やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
そろそろ最終章第3章が始まるんですが例のウイルスが怖い…。
「やっぱ降って来ましたね、雪…」
窓から見えるそれを確認し、ややうんざり顔とした顔をする、雪を見るのは今年に入って何度目か。
本来茨城県はそれほど雪の振る地域ではない、それなのに何度も雪を目にするのはこの学園艦という海上を移動する船故にだ。
そもそも今は夏真っ盛りである、暑い時には涼しい所へ行くというのは賛成ではあるが何事も限度があろう。
特に今年は雪に対するトラウマが増えすぎたまである、戦車道メンバーの前で醜態を晒し、あんこう音頭の歌を中継で晒された羞恥プレイと録な思い出が出てこない。
つーかどれもこれもプラウダ関連ばっかじゃねーか、さすがはカチューシャさん、恐ロシア。
「マジでこの雪の中戦車道訓練やるんですか?」
雨天中止というか、寒天中止しないの?そりゃ戦車道訓練も授業なんだしなにかしらやる必要はあるが、熱血体育教師でもこんな日にマラソンなんてさせないだろう。
「何を言う、雪中訓練が出来る貴重な良い機会だろう」
とは河嶋さんの弁。まぁ確かに…プラウダ戦がそうだったように戦車道の試合フィールドはランダム、こちらの都合もお構い無しだ。
雪原での試合に不慣れな俺達大洗ではもし試合でまた雪原が出てこようものなら苦戦を強いられる可能性は高い。プラウダ戦の勝利なんてカチューシャさんの舐めプにつけこんだラッキーパンチみたいなもんだし。
「むしろこれぐらいの雪ではまだまだ訓練にならんくらいだ!えぇい!もっと積もらないのか!?」
あっ…(察し)。
ーーー
ーー
ー
翌日、世界は銀一色の真っ白だった。正に聖域、兎とか沢山出てきそう。
積もりに積もった雪は学園に行くにも一苦労というか、こんな日くらい休みにしてもいいだろうに。
戦車訓練?いや、その肝心の戦車が扉が雪に埋もれた戦車倉庫から出せないから。
「…桃ちゃん」
「い、いや、私のせいじゃないだろ!これは!!」
ここまで積もられるともう戦車訓練どころじゃない、降雪の方は明日には落ち着くらしいが積もった雪はどうしようもない。
「こりゃしばらく訓練は無理ですね」
そう、無理だ無理、解散。ここは大人しくしばらく選択授業はカットにすべきだろう。
「んー、しょうがないか」
ほら、我らが会長もこう仰ってるのだ、ここは流れに乗るしかない。
「雪かきしよっか」
なん…だと?
「…えと、会長、雪かきって、この量をですか?」
「だってそうしないと訓練出来ないし」
…それ、普通に死ねない?
「わかりました!!」
そしてその言葉になんの疑問も反論をする事なくスコップを手に取る河嶋さん。毎回思うけどこの人、会長になんかヤバい弱みとか握られてない?
「…そうだ、自動車部の人達ならなんか除雪の機械とか持ってません?」
「あるにはあるんだけど…、自動車部の人達には街中の除雪をお願いしてるの」
あるにはあるんですね、除雪ブルドーザーとか…。あの人らマジなんでも乗れるの?ライダーなの?
「まったく…、なんでも自動車部に頼ろうとするな」
すげぇブーメラン投げるよねこの人…、その除雪絶対生徒会の依頼でしょうに。いや、あの人達の場合乗りたいから乗ってる可能性もあるのが怖いけど。
「まぁそんな訳で天気も落ち着くみたいだし、明日はみんなで雪かきしよっか」
…マジか?いや…なんていうか…マジか?
ーーー
ーー
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「…たでーま」
「おかえりお兄ちゃん、…どったの?いつにも増して目が死んでるよ」
そりゃ明日から地獄の雪かきが始まるとか宣言されれば誰だってこんな顔にもなる。
現にこの話を知った戦車道メンバーからも文句しか出てきていない、そりゃそうだ。戦車訓練で使う訓練場所は当然広い。
その訓練場を雪かきとか、1日じゃとても終わらないのは目に見えているし雪が溶けるのを生徒会は待ってはくれない。
2日も3日も雪かきとか大洗はプラウダ高校だった…?あそこ、粛清でやらされるらしいし。
「…プラウダ高校」
そういえばプラウダ高校の母校は青森県、大洗と違って元々雪の振る地域だ、カチューシャさんの粛清の内容から雪が振る事なんて日常茶飯事だろう。
だったらプラウダ高校はこういう時、どう対処しているのか、上手くいけば雪かきを回避できるかもしれない。
働きたくない、絶対働きたくない。今回ばかりはマジ回避したい。
一応、カチューシャさんの携帯番号なら知っている。大洗が優勝したあの日の祝賀会で聞いてきたからだ。
ちなみにその時、ノンナさんとクラーラの目が怖くて断れる気がしなかった、教えたら教えたで更に二人の視線が怖かった。あれ?これもう詰んでね?
「……出ねぇな」
一寸の希望にすがる思いでかけてみるがカチューシャさんが電話に出る気配はない。
『はい』
もう諦めようかと思った時、ようやく電話が繋がった。
「あ、えと…カチューシャさん」
『いいえ、私はノンナです』
なんで!?
つーか、背筋完璧に凍った…これがブリザードのノンナの異名の意味なのか。
「はい?えと…ノンナさん?」
おかしい、確かにカチューシャさんにかけたはずなのにノンナさんに繋がるとか、裏世界の電話なの?
『同士カチューシャは今お休みになられているので、要件なら私が聞く事になっています』
「…あ、そうですか」
きっとお眠の時間なんだろうなぁ…、冷泉ばりによく眠る人だ、寝る子は育つというのは嘘なんだろう。
しかしノンナさんは寝ている間携帯を預かってるの?それで良いのかプラウダ高校。
『なんならカチューシャを起こしますが?』
「あぁいえ、ノンナさんで大丈夫です」
気持ちよく寝ている所を起こされた時のあのチビッ子隊長の機嫌がどれだけ悪くなるかはなんとなく想像はできるし。
そんな訳でノンナさんに事のあらましを説明してみる。
『そうですね、やはり基本は人海戦術ですが、大洗だと厳しいかもしれませんね』
「…ですね」
さすがはノンナさん、話が早い。今回の問題点もわかっているのだろう。あとこの人カチューシャさん絡まなければ普通に対応してくれるのね。
粛清もあるんだろうが元々プラウダ高校はうちよりも戦車道メンバーが多い…というか、今年から戦車道を始めた大洗が少ないのだ。
例えばサンダース大付属なら戦車道メンバーは500人を越える、それだけの人数が居れば雪かきも人海戦術を駆使できるだろう。
いや、あの高校お金持ちらしいし、除雪機沢山持ってそうだけど…なんなら屋根付きの戦車訓練場所とかありそう。
それを言うなら元々雪に慣れているプラウダも除雪機械は充実しているだろうし…こりゃ前提条件が間違っていたか。
大洗の戦車道メンバーは元々少ないのだ、そりゃ他の高校と同じようには出来ない、マンパワーが足りないのだ。
『んー、ノンナぁ?誰と話してるの?』
うーんと唸っていると電話越しにカチューシャさんの声が聞こえた、いかにも寝起きといった声だ。
『比企谷さんですよ』
『ハチューシャ!なんでノンナがハチューシャと話してるのよ!!』
『カチューシャがぐっすりお休みになっていたからです』
『くっ…、いいからかわりなさい!ハチューシャ、せっかくこのカチューシャが電話番号を教えてあげたのに全然連絡してこないってどういう事なの!?』
「あー、えと、その」
起きるなりすげぇマシンガントーク、やっぱ寝起きは機嫌最悪じゃねぇか。
『罰としてシベリア送りよ!覚悟なさい!!』
『カチューシャを称える雪像を作るように、との事です』
「…その翻訳、ほんとあってます?」
『えぇ、雪なら沢山あるのでしょう?』
そんな何を当たり前の事を言うのか?みたいに言われても…、カチューシャさんの雪像とかなんの札幌雪まつりですか?
「…あぁ、なるほど、人海戦術」
雪まつり…、その手があった。
「…ノンナさん、ありがとうございます。確かに雪なら沢山ありますね」
『いえ、私は特にはなにも。…それにしてもなかなか酷い事を考えますね』
そのヒントをくれたのは誰ですか?うん、この人を敵に回すのは止めよう、止めたいんですがなんとかならんですか?
『ん?なんの話よ、ノンナ』
『比企谷さんが酷い事をする、という話です』
『なにそれ、いつもの事じゃない』
…いや、なんでそれでカチューシャさん納得しちゃうの?酷いのは俺ってより世界の方だから、なんもかんも世界が悪い。
「人聞きが悪いですよ、なんせ俺は大洗の"みんな"が楽しめるイベントを企画しようってだけですから」
さて、今日は少し忙しくなる、速攻で企画書作って生徒会に叩き付ける必要がある。
それも全ては明日の為に、キーボードを打つべし!打つべし!打つべし!!
ーーー
ーー
ー
「では、これより大洗学園雪まつりを開催する!!」
会場に集まった大洗の生徒がある者は楽しそうに、あるものはめんどくさそうにスコップを手にしている。
中には「あぁ、生徒会のいつものアレですか…」と諦めた表情の奴も居るがそういう奴等はもう諦めてくれ、俺も諦めてるから。
さすがに学園艦の運航もあるので全生徒…とまではいかないが、これだけの人数が集まれば人海戦術としては十分だろう。
そう、戦車道メンバーだけで人数が足りないなら他の誰かに手伝って貰わなければならない。
金のかかる業者はNG、必要なのはある程度は無償で働いてくれる労働力、うん、大洗の生徒しかない。
だが無償で戦車道の為に雪かきを手伝えとなると一般生徒から不満が出るのは当然だ。
「みんな、ここにある雪を使って雪像を作ってね」
だから、彼等には雪かきしているとは思わせない、あくまで雪像の材料の為に雪をすくっている…と認識させる。
「じゃ、そういう事でみんな頑張ってねー、コンテストで優勝したら良いものあげるから」
そして商品という形で飴を用意しておけばそこまで大きな不満は出てこないだろう。
「なんか…すごいね」
その様子をポカーンと口を開けて見ていたのは西住をはじめ、あんこうチームのメンバーだった。
「でも、これで思ったより早く終りそう」
「えぇ、さすがにあの量を私達だけで雪かきするのは大変でしたから」
「しかし意外でした、比企谷殿がこんなイベントを企画するとは」
「単に雪かきをしたくなかっただけだろう」
相変わらず冷泉の奴は一言多い、助かったのはお前も一緒のはずだ。
「雪像はチームで作っても良いからな、お前ら五人で作るのか?」
急造の企画なので雪像作りのルールはかなり適当だ、とりあえずだいたいはチームになって作っている、戦車道メンバーはだいたいそれぞれのグループで作業しているしな。
「えと、私達と…その、八幡君も一緒にどうかなって?」
「え?俺か?」
「うん!!」
五人が俺を見る、なるほど…今まで作業を始めなかったのは俺を待っていたからなのか。
本当に申し訳ないと思う。こんな俺の事を待っていてくれるとは思わなかったのだ。
「いや、俺は今回運営側だから、記録雑務係」
なので雪かきには参加しないで済む…じゃなくて出来ないのだ。いやーマジ残念だ。
せっかくイベントを企画したのだこれくらいの役得はもちろん狙いにいく。
「「「「「ずるい!!」」」」」
…いや、本当に申し訳ないよね、こんな俺に。