やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
うーん、記念にまた何かやりたいと思ってるんですが本編も進めたい、何か良い企画ないかなー。
「うー…寒ッ」
押し入れから引っ張り出してきたこたつの中に入る。
「冬はやっぱこたつだよなー、小町」
こたつは良いねぇ、こたつは心を潤してくれる、もうずっと入っていたい、というか住みたい。
こたつは人類の開発した最高の駄目人間製造機といっても過言ではないだろう。
こんなものを開発した人類だ、人間、誰でも心の中では駄目人間になりたいと思っているに違いないのだ。
「今は夏だけどねー、お兄ちゃん」
そういう小町もこたつでぬくぬくしているが、そう、小町の言うとおり今はまだ暦の上では夏なのだ。
一瞬この兄妹、いったい何をとち狂ったのかと言われそうだがそうじゃない。
「だいぶ寒くなってきたしな、そろそろ雪も降り始めるんじゃないか?」
「学園艦って季節感無いよね、あー…冬服も出さないと」
「次の試合会場は北、雪原だからな、なんもかんも全部戦車道が悪い」
はい、そんな訳で準決勝の会場は雪原であり、大洗学園の学園艦はその為にただ今移動中である。
要するに戦車道の試合の都合の為に学園艦全住民を巻き込んでいるのだ、迷惑過ぎるだろ…それ。
二回戦が全て終了し今戦車道大会におけるベスト4が決定した。
【全国大会9連覇の王者】黒森峰女学園。
【前年度優勝校】プラウダ高校。
【準優勝経験のある強豪】聖グロリアーナ女学院。
【無名校】大洗学園。
うん、改めて見るとうちの場違い感ハンパねぇな…。
二回戦といえば継続高校と黒森峰の試合が一番の盛り上がりだっただろう、結果的に黒森峰の勝ちだが西住の前評判通り、かなりの接戦だったらしい。
しかも二回戦、黒森峰と継続高校の試合会場は砂漠、秋山が言うには継続高校は寒冷地や湖沼地帯での戦いは得意だが砂漠のような気温の高い場所での戦いは苦手らしい。
おまけに奇襲戦術が得意らしいが見晴らしの良い砂漠ではその得意分野も発揮できず、黒森峰に敗北した。
…そういえば継続高校の使ってた戦車、ソ連、ドイツ、フランスといろいろな国の戦車使ってたけど1両だけあった三式中戦車がえらい浮いてたな。
そんな訳で試合会場が砂漠じゃなかったらもしかしたら…とも言える、試合会場は毎回ルーレットで決まるらしい、不正は無かった。
さて、先も言ったが準決勝の試合会場は雪原、そして俺達大洗学園の相手プラウダ高校は雪原のフィールドが得意らしい。
…いや、おかしいでしょ、さっき不正はなかったって言ったけど不正の香りがぷんぷんだよ?戦車道連盟さん。
これも強豪校が有利になるように示し合わせて作られた暗黙のルールなのだろうか…?
つまり、要約すると次の準決勝は。
相手は前年度西住姉妹のいる黒森峰を倒して優勝高校となったプラウダ高校であり。
試合会場はそのプラウダ高校が得意とする雪原であり。
大洗学園は当然雪原での戦闘は初めてであり。
レギュレーションでは準決勝は15両まで戦車を出せるので相手は当然15両であり。
その15両もうちの戦車とは性能面が段違いの高スペックのものばかりである。
さらにはノンナとかいう謎のナオミクラスの高校生戦車道有数の砲手のおまけ付き。
…これはもう無理だな、考えただけでもムリゲー過ぎる。
「お兄ちゃん、準備出来たよー」
小町がこたつに入りながらDVDをセットしてくれる、こたつから出ない俺が言えた事じゃないけど我が妹ながら横着だな。
【高校生戦車道準決勝、黒森峰対聖グロリアーナ】
テレビに映るのは準決勝、黒森峰と聖グロリアーナの試合中継である。
大洗とプラウダ高校の試合が北の雪原となったので先に黒森峰と聖グロリアーナの準決勝が行われたのだ、大洗学園は北に移動中の為直接試合を見れなかったが。
ちなみにこのDVDだが秋山が貸してくれた、この試合に限らずあいつは衛星で中継してる全試合録画してるらしい、戦車好きとして後で借りよう。
「やっぱりまほさん格好いいなぁ!こう…出来る女!みたいな!!」
ティガーⅠから身体を半分出している姉住さんを見て小町が歓声を上げる、西住もそうだけど戦車から身体出すのが西住流なのだろうか。
「小町、お前はどっちの味方なんだよ…」
「そりゃまほさんでしょ!だって小町、聖グロリアーナの人達よく知らないし」
まぁ知ってる人の居る高校とそうじゃない高校、どっちを応援するかとなればそうなるか。
「あれ?お兄ちゃんは聖グロリアーナの方応援するの?」
「どっちが勝って欲しいか、って話ならそうなるな」
黒森峰も聖グロリアーナも強敵には違いないが、仮に大洗が準決勝を勝ち抜いたとして決勝でどっちと戦いたいか聞かれれば答えは決まっている。
「もしかしてお兄ちゃん…聖グロリアーナに知ってる人居るの?」
「まぁ一応な」
「どうしてそれをもっと早く言わないの!!」
「なんでいきなりキレんだよ…」
「そっかー…他の学園艦は盲点だったなぁ、小町のお姉ちゃん候補としてチェックしないと」
ぶつぶつと何か良からぬ事を企んでそうな小町を無視して試合が始まったテレビ画面を見る。
『決勝戦、あなた達と戦えるのを楽しみにしていますわ』
ふと、ダージリンさんのそんな言葉が頭を過った。
…まぁ、黒森峰と戦わずに済むならそれが一番だし、どっちを応援するかとなると…そうなるな。
だが、このDVDの映像は録画であり、試合結果はもう出ている、そして俺はそれをもう知っている。
ダージリンさんは優れた隊長であり、姉住さんにも負けていないと思うが、黒森峰と聖グロリアーナでは圧倒的に違う物がある。
戦車性能の差だ。
聖グロリアーナのチャーチルやマチルダといった歩兵戦車は厚い装甲を持っているが、それゆえに火力不足に加えて速度も遅い。巡航戦車のクルセイダーも速度こそ速いが火力不足には変わりない
対して黒森峰は高火力の重戦車が揃っているし、パンター等バランスの良い戦車が多い。
試合中継を見てもそれは明らかだ、黒森峰側は徹底的に遠距離による砲撃戦を展開している。
火力不足の聖グロリアーナは近付かなければ相手の装甲を貫けない、しかし速度が出ないので遠距離から砲撃を撃たれてはなかなか近付けない。
ローズヒップ率いるクルセイダーが敵を撹乱し、その隙をついて隊列を率いた歩兵戦車が黒森峰の本隊に攻め込む。
だが…、やはりそこまでもっていくまでに被害が大きすぎた、戦車性能の差もあり、旗色が悪すぎる。
『聖グロリアーナ女学院、フラッグ車走行不能、よって…黒森峰女学園の勝利!!』
試合終了をアナウンスが告げる、…わかってた事だが、ここまで強いのかよ、黒森峰。
「はぁ…、すごい試合だったね、やっぱりまほさんってすごいんだ」
「だな…」
あまり戦車の事を知らない小町がそう言うのだ、それだけ黒森峰の強さが伝わったのだろう。
「みほさん達、勝てるかな?」
「その前に準決勝だけどな、たぶん負けるぞ」
「なんでそんな事言うかなぁ…、このゴミいちゃんは」
だってうちもプラウダ高校に勝てそうにないし、決勝戦は去年の再来、黒森峰からしたらリベンジ戦になりそうだ。
まぁうちは来年もあるし、来年は姉住さん達も卒業してるだろうから多少は楽になるだろう。
ーーー
ーー
ー
「長砲身付けたついでに、外観も変えておきました」
「F2っぽく見えますね」
「そうでしょう」
さて、ついに二回戦前に見つけた長砲身をⅣ号に取り付ける作業が終了し、ルノーの方もレストアが完了した。
ナカジマさんはさらりと言ってるけど、これだけの改造を簡単にやっちゃう自動車部、やっぱりチートだよな。
「ありがとうございます、自動車部の皆さん」
「いえいえ、大変だったけどすごくやりがいがあったよ」
これである、うちの戦車道チームは自動車部のガレージのある方に足向けて眠れないね、こりゃ。
「砲身が変わって新しい戦車が1両」
「そこそこ戦力の補充は出来たな」
…そうだろうか?いや、確かにこれでⅣ号の火力もアップしたし、戦車も1両増えたので戦力の増強には違いないが、それでもプラウダとの戦力差はどうしようもない気がする。
「あの…ルノーに乗るチームは?」
そうか、西住の言うとおり戦車があっても人が居ないんだよな、オンラインチームは筋トレ中だろうし。
「あー、それなら大丈夫、前々から声かけてたから」
「会長、それってもしかして…」
「今日から参加する事になりました、園 みどり子と風紀委員です、よろしくお願いします」
…やっぱり風紀委員のそど子さんと後藤と金春か、この人もちょくちょく会長の被害にあってるよな。
いっそ【角谷会長被害者の会】でも今度設立してもいいかもしれない、俺名誉会長やってもいいよ、というか俺が適任でしょ、被害的に。
「園 みどり子、略してそど子だ」
「会長、名前を略さないで下さい!!」
どうやら冷泉のつけたあだ名はもうここまで浸透してるらしい、もうそど子さんも諦めた方が良いと思う。
「何チームにしよっか?」
「え?んーと…」
会長に言われて西住はうーんと考えるとチラッとルノーを見た。
「B1って…カモっぽくないですか?」
「じゃあカモで決定~」
「カモですか!?」
西住は本当にカモっぽいと思って言ってるんだろうがそんなネギしょってやってくるような名前でいいのだろうか?『あいつカモだぜ』とか言われるよ?
「戦車の操縦は冷泉さんに指導してもらってね」
「私が冷泉さんに!?」
「わかった」
うちの戦車道チームは全員冷泉の指導を受けている、冷泉は天才型故に教えるのは不得手だが、どの戦車でもマニュアル読めば乗りこなせるチートっぷりなのでまとまりのない大洗学園の戦車の指導にはうってつけなのだ。
「成績が良いからっていい気にならないでよね」
「じゃあ自分で教本読んで練習するんだな」
「何無責任な事言ってるの!ちゃんとわかりやすく懇切丁寧に教えるのよ!!」
「はいはい…」
「はいは一回でいいのよ!!」
「は~い」
相変わらずこの二人、仲が良いやら悪いのやら…。
「次はいよいよ準決勝、しかも相手は去年の優勝校、プラウダ高校だ!!」
新メンバー、風紀委員の皆さんの紹介も終えて河嶋さんが皆を集めて伝えた。
「絶対に勝つぞ!負けたら終わりだからな!!」
…まぁ、戦車道大会はトーナメントだから負けたら終わりなのは当たり前だけどね。
「どうしてですか?」
「負けても次があるじゃないですか?」
「相手は去年の優勝校だし~」
「そうそう、胸を借りるつもりでいきませんか?」
一年共の言う事ももっともだ、実際俺もそう思ってるし。
あぁでも、三年生の生徒会の皆さんは確かに負けたら引退だもんな、そう考えると必死になるのもわからなくはないが…。
「それでは駄目なんだッ!!」
その瞬間、河嶋さんが大声で怒鳴り戦車倉庫内が静まりかえった。
あまりの迫力に誰も何も言えない。
「…勝たなきゃ駄目なんだよね」
会長が静かに一言だけ付け加える、…やっぱり何かあるのか?
自分達が卒業するから今年しかない、そんな程度の話じゃない何かが。
「西住、指揮」
「あ、はい…、では練習開始します!!」
呆然となっていた西住が河嶋さんに言われて皆に声をかける、なんか釈然としないがとりあえず練習開始か。
「西住ちゃん、あー…それと比企谷ちゃん、ちょっといい?」
「…ん?」
「はい?」
他のメンバーが自チームの戦車に乗り込んでいく中、俺と西住は会長に声をかけられた、何この俺のついで感。
「西住ちゃん、後で大事な話あるから、生徒会室に来て」
「えと、わかりました」
「それ、俺もですか?」
どうせまた何か面倒な仕事でも押し付けるつもりじゃないだろうか?
「ん?比企谷ちゃんにはこれを渡そうと思って」
そう考えていると会長はなにやら一枚の手紙を渡してきた、見覚えのあるその手紙は前に聖グロリアーナとの練習試合後にティーセットと共に送られてきた手紙だ。
となるとこの手紙の差出人はやっぱり…。
「ダージリンからお茶会のお誘いだよ、いやーモテるね、比企谷ちゃん」
「…え?ダージリンさんが八幡君を?」
あぁ…ついにきたか、いつかくるんじゃないかとびくびくしてたんだが。
「欠席で」
「却下で」
「なんで会長が却下するんですか…」
「まぁいろいろと約束があってね、まっ…楽しんできてね」
くそ、直接来るなら上手く逃げれたかもしれないのに会長を使ってくるとは、きっとあのアンツィオ戦の後の宴会の時だな、やっぱりあの人油断ならねぇ。
準決勝の試合結果もそうだし、ダージリンさんは俺にプラウダ高校の隊長、地吹雪のカチューシャ(通り名からしてたぶん、大女)を紹介するって言ってたよな…。
とてもそんな楽しいお茶会になるとは思えないんだけど。