やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
青春とは嘘であり、悪である。青春を謳歌せし者たちは、常に自己と周囲を欺き、自らの取り巻く環境の全てを肯定的にとらえ、思い出の一ページに刻むのだ。
武道にて例を挙げよう、代表的なものに戦車道とかいうものがある、華道や茶道に並ぶ大和撫子の嗜みとして全国大会さえあるこの競技だが蓋を開けて見れば女子共が戦車をオモチャに「きゃは★今うちら、めっちゃ青春してる〜」とか馬鹿みたいな事言いながら戦争ごっこしているだけだ。
戦車とはそんな軽々しいものではない、無骨な鉄、相手を殲滅せすべく進化された兵器なのだ、それを勘違いした女子共がただただ青春の一ページに利用するべく、戦車に乗ってる。
彼女等にかかれば戦車も、戦車道も、青春をエンジョイする為のアイテムの一つに過ぎないのだ、やっている事は単なる戦争ごっこなのにだ。
ならば逆説的に、青春をエンジョイしていない、戦争ごっこをやっていない者こそが真の平和主義者であり、平和主義者とは世に言う正義である。
結論を言おう。
戦車乗るならリア充でも撃ってろ。
「アッハッハッハッハッ!いやぁ〜、笑った笑った、何度読んでも面白いね、これ」
生徒会室、その中の備品で一際立派な机にて大笑いをしているのは我等が大洗学園生徒会長である。
一年の入学式、ある出来事で事故に合って長期入院する羽目になった俺は高校デビューに失敗し、代わりにこの生徒会メンバーと面識を得た。
完全に損しかしてないな、これ。
角谷 杏、小柄な体形にツインテールと見た目こそ中学生と見間違えていいロリッ子だが、実質的なこの学園艦の頂点に立つとも噂されてる人物で油断ならない人である。
なんでも学校と学園艦運営に関しては理事長よりも強い権力を持つとか、うちの理事長何やってんの?この人卒業したらどうすんのよ?
ちなみに生徒会長が何度読んでも、って言ってるがガチで何度も読まれている、完全に公開処刑だ、この生徒会室には今、三人しか居ないのでダメージはそこまででもないが次読まれれば血でも吐いてしまいそうだ、ダメージ結構あるじゃねーか。
「それで比企谷君、このレポートのテーマは何だったか覚えてる?」
「えぇっと…、高校生活を振り返って、ですよね」
「それがどうしてただただ戦車道に関する文句と、テロ宣言になってるの…」
呆れたようにため息をついているのは同じく生徒会の副会長、小山柚子さんだ。
破天荒揃いの生徒会メンバーの中で唯一の常識人である、胸はわりかし常識的ではないが。
「おい、貴様!なんだその死んだ魚みたいな目は!!ちゃんと怒られてる自覚があるのか!!」
スンマセン、この目はデフォルトなんです、つーかやっぱり怒られてるのね、会長がめっちゃ笑ってるし、むしろ喜ばれてるかと思ったわ。
俺を指差してキレてるのは生徒会メンバーで広報の河嶋桃さんだ、俺が生徒会室に入ってからというものずっとキレてる、怖い、あと恐い。
「まぁまぁかーしま、落ち着け、さて、比企谷ちゃん、何で呼ばれたかわかってる?」
「えっと…、やっぱりそのレポートッスか?」
「うーん、私としては面白いし有りなんだけどね、やっぱこれはダメだなー」
ですよねー、いや、俺も書いてるうちに妙に筆が乗ってつい調子にのっちゃったんだよな。
「はぁ…、じゃあ書き直しですか」
まぁ仕方ない、次提出するのは当たり障りのない適当な内容でいいだろ、『今日、学園に行って勉強しました、楽しくなかったです』みたいな小学生作文で。だいたい毎日そんな感じだし。
「おやぁ、比企谷ちゃん、まさかこんなふざけたレポート書いてきて、書き直し程度で済むと思ってるの?」
俺が書き直しの内容を頭に思い浮かべていると会長はめっちゃ悪い笑顔を見せてきた、本当に悪い笑顔、怖い。
「まさか…、あんこう音頭踊れとか言わないッスよね…」
ひやりとした汗が出る、この会長、他人への罰にそういうのをやらせてくる。
あんこう音頭とはピンクのあんこうのスーツを全身に纏い、あんこう音頭のテーマで踊る、どう見ても羞恥プレイである。
「アッハッハッハッハ、比企谷ちゃんのあんこう音頭かぁ、それも見てみたいなぁ」
「いや、無理ですから、勘弁して下さい」
「まぁそれは別の機会でいいよ、ちょっと生徒会の仕事を手伝って欲しいんだけど」
「まぁ、それくらいなら…」
あんこう音頭よりは何倍もマシだろう、ぼっちのあんこう音頭とか、頭の提灯も点灯しないわ。
「よっし、んじゃ決まりね、ところで比企谷ちゃん、戦車は好き?」
「はぁ?まぁ、好きですけど、男の子ですし」
会長が突然そんな事を聞いてきたので質問の意図がわからず、生返事で返した。
実際、戦車は好きだし。
「んじゃ、戦車道は?」
「嫌いッス」
今度は即答できた、つーかそのレポートでわからないんですか?あぁ、絶対わかってて聞いてるよねこの人。
戦車をオモチャにして戦争ごっこをする戦車道なる武道が俺は嫌いだ、つーかなんで乙女の嗜みやねん、男部門ないねん。
おかげで純粋に戦車好きな俺がキモい扱いされてる、こちらとしてはいい迷惑だ、やっとこさマイナーな武芸となってきてるのでこのまま衰退してくれればありがたい。
「んー、そっかそっかー、うんうん」
俺の返事が気に入ったのか予想通りだったのか、会長は嬉しそうに頷くと。
「その戦車道、今年から大洗でも復活させるから、比企谷ちゃんも手伝ってねー」
その笑顔のまま、場を凍り付かせるような宣言をしてきた。