やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
その記録もいつかガルパン最終章が塗り替える日が…、うん、さすがにキツいか。ガルパンも充分凄いんですけどね。
「で、どうしよっか?」
そんな訳で場所は生徒会室から食堂へと移り、【食堂のラーメンを救おうの会】だか【食堂ラーメン、お前を救いたい】だかが始まった訳である。
「あい!!」
開幕早々に阪口が元気良く手をあげた。前々から思ってたけどこの子、気合いが入っている時は「はい!!」が「あい!!」に聞こえる、というか絶対あいって言ってる。
大丈夫?普段の授業の時とかもそんな感じなのこの子?
「ほい阪口、言ってみ」
「安くする!!」
うーん…自信満々だった気合いの入りようからどんな提案が来るかと思ったら、なんともシンプルイズベスト。
実際、食堂のラーメンを食べるよりカップ麺の方がずっと安上がり、という問題を解決する事だけなら最善のやり方にはなるんだろうが。
「価格競争でカップ麺に勝てるならそれで済む話だけどな…」
「さすがに材料費や人件費を考えたらこれ以上値段を下げるのは厳しいかもねー」
食堂のラーメンだってカップ麺程ではないがそこまで高く値段設定されている訳ではない。
「醤油以外の味もメニューに加えてみたらどうかな?」
ツチヤの提案は多種多様なカップ麺に対抗する為にこちらも種類を増やすというものだ。
「醤油以外だと…塩とか味噌ね!」
「あとは豚骨、魚介系、魚介豚骨、鶏白湯、豚骨醤油、塩豚骨、牛骨…」
「辛いのが好きな人向けに担々麺とか?」
「あ!私つけ麺が食べたい!!」
阪口が手を上げる。いや、君の食べたいものを食堂のメニューに加える企画じゃないからね?
「って、ちょっと待って!ラーメンって…そんな種類あるの?」
「なんだ武部、知らんのか?」
「日本のラーメン文化は奥が深いからねー」
「世は正に大ラーメン時代!なんですよ!武部先輩!!」
いや、そんなラーメン王に、俺はなる!!な展開ではないが、実際日本はラーメン戦国時代と言っていいくらいラーメン店もそこそこ種類も増えている。
「…ところで、つけ麺ってラーメンなの?」
「おい止めろ、それ議論しだすと生徒会からの依頼そっちのけで日が暮れちゃうだろ」
「いや、むしろどんだけつけ麺について議論するつもりなのよ…」
つけ麺、油そば、中華そば、らぁめん、めんらー、それらをラーメンに分類するかしないかの判断は一朝一夕で決められるものではないのでここでは置いておく。
「でもいろんな味が選べるのは良いかも、アイスだっていろいろ種類あった方が選べる楽しみもあるし」
アイスとラーメンを同一に語るのはどうかと思うが…。
「全種類置いてあるラーメン屋なんて見た事ないけどな、あってもたぶん行かんが」
「え?なんで?いろんな味食べられる方がお得じゃん」
「メニューの多いラーメン屋は大抵地雷なんだよ、そもそも看板メニューが無いって事だからな」
「あぁ、こってりとか北極とか、そのお店といえば!ってやつだね」
「それに種類を増やすならスープや材料費のコストも当然増えるからな、それで多少売上が伸びてもラーメンそのものの儲けは赤字の可能性が高い」
味噌や塩とそれぞれのベースとなるスープを用意するのもコストはかかる、種類を増やす案は却下だろう。
「うーん…結構難しい、って!比企谷はなんかいい案ないの?さっきから否定してばっかじゃん!!」
「ん?あー…」
言われて食堂をチラリと見てみる、名案はそれだけで浮かぶものだ。
「そうだな、食堂に個人用の席作ってラーメン注文した奴はそこに座れる…とかどうだ?」
これは売れる(確信)。普段食堂を利用しづらいぼっち達にとって食堂のラーメンが救世主になるのだ。
「それただの比企谷の要望でしょ…」
「比企谷先輩可哀想…」
「おい可哀想言うな、実際それやってるラーメン屋もあるんだぞ」
「いや、まぁあるけどさー」
実際、学年もバラバラで不特定多数が集まる食堂で周りがはしゃいでる中もくもくと一人飯を食べる作業はなかなかに居心地が悪い。
特に最悪なのは知らん奴らが同じテーブルで知らん話題で盛り上がり出すとラーメンの丼を【そぉい!!】と頭にぶっかけたくもなる。それくらいの経験誰にでもあるだろう。…あるよね?
そこで個人席の登場だ。ぼっちも食堂に行きやすくなり、周りの目を気にする事なく目の前の食事に集中する。無駄な会話も無いので食堂の回転率も上がる。
あれ?これもうメリットしかなくね?俺ってもしかしてコンサルティング業とか向いてるのかもしれん。
新たに才能を発掘した事で得意気にニヤリと笑う。一方で武部達はドン引きしていた。
「比企谷先輩、今度一緒にご飯食べましょう…」
「私らもお昼はガレージで整備してる事も多いから、いつでも声かけてよ」
「おい、ガチトーンで心配するの止めろ、だいたい俺を見くびってるな、例え個人席が導入されても食堂利用しない自信はある」
「それ!自信もっちゃ駄目なやつだからね!!」
だってさ、そうなると個人席を使う奴=ぼっちって公式が立っちゃうでしょ?別にぼっちが悪いという話ではない、周りが勝手にそういうレッテルを貼りつけに来るのが悪い、邪悪だ。
あれ?そうなると個人席案ダメじゃん、コンサルティングできないなー、残念、八幡働けないね!仕方ない!!
「うーん…値段を下げずに種類も増やしちゃダメとなると」
…俺の案は?いや、別にいいんですけどね。それでも聞いといて無かった事にするのはちょっとひどくないですか?
「やっぱり今のラーメンを改良するしかないかな、さっき比企谷が言ってた、それこそ看板メニューになるようなやつ」
「美味しいラーメンだったら、きっとみんな頼んでくれますよ!!」
ツチヤと阪口はそう言って武部を見つめる。
「えー!あたしー!?」
…まぁ、そうだよね。ラーメン好きが全員ラーメン作りのプロなら日本はラーメン屋だらけだ。いや、今もラーメン屋は多いけど。
ツチヤや阪口が料理上手なのかは知らんが。そうなるとラーメンの改良には料理上手の武部の手腕が必要不可欠となるだろう。
「一応、材料になりそうな物を生徒会が水産科やら農業科とかに声をかけて用意してくれたみたいだけど」
キッチンの置かれた材料の数々、これらを組み合わせて今あるラーメンを改良していこうというのだ。
「やっぱり大洗といえばこれ!!ってのが良いと思います!!」
「大洗学園といえば…やっぱり自動車関連だね」
「なんでだよ…」
さりげなく自動車部のPRに使うんじゃない、いや、大洗の自動車部すげぇとは思うが。
「いやほら、戦車ラーメンもあるんだし、自動車のラーメンがあっても良いと思ってさー」
「え?そんなのあるの?戦車味?」
あるのである。いや、これがわりとマジな話で。
もちろん戦車ラーメンといっても味が戦車味ではない。…てか戦車味ってなんだよ?鉄と油の味なの?
「チャーシューとかナルト使って戦車っぽく形にさせてる具が乗っけてあるんだよ」
「へー、…でも、なんで戦車?」
いや、そりゃ大洗が戦車道全国大会で優勝したからでしょ…、まぁある意味コラボというか、それに近い。
「…そうだ、手っ取り早く売り上げを倍増させるやり方がわかったぞ」
「え?なになに?」
「ナルトに『鬼』とか『滅』とか入れて丼とかを緑と黒の市松模様にしときゃとりあえず売れるだろ」
コラボに全集中しとけばとりあえず売れる(確信)。それぐらいコラボの力は絶大なのだ。
え?許可?『鬼』とか『滅』の文字とか市松模様に誰の許可が必要というのかね(論破)。
「…………」
また三人の俺を見る目が冷たい、間違いなく馬鹿売れする案だというのに…。
まぁ確かにね、世の中なんでもコラボコラボで商品を出すのもどうかと思うよ。
ただ君達がそんな目で見てきてもいまいち説得力が…ごほんごほん、これ以上は止めとくか。ほら…いろいろアレだから。
「大洗といえば…やっぱりあんこうでしょ!!」
気を取り直して…武部が具材として選んだのはあんこう、大洗の名物として納得のチョイスだろう。
「あんこうをラーメンに入れるんですか?」
「あんこうを…っていうより、あんこう鍋をラーメンみたいに出来ないかなって」
驚く阪口に武部が答える、まぁまるごとあんこう一匹をぶちこむのはさすがに無いとは思っていたが。
「でもあんこう使っちゃって予算とか大丈夫かな?」
「そこは水産科に協力して貰えればなんとかなるはずだ、一応生徒会案件だしな」
大洗学園は不可能と言われている深海魚あんこうの養殖に成功しているわりとやべー学校なのだ、なんでうちの学校廃校案件だったの?文科省無能すぎない?
ーーー
ーー
ー
「うーん…スープはこんなものかなぁ」
キッチンに立つ武部が試作のスープを味見をしている。
その手際の良さに思わず見入ってしまうというか…、調理するので当然だが制服にエプロン姿に思わず見入ってしまう。
まったく…制服エプロンとかちょっと狙いすぎてません?ここ学校だからね?男子高校生にとって目に毒なのでそういうのは家でやって下さい。
だが学校だからこそこの制服エプロン姿は見れないというジレンマ…、全く、男子高校生とは因果な生き物だぜ。
「比企谷、ちょっと」
「ん?」
ちょいちょいと手招きされたので自分の作業を一旦中断して武部の所へ向かった。
もちろん俺だって、阪口とツチヤもだが、ただ黙って武部が料理を作っているのを見ていた訳ではない。
あの二人には今、農業科や水産科との交渉に出向いて貰っている、いろいろと使う食材の話をする必要があるからだ。
そして俺は料理の下準備という、わりと面倒な仕事が割り振られた。あちこちの移動には車を出せるツチヤが適任だし、阪口にはそのドリフトの犠牲になって貰おう。
そもそもこう見えて専業主夫希望ですからね、簡単な下準備くらいお手の物ですよ!!
「これまだ骨も残ってるし…、これくらいの下準備きっちりしてよね、もう」
「…マジか」
普通にダメ出しされた。はい、すいません…あんこうの下準備とか正直ちょっと荷が重い、捌くのに手間がかかりすぎる。
「比企谷って専業主夫になりたいって言ってるけど…料理はどれだけできるの?」
「あー、小町が火とか包丁とか使えるようになるまでは危ないからって俺が台所使ってたし、まぁそれなりだろ」
「それでも小学生レベルじゃん!そんなので主夫になっても料理作れるの?」
「まぁほら、最近はスーパーのお惣菜コーナーにもいろいろあるから…」
「愛がないなぁ…」
いや、お惣菜作ってくれてるおばちゃん(たぶん)の愛が詰まってるはずだから。
「いい比企谷?料理は愛情!!これ基本だからね!!」
「はいはい…」
唐突に始まりそうな武部の料理キッチン教室に空返事しながら下準備に戻ろうとする。
「って、ちょっとちょっと、味見してよ」
「え?あぁ…」
そっちが本命だったのか、武部はスープを軽く皿に掬うと俺の前に出してくる。
「………」
それを受け取るが…先ほどの愛情云々の話が頭にチラついてどうにも恥ずかしくなる。
「えと…ほら、早く飲んでよ」
少し頬が赤く見えるのは彼女も同じ気持ちだったのか、それともただ料理をしているせいなのか。
「お、おぅ、いただきます…」
それ以上は考えるのを止める事にしてスープをいただく。とりあえず一口のつもりだったスープを気が付くと俺は飲み干していた。
「…美味い」
ラーメンの主役は麺にあらず、スープにあり。と昔どこかの偉い人が言っていた。…かは知らないが、このスープに麺が絡んだ味を想像するだけで涎が出そうだ。
「ふっふーん♪そうでしょそうでしょ?」
「いや、マジで美味いな、もういっぱいくれ」
「えへへー、しょうがないなー、もー!!」
おかわりを求めると武部も得意気に微笑みながらよそってくれる、それを受け取りもう一口。
「えと…どう?比企谷もこういうの…毎日食べたいとか、思う?」
「思う。武部、お前は立派なラーメン屋になれるぞ、俺が保証する」
「そういう意味じゃないでしょ!!」
え?違うの?武部がラーメン屋始めるなら毎日通っちゃいそうだぞ俺…。
「いやほら…【武部屋】って名前のラーメン屋なんかありそうだし」
「それなら【ひきが屋】で良いじゃん…」
すっかり不機嫌になった武部がなんか上手い事言ってる気がするが…気のせいだろう、うん。
だってね…ほら、それじゃまるで二人でラーメン屋始めるみたいに聞こえるでしょ?
「私ももっかい味見しよ」
俺が悶々としている横で武部は俺が返した味見用の皿にスープを掬い、そのまま一口。
「…あ」
「え、なに?」
思わず声が出てしまった俺に武部は少しだけ不思議そうな顔をするとその意味に気付いたのかすぐに顔を赤くした。
「あ、味見!味見だから!!」
「お、おぅ…、まぁ、味見だしな」
味見だから…なんなのだろうか?というのが正直な疑問ではあるが。とにかく!味見ならセーフという理論だ!!セーフセーフ。
「「………」」
ただ、お互い無言のこの気恥ずかしい雰囲気は全然セーフじゃなさそうなんですが、それは?
「たっだいまー!いやー、今日も良いドリフトで走れたよー!!」
「あー!二人共先に食べててズルい!私も早くラーメン食べたい!!」
そんな沈黙は幸いにもそう長くは続かず、ツチヤと阪口が帰ってくる、こいつら二人揃うと騒がしさが倍増すんな。
「あぁ…いや、これ味見だから、セーフだろ」
「えー!絶対アウトですよぉ!!」
えぇい!阪口うっさい!!審判のセーフに抗議とかイエローカード出されるんだからな。
ーーー
ーー
ー
「とりあえずこれで完成ね」
そこから更にスープを麺に合わせて味を調整し、試作のラーメンが完成した。
「わ!美味しそう!!」
「うんうん、匂いだけで食欲がそそられるね」
阪口、ツチヤ、俺の前に武部が試作ラーメンを置いていく。
「あれ?武部先輩は食べないんですか?」
「私はもう味見だけでお腹いっぱいだから…」
…俺もわりとそんな感じがするんですけどね、目の前にラーメンを置かれた以上、食べねばなるまい。
「それじゃ、いっただっきまーす!!」
阪口の元気の良い号令と共に各々思い思いに箸を進める。
生徒会が勝手に命名した大洗が誇るラーメン三銃士だが、そのラーメン通三人の舌を唸らせるラーメンとならばそれはとても美味しいラーメンに間違いない。
「えーと…どうかな?」
心配そうな表情の武部だが、一度味見をしていた俺は特になんの心配もなく、残りの二人を見た。
「うぉお!なんですかこれ!すごい美味しいです!!」
「これなら大満足だね!!」
二人の満足そうな表情にホッと一息ついた武部はそのまま俺を見る。
「…なんだよ?」
「比企谷はなにも言わないの?」
「…味の感想ならさっき言ったろ」
「それでも、もっかい聞きたいの」
じっとこちらを見つめる武部に俺は残っているスープを一気に飲み干すと空になった器をテーブルに置いた。
「…毎日でも食べたい味だ」
「そ、そう?…ありがと」
だから、恥ずかしくなるなら最初から聞くんじゃないよ…、まったく。
「でも、これが食堂のラーメンになるなら毎日食べられるんじゃない?」
「比企谷先輩もついに食堂デビューですね!不安なら私達ウサギさんチームのみんなで付き添いますよ!!」
「お前は俺のかーちゃんかよ…」
一年生共に付き添われて食堂とかそれ何の羞恥プレイ?
「…それに、このラーメンは食堂には出せないしな」
「え?」
俺の言葉に誰もが唖然とした、阪口もツチヤも、武部もその意味がわからなかったのだろう。
「こんなに美味しいラーメンなんですよ!きっと大人気です!!」
「あぁ、わかってる。ラーメン屋で出すなら満点の出来だ」
ただし、それはあくまでも前提が『ラーメン屋』なら、という話になる。
「だが、食堂は別にラーメンだけを作ってる訳じゃない、食堂のメニューはラーメン以外にも沢山あるしな」
たが、前提条件はあくまでも『食堂のメニューの一つであるラーメン』であって『ラーメン屋のラーメン』ではない。
食堂には当然、カレーや定食等、他のメニューもあるのだ。
「あ…」
武部は気付いたのか難しい表情をする、作っていた彼女には俺の言いたい事はすぐに伝わったのだろう。
「あんこうの下準備にも手間がかかるし、ダシを取るスープにも手間をかける必要がある、単純な仕込みでも他のメニューをやりながらそっちにも人手を回すのは厳しいだろうな」
これがラーメン屋の看板商品ならばそれだけに専念すれば良い話だが、様々なメニューを掲げる食堂となればラーメンだけ特別に多くの人員を割ける訳にもいかない。
というか、下準備を手伝った俺からすれば骨身に染みる思いだ。
大洗学園の人口は約三万人、その内の食堂利用者の人数分あんこう捌けとか言われたら絶対逃亡する自信がある。
「つまり…簡単に作れて、それでも美味しくする必要があるって事?」
「うーん、でも美味しくするにはやっぱり手間をかける必要があるんじゃないの?」
それはそうだ、味を向上させるならどうしても一手間かける必要はあるんだろう。
「そんなの…もうどうしようもない気が」
三人がうーん…と頭を悩ませる。
…そろそろ俺のターンが回ってくるのだろう。
「なぁ、お前らなんでそんなに美味しいラーメンを作ろうとしてんだ?」
俺のその言葉に三人は「はぁ?」とでも言いたげにこちらを見てくる。
「そりゃ…食堂のラーメンを美味しくする為、でしょ?」
そう、そもそもそこがまず間違っている。だからこそ俺は個人席やコラボの提案を必死に訴えて来たというのにこいつら誰も聞きやしないのだ。
「生徒会の依頼は食堂のラーメンを美味しくする事じゃない、食堂のラーメンの売り上げを上げる事だ」
ここから先は俺のターンだ、復活したラーメンコンサルティングの手腕をご覧頂きたい。
「明日、もう一度食堂に来て下さい。本当の…じゃねぇな、とりあえずラーメンの売り上げは上がるはずだから」