やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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聖グロリアーナ戦、最終局面、場面転換が目まぐるしいので初めて三人称で書いてみました。

おそらくこの結末には誰もがそりゃそーだと納得してくれるはず。

そういえば聖グロリアーナと大洗と黒森峰は女学園ですけどサンダースとかプラウダって学園名に女子付いて無いですし共学の可能性とかあったりするのかしら?


決着は一撃の砲撃に左右され、試合終了のアナウンスが響く。

「ちゃんと当たったのに〜!何で壊れないの!?」

 

不意討ちで一撃浴びせたは良かったがチャーチルは未だ健在、砲塔をM3リーに向けつつ、前進を始める。

 

「やっぱり比企谷先輩の言ってた通り、装甲が厚いんだよ、全く効いてないって事はなさそうだけど…」

 

チャーチルの強固な装甲を貫くにはもっと近付いて砲撃を浴びせる必要があったが、今の彼女達にそれを求めるのは酷というものだ。

 

「じゃあ…やっぱりーーー」

 

「うん!逃げよう、桂利奈ちゃん!!」

 

「あいー!!」

 

M3リーはすぐに転身し、チャーチルから距離をとるべくその場を離れる、戦車の性能面でも、搭乗者達の技術でも敵わない、まともに戦っては戦いにさえならないだろう。

 

「…逃げますね」

 

「もちろん追いますわ、操縦手の腕も砲手の腕も、先程のⅣ号戦車よりも劣っているようですしね」

 

それは聖グロリアーナの隊長であるダージリンにももちろんわかっていた、すぐに操縦手に逃げるM3リーを追うよう指示を出す。

 

「また鬼役ですか…、こういう時チャーチルの速度の遅さにちょっともやもやしますね」

 

「あら?ペコ、あなたもクルセイダーに乗りたいの?今度ローズヒップの戦車に乗ってみたらどうかしら?」

 

「あー…、その、私はチャーチルが良いです」

 

普段から練習中の彼女の暴走っぷりを目にしているオレンジペコは苦笑いをしながら答える。

 

「いつまでも逃げきれるものでもありませんわ、さっきの不意討ちが最後の悪足掻きなら、とんだ期待ハズレね、アッサム?」

 

「わかってます、捕らえ次第、確実に撃破します」

 

逃げるM3リーをチャーチルが追う、速度の面だけで言えばM3リーの方が速い、だが、一発まともに当てれば撃破は容易だ。

 

「…妙ね」

 

M3リーを追う中、ダージリンは妙な違和感を感じた、チャーチルから逃げるM3リーだが、曲がり角を曲がってもすぐに発見出来た。

 

「確かに変ですね…、もっと路地とかに隠れ回るかと思ったんですけど」

 

「…逃げている、にしては堂々としてますね、戦車道歴の浅い素人だからでしょうか?」

 

「いえ…どうやら、私達を誘い出しているようね」

 

この道路の先には道が二手に別れている、メインの道路はこのままの道で問題ないが、その横にやや細い道が分かれている、どちらも最終的には合流し、一本の道にまた戻るのだが。

 

問題はM3リーがその二つの分かれ道の所で、停車していた事にあった、まるでダージリン達の乗るチャーチルを待っているかのように。

 

「…来たよ!それじゃあ作戦通りに!!」

 

「よぅし!こっちだー!!」

 

チャーチルが来たのを確認したM3リーは、その二つの分かれ道を道が狭い方に進んでいく。

 

「…わざわざ狭い方の道に、あれではこちらの砲撃から逃げるスペースがとれませんよね?」

 

「そうね…」

 

聖グロリアーナは例え相手側が素人の集団であっても戦いの準備を怠らない、当然、試合会場となる大洗市街地のマップも試合前に頭に入れてある。

 

ましてや相手のM3リーに乗る者達はここがホームグラウンドだ、自分達よりも道には詳しいはずだ。

 

「なら…、私達はこのまま進んで回り込みましょう」

 

「追わないんですか?」

 

「ペコ、私ずっと気になっていたの、何故M3リーはすぐにⅣ号戦車と合流しなかったのか」

 

少なくてもあの時M3リーがⅣ号戦車と合流すれば、戦いは二両対一両になった可能性だってあったのだ、まぁ実際は合流してすぐにやられた38(t)みたいな例もあったが。

 

「確かに変ですね…、Ⅳ号戦車がやられた瞬間に現れるなんて」

 

「そして比企谷さんの無線、あれは明らかに時間稼ぎね、つまり彼女達はその時間を使って何かしら罠を仕掛けた、そう考えるべきかしら」

 

強豪校である聖グロリアーナの隊長たるダージリンは当然、優秀な指揮官である、どんな状況でも決して動じず、冷静な判断を下せる指揮能力が彼女にはあった。

 

「黒森峰ならともかく、こんな安直な囮作戦、私には通用しませんわ」

 

勝利を前にしても、決着を焦る必要は無い、冷静に確実に撃破する、聖グロリアーナの戦車は優雅であれ。

 

チャーチルは一度M3リーの追撃を止め、このまま道を進む、二つの道は最後には合流する、そこで仕留めれば良い。

 

「ペコ、あなたは後ろを警戒して、相手が進路をこちらに変えて逆に追ってくる可能性もありますわ」

 

「了解しました、ダージリン様」

 

「速度を上げなさい、M3リーが出てくる瞬間を狙いますわ」

 

速度を上げて進むチャーチルは、しかし、道路のど真ん中で急停車する事になった。

 

「…ッ、どうしましたの?」

 

「それが…ダージリン」

 

チャーチルの前方、そこに置かれていたのは道路を封鎖するように倒された何本かの電信柱だった。

 

「即席のバリケード…でしょうか?」

 

砲撃を何発か放てば排除こそ出来そうものだが、このままではチャーチルはこの先には向かえない、足止めをくらってしまった。

 

「…こんなもの、単なる時間稼ぎでしかありませんわ」

 

…罠はこちらだった、その事態に少し驚くダージリンだったが驚きこそすれ、焦る事は何一つ無い。

 

こんな罠になんの決定力もない、単なる足止め、時間稼ぎの為の罠、面白くもなんともない。

 

「すぐに排除して追跡を再開なさい、あまり観客を退屈させるものではないわ」

 

…そう、こんな罠一つでは単なる時間稼ぎ、足止めでしかない。

 

だが突然の行き止まり、それに足止めをくらった者、その背後を取ればどうだろうか?

 

「!?、ダージリン様、あの…私達の後ろに」

 

突然のオレンジペコの呼び掛けにダージリンもチャーチルの後ろを見る。

 

「M3リー…何故ここに」

 

行く手を阻む障害物の排除をしようとするチャーチルの後ろから、M3リー戦車が現れたのだ。

 

その距離も近い、まるでふっと沸いて出てきたかのようだ。

 

後ろの警戒はオレンジペコに任せていた、M3リーがもし追ってきていたなら彼女はそれに気付いたはず。

 

いや、それを抜きにしても、追い付くのが早すぎる、速度の違いこそあれ、M3リーは完全に別のルートを通っていたのだから。

 

「ずっとつけられていたの?ペコ?」

 

「いえ…、それが、その…」

 

突然、なんの前触れもなく現れたM3リーにオレンジペコも戸惑っている、しかし、彼女にはその理由がわかっていた、その戸惑いは信じられない、というものだ。

 

「塀が壊されてます、どうやらあの人達、誰かの家の庭の塀を破壊して無理矢理こっちに来たみたいです」

 

「…塀を、破壊?人の家の?」

 

ダージリンは思わず耳を疑った、確かに戦車道の市街戦の試合に置いて破壊された建物に関しては戦車道連盟が費用を負担して住民は無料で新築に建て直してくれるという制度がある。

 

だがそれはあくまでも戦車の撃ち合いによる流れ弾や、走行を誤った戦車が激突した時が殆どだ。

 

この電信柱を破壊して作ったバリケードといい、他人の庭の塀を破壊して道を作った事といい、自分達が自ら破壊していく、なんてやり方は聞いた事がない。

 

「…フフッ」

 

思わず、彼女の口元からは笑みがこぼれていた。

 

「…楽しそうね、ダージリン」

 

「えぇ、楽しいわ、さっきのⅣ号戦車といい、この試合、受けて正解ね、こんな試合が出来るなんて思ってもいませんでしたもの」

 

「お言葉ですがダージリン様、お陰様で私達は大ピンチです…」

 

「えぇ、ピンチね、一発は確実に無防備な所を砲撃されるかしら」

 

そう答えるダージリンだが、その表情には焦りはない、涼しいものだ。

 

どんな窮地であっても、彼女が冷静さを欠くことは決してない。

 

「ですが、それさえ凌げは私達の勝ちですわ、アッサム」

 

「わかっています、ダージリン」

 

チャーチルはM3リーに向けて砲塔を回転させる。

 

一発、それさえ凌げばアッサムは確実にM3リーを撃破出来るだろう。

 

「…やったぁ!まるばつ作戦!大成功!!」

 

対するM3リーに乗る彼女達はチャーチルの背後を取った事に大喜びだった。

 

今回彼女達がチャーチルの前に出るまでにした事は二つ。

 

一つは電信柱を破壊しまくって即席のバリケードを作る事。

 

そしてもう一つが予め塀を破壊し、二つの道路を繋げた事である。

 

チャーチルが自分達を追っていない事を確認した彼女達は一度、その破壊した塀の庭で待機し、チャーチルがバリケードに引っ掛かった瞬間に飛び出したのだ。

 

「でも良かったのかな?人の家の塀、勝手に壊しちゃって…」

 

「一応玄関にごめんなさいって置き手紙書いたし、試合中は人の避難は完了してるし、大丈夫じゃない?」

 

さらりととんでもない事を言っている彼女達ではあるがご安心を。

 

「大丈夫だよ!『どーせ建て直しやら住民への謝罪やらは戦車道連盟がやるだろうから俺らの財布は痛まん、構うな、存分にやれ』って比企谷先輩も言ってたし」

 

彼女達にもっととんでもない事を言っていた人物が居ますので。

 

「って!みんな、まだ作戦は終わってないよ!!相手倒さないと!!」

 

このまま話を続けていてはせっかく相手の背後を取ったのが完全に無駄になるどころか、相手の反撃を受ける、車長の澤は急いで指示を送った。

 

「うん!わかってる、…えと、どこ狙おう?」

 

75㎜砲の砲手である山郷は標準をチャーチルへ、しっかりと合わせた。

 

「比企谷先輩が言ってたウィークポイントだよ!もう!!」

 

「よーし!イケる!!」

 

「やれば出来るよ!私達!!」

 

無防備なチャーチルに、少なくとも確実に一撃、しかもこの距離ならば威力も申し分ないはずだ。

 

倒せば勝利、しかし、もし失敗すれば反撃を受けて負けるだろう。

 

試合の行方はこの最後の砲撃に左右される。

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

…はず、だった。

 

『日本戦車道連盟よりお知らせがあります、本日の練習試合ですが、大洗学園側による不正行為が発覚した為、勝者、聖グロリアーナ女学園とします!!』

 

その瞬間、市街地をアナウンスがそう告げる。

 

「はい?」

 

「…無粋ね」

 

聖グロリアーナの面々は溜め息も漏らし。

 

「「「「「えーーーー!!!」」」」」

 

一年チームは不満と驚きに声を上げ(約一名を除く)。

 

『それとクルセイダーに乗ってる比企谷君とローズヒップさん、それと両校の隊長さんは後で私、蝶野の所に来ること、いいわね?』

 

続けて入る蝶野教官のアナウンス。

 

「…マジですか?」

 

「マジですの!!」

 

深く溜め息を漏らす比企谷 八幡とよくわかっていないローズヒップがお互いにそう言い合っていた。


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