やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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全く意図してませんでしたが2016年の締めくくりにちょうどサンダース戦終了という切りの良さ、やったぜ!!たぶん今年度はこれが最後の更新です。
という訳で読んでくれている皆さん、今年度はありがとうございます、偶然でもなんでも見てもらえてお気に入り貰えて感想貰えて評価貰えて嬉しいです、初小説でこれだけいろいろ貰えるとは思わなかったんで本当に感謝です。
来年度も付き合って貰えたら嬉しいです。


西住みほと西住まほはどこかすれ違っている。

『大洗学園の…勝利!!』

 

試合終了のアナウンスがなり、会場内に大きな拍手と歓声があがった。

 

そりゃそうだ、強豪校の一角であるサンダース大学付属高校をまったくの無名校が下したのだから。

 

本当に…よくやったもんだ。

 

モニターでは大洗の各戦車道チームが西住に集まって喜びを分かち合っている、山郷の奴はなんかすっ転んでるが。

 

「一同、礼!!」

 

「「「「ありがとうございました!!」」」」

 

大洗の戦車道チームとサンダースの戦車道チームが各々一列に並び、頭を下げる。いつぞやか蝶野教官が言っていた、戦車道は礼に始まって礼に終わる、というやつだろう。

 

おぉ、なんか知らんがケイさんが西住に抱きついてる、西住、ちょっとそこ代われ。もしくはケイさん、ちょっと代わってくれません?あ…、あんこうチームとかお姉ちゃんとかダージリンさんとか方々から戦車で狙われそうなんでやっぱいいです。

 

まっ…、冗談はそのくらいにしとくか。

 

「ダージリンさん、片付け手伝いますよ、撤収するんでしょ?」

 

さすがにお茶をご馳走になった手前、このまま帰るのも気が引ける。

 

「あら?マックス、みほさん達の所に行かなくてよろしいの?」

 

「そりゃ俺は何もやってませんからね、そんな奴が行っても図々しいだけでしょ?」

 

この勝利は彼女達が自分達で手にしたものだ、そこに部外者である俺が入って行く訳にも行かない。

 

そもそも俺、マックスコーヒーやら紅茶やら飲んでただけだし、いや~働かずに飲むのは最高だな、日曜日の昼間っから酒飲んでた親父の気持ちわかるかも。

 

という事でティータイムの片付けを手伝おうとしたら急に携帯が鳴り出した、おや珍しい。間違い電話かな?

 

「…?」

 

画面を見ると知らない番号から着信が来ている、うん、やっぱり間違い電話だ。

 

「なんで着信音が戦車の砲撃音なのよ…、やっぱりあんた変な奴ね」

 

「この砲撃音はイギリス戦車のコンカラーだな」

 

さすが姉住さん、聞いただけでどの戦車の砲撃音かわかるなんて、西住流絶対音感でもあるのかしら?

 

「出ないんですか?マックスさん」

 

「間違い電話だろ、知らない番号だし」

 

…とはいえさっきからずっと携帯が鳴りっぱなしだ、正直凄く鬱陶しい。すいません、間違ってますよ~?

 

「…いいからさっさと出たら?その砲撃音うるさいのよ」

 

同じく片付けを手伝っていた現副隊長、…こいつ、意外にも律儀だな。彼女も鬱陶しそうな顔をする。

 

「はぁ…、わかったよ」

 

なんか相手側から切る気はなさそうだし、面倒だがとりあえず出てみるか。

 

『おっ、やっと繋がったわね、ハァイッ!エイトボール、ダメよ、電話にはすぐ出なきゃ!!』

 

「すいません、間違えました」

 

ピッと通話を終了させる、何かケイさんに似た声が聞こえた気がするけど気のせいだな、うん。

 

…切ったらまたすぐ携帯が鳴り出した、何それ怖い。

 

「…はい、もしもし」

 

『ちょっとちょっと、いきなり切るなんて酷いじゃない』

 

「いや…何で俺の番号知ってるんですか?」

 

ひょっとしてこれもアリサさんの通信傍受の力なんですか?何それ恐ろしすぎだろ。

 

『大洗の隊長さんから聞いたの、ちょっとエイトボールに話があってね』

 

「…俺に?」

 

『それに、みんなあなたに会いたがってるわよ?今どこに居るの?』

 

「いや…おれは、ちょっと、ほら、アレがあるから」

 

電話をしながらチラリとダージリンさんの方を向く。

 

「ふふっ…、あの子達はどうやらあなたとは違う考えみたいよ、行って来たらどう?」

 

「…ダージリン様、よろしいのですか?」

 

「あら?何がかしらペコ、勝利に水を差すなんて、無粋な真似はしませんのよ」

 

「いや…、俺は別に」

 

「そういえば…、試合前に面白い事を言っていたわね、マックス、みほさんがどうかしまして?」

 

「そうだな、私もそれは聞きたいと思っていた」

 

「わかりましたケイさん!すぐそっち行きます!!」

 

『うん? よくわからないけど良い返事ね!待ってるわ』

 

「という事で急用が入ったんで失礼します」

 

ケイさんとの通話を終えてダージリンさんと姉住さんに向き合う。

 

「えぇ、今日の試合、とても面白かったわ」

 

ダージリンさんは優雅にまだ残っていた紅茶をすすりながら澄ました顔で言葉を続けた。

 

「…決勝戦、あなた達と戦える事を願ってますわ、頑張ってね、マックス」

 

…うわぁ、俺も大概だと思ったけど、この人も相当あれだよな、やっぱ曲者だわ。

 

今の呼び掛けは見た目には俺達大洗に向けられたものだが、ダージリンさんの聖グロリアーナが決勝に行くには準決勝で黒森峰を倒す必要がある。

 

「………」

 

つまり、すぐ横の姉住さん含め黒森峰を煽っている、こんな状況で涼しい顔して言える台詞じゃない、やっぱこの人とは戦いたくないなぁ。

 

「いやいや…皆さんの一回戦負けを祈ってますよ」

 

いや本当に、なんなら準決勝で共倒れとか、そういう試合展開も面白いかもしれませんよ?…流石にないか。

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「あっ…八幡君」

 

「…おぅ」

 

大洗の控え場所に戻ると西住達あんこうチームが出迎えてくれた。

 

「えと…試合、見てくれた?」

 

「あぁ、まぁその…なんだ、お疲れさん」

 

「えへへ…うん!ありがとう!!」

 

西住は嬉しそうに笑う、特にお礼を言われる事なんて何もしてないからなんか恥ずかしいんだけど。

 

「へっへーん、勝ったよ比企谷!!」

 

「シャーマン相手に勝てるなんて…、感激です!!」

 

いや、本当にな、まったくクソマッチングもいいところだわ。

 

「エイトボール!!」

 

「…おわっ!?」

 

突然背後から声をかけられるなりケイさんに抱きつかれた、背中に当たる胸の感触がまさにアメリカン!!

 

「ちょ…え?ケイさん!?」

 

「Exciting!こんな試合が出来るとは思わなかったわ!!」

 

西住にもさっき抱き付いていたしこれがアメリカンルールなの?欧米か!いいぞ、もっとやれ!!

 

…とはいえなんかさっきから皆さんの視線が痛いくらいに突き刺さってる、ケイさんは全然気にしてないみたいだけど。

 

「あの…話ってなんですか?」

 

「あぁそれ?盗み聞きなんかして悪かったわね、あなたの言った通り、フェアプレイじゃなかったのはうちの方だったわ」

 

ケイさんはばつの悪そうに頭をかいて答えた、通信傍受機自体、たぶん部下のアリサが勝手にやった事だろうに、それの責任は取る辺り、この人もやはり隊長なのだろう。

 

「いや…おかげさまで勝てましたから、逆に感謝したいくらいです」

 

正々堂々、完全にフェアプレイで戦われたらあの状況は作れなかっただろう。

 

「そう、それよ、あの時通信傍受機のこと黙ってたわね、教えてくれればよかったのに!!」

 

ケイさんは冗談混じりに腕で俺の首をロックするとこのこの~と言わんばかりに頭を軽く小突いてきた。

 

いや…全然痛くないしむしろ顔に柔らかいクッションが当たって素晴らしいんですが…。これがアメリカの物量なのか。…たぶん違う。

 

「あ、あの!!」

 

そんな状況に助け船を出してくれたのか、西住がケイさんに声をかける。

 

「何?」

 

「え?えと…その、あぅ…」

 

西住はあわあわと視線をあちらへこちらへ。…声をかけたはいいけど何言うか考えて無かったなあれは。

 

「…4両しか来なかったのは?」

 

「あなた達と同じ数だけ使ったの」

 

「…どうして?」

 

「That`s戦車道!これは戦争じゃない、道を外れたら戦車が泣くでしょ?」

 

…驚いた、ケイさんのフェアプレイ精神を利用しようとした罪悪感もあったが、この人からすればそれは当たり前の事だったのかもしれない。

 

素直に格好良いとさえ思える、こういう所がサンダース校を束ねるカリスマなのだろう。

 

そういえば…蝶野教官も前に似たような事を言ってたっけ…、戦車道は戦争じゃないって。

 

「おっと…、そうだった、エイトボール、試合も終わったんだし、名前、聞かせてくれる?」

 

…ん?あぁ、そういえば名前言ってなかったっけ、前は一応潜入偵察だったしな。

 

「あー…、比企谷 八幡です」

 

「比企谷八幡、いい名前ね!エイトボール!!」

 

いや、なんで名前聞いたのにエイトボール呼びなの?俺名乗った意味あった?

 

「あなたにも通信傍受機の借りを返したいと思って」

 

「へ?いや、わざわざこっちと同じ数に合わせてくれた時点で充分でしょ?」

 

「それはそれ、うちはあなた達大洗のアンフェアを疑っておいて盗み聞きなんてやっちゃってた訳だしね」

 

ケイさんはそう言うが、こっちはそれを利用しまくってるしなぁ…。

 

いや、欲しい物ならあるんだが、試合前に見たサンダース校のマックスコーヒーカーとか自家用車に欲しい、くれないかな?

 

令呪を持って命ずる、マックスコーヒーカー下さい。うん、無理ですよね。

 

…あぁそうだ、そういえば前に一つ彼女達に依頼された仕事があったな。

 

「…そういえば、サンダース校ってバレー部とかあります?」

 

「へ?あるけど…、うちのバレー部がどうしたの?」

 

なんだか知らんうちにコーチに就任させられたが、あいつら、試合したい試合したいうるさいし、ついでにこの仕事を片付けてしまおう。

 

「なら、うちのバレー部と練習試合の一つでもやってくれませんかね?八九式に乗ってた奴らです」

 

ケイさんはそれで気持ちが楽になるだろうし、バレー部連中は試合が出来る、何より俺の面倒な仕事が片付く、一石二鳥どころか三鳥だ。

 

…それにまぁ、今回の試合の立役者だしな。

 

相変わらずスポ根のノリも根性論も苦手ではあるが、彼女達の頑張りは認めざるを得ない。

 

「あの八九式の…、OKOK!ただうちのバレー部は強いわよ!!」

 

まぁバレー部の奴らは相手が強ければ強いほど燃えそうな連中だしな、サイヤ人かよ。

 

「あ、あの…隊長、そろそろ撤収の準備を」

 

ケイさんに声をかけてきたのはアリサとナオミの二人組だった、アリサの奴、すっげぇおどおどしている。

 

…まぁ当然か、独断で通信傍受機とかケイさんが一番嫌いそうな物使ってた訳だしな。軍法会議ものだ。

 

ある意味その通信傍受機を打ち上げさせる為に俺もケイさんにその存在を黙っていたのでなんだか気が引ける。

 

「あー…、えと、ケイさん、たぶんアリサもケイさんを勝たせようとしての行動だったはずなんで」

 

「 !? あんた…」

 

「…そんな事くらいわかってるわ、私の為にやってくれたんでしょ?アリサ」

 

ケイさんはアリサの肩に手を置くとうんうんと頷く。

 

…よかった、これで少しはアリサの罪も軽くなるだろう。

 

「反省会するから」

 

「ひぃっ…」

 

軽く…なるのだろうか?なんかアリサの表情がえらい絶望的なんだけど。サンダース校の反省会にいったい何があるの?

 

「See you!大洗のみんな!とても楽しい試合だったわ、やっぱり戦車道はこうじゃなくっちゃ!またいつでも遊びに来てね!!」

 

ケイさんはアリサとナオミを連れ、手を振りながらサンダース校の方へと戻っていく、本当、最後までフレンドリーな人だわ。

 

…ん?サンダースが撤収するって事は間近で動くM4シャーマンを見れるんじゃないか?行かねば(確信)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

夕陽をバックにして一列に走るシャーマンのなんと絵になる事か、写メっとこ。

 

これをフェイスブックとかに上げれば大量のいいねが取れるだろう、あんなリア充御用達のアプリ、ダウンロードすらしてないが。

 

…んで。

 

「…なんで君達ここに居るわけ?」

 

本当になんでか知らんけど、あんこうチームの面々が何故か俺の隣に居る、君達今日試合して疲れたでしょ?もう夕方だよ?

 

「優花里さんが最後にもう一度見たいとおっしゃったので」

 

「はい!これでまたしばらくシャーマン戦車が見れなくなると思うとつい、それで皆さんを誘って見納めに」

 

…いや、君達今日嫌って程見たよね?むしろ追い回されて砲撃まで撃ち込まれたでしょ?…なにそれちょっと羨ましいぞ。

 

「さーて、私達も引き上げよ、お祝いに特大パフェでも食べてく?」

 

「うん」

 

あんこうチームの皆さんはどうやら一回戦勝利を祝って打ち上げにいくらしい、この子達、試合に勝つ度に打ち上げするつもりなの?そんなポンポン打ち上げていいのは種子島くらいだろ、ゴーッ!ホットドッグ!!ゴーッ!!

 

まぁ強豪校相手に勝ったんだし、それくらいの贅沢は良いと思うけどね、俺もお家帰ってマッ缶飲もう、今日はもう何か飲んでばっかだね。

 

結局もう夕方かぁ、日曜日まるまる終わってしまったなぁ…、と思ってるとニャーニャーと何やら猫の鳴き声が聞こえてくる。

 

「あれ?麻子、携帯鳴ってるよ?」

 

「…ん」

 

えー…、この猫の鳴き声、冷泉の携帯の着信音なの?猫の鳴き声の着信音とか、やっぱりこいつも相当変わってるな。

 

え?俺の着信音はって?何言ってるか八幡よくわからないんだけど。

 

「誰?」

 

「…知らない番号だ、はい」

 

冷泉は迷う事なく携帯に出る、度胸あるなぁ、俺はさっきもそうだったけど知らない番号からの電話とか基本的に出たくないんだけど。

 

「…え、…はい」

 

…なんだ?冷泉の様子がおかしい、通話を終えたその手が震えていて、持っていた携帯も落としてしまっている。

 

いつも気だるそうな、面倒くさそうな様子の冷泉だが、こんなに動揺した姿は見たことがない、…今の電話でなんかあったのか?

 

「ちょっと…、どうしたのよ!麻子!!」

 

俺でさえその様子のおかしさに気付いたのだ、幼なじみの武部は心配して声をかける。

 

「…おばぁが倒れて、病院にーーー」

 

…おばぁ、これまで何度か会話には聞いていたが、冷泉のばあちゃんの事か。

 

「そ、そんな…は、早く、病院に!!」

 

「で、でも、大洗までどうやって?」

 

俺達が今居るのは戦車道全国大会の一回戦の会場でもある南の島、冷泉のばあちゃんは多分大洗の病院に運ばれたのだろう。

 

「学園艦に帰港してもらうしか…」

 

「ですが…、撤収までまだ時間がかかります!!」

 

冷泉の気持ちはわかるが、学園艦は大洗の生徒を乗せた街みたいな船だ…、そんなすぐには動かせない。

 

「ッ!!」

 

冷泉は唇を強く噛み締めるとおもむろに靴と靴下を脱ぎ出した。…へっ?

 

「ち、ちょっと麻子!何やってるのよ!!」

 

「泳いでいく!!」

 

そう答えると冷泉は上着に手をかけてそれも脱ごうとしてきた、いや!さすがにそれはダメだろ!!

 

「お、落ち着け冷泉!泳いでいける訳ないだろ、普段のお前ならそんくらいわかるだろ」

 

普段の天才っぷりはどこにいったのか、それだけ動揺しているのか、普通に考えてここから大洗までどんだけあると思ってるんだよ…、ドーバー海峡横断部でも無理だぞ。

 

「じゃあ空飛んでいく!!」

 

「アホか!もっと無理に決まって…」

 

…いや待て…空か、確か俺はその手段に心当たりがあったはずだ。

 

「…そうか、その手があったな」

 

「えぇ!?比企谷殿まで…」

 

「お二人共、その…少し落ち着いて下さい」

 

「…いや、大丈夫だ五十鈴。冷泉、もしかしたら大洗までいけるかもしれん」

 

「比企谷さん…?」

 

驚いた表情を見せる冷泉とあんこうチームのメンバーを無視して俺は携帯を取り出した。

 

とにかく今は時間が惜しい…、あの二人、まだ帰ってないよな?

 

アドレス帳に今日新規に登録されたばかりのあの人に早速電話をかける。まさか…こんなにすぐ、しかもこちらから連絡する事になるなんて思わなかったが。

 

『…比企谷か、どうした?』

 

数回のコールの後、姉住さんが電話に出てくれた。…一先ずホッとする。

 

「…西住のお姉さん、まだこの島に居ますか?」

 

「…え?お姉ちゃん!?」

 

…西住からしたら、そりゃ意外な人物の名前が出てきたのだ、そりゃ驚くだろう。

 

『あぁ、もう帰る所だが、ダージリンにお土産にうなぎのゼリー寄せという物を貰っていた』

 

…ちょっと、ダージリンさん、なにテロ行為してんですか?なんか姉住さんに恨みでもあったの?うん、あるよね、空気読まずにお茶会参加してる時点で充分だよね。

 

「…頼みがあるんですが」

 

『…どうした?』

 

いや、今はそんな事はどうでもいい、本当にガチでどうでもいい。俺の様子を察してか、姉住さんも真剣な声で返してくれた。

 

「…ヘリ、貸して下さい」

 

現副隊長が言っていたはずだ、ここにはヘリで来たのだと。ヘリならば、ここからすぐにでも大洗に向かう事が出来る。

 

…姉住さんがヘリを貸してくれれば、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

「隊長!こんな子達にヘリを貸すなんて!!」

 

「これも戦車道だ、エリカ、操縦は頼む」

 

…俺の心配は完全に杞憂だった、姉住さんはすぐに現副隊長さんを連れてヘリで来てくれた。

 

「…はい」

 

現副隊長さんは何やら言いたい事はいろいろありそうだったが、それを飲み込んでヘリの操縦席へと向かってくれる。

 

「すまん逸見、…頼む」

 

「だから、私の名前は…、ッ!!あなた、早く乗りなさい!!」

 

冷泉は姉住さんと逸見の二人に一度、深々と頭を下げるとヘリへと向かった。

 

「私も行く!!」

 

冷泉と幼なじみだし、たぶん冷泉のばあちゃんとも面識があるのだろう、武部もヘリへと乗り込んだ。

 

その様子を見て、姉住さんは無言でその場から立ち去ろうとする。

 

「…お、お姉ちゃん、ありがとう」

 

そんな姉に向けて、西住は意を決したようにぎゅっと俺の服の裾を掴んで、小さな声だが確かに姉住さんに声をかけた。…なんで俺の服の裾握っちゃってるの?伸びちゃうでしょ。

 

しかし…あれだけ姉を避けていた西住が自分から声をかけたんだ、姉住さんだってその思いは…あれ?

 

姉住さんはそのままてくてくと歩いて行ってしまった…、まさかのスルーである。西住は悲しそうに俯いてしまうし。

 

これ、西住が姉住さんを避けてるのもあるだろうが、姉住さんも西住の事避けているのだろうか?

 

…うーん、この姉妹。

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

ヘリが無事に離陸し大洗に向かったのを確認して、その後は全員解散となった。

 

西住は俺に対して何か言いたそうだったが、冷泉のばあちゃんの事もあるだろうし、いろいろ気持ちを整理したいのか何も言ってこない。

 

「…ん?」

 

俺ももう帰ろうかと思っていたら、携帯の砲撃音の着信音がなる。…珍しいな、俺の携帯がこんなに鳴る日がくるなんて。

 

こりゃ明日は槍でも降るのだろうか?学校への通学は戦車通学にしようなどと考えながら画面を見ると…相手はあの姉住さんだった。

 

…なんだろう?まさか今さらになってやっぱりヘリ返して、とか言わないよね?

 

「…はい、もしもし?」

 

ヘリを借りた手前、無視する訳にもいかないし、とりあえず出てみる。

 

『比企谷、まだ島に居るか?』

 

「え?まぁ…、これから大洗の学園艦に戻るとこですけど」

 

なんだろう…?なんかこの会話にものすごいデジャブを感じる。

 

『そうか…』

 

「…はい」

 

『………』

 

「……?」

 

電話相手の姉住さんからそれ以上の言葉が出てこない、…このままだと通話料金だけとられますよ?

 

「あの、何か用ですか?」

 

『…ヘリが無くなったから、黒森峰に帰れなくなった』

 

…いや、うん、その、俺が悪いのはもちろんわかってますし、姉住さんがヘリを貸してくれたのは充分感謝してますよ。

 

でもすいません、これだけはどうしても言わせて下さい、お願いします。

 

「…何やってんのですかあんた」

 

それでいいのか…?西住流。




はい、そんな訳で全く意図してませんでしたが2016年を締めくくる最後のオチ担当となったしまった姉住さんでした。

…これが西住流か。

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