やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
こういうのもクロスオーバー作品の醍醐味、特に姉住さんとダージリンさんの絡みはまだしもエリカさんとオレンジペコの絡みなんて見たこと無い気がします。
さて、ついに始まりました。第73回戦車道全国大会、一回戦。
フィールドは南の島、天候は晴天と絶好の戦車道日和となりました今日この頃、大洗学園VSサンダース大学付属高校の試合をお送りします。
実況は私比企谷 八幡、解説にはなんと黒森峰女学園から去年の戦車道高校生MVPの西住 まほ選手と聖グロリアーナ女学院隊長のダージリン選手と豪華なお二方を迎えています。
「そういえばあなたの妹さん、みほさんと練習試合しましたの、あなたとの勝負より面白かったわ」
「戦いにおいてその様な要素は不要だ、いかに効率的に相手を殲滅するかが大事だろう」
嫌だなぁ…、怖いなぁ…。
本当、どうしてこうなっちゃったの?この先戦うかもしれない者同士がこうやって一ヶ所に集まれば微妙な空気になるのは当然なのに。
ダージリンさんの明らかに社交辞令な誘いにほいほい乗っかっちゃう辺り、姉住さん、もしかして単純に空気読めない人なんじゃないの?
俺の右隣ではどこから持ってきたのやら、豪華な椅子と衝立をセットで設置した聖グロリアーナのダージリンさんとオレンジペコ。
俺の左隣には黒森峰の姉住さんと現副隊長さん。
つまりさっきから俺を挟んで姉住さんとダージリンさんが静かに火花を散らしている、もう本当に勘弁して。
「マックスさん、飲み物の用意が出来ましたよ」
そんな居た堪れない状態の俺にオレンジペコが声をかけてくれる、あぁ、こんなギスギスした空間に於いて唯一の癒し要素はこの娘くらいだな。
オレンジペコりんパワーと名付けよう、ペコりんパワーの癒し効果で是非ともこのギスギス空間を中和してもらいたいものだ。
「…とりあえずマックスコーヒーで」
「どうぞ」
にっこりと微笑みながら慣れた手つきでマックスコーヒーの注がれたティーカップを渡してくれる、さすがペコりんパワー、癒される。
しかし、正直言って付き合ってられない、もうさっさとマックスコーヒーを頂いてこの場を離れるとしよう、これぞまさに戦略的撤退だ。
オレンジペコから貰ったマックスコーヒーを一気に飲み干す、あとは『ごちそうさまです、それじゃ!!』とか適当に言ってこの場から退散しよう、そうしよう。
「マックスさん、おかわりは何にします?」
「え?いや…俺はもう」
「おかわりをどうぞ」
「…マックスコーヒーで」
オレンジペコの有無を言わさぬ物言いに思わずそう答えてしまった、いや、だってさ。顔はにこやかだし声もすごい柔らかいのに『逃がしませんよ?』ってオーラ全開なんだもん。
ペコりんパワー恐るべし、中和するどころか恐怖が相乗効果されてるまである。
俺を挟んで右側には聖グロリアーナ、左側には黒森峰、つまりこれはアレかな?俺に壁になれって言ってるのかな?
まぁ昔からぼっちだった俺にとって壁とか親友みたいなものだ、一人キャッチボールから体育の授業のテニスの相手まで一緒にやっている、俺の全てを受け入れてくれるその様は最早マブダチと言ってもいい。
つまりは昔から壁がマブダチな俺、壁になるとか超得意、得意すぎて人との間に壁作っちゃって閉じこもっちゃうまである。
「どうぞ、えと…お二人は何を飲みますか?」
俺に新しいマックスコーヒーをついでくれたオレンジペコは少し戸惑いながらも黒森峰の二人にも声をかける。
まぁ戦車道の試合中でさえ紅茶とか飲む聖グロリアーナ内ではともかく、他の学校の隊長とお茶とか、彼女も初めてなのだろう。
「濃く煎れたドリップコーヒーをブラックで頼む」
…西住流には遠慮という言葉はないのだろうか?というか姉住さん、やっぱり空気読めない人だろ、絶対。
「コーヒーはありませんが、似た様なものならありますわ」
「…そういえばマックスコーヒーと言っていたな、なら、それを頂こう」
「かしこまりした、少し待っていて下さい」
こんな状況でも顔色を変えないようにしているオレンジペコ、もしかしたらこの中で一番怖いのってこの娘だったりしないよね?
「………」
…それに引き替え、黒森峰の現副隊長さんはさっきからずっと黙ったまんまだ、気まずいのか目が若干泳いでいる。
気持ちは痛い程よくわかる、すぐ横で自分の隊長と対戦相手候補の隊長が静かにバトル始めてるんだもんね、そりゃハラハラするわ。
事、居た堪れなさに関しては俺とこの現副隊長さんは同士だな、いや、俺はまだ試合に出ないし部外者といえば部外者だが。
「…現副隊長」
「何よ?また嫌味のつもり?」
いや、単純に名字覚えてないだけだし、名前は姉住さんがエリカとか言ってたけど名前で呼ぶ関係でもないし。
まぁこいつも西住の事を元副隊長と呼んでるんだ、別に構いはしないだろう。
「ほれ…」
「何よ、これ?」
現副隊長さんに先ほどオレンジペコから渡されたマックスコーヒーを渡す、当然だが口はまだつけてないから安心してくれ。
「マックスコーヒー、俺のオススメだ、気持ちが楽になるぞ」
「あなたのオススメ?変な物でも入ってないでしょうね?」
疑わしい目を向けながら渡したマックスコーヒーを素直に飲む、いや、嫌なら別に飲まなくていいのに。
「…あら、意外と美味しーーー」
「…少し甘すぎるな、ロードワークの後に飲むなら良いかもしれないが」
「ーーーそうね!甘すぎるわ!!」
出された飲み物にダメ出しする姉住さんの空気の読めなさっぷりと現副隊長さんの忠犬っぷりが合わさって最低に見える、黒森峰ェ。
「いらんなら俺が貰うぞ」
「ちょっと!誰も飲まないなんて言ってないでしょ!!」
そう返すと現副隊長さんはマックスコーヒーを飲む、なんなの?ツンデレなの?
「…聖グロリアーナと試合をしたのね、どうなったのよ?」
「いや、普通に負けたけど」
あの反則負けを普通と言っていいかはさておき、まぁ素直に話すと意識高いこいつのことだ、絶対面倒だろうし。
「ふん、やっぱりね」
「ですが、あの試合は本当にいろいろと驚かされました」
「えぇ、紅茶を送るには相応しい相手でしたわ、マックスも含めてね」
「聖グロリアーナが紅茶を…?」
え?それってそんなに驚くポイントだったの? 確かに聖グロリアーナは強敵と認めた相手にしか紅茶は送らないって話だったけど。
それを言うならマックスコーヒーを送られた俺の立場ってなんなのだろう、あの試合で俺のした事って反則くらいだし。
いっそ新しい伝統を作って聖グロリアーナでは反則をしたチームにマックスコーヒーを送る風習とかどうですかね?マックスコーヒー欲しさに対戦校がこぞって反則してくれるかもしれませんよ?ねーか。
「あの、おかわりはどうしますか?」
「そうだな…、前に聖グロリアーナとの試合の後に送られた紅茶があったな、あれと同じのをお願いしたい」
「あら、覚えててくれましたの?」
どうやら黒森峰も聖グロリアーナからティーセットを頂いているらしい、まぁ強敵と認めた相手に送る物だし当然か。
「私も手伝うわよ」
「え?大丈夫ですよ、お客様にそんな真似はさせられません」
「構わないわ、そもそも私達がお邪魔したのだし」
…意外にも現副隊長さんが立ち上がってオレンジペコの手伝いを始めた、社交辞令で誘われた自覚がある分姉住さんと違って空気は読めるのか。
「ありがとうございます、えっと…」
「逸見エリカよ、あなたは?」
「オレンジペコです」
なんとここで驚愕の事実!黒森峰の現副隊長、逸垣さんの本名は逸見エリカというらしい、なんか別に…とか言い出しそうな名前だよね。
これから名字間違えるならイッツミーさんとかしかネタがなくなったなぁ、いや、もう現副隊長さんでいいか。
「…相変わらず聖グロリアーナの名前はよくわからないわね」
「あはは…、私はもう慣れましたけど、他の学校の人からすればそうかもしれませんね」
…慣れって怖いなぁ、聖グロリアーナは戦車道の選手登録でさえこれらしい、まぁダージリンさんとかむしろノリノリで名乗ってますけどね。
よくよく考えたら俺、ダージリンさんの本名さえ知らねーな、前に気になって聞いたら上手くはぐらかされた、もうちょっと親しくなってからってそれ、一生教える気ないよね?
「…あなた、一年なのね、この試合の見学はあなたの隊長の指示かしら?」
「はい?そうですけど…、どうしました?」
「…なんでもないわ、せいぜい頑張んなさい」
現副隊長さんがオレンジペコから目をそらして答える、少し優しく、そして若干の嫉妬の混じったような複雑な表情。
…そういえば、西住は一年生ながら黒森峰の副隊長だったんだよな、オレンジペコも立場こそ副隊長ではないが、ダージリンさんが直々に試合の共に連れて来たんだ、期待されているのは当然だろう。
まぁ…、現副隊長さんもいろいろと思うところはあるのだろう、もしかしたら俺は少しこいつの事を誤解していたのかもしれないな、多少は株が上がったかもしれない。
「それにしても…、やっぱりあなたの隊長は変わってるわね、あんな男を気に入ってるなんて、マックスってさっきのマックスコーヒーの事よね?聖グロリアーナの伝統まで反映させるなんてね」
と、思ってたけど全然そんな事はなかったぜ!この大暴落である。しまったな、株が高いうちに全部売り払っちまえばよかった。
ちなみに俺が呼ばれてるマックスコーヒーですけど、別に嬉しくもなんともない呼び掛けなんだけど、これ。聖グロリアーナ的に結構すごい事なの?
「…ダージリン様は確かに少し変わってる所もありますが、素晴らしい人ですよ、試合の時は常に冷静ですし」
「冷静さならまほ隊長の方が上よ、その上黒森峰のみんなに慕われているわ」
「人望ならダージリン様も負けていません、聖グロリアーナではファンクラブだってありますから」
「それくらい黒森峰にだってあるわよ、それに隊長はーーー」
「だったらダージリン様はーーー」
ちょっと君達隊長自慢で何張り合ってんの?しかも張り合い方が俺の父ちゃんパイロットなんだぜ~、とか言ってる小学生レベルだよ。
「あらあら…可愛らしいわね、そう思わなくて?まほさん」
「…ファンクラブがあるのか」
当の隊長本人達らはダージリンさんは楽しそうにしているが姉住さんは何やら複雑な表情、まぁこの人からしたら嬉しがるもんじゃなさそうだが。
というか現副隊長さん、一年相手に張り合いすぎでしょ…、普段の忠犬っぷりからこの人、ファンクラブの会員なんじゃないの?
ったく…、二人共自分の隊長の事好き過ぎるだろ、何?この自慢合戦。だいたいだ、それを言うならーーー。
「だったらうちの西住は…、………、ごほんごほん」
…しまった、つい勢いで言いかけてしまった、大丈夫だよね?ちょっと咳しただけだし。
「…全然誤魔化しきれてませんわよマックス?あなたも隊長自慢に参加かしら?」
「みほがどうかしたのか?」
…全然誤魔化しきれてなかった、しかも二人の俺を見る目が怖い、特に姉住さんが。
『それでは、これよりサンダース大学付属高校と大洗学園の試合を開始します』
「ほ、ほら、もう試合始まりますよ、せっかく偵察に来たなら試合見ないと!!」
「…そうですわね、今は試合に集中しましょうか」
「…あぁ」
よかった…、どうやらゴングに救われたようだ。
「それで、試合が終わったらマックスに聞きたい事がありますわ、よろしいかしら?」
「そうだな、私も個人的に君に聞きたい事がある」
…いや、本当に勘弁して下さい。
応援席の全員がモニターにて大洗とサンダースの初手の動きに注目する中、俺は視線を上空へと向ける。
そこにあるのは試合開始早々に空へと打ち上げられた通信傍受機、たぶん、西住も今頃はこれを確認しているだろう。
…まずは作戦の第一関門はクリアしたと言えるだろう。とはいえ、まだこの通信傍受機を利用するのは早計と言える、問題は相手側がこれに頼りきっているかどうかだ。
いずれにしろサンダース側がどう動いてくるか次第、まずはお手並み拝見といった所か。