千雨からロマンス   作:IronWorks

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エピローグ

――0――

 

 

 

 真っ白なノートに、ペンを入れる。

 出だしは何にしようかと考えて、思い浮かんだ言葉を書き綴りました。

 

「“近衛木乃香様”」

 

 考えてみれば、始めに書くべきは“こう”ですね。

 どうにも、迂闊です。

 

「えーと……“お元気ですか?私たちは相変わらずです”」

 

 えぇ、本当に。

 私たちの全てが、極彩色に輝く切っ掛けとなった、中学最後の一年間。

 

 中学を卒業してから、もう五年の月日が経ちました。

 旧世界――いえ、今は真・世界とか呼ばれていましたね――に残してきた友達。

 木乃香さんに手紙を書くのも、久しぶりになります。

 

 忙しくて中々報告以上の連絡は叶いませんでしたが、本当に久しぶりに落ち着いてペンを取ることができたのですよ。

 

「今頃は木乃香さんも、刹那さんと仲睦まじく、関西をまとめ上げていることでしょう」

 

 私も、負けていられません。

 ……と、続きを書くのを忘れていましたね。

 

 現況報告。

 私は元気です、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千雨からロマンス エピローグ ~親指からレジェンド~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1――

 

 

 

「“私は今、魔法世界の中立国にある、アリアドネー魔法騎士団候補学校にいます”」

 

 千雨さん達について行く形で、私はアリアドネー学院に来ました。

 中学卒業後こちらに通い卒業したので、私の母校になります。

 

 アリアドネー学院では、去年からマッサージが必修科目になりました。

 世界の寿命を回復させるマッサージは、メガロメセンブリア元老院から正式に認められた、立派な魔法使いになるために必要な資格でもあります。

 

 千雨さんの“千雨式マッサージ”の創設メンバーの一員として、鼻が高いです。

 

 もっとも、私はマッサージ師ではなく、世界を回る流浪のマッサージ師である千雨さんの、護衛なのですが。

 

「“刹那さんとは、仲良くやっていますか? 私は、エヴァンジェリンさんの修行に、漸く着いていけるようになりました”」

 

 千雨さんが魔法世界を回ってさらなる高みを目指すと聞いた時、私はエヴァンジェリンさんに弟子入りをしました。

 護衛として同行することが決まっていたエヴァンジェリンさんに弟子入りをして、私も護衛見習いとして同行。

 

 今では、千雨さんを中心としたメンバー……“千の翼”の正式な護衛の一人になっています。

 

「夕映さん!」

「どうしました?ネギ先生」

 

 卒業から五年後、つまり十六歳になったネギ先生は、見違えるほどの美形男性になりました。

 世の女性達が放って置かないというイメージを持つでしょうが、彼にその気がないので泣く泣く諦めているようです。

 

 まったく……千雨さんについて回るなど、いくらネギ先生といえど……。

 

「夕映さん?」

「な、何でもないのですよ」

「そうですか?」

 

 千雨さんの一番弟子であるネギ先生は、超さんとともに千の翼を纏めています。

 千雨さんは指揮を執るよりも、自分で動き回る方が好きな方ですから、仕方がありません。

 

「えーと……ゲーデル総督から、千雨さんにマッサージ講義の依頼が入ったんですが……千雨さんがどこにいるのか、わかりませんか?」

「ちょっと解らないです……見つけたら、ご連絡しましょう」

「ありがとうございます、夕映さん」

 

 ネギ先生は、最近ますます笑うようになりました。

 精霊状態でないと活動できなくなっていたお父さんを、千雨さんが回復させた辺りからでしょうか?

 

「御免ください」

「はい? ……おや、少々お持ちください」

 

 来客が多くて、中々手紙に集中できません。

 千雨さんがフラグを立てすぎるのが悪いのです。

 ……本人に自覚はありませんが。

 

「ネギ先生! お客様です」

「はーい! どちら様ですか?」

 

 行ったばかりのネギ先生が、慌てて戻ってきました。

 そういえば、もう“先生”ではないのですが……これは、慣れですね。

 

「調さんです。他の方もご一緒かと」

「調さん……コズモ・エンテレケイアの?」

 

 コズモ・エンテレケイア――――“マッサージによる完全なる癒しの世界”の皆さんです。

 

 世界を実際に飛び回るのは、幹部であるフェイト・アーウェルンクスさんです。

 調さんは、そのフェイトさんをサポートする従者たちの、一人です。

 

「調さん?どうかしたんですか?」

「――君に用がある訳ではないよ、ネギ君」

 

 奥から出てきた、白髪の美青年。

 彼が、フェイトさんです。

 フェイトさんは、ネギ先生と“犬猿の仲”というやつなのですよ。

 

「でも、今は千雨さんが見あたらないから僕を通して貰わないと」

「超鈴音……彼女でもいいのでは?」

「あれ?耳が遠くなったの?フェイト。僕を通してって言ったんだけど?」

 

 こうなったら、簡単には終わりません。

 調さんや暦さんたちもほのぼのと二人の様子を見ていますし……。

 

 私は、手紙の続きを書きましょう。

 

「“のどかは今、クレイグさん達と世界の遺跡を回っています”」

 

 漸くネギ先生への思いを吹っ切ったのどかは、私たちに同行していた頃に知り合った冒険者の皆さんと旅をしています。

 

 遺跡を見つける度に私に手紙を書いてくれるので、互いの近況はよく知っています。

 

「夕映さん~、お手紙ですか~」

「あぁ、月詠さん。はい、真・世界の友人に」

 

 月詠さんは、刹那さんと同じ神鳴流の剣士です。

 のんびりのほほんとした心優しい方で、聖女のようだと評判の女性です。

 

 昔は“やんちゃ”をしていた、と言っていましたが、私は千雨さんに出会う前の彼女を知りません。

 

 確か、中学三年生の修学旅行の後から、クラスに加わったのですが……。

 修学旅行中に何があったのでしょうね?

 

 ……千雨さんは、目を離すといなくなることがありますからね。

 

「あ~、木乃香お嬢様へのお手紙ですね~」

「月詠さんも、一筆入れますか?」

「よろしいのですか~?ありがとうございます~」

 

 月詠さんも、手紙の端に言葉を綴ります。

 近況報告と、それから相手を気遣う言葉。

 添えられた二刀流のマークが、可愛らしいです。

 

「“それではまたいずれ、お会いしましょう――――天ヶ崎月詠”っと」

 

 月詠さんは、最後に署名を入れました。

 血縁者のいない月詠さんは、天ヶ崎千草さんという女性の養子となっています。

 

 千草さんにもお会いしたことはありますが、サッパリとしていて感じの良い、大人の女性でした。

 あの魅力は、羨ましいです。

 

「さて、後は……」

 

 佐々木さんと和泉さんは、真・世界に残っていましたね。

 こちらに来たのは、ハルナとのどか、そういえば葉加瀬さんもいましたね。

 

 葉加瀬さんの書いた“ストレスと現実を見つめ直す千の方法”は、ベストセラーになっていますからね。

 

 ネギ先生のお父さん、ナギさんの師匠であるゼクトさんの、愛読書と聞きました。

 よほどストレスが溜まっているのか、私たち千の翼に遭遇する度に、胃を抑えていましたから……。

 

 やはり、私たちには想像できない“苦労”を背負っているのでしょうね。

 

「“今度、葉加瀬さんの新刊を送ります”」

 

 続きを書きながら、真・世界にいる方々を思い浮かべます。

 

 相坂さんは、千雨さんに頼めばいつでも成仏できると解ったので、今は木乃香さんのところで充実した毎日を送っています。

 

 楓さんは忍者の里がどうとか言っていた気がしますが……結局彼女は忍者で良いのでしょうか?

 聞く度に誤魔化していたと思うのですが。

 

「夕映さんっ」

「おや? 委員長」

「今日こそ良い返事をいただきますわ!」

「そのお話は、お断りしたはずです」

 

 私がアリアドネー学院に入学したのには、“千雨式マッサージ”を広めるという役割も持っていました。

 そのため、卒業後は魔法騎士団所属ではなく、千の翼のメンバーになれたのです。

 

「しかし、貴女ほどの才能を――」

「――失礼します。ここにいらっしゃいましたか、お嬢様」

 

 私の同期だった彼女、エミリィさんとベアトリクスさん。

 彼女たちは今、コレットといった他の同期の皆さんと一緒に、魔法騎士団に所属しています。

 

 マッサージを取り入れた実験期間の学生ということで、将来を期待されているとのお話です。

 

「ビー! ま、待ちなさい! まだ話しは……」

「夕映さん、それでは、また」

「はい。ご苦労様なのです」

 

 引き摺られていく委員長にも手を振ります。

 すると、委員長はそっぽを向きながらも、顔を赤くして手を振り返してくれました。

 

 素直じゃありませんね。まったく。

 

「“ラカンさんはツボーズがマッチョに見えてつまらないらしいです。あとは、アリカさんが、最近胃薬を常備するようになりました”」

 

 やはり精霊状態でしか身体を保てなくなっていた、ネギ先生のお母さん。

 現在はナギさんと二人で暮らしていて、たまにネギ先生と明日菜さんも帰っていく、二人の実家暮らしとなっています。

 

 いったんペンを置いて、一息吐きます。

 そろそろ〆に、何か一言添えましょう。

 

 そしてふと、窓から外を見ると、具現化したツボーズに乗って空を飛ぶ女性の姿が見えました。

 側には、金髪のビスクドールのような少女と緑色の髪の女性、それから黒髪の女性を従えています

 

 長くのびた赤茶色の髪が、風に流されて空に広がっています。

 すらりとした背と、整った顔立ちを持つ女性――あんな芸当が出来るのは、一人しかいません。

 

「……“私はこれから、彼女の“いつもの”奇跡を見に行きます。それでは、お元気で”」

 

 窓から私を見つけると、彼女――――千雨さんは、片手を上げて笑いました。

 エヴァンジェリンさんと茶々丸さん、それに超さんも一緒に。

 

「帰って早々悪いが、もう一働きだ。行くぞ――――“夕映”!」

「はいっ! 千雨さん! ――――【アデアット】!」

 

 さて、お手紙を出すとしましょう。

 まだまだ続く、この日常。

 

 新しい世界。

 今日も素敵な――――世界救済的マッサージ日和、なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――了――


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