やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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ガチャってのはなぁ…性能で引くんじゃない、キャラで引くんだよ!!(某ソシャゲの水着ガチャを前に決意の一言)。

まぁ…決意が必ずしも結果に繋がる訳じゃないよね。


そして、比企谷八幡は仮面を付ける。

「いや、その、俺が…踊るんですか?」

 

「えぇ、そう言っているわ」

 

ダージリンさんのその優雅な仕草と八幡と呼ばれた事に心臓の鼓動が強くなるのが嫌でもわかる。

 

…不意打ちにも程がある、本当にこの人は油断ならない。

 

プロムはもちろん、ダンスパーティーなんかとは縁のない人生を送っていたがお嬢様学校で通っている聖グロリアーナだ、ダンスパーティーもさぞ華やかだろう…と想像はできる。

 

アニメとか漫画とかの知識で申し訳ないが、いかにも貴族の嗜みとかのアレになるのだろう。

 

少なくともゲーセンでダンスでレボリューションしてるのとは格式が違う。いや、そういうゲームやらんけど。

 

そんな華やかな会場に目が腐った奴が居る…なんて想像するだけで滑稽というか、不釣り合いというか。

 

しかも相手がダージリンさんとなると…。

 

「そりゃ、美女と野獣が再現されそうで…なんというか」

 

「美女…」

 

しまった…。あまりの動揺につい考えていた事を口走る。とはいえ…そういうダンスシーンをどうしても想像してしまう。

 

「えぇと…その、それは…どういう意味での事かしら?」

 

その口走りはダージリンさんにも影響を与えたようで、先ほどの優雅な挨拶もどこへやら、スカートの裾をキュッと握ってそう答えてくれる。

 

「いや、そういう映画でダンスシーンがありましたし、そのままの意味ですが…」

 

「…あ、えぇ、あの作品ね、もちろん知ってますわ。イギリス英語も堪能できますし」

 

俺はデスティニーのアニメの方を想像したがダージリンさんはたぶん実写の方なんだろう。確か主演の人はイギリスの女優さんだったはずだ。

 

なるほど、映画を字幕で見る人にはそういう楽しみ方もあるのだろう。

 

「えぇと…それだけ、ですの?」

 

「え?まぁ…そうですね」

 

「…そう」

 

ダージリンさんの映画の楽しみ方に感心さえしていたが当の本人は少し不満げにチラリとこちらを見る。

 

「なら安心なさい、その映画のシーンが再現される事はないわ」

 

「…そうですか?」

 

「だって、あなたを野獣というには役者不足だもの」

 

「…そうっすか」

 

遠回しに自分を美女というのは否定しないんですね。まぁ否定する必要はないんですが。

 

いや、野獣とか先輩とか、お似合いの役なんて言われたらそれこそそっち方面の方々にロックオンされかねないし。そこら辺のネタだけはNGでお願いしたい。愚腐腐ネタはちょっと勘弁して下さいマジで。

 

「そもそも、もしあなたが野獣なら私も…、いえ、私達もここまで苦労はしていないもの」

 

…いや、本当に苦労かけてるんだなぁ。と思わせる程の疲れた表情するのは止めてくれませんか?

 

「ま、まぁその…あの映画抜きにしてもパーティーとか多くの生徒が参加するんですよね?そこに俺が出ていったら雰囲気ぶち壊しですよ」

 

「あら、私は別に構いませんわよ」

 

俺が構うんだよなぁ…。ダージリンさんと踊ってる時の周りの視線を想像しただけで死にたくなってくる。

 

「とはいえ、あなたがそう言うと思ってこちらも準備はしておいたわ」

 

「はぁ、準備…ですか?」

 

そう言うとダージリンさんはオレンジペコに指示を送る、オレンジペコは苦笑いしながらなにやら取りに向かった。

 

取りに行く途中、チラリとオレンジペコと目が合うと彼女は目線で『すいません』と謝ってる気がした。…なんか嫌な予感しかしないんだけど?

 

「すいませんマックスさん、こちらもどうぞ」

 

というか直接謝られたまである。予感は確信に変わった。

 

オレンジペコから渡されたのは…仮面だった。

 

「ふふっ、これはガイ・フォークス・マスクといってーーー」

「…なんですかこれ?紅茶仮面?」

 

ダージリンさんが自慢気になにやらうんちくを語ろうとしていたようだがそれよりも先に正直な感想が出てしまった。

 

いや、ガイ・フォークス・マスクは知っているし、イギリスの風習にそういうのがあるのも知っているけど。…なんでここでその仮面?

 

「紅茶…仮面?」

 

「え?あー、その…」

 

うんちくをキャンセルされたダージリンさんの動きが止まる。…怒らせちゃったかな?格言とかもキャンセルさせられると不機嫌になりそうだし。

 

「…紅茶仮面、ぷっふふふふふ、紅茶…仮面」

 

…というか、ダージリンさんは必死に笑いを堪えていた。え?何?何がそこまでツボに入ったの?

 

「そうね、紅茶仮面、これを付ければ他の生徒達には誰もあなただってわからないでしょう?」

 

採用された!むしろ気に入っちゃったよこの人…。

 

「…つまりは仮面舞踏会、ですか」

 

「えぇ、そういう事よ。といっても紅茶仮面になるのはあなただけなのだけど、うっふふふ」

 

…まだ笑ってるし。もう紅茶仮面に決定しちゃってるし。

 

つまり、この仮面を付けて素顔を隠せば抵抗もなくパーティーに参加できるだろう。とのはからいなのだろうがむしろこの仮面を付ける事に抵抗さえある。

 

ダンスパーティー。素顔で出るか、仮面で出るか、下から見るか、横から見るか。

 

…参加しないって選択肢はないんですかね?

 

「ところでマックスさん、今さらにはなりますがダンスの経験はありますか?」

 

まだ笑いを堪えている…いや、堪えきれてもいないけど。ダージリンさんに変わってアッサムさんが聞いてくる。

 

「ソロダンスの経験ならたくさんありますよ」

 

俺は自信満々にそう答えた。八幡はダンスやってるからな。

 

「え!?そうなんですか?…あ、驚いてしまってすいません、少し意外というか」

 

いや、オレンジペコが驚くのも無理はないだろう、俺からダンスをイメージするのは自分で言うのもなんだが無理がある。

 

プロムはもちろん、ダンスパーティーとか無縁の人生だったが事ソロダンスとなれば話は別だ。

 

「キャンプファイアとか運動会のフォークダンスの時、女子連中は俺と手を繋ぐの嫌がってたから、一人でずっと踊ってたまである」

 

「「「「「………」」」」」

 

静かだった、あれだけ爆笑していたダージリンさんでさえ、ピタリとその動きを止めてくれる。

 

え?ダージリンさん笑わないの?さっきの紅茶仮面よりもよっぽど自信があったとっておきの自虐自慢ネタなんだけど…。

 

「…ペコ、ローズヒップ、あなた達もマックスと踊るといいわ」

 

「え?私達も良いんでございますか!!」

 

「…その、よろしいのですか?ダージリン様?」

 

「えぇ、マックス…今日は楽しんでね」

 

…その慈愛に満ちた表情止めてくれませんかね?いや、本当に止めて!俺も悲しくなってくるから!!

 

「いや、別に二人共無理する事はないと思うが…」

 

「マックスさん!私のダンスについてくると良いですわ!!」

 

…聞いてねぇし、しかもほっとくとローズヒップのやつ、ブレイクダンス決めそうだし。

 

「えと!その…よろしくお願いしますね、マックスさん」

 

「…あぁ、まぁ、その…よろしく頼むわ」

 

結果、俺は仮面を付ける事にする。…この気持ちもそれで隠れてくれると良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「衣装のサイズは大丈夫ですか?なにかあれば調整しますが」

 

「えぇと…大丈夫っす」

 

アッサムさんに言われて軽く動かしてみるが問題はない…と思う。正直この手の衣装を着る機会なんてそうないのでよくわからんのが本音ではあるが。

 

ダンス会場の華やかなBGMがここ、控え室にも少し届いてくる。聖グロリアーナによるダンスパーティー自体はもう始まっているのだ。

 

とはいえ、スタートからフル出演する体力もダンス技術もないので扱いとしては途中参加のサプライズゲストとの事だ。此方としてもいつボロが出るかわかったもんじゃないのでありがたい。

 

「それは良かった、お似合いですよ?」

 

「馬子にも衣装ってやつですかね」

 

アッサムさんがそう付け加えて来たので苦笑して返事を返す、タキシードを着た自分の姿なんて想像するだけでむず痒い。

 

「あぁ、少しお待ちを…ネクタイを調整しますので」

 

そう言ってアッサムさんが俺の首もとの蝶ネクタイに手を伸ばす。近い!ヤバい!なんか良い匂い…。

 

「…そういえば、アッサムさんは着替えなくていいんですか?」

 

動く訳にもいかず、大人しくされるがまま。それでも視線も定まらず落ち着かないので気になっていた事を聞いてみた。

 

そういえばこの人だけ制服のままで俺の衣装の用意やらなんやらしてもらっている。

 

「えぇ、今日は裏方の仕事があるので、私は参加しません」

 

なにそれ大変じゃないか、俺が代わりましょうか?

 

「せっかくのパーティーなんですし、踊っても良いんじゃないですか?」

 

裏方仕事なら俺がやって起きますよ、と付け加えようと思ったが、キュッと蝶ネクタイをしめられてしまう。

 

「…ぐぇっ!?」

 

いや、首をしめられた鶏じゃないんだから、ぐぇって…。

 

「え?あぁ…すいません、つい…」

 

いや、ついって…、ついで首しめられたの?

 

「…せっかくのお誘いですが、今日は裏方に徹します、段取りもありますから」

 

「ですか…」

 

まっ…そりゃそうだよね、俺だっていきなり段取り変わってもやれる訳ないし。

 

…ん?あれ?流れぶったぎられてなんか俺がアッサムさんをダンスに誘った感じになってない?

 

「でも…そうですね、確かに制服のまま、というのは少し無粋かもしれませんね」

 

蝶ネクタイの調整を終えたのか、すっとアッサムさんは俺から離れると片目だけつむって微笑む。

 

「後でドレスに着替えますから、楽しみに…して下さいね?」

 

「…えぇ、そうします」

 

…そんな表情されちゃ期待しちゃいますよ、まったく。

 

アッサムさんの冗談のおかげか、少しだけ肩が軽くなった気がする。

 

「では、頑張って下さいね、紅茶仮面さん」

 

「…ひょっとしてわざとやってません?」

 

今ので一気にまた肩が重くなった、なんなら足取りとかも重いし、絶対わざとでしょ?

 

「まさか、面白そうなデータが取れそうだなんて考えてませんから」

 

この人もわりと良い性格してるというか…やっぱりダージリンさんと一緒にいるだけはあるんだよなぁ。

 

そもそもこれでいったい何のデータが取れるというのか…、科学の発展に犠牲はつきものなのかな?

 

ガイ・フォークス・マスク改め紅茶仮面を付ける、タキシード姿で仮面を付けるとか、これもう実質ただのタキシード仮面なのでは?

 

まぁでも、確かにこれなら素顔というか、この腐った目も隠せるだろう。古来より代々仮面とは正体を隠したり、自分のペルソナに向き合ったりする為にある。

 

某機動戦士の仮面率しかり、ライダーの仮面率しかり、時には正体を隠し、時には変身し。そして時には新たな自分を発見する事さえあるのだろう。

 

だから、きっと…今、この時だけ俺は比企谷 八幡ではなく、紅茶仮面としてダンスを踊ってもいいのだろう。

 

『それでは本日のスペシャルゲスト、紅茶仮面様の登場です』

 

あ、ごめん、やっぱ無理だわー。




ちなみに紅茶仮面の元ネタは漫画『リボンの武者』からです、とはいえ興味はありますが読んだ事ないんだよなぁ…。

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