やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
あと最近スマホ変えて操作性が変わって執筆が難航、さらには某ソシャゲで福袋、水着ガチャ爆死といろいろあって更新が難航中、最後のは関係ないか…うん。
たぶん八幡みたいな目でガチャ回してたと思います。
「なっ!」
「ひ、比企谷君、それは…」
「………」
のらりくらりと避けられる可能性も考え、不意討ちをかけるつもりで聞いてみた、会長は黙っているが小山さんと河嶋さんの反応を見ると決まりだろう。
「な、何故比企谷がそれを…、まさかダージリンか、あいつが」
「違いますよ、小町の通う塾の来年の受験候補に大洗が無かったんですよ」
結局ダージリンさんも詳しい事は教えてくれなかった、あの人も真実は生徒会の方で聞くべきだと考えているのだろう。
「そっか…、小町さん、来年受験だもんね」
「文科省め、もうそこまで根回しをしてるのか…」
文科省までが動いているのか…、いや、小町達受験生にとって高校の進学先というのは今後の人生を左右するものだし、そりゃそうか。
「じゃあ、やっぱり廃校になるんですか」
「廃校なんてさせるか!させて…たまるか!!」
「桃ちゃん…」
声を震えさせて怒鳴る河嶋さんの肩に小山さんが優しく手を置いた。
「河嶋の言う通りだ、まだ廃校だと決まった訳じゃない」
今にも泣きそうな河嶋さんを小山さんに任せて会長は俺に向き合う、そこからは普段の飄々とした雰囲気は感じられない。
「…その為の戦車道、ですか?」
今年から急遽戦車道をやると宣言した生徒会、廃校の話とのタイミングを考えるとまず間違いないだろう。
「そうだ、今年の戦車道全国大会で優勝すれば廃校は免れる、まさか優勝校を廃校にはしないだろうしね」
そりゃパッと出の学校がいきなり優勝とかした日には廃校問題なんて吹っ飛びそうなものだが。
「よりにもよって…なんでまた戦車道なんですか?貧乏な学校にとっちゃ一番条件難しいでしょ」
戦車の性能に大きく左右される、お金の無い学校にとって一番勝率の低い武芸である、単に優勝して実績を作るなら他の競技でも良さそうなものだ。
「プロリーグ設立に世界大会、文科省が今一番力を入れているのが戦車道だからね、それに助成金も学園艦の運営費に回せたから」
世界大会があるのは本当なのか、なるほど、文科省を黙らせるにはその文科省が力を入れている戦車道で実績を叩き出すのが一番だろう、他の競技ではまた難癖つけられる可能性もある。
「つまり、負けたら廃校ですか、また無謀な事を考えますね」
だから生徒会は事ある事に勝ちに執着していたのか、負ければ学校が無くなるとわかっていたから。
…しかし、廃校か、大洗の学園艦に住んで長いが、確かに最近は目立った実績も無いし、生徒数が減って学園艦の人口も少なくなって来ているとは思っていたが…そこまでとは。
「無謀なのはわかってるけどね、泣いて一年過ごすよりも…希望を持ちたかったんだよ」
そう言って会長は誤魔化すように微笑んだ。
「比企谷君も…学校が無くなっちゃうの、嫌だよね?」
「…俺ですか」
…大洗学園が廃校になるという事は、必然的に学園艦も解体される、そうなると俺の実家も無くなるのか、さすがに住民の引っ越し先については文科省も手配してくれるとは思うが。
学校だけじゃなく、長く住んでいたこの学園艦ともお別れ…か。
「別に俺は…、そうなったら来年は他の学園艦で一年ぼっち生活を過ごすだけですし」
「…!比企谷…貴様、見損なったぞ!お前はこの学園艦にずっと住んでたんじゃないのか!!」
河嶋さんが今までにないくらいに怒鳴り声を上げてくる、きっと小山さんが抑えてくれていなかったら掴みかかって来たかもしれない。
この人は本当に大洗の学校が好きなんだな…。
もちろん俺だって愛着はある、当然だ。長年ずっと育ってきた学園艦だ、生活だって陸よりもこの学園艦での生活が長いのだから。
一人でよく遊んだ空き地、一人でよく通ったラーメン屋、一人でよく行った戦車倶楽部、…あれ?よくよく考えたら一人ばっかりだな、まぁいいけど。
誰にも縛られず一人であちこちぶらぶら出来た分、より愛着が持てるのかもしれない、という事にしておこう。
だが学園艦はあくまで中高の学生の為の船だ、いずれは誰だって卒業する、大学は陸にあるし俺もいずれは陸での生活が主になるだろう。
つまり俺からすれば大洗の学園艦から出るのが一年早くなっただけだ、だから俺の事は別にどうでもいい。
「戦車道やってるみんなとも、離れ離れになっちゃうのよ?」
「そうなるでしょうね」
もしかしたら戦車道履修者は初出場でここまで来た功績を買われてある程度はまとまって他の学園艦に転校するかもしれないが、男の俺は関係ないだろう。
そうなるばあいつらとも関わる事はなくなるだろうな…、まぁ人と人との繋がりなんて基本的にそんなものだ、場所が離れれば会わなくなる、会わなくなれば疎遠になる、疎遠になれば他人になる。
…俺の事はどうでもいい事だったな、どうでもいい事は考えなくていい。
それよりも問題は小町だ、あいつは大洗学園に入学したがっていた、在学中に廃校にならないだけマシかもしれないが。
相手が文科省、国となると一学生の俺に出来る事なんて何も無い、そうなるとやはり廃校を回避するには試合に勝って優勝するしかないのだろう。
確かに一回戦、二回戦と突破して大洗は順調だ、だが次は去年の優勝校であるプラウダ高校、大洗がどれだけ不利なのかはもう語る必要もない。
「なんでこの事、みんなに言わないんですか?せめて西住には…」
負ければ学校が無くなる、それを生徒会はずっと隠していた、これを知ってるのと知らないのでは試合に対する思い入れが全く変わるだろう。
現に、俺だって負けても仕方ないくらいに考えていたのだから、何も知らなければ当然だ、負けても来年また頑張ればいいと。
だが…その来年が無いのだ、生徒会が本当に勝ちたいなら、この問題は最初に話すべきだっただろう。
「負けたら廃校になるから戦車道やります、って言って、比企谷ちゃんはやりたいと思う?」
…無理、プレッシャーがハンパない、確かに最初に言ってたら人なんて集まらなかっただろう。
「転校して来たばかりの西住ちゃんに重荷背負わせるのもなんだし、それに…みんなには楽しんで戦車道やって欲しいしね」
あぁ…まったくこの人は、普段あれだけ適当にやってて、我が儘放題で傍若無人なくせに、なんでこういう所で気を配っちゃうのか。
いざ試合が始まれば干し芋ばっかり食っててやる気を見せないのも、きっと負けた時、廃校の原因を自分達が背負う為にだろう、極力他の戦車道メンバーに責任を負わせないように。
…やっぱりうちの生徒会長だな、この人は。
だが、それは裏を返せばーーー。
「会長達だって本当にこのまま優勝できる、なんて思ってないんですね」
「………」
廃校の問題を黙っていた事も、会長が試合中に働かない事も、全ては負けた時用の保険だ。
生徒会はこのまま準決勝に望むつもりだろう、なら…俺はどうするか?
簡単だ、全て言ってしまえばいい、西住達にこの事を全て話して少しでも勝率を高めるべきだ。
俺の事はどうでもいいが、小町を大洗に入学させるには優勝するしかないのだから。
だから、勝つ為には西住達だって利用してーーー。
『この学校に来てみんなに会えて、私…戦車道が好きになれたのかも』
「………」
『前はずっと勝たなくちゃって…それしかなかったから、こうやって試合が終わってみんなでご飯食べるのなんて考えた事もなかったよ』
「比企谷ちゃん?」
「…は?えと、なんですか?」
「この事、他のみんなに言うのかなって」
会長がじっと俺の事を見てくる、何かを願うように、俺の言葉を待っていた。
「…いや、黙っときますよ、会長だってその方が良いでしょ」
「…どうだろうね」
会長がぼそりと呟いたその言葉は、今もまだ降り続ける雪に混ざって溶けてしまうような小さなものだった。
学園艦に長く住んでいた者にとってみれば、廃校を告げられてもそれを回避しようと動いてくれたこの人達には、それだけで感謝するべき事だろう。
だが、世の中というのは残酷だ、努力しても足掻いても報われない事なんて山ほどある。
それでも、それが努力した結果や足掻いた結果ならば、少しばかりは慰めにはなるのだろうか。
…だったら、俺が足掻くとすればーーー。
ーーー
ーー
ー
「カイロまでいるんですか」
「戦車の中には暖房無いからできるだけ準備しておかないと」
翌日、戦車格納庫にて俺は段ボールに入った大量のカイロを運んでいた、いや…違うな、運ばされていた、昨日のやり取りが嘘のようで容赦ないなー。
準決勝の会場は雪原がメインとなる、西住の言う通り戦車の中は暖房が無い、ただでさえ鉄の塊なので冷えるのだ。
手がかじかんでまともに試合が出来ない…とか最悪の結果を避けるため、カイロ等の防寒対策は必須だ。
それはいいんだけど…前々から思ってたけど君ら基本的にスカート短すぎない?寒くないの?いや、見てる分には全然構いませんけどね。
なにがズルいって戦車の搭乗とか降りる時、見えそうで何故か見えないんだよな、どういう仕組みなのよ…。
「タイツ二枚重ねにしよっか?」
「ネックウォーマーもした方が良いよね」
「それより、リップ、色ついたのにした方がよくない?」
「準決勝ってギャラリー多いだろうしね」
「チークとかも入れちゃう?」
向こうで相変わらずわいわいはしゃいでいるのは一年共か、話題がだんだん防寒対策からオシャレに変わって来ているが、どれだけオシャレしてもギャラリーからは戦車の中見えないからね?
「どうだ」
「私はこれだ」
対する歴女チームは左衛門佐が侍のカツラをかぶり、カエサルが月桂冠で対抗している、何こいつら、そんなの持ってきてるのかよ。
「あなた達、メイクは禁止!仮装も禁止!!」
「いちいちうるさいぜよ…」
見かねた風紀委員のそど子さんが一年共と歴女達を注意する、仮装禁止とか歴女チーム全員参加できなくなるんじゃないか。
「これは授業の一環なのよ!校則はちゃんと守りなさい!!」
という事は校則に仮装禁止の項目でもあるんだろうか?なにその歴女達ピンポイント狙いの校則。
風紀委員のそど子さんも戦車道メンバーになってから大忙しだな、それだけ大洗戦車道メンバーには色物ばかりという事だろうが。
そんなそど子さんの肩にエルヴィンがポンと手を置いた、染めてるのかわからんが金髪に軍服、帽子を被った仮装代表みたいな奴がいったい何を言うつもりなのか。
「自分の人生は、自分で演出する」
…なにこれカッコイイ、今度俺も使ってみよう。
仮装…といっていいのか微妙だが、バレー部の奴らはいいのだろうか?あいつらも基本的にバレーのユニフォーム着てるけど。
「今度の試合、結構みんな見に来るみたいですよ」
「戦車にバレー部員募集って書いて貼っておこうよ」
「いいね!!」
こいつらも相変わらずだな…、たくましいとは思うがこれでバレー部の宣伝になるんだろうか?
「アンツィオ校に勝ってから、皆さん盛り上がってますね」
それぞれでわいわいやっている各チームを見て秋山が嬉しそうに話す、…盛り上がっているというか、浮かれているというか。
下手したらアンツィオ校の奴らのノリと勢いが移ったんじゃないのかこれ、大丈夫かよ。
「クラスのみんなも応援に来てくれるって言ってるし、頑張らないと!!」
ゲッ…、クラスの奴ら来んの?面倒だしあんまり大洗の観客席には近付かないようにするか、と思ったけど今までもあんま近付いてはいなかった気がする。
そんなわけでこれが現状の大洗の戦車道メンバーである、全員浮き足立っているというか、緊張感が無い。
初出場で一回戦、二回戦と勝ち進んだ事で完全に気が緩んでいる、いや、別に悪い事じゃない、そうなるもの当然だ。
そもそも彼女達は負ければ廃校になるのを知らないのだ、のびのびと楽しく戦車道をやって欲しいと言っていた会長の考えとも違っていない。
だが、試合に負けてしまえば廃校になるのもまた事実だ、こんな調子で試合に勝てるとも思えない。
なら…せめてこの浮き足立った雰囲気だけは消してやる必要があるだろうな。
「次は新三郎も母を連れて見に来ると言ってます」
えっ?五十鈴の母ちゃんまで来るのか、というか新三郎さんもよくあの母ちゃん説得出来たな。
いや、なんだかんだでやっぱり娘の事が気になるのだろう、どれだけ戦車道に反対しようがあの人だって母親だしな、また倒れなければいいけど。
…そういえば、母親といえば。
「どうしたの?八幡君」
チラリと西住の方を見たら声をかけられた、ふむ、どうやら気付いてないのか。
「いやほら、月刊戦車道に準決勝の特集があったの思い出してな」
「あ!それ私も読んだよ、みぽりん良いよね、写真も可愛かったし、これで全国の男の人のファンも増えるかもよ?」
「はい!今月の月刊戦車道は私の中でも永久保存版です、三冊買いました!!」
…秋山、マジヤバくね?
まぁ秋山の事はいいとして、いや、あまりよくないかもしれないが、今回の月刊戦車道は準決勝の特集である。
必然的に大洗の隊長である西住と、プラウダ高校の隊長であるカチューシャさんの写真が載っているのだ。
「プラウダの隊長、なんか小さかったな」
それ、冷泉の奴が言うか、いや、確かに冷泉より小さいんだけどね。
「そ、そんなに見ないでね…、なんだか恥ずかしいよ」
「謙遜する必要は無いと思いますよ、みほさん、とても可愛らしいです」
「うぅ…」
もう西住は真っ赤になって恥ずかしがっているが…俺が言いたいのはそこじゃないんだよなぁ。
「八幡君も、その、あんまり見ないでね、お願いだから」
「お、おぅ…」
…まぁ、本人が気付いてないならいいんだけどね。
月刊戦車道というのだから中身は当然戦車道の記事ばかりだ。
そして戦車道と言えば西住流、更には今回、準決勝の特集となれば黒森峰の記事だってある。
そもそも自分の娘が転校していった学校の名前があるのだ、大洗にもともと戦車道が無かった事を考えると気にならないはずがない。
つまり何が言いたいかというと…見ているはずなのだ、西住の母親も、今回の月刊戦車道を。
ーーー
ーー
ー
「あなたは知っていたの?まほ」
「…はい」
戦車道西住流、その師範である西住しほは娘である西住まほを呼び出すと机に月刊戦車道の1ページを開いて見せた。
そこには大洗学園戦車道隊長、西住みほ、そしてプラウダ高校の戦車道隊長のカチューシャが写真で載っている。
「…西住の名を背負っているのに、勝手な事ばかりして」
記事にはしっかりと西住みほが西住流の娘だとまで書いてあるのだ。
「これ以上、生き恥を晒す事は許さないわ。撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れ無し、鉄の掟、鋼の心、それが西住流」
「ッ…」
「まほ」
「私はお母様と一緒で、西住流そのものです、でも…みほは」
今まで黙っていたまほが声をあげるが、しほはその言葉を一睨みで黙らせた。
「もういいわ…準決勝は私も見に行く、あの子に勘当を言い渡す為にね」
しほはそれだけ伝えると月刊戦車道を片付け、立ち上がった。
「今日はまだ仕事があるから家をあけるわ、まほ、あなたも帰りなさい」
「お母様、菊代さんは…?」
菊代とは西住家に仕える使用人である、送迎運転手も兼ねており、西住しほが彼女を連れずに出かける事は少ない。
「…休みよ、大洗に行くと言ってたわ」
まほからそう聞かれたしほはピタリと動きを止めるが、特に振り返る事なくそれだけ答えた。