やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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唐突に語りますが作者は恋愛系の話は本当に書くの苦手なのを自負しています、書いててなんかむず痒いですし後で読み返して死にたくなるしで、本編ではなるだけ避けていた自覚もあります。
とはいえ、この問題をいつまでも触れないでおく事は出来ませんし、いずれきちんと決着をつけなければならない時がくるのはわかってますから、試行錯誤しながら今回の話を書きました。

まぁつまり何が言いたいかってね…本当、生暖かい目で見守ってくれたら嬉しいんですよ、はい。


いずれは、その関係にも変化はくる。

「に、西住達も呼んで…ですか?」

 

「えぇ、パーティーに友人を呼ぶのは当然ではなくて?」

 

あぁ、わかります、当然ですよね、クラスで俺だけ声のかからなかった誕生日パーティーとかありましたもん。

 

「あら、何か困る事でもあるのかしら?みほさん達はあなたの友人でもあるでしょう」

 

「それは…」

 

思わず言い淀んでしまい、自己嫌悪する。こびりついたひねくれた思考はこんな些細な事でさえ、返答に戸惑わせる。

 

俺はもうぼっちとは呼べないだろう。その事はもちろん自覚している、ぼっちじゃない奴がぼっちを主張するとか全てのぼっちに対する冒涜だ。

 

なら、俺とあいつらの関係は友人…になるのだろうか?その言葉を当てはめるとそれは酷くいびつにも感じた。

 

西住も武部も五十鈴も秋山も冷泉も、五人はとても仲の良い、言ってみれば親友達となるのだろう。

 

だったら…俺は?答えは決まっている、あいつらにとって不穏分子の一つだ。

 

何かのきっかけ一つで爆発する爆弾のようなもので。そのきっかけがなんなのか、もうわかっているのがたちが悪い。

 

なにがたちが悪いかってきっかけがなんなのかわかっているのなら、そこに触れなければただの不発弾のままで終われる話だからだ。

 

「そう…やっぱりあなたはそうなのね」

 

ダージリンさんが悟ったような表情で紅茶のカップを置く、少し寂しげな声だった。

 

「誰も選ばない、その関係を続けていくだけ」

 

見透かされたような言葉が刺さる、柔らかな言葉が鋭い刃のように俺を突き刺す。

 

「…選ぶとか、んな偉そうな立場じゃないでしょ」

 

「そうね、応えない…と言うべきかしら」

 

苦し紛れに答えた言葉にダージリンさんは更に言葉を被せてくる、言い逃れは許さない。とでも言うように。

 

「でも、そんな関係が長く続くはずがないわ」

 

「…わかってますよ、それくらい」

 

こうなるともう…素直に認めるしかないだろう、俺は頷いた。それは俺自身がどこかでわかっていた事だからだ。

 

何にでも、終わりというものはある。

 

俺達もあと二年もしないうちに卒業する。戦車道からも、大洗学園からも出る日は必ず来る。

 

きっとあいつらは会うだろう、大学、戦車道なんて関係なく理由もなく集まって遊んだりするのだろう。

 

…その時、そこに混じる自分の姿が想像できないのだ。

 

「そう、わかっていて…応えないのね」

 

「…臆病だと思いますか?」

 

「そうね、臆病で逃げ腰、それに卑怯で最低なやり方だと思うわ」

 

容赦のない言葉は今までのどの罵倒より突き刺さる。正論というのはどの罵詈雑言よりも心を抉るものだと実感した。

 

関係が壊れるのを恐れて、確信には触れず、なぁなぁとした関係をただ続けていく。

 

いつか来る、終わりの時まで。

 

「でも、それなら私も共犯者という事になるわね」

 

「…はい?」

 

ふとそんな事を言われて顔をあげる、あまりに唐突なその言葉に惚けた返事と表情をしてしまった。

 

「だって、今から私も卑怯で最低なやり方をあなたに提案するんですもの」

 

それが少し可笑しかったのか、ダージリンさんは悪戯っぽく微笑む。

 

「簡単な話よ、あなたの恋人が、みほさん達とも共通の友人なら、その関係は続いていくわ」

 

「…それは」

 

【提案】と呼ぶにはあまりにも中身がない、だってこんなもの、実質もうほとんどーーー。

 

「簡単な話…ですか?」

 

「えぇ…簡単よ、だってみほさん達は私にとっても大切な友人ですもの」

 

…簡単なはずがない、それはきっとなによりも難しい話になるだろう。

 

「その友人を、私が悲しませる事なんてしませんわ」

 

だが、ダージリンさんは力強くそう答える。…この人本当に西住の事好きすぎるでしょ。

 

きっとこの人なら、やってしまえるのだろう。

 

パーティーに西住達を呼ぶ。その言葉が本当にそのまま、なんの嫌味も含みもなく大切な友人を呼ぶ意味になる未来に向けて、全てを解決してみせてしまうのだろう。

 

「…本当に、卑怯で最低なやり方ですね」

 

俺が言えた台詞でもないが、その率直な感想が出てしまった。

 

ロマンチックの欠片もない、脅迫紛いの【提案】だ。

 

「あなたと共犯者になるなら、これくらいしないとダメですもの」

 

それ、俺がどれだけ卑怯で最低だと思われてたのだろうか…。

 

「それに忘れたのかしら、イギリス人は恋と戦争には手段は選ばないのよ」

 

あぁ、もちろん覚えてますよ、覚えてますけどダージリンさん日本人ですよね?適応されるんですか?

 

ちなみに戦争にはわりとマジで手段を選ばないのがイギリス人。とはいえ、イギリス人に限らず大抵どこの国も戦争には手段は選ばないものである。それが恋愛にまで関係するのかは知らないけど。

 

「だから、私の提案…考えておくと良いわ」

 

「…なんでダージリンさんはそこまでするんですか?」

 

臆病で逃げ腰、卑怯で最低なやり方に対して、彼女は勇敢で強気、そして卑怯で最低なやり方を返してみせた。

 

簡単だと答えた彼女のそのやり方が、簡単なはずがない。本当に手段を選ばないなら、他にやりようなんていくらでもあるのだから。

 

「こんな言葉を知っているかしら?」

 

そんな俺の問いにダージリンさんは答える、この始まり方はいつものあれだ。

 

「…チャーチルの業績で最も輝かしい事はなにかしら?」

 

「…はい?」

 

と、身構えてたら格言じゃなかった、あの流れからのまさかのフェイントである。

 

チャーチルの業績とか良くも悪くも数えきれない程あるはずだが、軍人から首相にまでなった人だし。

 

ダージリンさんも大好きなその数多くの格言を残したようにノーベル文学賞とかまで貰った超人である。

 

格言…格言。

 

「…あ」

 

気付いて顔が真っ赤になった、そんな俺の顔を見てダージリンさんは満足そうに微笑む。

 

「それが答えだと思ってくれていいわ」

 

【私の業績で最も輝かしい事は、妻を説得して私との結婚に同意させた事である。~ウインストン・チャーチル~】

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

コンコンッとドアのノックが聞こえる。

 

「…どうやら時間のようね」

 

ノックの音を聞いたダージリンさんがカップを置いた、中身は空だが、もう追加を注ぐ事はないのだろう。

 

「ダージリン様、ランカストリアンの準備ができました」

 

ドアを開けて入ってきたのはアッサムさんとオレンジペコだ、どうやら帰りの準備ができたようだ。

 

帰宅といっても学園艦間の移動だ、「じゃあ帰ります」といって簡単に帰れるはずもなく、聖グロリアーナ側の準備が整うまで待っていた。

 

「…ん?ランカストリアン?え?今ランカストリアンって言いました?」

 

「ランカストリアンを知っているんですか?」

 

「知ってるもなにも…ランカスター爆撃機を改造した奴ですよね?」

 

「よくご存知ね、素敵でしょ?」

 

…素敵かどうかはともかく、聖グロリアーナそんなの持ってるのか、しかもそれを今から大洗学園に向けて飛ばそうと…怖ッ!!

 

なお、一番怖いのは爆撃機を旅客機や輸送機に魔改造したイギリスである。

 

「別に、泊まっていっても構いませんのよ」

 

「いやいや、そこまで面倒かける訳にもいきませんよ」

 

というより朝帰りなんてしようものなら小町に何言われるかわかったもんじゃないし、早朝から元爆撃機で帰宅とか冗談にも程がある。

 

「そう、残念ね」

 

ダージリンさんもそれ以上何も言わなかった、というより他の事が気になったのか、アッサムさんの方を見る。

 

「そういえばアッサム、あなたも着替えたのね」

 

アッサムさんはあのダンスパーティーの最後に壇上で見せたドレス姿のままだった、リボンに合わせたシックの黒のドレスだ。

 

「今日は裏方の仕事があるから着る必要はない…と聞いていたけど」

 

「えぇ、ですが"せっかくの機会"ですから」

 

「あらそう、何が"せっかくの機会"なのか詳しく教えて欲しいわね」

 

…おや、何か空気が良くない方向に向かって行ってる気がする。

 

「あの、マックスさん」

 

今にも火花でもちらしそうな二人にそわそわしているとオレンジペコに声をかけられた、彼女もまだドレス姿のままだ。

 

…そういえば、会場からそのままここに来たので俺も着替える必要がある、またあの衣装部屋まで戻るのか。

 

「その、着替えを持ってきましたので、後で着替えて下さい」

 

と思っていたらオレンジペコはきちんと折り畳まれた俺の制服を差し出してくる、ちなみに説明しておくと一応は学園間内の用事なので大洗の制服でここには来ているのだ。

 

「あぁ」

 

さすがオレンジペコ、日頃からダージリンさんの世話係をしているからかこういう所に気が利くのだろう、これでわざわざあそこまで戻る必要もなくなった。

 

「悪いな、ペコ」

 

差し出された制服を受け取ろうと手を伸ばし。

 

「…ペコ?」

 

ピクンッ、とダージリンさんが反応する。…あー、うん、そういえばそうでした。あれ、ダンスの時の話ですもんね、ダージリンさん知りませんよね。

 

「…いや、悪いな、オレンジペコ」

 

「ペコ、で良いですよ、マックスさん」

 

慌てて修正するとオレンジペコは笑顔だった、怖い。

 

「いや…その、ペコ…リーヌ?」

 

「マックスさん?」

 

笑顔だった、どうやら記憶喪失で赤ちゃんの振りをしてもダメらしい、後怖い、超怖い。

 

「…ペコ」

 

「はい、どうぞマックスさん」

 

柔らかい笑みと共にようやく制服を受け取る。…なんだかんだこの子が一番強い気がする。

 

「えぇっと…、じゃあ俺、ちょっと着替えて来るんで、どっか着替えれそうな場所とかありますか?」

 

とはいえ、このままダージリンさんの部屋で着替えるのはさすがに抵抗があるし、着替えるにしても一度ここを出る必要があるだろう。

 

「そうですね、すぐ近くに使っていない教室があるので、そちらで着替えていただけたら」

 

アッサムさんの説明を受けてその空き教室へと向かう、途中他の聖グロリアーナ生徒と遭遇する可能性も考えたがそこはお嬢様学校、夜もだいぶ遅いこの時間に出歩く生徒は少ないらしい。

 

一応は仮面をつけてその空き教室へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「…それで、ペコ、アッサム」

 

彼が着替えの為に空き教室へ向かったのを確認し、ダージリンは溜め息と同時に二人の名前を呼んだ。

 

「はい」

 

「なんでしょう、ダージリン」

 

二人が涼しい表情でそう答えたのを見て、ダージリンはいろいろと言いたい事は呑み込む事にした。

 

「…おやりになるわね」

 

そして彼女自身も微笑むと涼しい表情を作る、その言葉は彼女がライバルと認めた証でもあった。

 

「だって、ダージリン様もいつも仰ってるじゃないですか」

 

「そうですね、イギリス人は恋愛と戦争には…」

 

「「「手段を選ばない」」」

 

三人が同時に答えて、また微笑みあった。

 

「まったく…これではみほさん達と同じね」

 

アッサムとオレンジペコに悟られないように、小さく、本当に小さくダージリンが呟く。

 

結局、誰に応えるかは彼が選択するべき問題なのだ、そして彼の場合、選択しない選択だって充分にあり得る。

 

「あ、マックスさん、戻ってきたみたいですね」

 

「…なんだか聞き覚えのある声が」

 

その声を聞いてアッサムが頭を抱える、この時間帯になったというのに廊下を騒がしく響かせる声の主には覚えがあった。

 

「マックスさん!ラーメン!ラーメン食べに行きますわよー!!」

 

「いや…行かんし、てかもう帰るんだが?」

 

アッサムの想像通り、彼は騒がしくはしゃぐローズヒップを連れて帰ってきた。

 

「ローズヒップ…廊下では静かになさい、もう遅い時間ですよ」

 

「あ、すいませんアッサム様、マックスさんを見つけてつい…」

 

頭を抱えるアッサムにローズヒップはしゅんとして答える。

 

「それでマックスさん、ラーメン!いつ行きますの?」

 

「…いや、だからもう帰るって」

 

だが、それも一緒で切り替わる、ころころと変わる表情は見ていて楽しいものでそれ以上怒る気もなくなる。

 

「…でも、私、今日は頑張りましたわ」

 

「あー…まぁ、そうだな」

 

彼は少し思案し、やがて諦めたように肩をすくめるとローズヒップに向き合った。

 

「…また今度な」

 

「やったでございますわ!約束ですわよ!!」

 

ローズヒップは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるとクルリとダージリン達の方を向く。

 

「それで皆様、何をしているんですの?」

 

「…これからマックスを見送った後、お茶会をするの、ローズヒップ、良かったらあなたもどうかしら?」

 

嵐のようにやって来たローズヒップと彼との先程までのやり取りを呆気に取られて見ていた三人はコホンと咳払いをしつつ、ローズヒップに声をかける。

 

「はい、是非ともご一緒させていただきますわー!!」

 

「…え?まだ飲むんですか?」

 

また嬉しそうに飛び跳ねるローズヒップの横で彼は少し呆れたような表情を見せた。

 

「…マックス、あなたのせいよ」

 

「そうですね」

 

「…えぇ、本当に」

 

「いや…なんでですか?」

 

そりゃ…飲みたくもなるものだ、と三人は表情を合わせて苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

マックス…いいえ、八幡。あなたは気付いていないのかもしれないけれど。

 

あなたにとって後二年もしないその話は、私にとっては後一年もないのよ。

 

だって…来年の、卒業後の私の進路はもう決めているもの。


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