やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
そして皆さんのおかけでついに記念すべき200話突破!!…え?200?マジ?
「いや、それはーーー」
「八幡君!ボコになるの!?」
俺の初手、断りの旨はそれよりも早く西住によって無慈悲にも遮られてしまう。
チラリと西住を見れば両手をギュッと握って大変興奮したご様子だ。
「すごい!すごいよ八幡君!!」
「えぇ…なにそれそんなにすごいの?」
「うん!だってボコだよ!ボコになるんだよ!!ボコになるなんて…本当にすごくて、とにかくすごいの!!」
「語彙力ぅ…」
いかん、語彙力が死んじゃった西住が限界オタクさんみたいになってる…。
「…八幡君がボコに、えへへ…どうしよう?」
…何が?何をどうするの?ボコみたいに俺の事ボコボコにしたいの?それ練習試合でいつもやってるよね?
そうか俺はボコだったのか(戒め)。
「…えぇっと?なんかそういう店でもあるんですかね?」
あるいはそういうプレイでも?と言いたくなるのをぐっと堪えつつ、某時代村とかでも客が時代劇の格好を扮してしてテーマパークを歩ける店はある。
そういうお客さん体験型の店がボコミュージアムにもあるのだろうか?『これであなたもボコワールドの住民になれる!!』みたいな。
「!! そのアイディア…いいかも!!」
いや、よくないでしょ。傍目に見ててもボコワールドは暴力の支配する世紀末な世界なので住民になろうとは思えない。
「あっ…えと、今回はそうじゃなくてですね、先ほどのショーの事で」
「すごく頑張ってたよね、ボコ!!」
うん、ちょっと西住は黙っててね…。
「なんかあったんですか?」
「…先ほどのショーでボコが転んでしまった時なんですが」
あぁ、声援から復活した後、相手に立ち向かおうとして派手にずっこけたあれか。
「その時、中の人が足を挫いてしまって…」
「…何してんですか?」
いや、本当に何してんだよ?つまりあのずっこけは台本じゃなかったのか。…きっと台本通りでもなんやなんや負けるんだろなぁ。
「…てか、その後みんなでボコボコにしてませんでした?」
「もちろんショーですから、例えどんなハプニングがあっても続けます」
…それがプロ根性というやつか。例え中の人が足を挫いても容赦なくボコボコにする。…やっぱ労働って糞だわー。
「それに…それもボコですから!!」
「うん、それもボコだよね!!」
「…どれがボコなの?」
うんうんとお互いに頷き合うスタッフと西住。…そういうわかっている者同士の謎会話、止めてくれません?
「ですが午後からのショーに問題が…」
「あぁ…まぁ、厳しいですよね」
ボコ役の人が足を挫いてしまったのだ、その人にまた午後からボコボコにされろとはさすがに言えないだろう。
…言えないよね?てかちゃんと労災おりるの?
「それでも代役…てか、他にもスタッフが居るんじゃないですか?」
「うちは常にスタッフギリギリで、そんな余力はとても…」
ボロボロの建物を見てなんとなく想像はできたが、このそこはかと漂うブラックな香り。仕事は誰かが有給使っても回るようにしたげてよぉ…。
「じゃあ午後のショーは中止ですか、残念っすね」
いやー、残念だが中の人が居ないなら仕方ない。『中の人などいない!!』とはよく聞くが本当にいないのなら仕方ない。
「いえ…私達は午後からもショーを続けたいんです!!」
「えぇ…」
「さっきのショーなんですが、あなた方の他にもう一人、女の子が居たのに気付きましたか?」
「…居ましたね」
とういか観客は俺と西住とその子だけだったので気付かない方がどうかしている。…とは言わないでおこう。
「あの子…何度もここに来てボコを応援してくれている大事なお客様なんです、きっと午後のショーが中止になったらがっかりしてしまいます」
「………」
「その子に、私達はいつも通り午後からもボコのショーを見せてあげたい、その為にはボコの代役が必要なんです!もちろんバイト代も支払います!!」
…一人の女の子の為に、か。
水族館でも動物園でも、観客の少ないショーなんてやらない方がむしろ儲けに繋がるだろう。1000人が相手でも、10人が相手でも、ショーの内容もスタッフの労力もそう変わらない。
それをただ一人、いつも応援に来てくれる女の子の為にショーがしたいとこの人は、いや…ここのスタッフは言うのだ。
…経営下手にも程がある。そんなだからここ、ボロボロなんだろうなぁ。
というか、西住と小町以外にもボコマニアが居るもんなんだな。
「…八幡君」
西住が不安気に俺を見てくる。…西住も午後からのショーを楽しそうに話していたし、中止となればがっかりするだろう。
あれだけ楽しみにしていた初のボコミュージアムに、いきなりケチがついてしまう事になる。
…俺の勝手な気持ちを押し付けるようで嫌になるが、それ以上にそれが嫌に思えてしまう。
今日。西住を誘った手前、彼女にそんな顔はさせたくはない。これはきっと、そんな我が儘で独りよがりな勝手な思いなのだろう。
「…ショーなんてやった事ありませんけど、それでいいなら」
「引き受けてくれるんですか!!」
「まぁ、成り行きですし…」
「ありがとうございます!!」
スタッフさんが深々と頭を下げる。…あー、もう逃げられねぇぞこれ。
「てか…そもそも、なんで俺なんです?」
いや、他にお客さん居ないけど。それでもパッと目についたそこら辺の高校生をスカウトするってどうなの?一応ボコって主役だよね?
「あなたからボコと似た雰囲気を感じて、オーラ…ですかね?」
ボコっていつもボコボコに負けてるんですよね?喧嘩売ってる?
「!? わかるんですか!!」
そして西住のこの食い付きよう、この子もひょっとして俺から何か変なオーラ感じてるの?
「えぇ、第一印象からもう…この人しか居ない!!と」
え?やだ、そんなにオーラ力漏れてる?なんならハイパー化とか出来るかな…。
「それでショーなんですが、ボコの声は外から別のスタッフが対応するので基本的には動きだけで大丈夫です」
「はぁ…、具体的には?」
「因縁吹っ掛けて喧嘩売ってボコボコにやられて下さい」
「すいません、辞退していいですか?」
ハローワークでそんな職業内容の求人あったとして、誰がそれ見て就職したいと思うのか。スタッフ不足の原因ってそれもあるんじゃ…。
「八幡君!私も午後のショーは一生懸命頑張って応援するね!!」
しかし西住の方は両手をぐっと握って気合い充分だった。なんなら俺との温度差で風邪引いちゃいそう、もう体調不良で帰っていーい?
「…応援するのは構わないけど、勝つって選択肢は?」
別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?
「勝っちゃったらボコじゃないよ…」
ならなんで応援するの?やっぱ西住殿ドSなの?
「…あっ!ならいっそ不戦敗とかどうです?ボコを登場させず負けさせる、これならショーも成り立つのでは?」
「それはボコじゃないので…」
「うん、ボコじゃないよ…」
「ボコじゃないかー…」
むしろボコってなんだろう?この世全ての悪をぶちこまれでもしたんだろうか…。
「『戦わないオイラはオイラじゃない!!』それがボコなんだよ!八幡君!!」
うーん…その台詞聞くと俺とボコってやっぱ全然似てる気がしないんだよなぁ…。
ーーー
ーー
ー
さて、午後からのショーにはまだ時間もあるという事でふらりとやって来たのはこういうテーマパークにありがちな専門ショップだ。
ショーの方は一応簡単な流れは確認したので問題ない。いや、マジで台本が『因縁吹っ掛けて喧嘩売ってボコボコにやられる』レベルなのであれならなんとかなりそうだ。なんなら俺じゃなくてもいいレベルである。
んで、そのボコショップの内容だが。
「ボコ目覚まし時計…ボコ危機一髪、ボコドンジャラ」
「どれもオリジナリティがあって可愛いね!!」
「おりじなりてぃ?」
むしろどれもこれもどこかで見た事のある商品ばかりなんだが…いいのかこれ?
「あっ!」
ふと西住が目に止めたのは『残りひとつ!激レアボコ』と銘打たれたボコ人形だった。両手、両足、両耳が包帯ぐるぐる巻きでなんならお腹に切開の跡さえある素敵仕様。
よくわからんがひょっとしてボコがボコボコな程レアで価値でもあるのだろうか?うん…深く考えないようにしよう。
「残りひとつだって!買わないと…」
「いや、こういうのって本当にひとつかわからんぞ」
人間、誰でも限定という言葉には弱いのだ。うちの近所の店なんて毎日同じ限定品売ってるし、なんならずっと閉店セールしている店だってある。
「でも可愛いし」
迷いなくその限定ボコに手を伸ばす西住だが、ふともう一方からも手が伸びてくる。
「あっ…」
見るとそれは例のボコミュージアムによく来るらしい女の子だった。西住とその子はお互い少し気まずそうにする。
1つの限定品に二人のボコマニア、来るぞ遊馬!!…うーん、これは戦争ですね。
「いいのいいの、私はまた来るから」
だが西住はその少女の手に限定ボコを握らせる。女の子は何か言いたげだったが、戸惑いつつもそれを受け取った。
これが俺と秋山で物が戦車グッズであったなら間違いなく戦争だったが、なんとも平和的解決、まぁ…西住だしな。
「………」
ふと、その少女は西住と。…何故か俺の方も見て少し気まずそうにレジへと向かっていった。
「良かったのか?限定品っぽかったけど」
「うん!それよりもボコが好きな子がいて嬉しいな」
「…そっか」
あの女の子も何度かここに来ているらしいし、西住もたぶん、てか絶対、ここには来るだろう。なんなら小町も交えて今後なにかしら交流があるかもしれない。
…このボコミュージアムが閉館にさえならなければだが。
「うーん、でもどれにしようかな?」
買う予定だった限定品を譲った事で西住はまた商品に目移りを始めた、こうなると長いだろうな。
「…俺、ちょっと向こうで台本読んでていいか?」
そろそろ午後のショーが始まるし、もう一度流れの確認くらいは今のうちにやっておくか。
「あ、うん、ごめんね。時間かかっちゃって」
「いや、なんなら小町のお土産も良さそうなの一緒に見繕って貰えれば助かる」
「うん!任せて!!」
いや、本当に任せました。ボコミュージアムに行くってなった時の小町のお土産への念の押しようがハンパなかった。なんなら一緒に来いと言いたくなる程だ。
ボコショップの近くの適当な椅子に腰掛けて、貰った台本を開く。台本とは言うが台詞は外の人がやってくれるので、中の人である俺は一連の動きを確認するだけでいい。
まぁ…これならなんとかーーー。
「…あの」
「あ?」
ふと声をかけられて視線を台本から移すと…例の少女が居た。慌てて手に持っていた台本を隠す。
「うっ…」
その少女は俺が見るなり少し怯えた様子だ。いや、別に睨んでるつもりはないんだが…。
「………」
「………」
気まずい沈黙が流れる。そもそもこの子、なんで話しかけて来たのだろうか?
いや、そもそも…最初のショーの時からなんとなく見られていた気はしたんだが、それはただ単に警戒されているから、くらいに思っていた。
俺の方はもちろん警戒マックスだ。単純にこれからボコのショーに参加する事をバレてはいけないし、それ以上に小さい子相手に下手に動けば事案待ったなし。
「えっと…」
なので自然とその子の方から言葉を続けるのを待つ事になる。その少女はやがて意を決したように話しを続けた。
「あの子…元気にしてる?」
…はて?あの子?あの子って誰だ?
そもそもこの少女とも初対面…のはずだ。いや、なんか見た事あるような…ないような、そんな妙な感覚。
「…悪い、あの子って誰?」
しかし感覚はしょせん感覚でしかなく、覚えがないのでその少女の問いには答えようもない。
「!!」
俺がそう返すとその少女は何も言わずその場から走って逃げていってしまった。
…うーん、俺でも一発でわかるバットコミュニケーション。見知らぬ少女の好感度が下がる音すら聞こえて来た。
とはいえ、知らないものは知らないので仕方ない。
だが、それ以上に午後から始まるショーのボコの中身がそんな奴だと、あの少女には決して知られてはいけないのだろう。
「? 八幡君、どうしたの?」
ふと、お土産選びを終えたのか西住が帰ってきた、その手には…。
「いや、別に…てか、手ぶらだな。てっきりもう買ってるもんかと思ってたんだが」
「いくつか候補はいろいろ考えたんだけど、やっぱり最後は八幡君が選んだ方が小町ちゃんも喜ぶと思うし」
「そういうもんか?」
物がボコ関連なら俺なんかよりずっと西住の方が詳しいと思うんだが。
「うん。あと…ね、私の方も候補がいろいろあって、八幡君に選んで欲しいな…って」
「いや、そこは自分の欲しいの選べよ…」
「…八幡君に選んで欲しいんだよ?」
「…そういうもんか」
「うん、そういうもの…かな」
…まぁ、そういうもんなのだろう。そういうもんなら素人意見だが、選んでみるか。
「んで、その候補って?」
「えーとね、これとこれとそれとあれと、あとそっちのも可愛いし、こっちのも良いよね!でもその子も欲しくて!!」
…候補とは?