やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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なんか久しぶりに八幡視点の話を書いた気がする。やっぱりおちつくなぁ…これはもう恋なのでは?

と、冗談は置いといてもなんだかんだひねくれてますけどやっぱり八幡視点が一番書きやすいです、何より地の文でパロネタがすらすら書ける!やった!!


彼女は先を進み続け、しかして彼は立ち止まり続ける。

マリンタワーと聞けば多くの日本国民がまず思い浮かべるのは横浜マリンタワーだろう。

 

中華街、ラーメン博物館、横浜スタジアム。…聖グロリアーナはイギリス被れしなくても横浜だけで充分戦えるポテンシャルを持っている。

 

だが茨城県民が思い浮かべるべきマリンタワーといえばやはりここ、大洗マリンタワーだ。

 

地上60メートルにもなる大洗町のシンボル的マリンタワーだ。え?横浜マリンタワーは地上106メートルだって?いやほら、横浜マリンタワーには敷地内に特大カジキマグロの謎モニュメントとかないし…。

 

え?なに?高さでカジキマグロに勝てると思ってんの?(逆ギレ)。

 

一階には売店と簡単な観光案内所と展示品、二階は…なんかいつも謎コラボしてるレストラン。

 

…そして、三階は。

 

「…すごい」

 

こういうタワーでは定番だろうが、展望室となっている。

 

高さこそ他のタワーには及ばないだろうが。それでも近くに他に高い建物がない分ここからなら大洗の町全体も、太平洋も、天気さえ良ければ富士山だって一望できる。

 

ボコミュージアムから戻って来た頃にはもう夕陽も沈みかけだ、大洗港に停泊している学園艦も戻ってくる生徒のチェックで風紀委員なんかは忙しい頃合いだろう。

 

そんな中、今日の締め…というのもおかしいかもしれないが、最後はここ、大洗のマリンタワーの展望室に来た。

 

「八幡君、あそこは?なんだかすごく広いけど」

 

「ゴルフ場だな、海辺の近くにあるのはわりと珍しいって話だが」

 

わりと潮風とか強い日もあるんだが、そういう日はまともに玉とか飛ぶんだろうか?いや、そもそもゴルフとかあんまり詳しくないんだが。

 

「ゴルフ場もあるんだ…、あっ!向こうには水族館もある!!」

 

と、まぁそんな訳で。大洗の町が一望できるここなら、ざっと大洗の町を紹介するのにうってつけなのだ。ちなみに何故かボコミュージアムは見えない。本当、こういう所だよ?あの建物。

 

「こうして見るとまだ知らない場所ってたくさんあるんだね」

 

「まぁ…元々1日で見て回るってのは土台無理な話ではあったな」

 

というか、今日1日ほぼボコミュージアムですっ飛んだ気がしないでもない。なんなら頭の片隅でずっとミュージアムで流れっぱなしだった『ボコのテーマソング』のBGMがぐるぐると「やってやる、やってやる、やーってやるぜ」と巡回してるまである、助けて。

 

…時間的にも大洗の町案内に関してはこんな所だろうか、あとは。

 

「西住」

 

「うん?」

 

ちょいちょいと西住を手招く。今度は大洗の町とは反対側、この高さからなら停泊している大洗の学園艦を見下ろす事ができる。

 

「あれ、大洗の学園艦な」

 

「えーと…うん、知ってるよ?」

 

でしょうね。知っていてくれないと困る。だが見るからに困惑している西住はたぶんにこの事はよくわかっていないのだろう。

 

「…お前が守ってくれた学園艦なんだが」

 

「…え?えぇえ!?」

 

「いや、そこでんな驚かんでも…」

 

「だってほら、私は別になにも…」

 

…なにも(素人だらけで全国大会優勝)とは?

 

「戦車道全国大会、優勝出来なかったら大洗は廃校って話だからな。そうなると当然、あの学園艦も解体されてた」

 

元々、学園艦の方針って『来るべき国際化社会のために広い視野を持った人材を育成し、学生の自主独立精神を養い高度な学生自治を行うために、これからの教育は海上で行うべし』という謎理論ではあるが。

 

それを予算の都合が悪くなったから廃校解体に踏み切るとか、学生の自主独立精神とやらどこにいっちゃったんですかね?文科省さん。

 

「大洗も学園艦の中じゃ小さい方だけどな、それでも人口としちゃ三万人は暮らしてる」

 

生徒はもちろん、大人だってまったく居ない訳じゃない。秋山の実家の理髪店はもちろん、俺も親父もお袋も学園艦在住だ。

 

「その三万人の生活もお前が守ってくれたんだぞ?」

 

「…えぇっと、なんだかスケールが大きくていまいちピンとこなくて」

 

まぁ、いきなりそんな事言われても西住の場合、そうなるか。 

 

「あとついでにうちの両親も職にあぶれなくてすんだしな、比企谷家の平穏も無事に守られた訳だ」

 

「話のスケールが急に小さくなっちゃった!八幡君のお父さんとお母さんはついでなんだ…」

 

「は?いや、むしろメインなまであるが、向こう10年はまだまだ現役バリバリに働いて俺を養って貰わないと困るんだが?」

 

「八幡君…そこは働こ、ね?卒業したら学園艦からも出なくちゃいけないんだし」

 

「強制的に実家から追い出されるシステムとか、学園艦ってやっぱ糞だわー…」

 

卒業という名のメンバー追い出し引退とか、どこのアイドルグループですか?

 

これが俺とは逆に実家が陸にあったりする生徒はすでに実家から追い出されている訳で、学園艦運営は子供部屋おじさん撲滅運動には最大限の効果を発揮してると言わざるおえない。

 

うーん、そもそもうちの両親。俺が学園艦から出ていってもちゃんと仕送りを仕送ってくれるんだろうか?いや、そこは可愛い息子の為だしやってくれるはず!!…くれるよね?特に親父。

 

「あっ!それなら良い仕事あるかも!!」

 

来るべき実家から追い出される日に恐怖していると西住は逆に笑顔でなにやら思い付いたようだ。

 

「…一応聞いとくけど、なに?」

 

その笑顔が逆に怖い。というか遠廻しになにがなんでも俺に働かせようとする西住が怖い。

 

「えっと…そのね?菊代さんに頼めばうちの仕事…なにか紹介できるかもって」

 

「まぁ…卒業した後の事なんてそん時考えればいいだろ」

 

「えぇ…」

 

いやだってそれ、絶対西住家の仕事じゃん。戦車道の家元の仕事とかなにやらされるかわかったもんじゃなくて怖い。

 

パッと思い付くのは戦車整備とかそこら辺だが、あの菊代さんがそんなパッと思い付くような仕事を紹介するとは思えなくて怖い。

 

まぁ給料面じゃ相当良さそうな気がするけど、それが逆にまた怖い。そもそもボスがあの母住さんな時点で怖いんだが。

 

…さっきから俺、怖いしか言ってない気がするが。これは仕方ない、それだけ仕事というのは怖くて恐ろしいのである。

 

「話が逸れたな。まぁ…そんな訳で学園艦の件、感謝してる」

 

怖いのでいい加減話を元に戻そう。今は俺の人生相談の時間に尺を取る必要はないのだ。

 

「ううん、それはみんなが頑張ったからだよ」

 

「それを踏まえてもな、そもそも西住が居なけりゃどうにもならなかった」

 

三万人の生活を守ったとか、字面だけ見れば最早英雄案件である。ライダーのクラスでの実装とかどうですかね?え?砲撃撃つならアーチャーだって?なんならバーサーカー適正までありそうですがそれは?

 

どちらにせよ、完凸となれば八幡の宝物庫の鍵を開ける時が来たな…。

 

「要するに、西住の銅像とか建てられてもおかしくないレベルだ、学園艦のシンボル的な意味合いで」

 

「お願いだから絶対止めてね…」

 

いやほら、カチューシャさんとか自分の雪像を作らせてるくらいだし…、身長とかいろいろ捏造してたけど。

 

「なんなら生徒会と話し合ってみほミュージアムとか建ててもいい」

 

「そんな建物、あっても誰も通わないよ…」

 

いや、少なくとも数人は通い詰めそうな知り合いに心当たりがあるんだが。特に秋山とかたぶん週7で通うぞ。…なんならボコミュージアムよりずっと集客が見込めるまであるんだよなぁ。

 

「まぁ、それだけみんな西住に感謝してるって事だ」

 

「…それを言うなら、感謝してるのは私の方なんだよ?」

 

西住はガラス越しに大洗の学園艦を眺める。

 

「みんなと一緒に練習して、作戦考えて、練習の後はアイスとか食べて、試合の後の宴会とかもそう。…そういうの、すっごく良いなって」

 

「………」

 

「大洗学園は、私に戦車道の楽しさを教えてくれたから、だから…ありがとうって言いたいのは私の方」

 

「…そっか、ならいい」

 

西住がそう言ってくれるなら、俺がこれ以上言う事はないだろう、感謝に感謝を重ね続けてもキリがない。

 

「八幡君にも、ありがとうって言いたいんだけどな?」

 

俺が勝手にそう納得しているのが気に入らないのか、西住が少し不満げに踏み込んでくる。

 

「…なんで名指し?」

 

「だって、私が戦車道をもう一度始めたきっかけは八幡君だから」

 

…それを言われるとキツい。なにがキツいってそもそもがあのやり方が友達想いの西住の優しい気持ちにつけこんだものだった訳だ。

 

「まぁ…あれだな、お互いリスペクトできるパートナーシップを築いて、シナジー効果を生んでいけたって事だな」

 

「…えっと、どうしたの?急に手をくるくる動かして」

 

あぁ、癖になってんだ、手でろくろ回しするの。…単なる誤魔化しと罪悪感からの逃避だから気にしないでね。

 

「でもパートナー…パートナーかぁ。ふふっ、なんか良いね、こういうの」

 

しまった!天然っ娘と意識高い系の会話を混ぜてはいけなかった…。

 

「八幡君、私に戦車道の楽しさを教えてくれて…ありがとう」

 

「…いや」

 

それは西住が自分で見つけたものだ。そのきっかけだって、与えたのは俺じゃない。

 

あるいはあんこうチームだったり、生徒会だったり、他の戦車道チームでも納得はいく。

 

ただ、俺じゃない。その答えだけははっきりとわかる。

 

「…それは違う、上手く言えなくて悪いが、少なくとも西住に感謝を言われるような事を俺は何も出来ていない」

 

「…八幡君?」

 

根本的な気持ちは、やはりどうあっても変わらない。

 

どうして『戦車道が嫌いな奴が、戦車道の楽しさを教える事が出来る』というのか?

 

「俺は戦車道が嫌いだからな…」

 

もう何度か言い続けてきた言葉を、もう一度口にする。ただそれをいつもの誤魔化し混じりの逃げた言葉には出来なかった。

 

西住のその真っ直ぐな気持ちに、逃げ場を失い出てきてしまった本音。

 

あるいはずっと心の中で引っ掛かり続けていた懺悔なのだろう。

 

見てみぬ振りを止めたのはエキシビションマッチの事を秋山と相談していたあの日から。いや、エキシビションマッチで俺が試合に出ると決まった日からだろうか?

 

いや、わかっている。…本当はもっと前から、俺はずっと拗らせ続けている。

 

「…そう、だったね」

 

いつか同じ話をした事があったか、あの頃はまだ大洗も戦車を探す段階で、俺のそんな話を西住も笑って流していた。

 

だが、今は違う。あれから時間もたち、西住は戦車道を好きになり、俺はずっと変わらないままだ。

 

「ねぇ…八幡君が戦車道が嫌いな理由…聞かせてくれないかな?」

 

だから、今度は西住も流さない。視線は俺をまっすぐに見つめ、じっと言葉を待っている。

 

「別に…そんなたいした理由じゃない」

 

「それでもいいから、聞きたいな」

 

…本当にたいした理由じゃない。

 

だってそれは、一人のクソガキが自分を正当化する為に決めつけた、単なる負け惜しみの話なのだから。


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