やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
新年あけての一発目がまさかのラーメン話とは夢にも思いませんでしたが新春初ラーメンを皆さんは食べましたでしょうか?
今年もちょくちょく更新しつつ…できれば劇場版にも入りたいですが、劇場版書くとたぶんそれだけでずっと続きそうだなーのジレンマが(笑)
翌日、食堂のメニューに一つの新メニューが加えられた。
昨日武部があれだけ試作作りに試行錯誤して時間をかけていたあんこうラーメンと違い、俺のその新メニュー開発にかかった時間は驚きのほぼ0秒。というより脳内で既に完結させていた。
【本日よりラーメンライス、始めました!!】
そんな看板を見て生徒はカウンターに向かう。もちろん看板だけでなく生徒会にも頼んで事前に宣伝活動はしてもらっている。
どんな新メニューもまずは周りにそれを認識して貰わないと始まらない、『開発に12億円かけてます』とかビビットくる宣伝文句が必要なのだ。
「すいません、ラーメンライス一つ」
「あいよ、ラーメンライスね」
生徒は受け取るのはお盆に乗ったラーメンとライス、ただそれだけだ。
特別な具材が追加された訳ではない、ただのラーメンとご飯のシンプルなセットである。
ただ、それは昨日までのラーメンの売れ行きとは比べるまでもないくらい注文が増えているだろう。
「てな訳で新メニュー、ラーメンライスだ」
「なんか納得いかないっ!!」
事の顛末を見て伝えた俺に武部がうーっと唸る、ずっと剥れていた顔が俺の紹介と共に爆発していた。
「そもそもラーメンライスって言ってるけど、ただのラーメンとご飯じゃん!!」
「そうだよ、それがラーメンライスなんだから」
むしろ他に何があるというのか?
「だってラーメンとご飯って、どっちもメインでしょ、どう食べるのよ?」
どうもこうもねぇよ!!
「ほれ見てみろ、ラーメンを食べて、ご飯を食べてを繰り返す、それがラーメンライスの食い方だ」
素晴らしい炭水化物と炭水化物のぶつかり合い、2つが重なり最強に見えるまである。
ラーメンをおかずにご飯を食べるという究極の贅沢がそこにはあるのだ。
「信じられない…カロリーが」
花の女子高生にとってそんなにショッキングな出来事なの、これ?
「いや、五十鈴だってハンバーグ食べながらラーメン食べてるし…」
「華のは…スープ代わりにしてるのかなって」
いや、それはそれでどうかと思うよ?むしろラーメンライスよりずっとどうかしてない?
「いやー、確かにラーメンライスは盲点だったね」
「ラーメン食べるとご飯も欲しくなりますもんね!!」
ツチヤと阪口がうんうんと頷く、もちろん以前から食堂にはライス単品もあるが、そこでこの発想が出ないのが食堂とラーメン屋の違いなのだ。
「えぇ…そんなによくある食べ方なの?」
「まぁな、他にも〆にスープに余ったご飯をぶちこんでおじやにする食べ方もある」
決して上品な食べ方とは言えないが、これぞ俗にゆう洗い飯。米がスープを吸ってまた美味くなるんだよな、これが。
「味付けはライスに合わせて少し濃いめに調整してもらったが、これなら食堂側の負担も飯をよそうくらいだしな」
それもライスがプラスされた事でラーメンより値段が高くなった事を考えれば結果的にはプラマイ0、むしろプラス寄りになるまである。
ライスもそれこそ定食や丼で普段使っているものだからいくらでも使い回しができるのだ。
「でも、それならカップ麺とご飯を用意すれば良いだけじゃないの?」
「白米単品だけ置いてあるコンビニって意外とないからな、余計な味付けのついていない白米こそ、一番ラーメンには合う」
レンジでチンするタイプなら見かけるが、わざわざカップ麺の為にそれを買う人は少ないだろう。
「だから、ラーメンライスを食いたいなら食堂のものを注文するのが一番手っ取り早くなる」
これなら手間もコストもそのままに売り上げを伸ばす事に繋がるだろう。
「もー!なんか悔しい!!」
武部がまだぶーぶーと文句を言いたげだが、こればっかりは料理の上手い下手の問題ではないのだ。
「ま、初日って事を差し引いてもこれくらいの売れ行きなら今後ラーメンが食堂のメニューから無くなる事はないだろ」
ラーメン単品が売れなくても、ラーメンライスが売れるのなら必然的にラーメンもメニューに残す必要がある。
「おぉー、ラーメン売れてるねぇ」
様子を見に来たのか、生徒会の三人も食堂に顔を出した。
「これで依頼は達成…で、いいんですよね?」
「そうね、みんなお疲れ様」
「ふっ、やはりお前達を選んだ会長の目に狂いはなかった、という事だな」
いやその人、ヘタしたらラーメン三銃士ネタがやりたかっただけの可能性もあるんじゃ…。
「とにかくみんなお疲れー、これ、約束の食券ね」
「わ!ありがとうございます!私早速ラーメンライス食べたい!!」
「お!いいねー、私もお腹減ってきちゃったよ」
生徒会が今回の依頼報酬となる食券を配る。戦車道特典といい、暴虐無人なこの人達だが意外な事にこういう約束事はきちんと守るんだよなぁ…。
ん?あれ?そういえば戦車道で優秀な成績をおさめたらバレー部が復活するって話があったような…、うん!考えないようにしよう!!
バレー部の件は置いておくとして…。報酬がちゃんとあるのはまぁ素晴らしい、これがどこかの奉仕部とかだったらノーギャラもあり得るからな。
「ほい、比企谷ちゃんも」
「…どうも」
…と答えても。ラーメンライスが新メニューに加わっても俺は食堂を使わないだろう。そう考えると結局、今回の依頼はただ働きのノーギャラなのだ。
転売も…うん、さすがに一度バレた事をもう一度やらかすつもりはない。
このまま渡された食券がただの紙切れになるのは勿体ないだろう。だから…まぁ使い道を考えるなら決まっている。
「武部」
「うん?」
それに、今回の件で一番頑張ったのは誰か?と言われればそれはもちろん俺ではない。なぜなら、あの時食べたあの至福の一杯は彼女が考えた最高の一品だったのだから。
むしろ今回の俺の案はその彼女の最高の品を真っ向から否定した物でもある。
だから、その礼という訳でもないが。この食券は彼女が持つべきだと思う。それに…うん、ほら?勿体ないしね。
「これ…、ん?」
と、気付いた。元々使うつもりが無かったので会長に渡された時にはよく見ていなかったが、これ、食券じゃなくね?
「あ、そうそう。比企谷ちゃん、どうせ食堂とか使わないと思うから別のにしといたよ」
とは会長の言葉。…さすがに付き合いが長いせいか、俺の事をよくわかってらっしゃる。
「…それで、なんですかこれ?」
食堂の代わりに貰ったそれには【武部ちゃんの手料理が食べられる券】と書かれていた、肩たたき券ばりの手作り完満載である。
「まぁそんな訳で武部ちゃん、悪いんだけどまた機会が出来たら比企谷ちゃんにご飯でも作ったげてね」
俺の質問をガン無視して会長は満面の笑みを浮かべると生徒会の三人は満足そうに帰っていった。
「…えーと、どうしよっか?」
阪口もツチヤも早速食堂の列に並んでいるので、自然と俺と武部が取り残されてしまう。
「いや、俺に聞くなよ…」
これを渡されていったい俺にどうしろと?
「それ、使うの?」
「いや、悪いだろ…、生徒会の依頼はもう終わってんだし」
生徒会の悪ふざけも少しやり過ぎというか…武部を巻き込むのはちょっとどうかと思う。
こんな事に巻き込まれて武部も良い迷惑だろうに…と思っていると、だが彼女の方は困った表情をしながら笑っていた。
「でも比企谷、またあのラーメンが食べたいって言ってたでしょ?」
それはどこか照れた笑いのようにも見えて、少なくとも生徒会に文句があるようには見えない。
「まぁ…言ってたけど」
「もー!そんな券があるならしょうがないなぁ…。じゃあ、また今度作ったげるね!!」
「いや、だから…」
と言い終わらないうちに彼女は俺の手の中のその食券を一枚千切るとそれを口元を隠すように持っていった。
「…だから、楽しみにしててよね!!」
「お、おう…」
そんな彼女の仕草に思わず頷いてしまう。
だってしょうがない…そんな素敵な笑顔を見せられれば誰だって楽しみに思えてしまうだろう。
「あ、あと!もちろんラーメン以外も自信があるんだから!私、肉じゃがが一番の得意料理だし!!」
それだけ言うと彼女は恥ずかしさから逃げるように駆け出していく。
その背中を呆然と見つめながら残された俺の手にはまだ件の食券が握られていた。
この食券を使う事が迷惑になるのか、使わない方が彼女を悲しませる事になるのか。
どちらにせよ、まず一枚使ってしまったし、またあのラーメンが食べられるとなれば心が弾んでしまう。
「…ハートキャッチより、胃袋を掴まれる方がよっぽど効くな」
きっと次回のプリキョアはストマックキャッチとかになっちゃうんだろう。
だって仕方ない。いつまでたっても男の子は、女の子に手料理を振る舞って貰えるというだけで最高に嬉しい、単純な生き物なのだから。
ちなみに前編で生徒会が武部さんに耳打ちしたのがこの八幡に手料理を振る舞えるきっかけを作ったげる、みたいなものだったり?
やっぱりラーメンにはライス、異論は認めない!!