が試合に出てたら暴動起きますよ」
そんな事になったら今後の俺の学園生活にも響いてくる、比企谷八幡は静かに過ごしたい。
いや、マジで…それは勘弁だ、何言われるかわかったもんじゃないし何されるかもわかったもんじゃない。いや、だいたいわかるけどね、わかるのが悲しいなぁ…。
「戦車から顔を出さなければ誰もあなたが居る事なんてわからないわ」
「…理屈はわかりますけど」
西住みたいに戦車から身体を出す真似なんてできないし。いや、むしろするつもりもないけど。普通に怖いから。
「なんなら、私達のチャーチルに乗るのもよろしくてよ、あなたとは戦ってみたいし、戦いたいの」
…この人も普段涼しい顔して結構血気盛んというか戦闘民族というか、戦車乗りってみんなこうなの?
動揺を飲み込む為にも紅茶を飲む。…ふと、カップの中の紅茶が波をうっていた。
…この人達と戦う。または共に戦い、西住に挑む。
そんな機会が、実現する可能性がある。
「…ま、考えときます。そもそも俺一人の判断じゃなんとも言えませんし」
なるべく音がならないように、震える気持ちを悟られないように、カップをゆっくりと置いて答える。
「えぇ、良い答えを期待しているわ」
とりあえず…この話は終わりにしよう、あれこれ考えても進展する話でもないし。
…話が終わっちゃったらエキシビションの話も終わりなんだが、あれ?じゃあこの後どうするの?
「…えと、じゃあエキシビションの打ち合わせはこれで終わり、ですよね?」
「そうですね」
「では、お茶会をしましょうか」
「…え?」
今俺達、確かにエキシビション大会の打ち合わせをしながらだけど、普通にお茶飲んでましたよね?
「あの、なんで今からお茶会する口振りなんですか?」
…そもそもスタートからお茶会してたからてっきりお茶会しながら打ち合わせしていると思ってたんだけど、俺とこの人達とで認識が違うの?
「えぇ、だってエキシビションの打ち合わせは終わったでしょう?」
「なら、後はゆっくりお茶を楽しむだけね」
認識が甘かった!!彼女達の中ではお茶会→打ち合わせ→お茶会という流れらしい。…紅茶の海で溺死する夢でも見そうだ。
「マックスさん、次はどの紅茶を飲みます?その…オレンジペコタイプの銘柄も飲みやすくてオススメのものをご用意しますよ」
そんな訳でオレンジペコが紅茶のおかわりを聞いてくる。…また高級な茶葉を使った紅茶なんだろうか?
「私もおかわりしたいですわ!マックスさん、よろしくて!?」
「いや、俺に聞くなよ…」
横ではローズヒップが相変わらず騒ぎながら紅茶を飲む。
女子に囲まれた中で紅茶を飲み、テーブルには紅茶に合いそうなお菓子がズラリと並び、紅茶が空になればおかわりを聞かれる。
ーーーキャバクラかな?
いや、キャバクラとか行った事ありませんけどね、もちろん想像ですよ。男子高校生なんだし、みんな一度はどんな所かなーって妄想くらいするでしょ。
「どうかしまして?」
「あ、いや…」
そんな事を考えてしまうとそういやこの人の名前もニックネームだし、ますますキャバクラっぽく思えてしまう。
ヤバい、なんか【紅茶の園】って名前がもう、そういうお店の店名にしか聞こえなくなってきた。
「…すいません、料金いくらっすか?」
…指名料とかも取られてるんだろうか?この後で裏から黒スーツ着たサングラスのいかついハゲたおっさんが出てきて海に沈められそう。
「えーと、お金なんて取りませんけど…」
あぁ、うん。そうだよね…考えすぎだよね。なんかあまりにもあれっぽくてつい聞いちゃったし、なんなら財布の中を確認しそうにまである。
「いや、あまりにも至れり尽くせりで申し訳なくて…」
とはいえ、キャバクラを想像していた…なんてとても言えるわけもなく。実際申し訳ないのでそう答える。
「ふふっ、これくらい当然ですわ。それに、言わなかったかしら?あなたには手伝って欲しい事があるのよ」
「あぁ、そうでしたね」
お茶会の流れが長くてつい忘れていたが、聖グロリアーナはなにやら男手が必要との事だ。
あまり力仕事に自信があるとはいえないが、こうして高級なお茶を頂いた分くらいは働かないとバチも当たるだろうし、なんならキャバクラ【紅茶の園】の事務所にでも連れて行かれそうである。
「それで…えと、何やれば良いんです?」
「その前に、プロムというものはご存知かしら?」
「ぷろむ」
もちろんしっているよ、はちまんぷろむにはとってもくわしいんだ!!
…嘘である。いや、あながち嘘とも言えないかもしれないけど、とにかくプロムなんて知りません。えぇ、知りませんとも。
「要するにダンスパーティーみたいなもん、ですよね?」
「えぇ、それで間違っていないわ」
【海のお魚パーティー】だったか【魅惑の深海パーティー】だったか、そういうアレである。…このネタを一発でわかる人とは美味いマッ缶が飲めるかもしれない。
「正確にはプロムは高校最後のパーティーの事を指すので、今回のは違いますけどね」
じゃあなんでプロムって言ったの?言いたかっただけなの?
「えぇと…そのダンスパーティーの設営準備を手伝うって事ですか?」
それなら…男手が必要というのもわからなくはない。ただ、正直今から俺が少し手伝った所でそんなに進展はしないだろう、大洗に帰るんだし。
「いえ、会場の準備はすでに終えています、ダンスパーティーは今日の夜に始まりますから」
「…はぁ、じゃあ照明係とか、そこら辺ですか?」
こう見えて誰かにスポットライトとか向けるのは超得意、得意すぎてスポットライトとか向けられないまである。
…それにしたって段取りとかもあるだろうに、今からリハーサルをしたとして覚えきれる自信がない訳ですが。
「そちらもすでに手配済みです、問題ありません」
「えぇ、じゃあなんなの…?」
会場設営も終えて裏方の仕事も手配済み、それなら他になにを手伝う事があるというのか?
「…こういう時だけは鈍いのね、それともわざとかしら?」
「………」
そう言われてしまえば…何も言えない。言う資格もないだろう。
「本来こういう事を女性の方から口に出させるのは失礼なのよ、覚えておくといいわ」
「…ダージリンさん」
ダージリンさんは席を立つと俺の前にやってきて、上品に両手でスカートの裾つまむと少しだけ上げてお辞儀をした。
「今夜、私と踊ってくれませんか?八幡」