やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
これで五十鈴さんの母親の方の抱き枕カバーとかが本人より先に出てきたら…、たぶん世界は狂ってる。
『大洗学園の…勝利ッ!!』
試合終了のアナウンスがなる、いろいろと危ない場面こそあったが結果だけ見ればアンツィオ高校が残すはCV33のみ、ほぼ完勝とも言える。
あそこからこの状況まで持っていくとか…、西住の指揮だけでなくそれに答える大洗のメンバーの成長ぶりがわかるというものだ。
「最後のアレは何よ?」
「戦車の板だな」
「それはわかってるわよ!なんであんた達までそんなの持って来てるのかって事よ!!」
いや、そんな事俺に聞かれても…、こっちからすればアンツィオ高校が戦車の板持ち出して来た事に驚いているし。
「どちらも考える事は同じだった…、という事ですか」
そもそも俺が戦車の板をデコイとして考えたのはアンツィオ高校に偵察に行った時に見た壁ドン用の壁、なるふざけた板を見た時だ、そう考えるとアンツィオ側はその時から今回の作戦を計画していたのだろう。
ある意味作戦が被った事が有利になったな、向こうもまさかこっちが同じように偽物を用意しているとは思わなかっただろうし。
「囮を用意して相手が攻撃した瞬間を狙う、あなたらしいわね、マックス」
まぁ基本だと思いますし…、あれ?この作戦を考えたの俺だって言ってないはずなのに何でわかるのよこの人。
偽物を撃破した瞬間のぬか喜びな感じとか、【偽ラブレター作戦】の作戦名がピッタリだと思う、西住にはやんわりと却下されてしまったが俺は認めない。
「二回戦突破おめでとう!とても面白い試合だったわ!!」
ケイさんがにこやかに微笑むと手を差し出してくる、しかし面白い試合って感想はどうなんですかね?まぁ作戦が被ってたりでコントみたいでしたけど。
「いや、俺は特になんもやってませんから…」
おそらく握手を求めているのだろうが、それは俺ではなくて彼女達に向けてやるべき事だろう。
「ノンノン、あなたは作戦を考えた、彼女達はあなたの作戦を信じた、それが勝利に繋がったのよ」
ケイさんは強引に俺の手を掴むと握手に持っていく、ちょっと…、いきなり手を掴まないで、暖かくてびっくりするんだから。
「…どうも」
相変わらずぐいぐい来る人だな…、このアメリカンなノリはどうにも苦手だがケイさんは満足そうだ。
「勝者は笑う者よ、次は準決勝ね」
ダージリンさんの言うとおり、二回戦に勝てば次は準決勝、ベスト4である、改めて考えると展開が早い。
まぁこれは戦車道という武芸がマイナーなので全国大会に出てくる学校がそもそも少ないから、必然的にそうなるのだ。
戦車道をやっている高校はたぶん、この全国大会に出ていない高校にもあるのだろうが前に戦車喫茶で現副隊長が言っていた『戦車道のイメージダウンになるような学校は参加しないのが暗黙のルール』というやつなのだろう。
しっかし拾い物の戦車と素人集めた集団が全国大会ベスト4とか…、イメージ的にそれで良いのかとも思うが。
「ふふっ、決勝戦であなた達と戦うのが楽しみね、応援してますわ」
だから大洗が決勝に行くには次の準決勝を突破しないと無理なんですって、知ってるでしょ?
しかも次の対戦相手は…。
「いい加減、正直に言ってもらっても良いですよ、プラウダよりも大洗の方が勝ちやすいって」
お互い腹の探り合いにも飽きて来た所だろう、そろそろダージリンさんの本音も聞きたい。
大洗の準決勝の相手はプラウダ高校、去年の黒森峰をも倒した前回の優勝校だ。
戦車の性能だけで言えばうちはもちろん、聖グロリアーナの戦車でも厳しい相手だろう。
「さて、どうかしらね?」
ダージリンさんは涼しい表情で紅茶を一口、本当にこの人は油断ならない。
「もちろん俺も準決勝、聖グロリアーナを応援しますよ、黒森峰でも継続でも、倒してもらえるのはありがたいですし」
黒森峰はもちろん、西住の話じゃ継続高校も相当ヤバい相手だ、戦わないに越した事はない。
「あなたのそういう正直な所は好きよ、でも忘れたのかしら?大洗は一度私達聖グロリアーナに敗れてる事」
そうなんだよなぁ…、じゃあ聖グロリアーナはヤバくないのか?と聞かれればここも充分ヤバい、何がヤバいかってダージリンさんの戦術眼だ。
今まで一緒に観戦してわかったがこの人に生半可な作戦は通用しない、奇策で攻める事が中心となる大洗とは相性は最悪だろう。
「まぁ、あの時と今じゃ状況も違いますし」
だが初めての試合だったあの練習試合に比べてうちのメンバーもだいぶ成長したはずだ、ほら、戦車塗装とかの魔改造もありませんし。
それに俺だって今までの試合、ただ単にダージリンさんに付き合って一緒に見ていた訳じゃない、聖グロリアーナが相手になるならそれ相応の作戦だって考えている、採用されるかどうかは別だけど。
「信頼してるのね、彼女達を」
「え?いや…どうなんですかね?」
…あれ?そもそもなぜ俺はこうも自信満々にダージリンさんに喧嘩を売っているのか、よくよく考えるとちょっと恥ずかしいな、別に自分が戦う訳でもないのに。
そう、自分は戦う訳じゃないのだ、だから俺は彼女達を信用も信頼もしてはいけない、そういうのは単なる気持ちの押し付けでしかないのだから。
「単に負けたら罰ゲームが待ってるんで、それに巻き込まれるのが嫌なだけですよ、うちの生徒会、そこら辺容赦ないんで」
「No.man is an island、人は孤島のようにはなれないものよ、あなたは孤独を好むようだけど、周りが同じだとは思わない事ね」
「孤独な木は、仮に育つとすれば丈夫に育つ、とも言いますよ?」
まっ、世の中のことわざや格言は矛盾だらけなんですけどね、二度ある事は三度あるのに三度目の正直とか。
「…チャーチルですね、ここでそれを言いますか」
「ふふっ、なかなかやりますわね、ぷっふふ…」
オレンジペコはドン引きしているがダージリンさんは何がツボに入ったのか笑いを堪えている、この人のツボはいまいちよくわからんな。
「おっ!ようやく見つけたぞ、比企谷、お前こんな所に居たのか!!」
なんか久しぶりに名前を呼ばれた気がする…と思って呼ばれた方を見ると安斉さんが居た、はて?
「ん?誰かと一緒に居るのか?どこかで見た顔だが…」
「ハァイッ!あなたがアンツィオの隊長ね、私はサンダース大学付属高校のケイよ」
「ふぅ…おかしかった、聖グロリアーナ女学園のダージリンですわ」
「サンダース大学付属高校に…聖グロリアーナ!?おい比企谷!どうなってるんだ!なぜ強豪校4強の内の2強がここに居るんだ!?」
本当になんででしょうね?たぶん二人共西住大好きなんだと思いますよ。
「これはもしかして我々アンツィオ高校の偵察か?いやー、うちも有名になったもんだな!!」
得意気に笑う安斉さん、本当の事は言わないのが大人の対応だろうなぁ…。
「…わざわざ観客席まで来て、どうしたんです?安斉さん」
「アンチョビ!ドゥーチェ・アンチョビだ!!こら、ちゃんと紹介しろ!みんな間違えて覚えるだろ!!」
いや、本名を正しく覚えてもらうほうがいいと思うんだけど…、本当にこの人達のソウルネームに対するこだわりはなんなのだろう?
「ふっ、何も試合だけが戦車道じゃないぞ、試合を終えれば関わった選手、スタッフを労う、それがアンツィオの流儀だ!!」
…はい?
「つまり…今から宴会だッ!当然比企谷、お前も来るよな?な?」
「慎んでお断りします」
「なっ、なんでだ!?もしかして前うちに来た時、料理の味付けが合わなかったのか?だったらお前の好みに合わせて作ってやるから言ってくれ!!」
いや、味付けは大変美味でしたし安斉さんのその言動にはいろいろと妄想が捗りそうなんだけど。
単純に打ち上げとか宴会とか、その手のノリが苦手なだけだ、行っても何していいかわかんねーし。
「わおっ!とても楽しそうなパーティーね!ねぇアンチョビ、私達も参加していいかしら?」
「…はい?」
いやいやケイさん、さすがにそれは…、ほら、安斉さんだって困って…。
「おぉっ!もちろん大歓迎だ!客人を歓迎するのもアンツィオの流儀だからな!!」
…困ってないね、うん、なんとなくアンツィオのノリからもうわかってた。
「おい…いいのかよ?」
「あぁなったらもう諦めるしかないわよ…」
「うちの隊長はパーティーが趣味なんだ」
なにその周りを巻き込むくっそ面倒くさい趣味、つか、パーティーって趣味なの?そんな定期的に開くもんでもあるまいし…。
「ダージリン、私達はどうしますか?」
「優雅にお茶をするのは宜しくも、騒がしいのは遠慮しましょうか」
まぁ聖グロリアーナの方々ならそうだろうな、俺ももちろん遠慮したいし、適当にこっちに話を合わせて不参加にさせてもらうか。
「あの…ダージリン様」
「何かしら?ペコ」
「その…ローズヒップさんが」
「やったでございますわ!もっちろん私も参加させて下さいませ!安斉様!!」
いつの間にやら安斉さんに駆け寄るローズヒップは勝手に参加宣言をしていた、おい。
「アンチョビだ!私の事はドゥーチェ・アンチョビと呼べ!!」
「了解ですわ!ドゥーチェ!ドゥーチェッ!ドゥーチェッ!!」
ドゥーチェコールに違和感ねぇ…、ローズヒップの奴、本当にあのままアンツィオ高校の生徒になっても良いんじゃないか?
「…どうしましょう?」
「…そうね、久しぶりにみほさんともお話したいですし、私達も参加させてもらいましょうか」
ダージリンさん、なんかローズヒップに甘くないですか?これってやっぱり俺も参加しないとダメなんだろうか?
いや、俺は諦めない、こうなったら意地でも参加しない!絶対にだ!!
「それに…大洗の会長さんに聞きたい事もありますし、マックス、紹介してもらえるかしら?」
「…え?うちの会長に、ですか?」
ダージリンさんがわざわざうちの会長に聞きたい事って、何かあるのだろうか?
「えぇ、少し気になっている事があるの」
「…まぁ、いいですけど」
ダージリンさんの真剣な表情につい頷いてしまった、しまった…、これじゃあなし崩し的に俺も参加しちゃうじゃないか。
ーーー
ーー
ー
「よーし、お前ら!湯を沸かせ、釜を炊け!!」
「「「お~!!」」」
安斉さんの指示でテキパキと宴会の準備を始めるアンツィオ高校の生徒達。
「すごい物量と…機動力」
いや、本当に西住の言うとおり、あっという間に宴会の場が出来上がってしまった。
「どうだ驚いたか!我が校は食事の為ならどんな労も惜しまない!!」
驚いた事は驚いたが…、しかし良いのかよ、アンツィオ高校って貧乏なんですよね?戦車道は?
「この、この子達のやる気がもう少し試合に活かせると良いんだけどなぁ…、まっ!それはおいおいやるとして!!」
安斉さんもそれは充分理解してるのだろう、がっくりと肩を下げながらもすぐに気を取り直した。
「お前ら!今回は特別ゲストとしてあの聖グロリアーナとサンダースからも客人が来ている、全力でもてなしてやれ!!」
安斉さんから紹介を受けたダージリンさんが軽く会釈し、ケイさんはにこやかに手を振って応える。
「「「お~!!」」」
「そして大洗の諸君ッ!決勝まで行けよな、我々も全力で応援するからな、だよな!!」
「「「お~!!」」」
「よーし、それじゃあ始めるぞ!これより宴会だ!!せーのッ!!」
「「「いっただっきまーすッ!!」」」
…本当に始まっちゃったよ、どうすんの?これ。