千雨からロマンス   作:IronWorks

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第5話

――0――

 

 

 

 耳に響く音。

 それが携帯電話の目覚まし機能だと気がつくのに、少しの時間を必要とした。

 

 アップテンポな音楽。

 これは、私のお気に入りの曲だ。

 

 着うたで、この“マッサージロマンス”を見つけることが出来たのは、私としても嬉しかった。

 

 これは、私が唯一歌えるポップスなのだ。

 

 腕を伸ばして、目覚ましを切る。

 その頃には、すっかり目が覚めていた。

 

「今日も良い天気……良いマッサージ日和だ」

 

 天気が良いと、気分が良くなる。

 気分が良くなることは、リラックスに繋がる。

 そして、リラックスした身体はマッサージしやすくなるのだ。

 

 

 

 現在、春休みの最中。

 いつもとなんら変わりのない、私の一日の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千雨からロマンス 第五話 ~千雨の一日/休日のマッサージロマンス~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1――

 

 

 

 朝食は一日の力の源である。

 

 柔らかめに炊いたご飯と、鯖の味醂干し。

 わかめと油揚げの味噌汁に、高野豆腐と柴漬け。

 温かい緑茶を添えれば、朝食の完成だ。

 

 手を合わせて、まずは食材達に感謝する。

 いずれ、魚のツボを探してみるのも面白いかも知れない。

 

 箸を使ってご飯を口に運びながら、今日の予定を考える。

 午後からはマッサージ研究会に出る必要があるので、午前中は暇になる。

 

 まぁ、“ツボーズウォッチング”でもするか。

 

 味噌汁の最後の一滴を流し込み、口の中に残る赤味噌の風味を緑茶で洗い流す。

 喉を鳴らして飲み干すと、唇を一舐めして、手を合わせた。

 

「さて、まずは着替えて……」

 

 春休み期間中だから、私服でも良いのだろう。

 しかし、今一センスが解らないため、外出時には制服を着ることにしている。

 

 マッサージ界のプリンスが好むブランド、“イクノ・オサタ”の文字Tシャツはかなり良いと思うんだが……一度着たら、綾瀬に涙目で止められたのだ。

 

 良いと思うんだがなぁ。

 ちなみに私のお気に入りは、同情を引くことがコンセプトのペアルック“浮気がばれて”と“女房に捨てられた”のセットだ。中々面白いと思う。

 

 ちにみに綾瀬に止められたのは、“俺に触ると火傷するぜ”の文字Tシャツだ。

 ……いったい、何が悪かったんだろう?

 

 

 

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

 

 

 

 麻帆良学園の赤いベストに袖を通し、制服に着替える。

 寮の自室から外に出て、まずは一息。

 

「さて……まずはツボーズウォッチングかな」

 

 マイ双眼鏡の“ジョニー”片手に、学園内を歩く。

 適当に高台に昇って、運動部の方をウォッチングするのだ。

 

「お、いい鳩尾≪きゅうび≫だ。あっちの神封≪しんふう≫も中々……」

 

 マッサージ研究会のプレートを持って行けば、マッサージをやらせてくれたりする。

 奇人変人ばかりだと思ってはいたが、おおらかだという点は感謝したい。

 麻帆良学園の生徒で良かった、と思う瞬間だ。

 

「うん? あれは工学部の……葉加瀬か。肩こりだな」

 

 偶然クラスメートの葉加瀬を視界に納めて、私はジョニーを鞄にしまう。

 葉加瀬は普段から無理を溜めているからな……ここらで、発散させてやらねぇと。

 

 そう思って、私は小走りで葉加瀬の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2――

 

 

 

 私は、科学者だ。

 未来から来たという超さんから“魔法”の事を教わり、協力して茶々丸を造り上げた。

 

 魔法は私たちにも理解することが出来る、科学的な事象だ。

 だから私は魔法と科学の融合を、実践して見せた。

 

 この世に、“不思議”なんていう風にカテゴライズされる現象はない。

 超能力だって、脳の機能の一端だ。

 解明しようとすれば、可能だろう。

 

 未知のパワーだった“魔力”ですら、既に私の“常識”にカテゴライズされているのだから。

 

 そんな私でも、理解できないことがある。

 ……あって、しまった。

 

 それが――同じクラスの、長谷川千雨という少女だ。

 

 少しテンションが妙なだけのクラスメート。

 少し変わった趣味のクラスメート。

 

 そのくらいだったら、大勢いるし、私もその一人だという自覚もある。

 

 けれど彼女は、不可思議だった。

 

 マッサージで疲労をとる。

 これはいい。実に、理に適っている。

 

 ツボに語りかける。

 まぁ、マッサージが好きすぎて脳内麻薬的なものでアレなんだろう。

 理解できないことは、ない。

 

 ツボと言葉を交し、宿主の職業を当てる。

 超能力……ではない、謎のパワーだった。

 

 ツボから情報を聞き出し、宿主の位置を探る。

 ツボを掴んで投げて、水切りをする。

 ツボを、ツボを、ツボを……。

 

「科学の冒涜です……うぅ」

「おーい、葉加瀬ッ!」

「ひぃっ」

 

 思わず、変な声が出た。

 私に向かって手を振り駆け寄ってくるのは、千雨さんだ。

 運動データを集めるためにこんなところまで来てしまったのが、運の尽きだったのかも知れない。

 

「マッサージ、させてくれないか?」

 

 断りたい。

 けれど、断ったら、科学の敗北を享受してしまうような気がするのだ。

 だから、私は断ることが、できない。

 

「……えぇ、どうぞ」

 

 だから私は、背もたれのないベンチに座って、背を向けた。

 自分で受けることにより、マッサージの謎を解き明かす。

 百聞は一見にしかず……もう何度も見ているけれど、それでも諦めたくはなかった。

 

「もう少し、力抜けるか?」

「そう、言われましても……」

 

 簡単に力を抜くことなど、出来ることではない。

 身を強ばらせておかないと、理解できるものも理解できなくなるからだ。

 そんな私に、千雨さんは小さく息を吐いた。諦めたのだろうか?

 

「仕方ない、か……【リラックスしてくれ】」

「っっっ!?」

 

 耳元で囁かれた、甘い声。

 データだけはとっておいたが、受けたことはなかった“フェロモンボイス”だ。

 ローレライと名付けられたその技は、たった一撃で私の腰を砕いた。

 

 そもそも、フェロモンボイスとはどういったものなのだろう。

 老若男女だけではなく、動物にも効果があり、さらに何故か茶々丸にまで効いた。

 音を遮断すれば効かないことは判明したが、マイクを使って音量を上げれば単純威力が倍になるというのも、よくわからない。

 というか、声なんて常時発動じゃないのか。なんでパッシブではなくアクティブなんだろうか。

 

 うぅ、屈しない。

 絶対、屈っするものか……。

 

 私が声を聞いて倒れ込む頃には、千雨さんがどこからか取り出したシーツをベンチに敷いていた。用意が良い。

 

「肩こりには肩井(けんせい)!曲垣(きょくえん)!」

 

 えーと、確か肩胛骨周辺にあるツボだったような……。

 ……あ、ダメ、眠い。

 

「左右両方にあるため全部で四カ所ッ!爪を立てるように、ツボの奥まで押すべしッ!!」

 

 非科学的……非常識……でも……。

 

 

 

 ――――気持ち、いい、なぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――3――

 

 

 

 この春休み期間中、僕は明日菜さんと木乃香さんに、麻帆良の案内をして貰うことになっていた。

 

 けれど、二人に用事が出来てしまったため、通りかかった風香さんと史伽さんに案内して貰えることになった。

 

 そういえば、鳴滝さん達とはあまり話しをしたことがない。

 折角の、この機会に仲良くできると良いなぁ。

 

 二人は、散歩部の活動でここを歩いていたらしい。

 散歩部といえば……やはり散歩をするクラブなのだろう。

 のんびりとした良い部活だと思う。

 

 そう、僕は思ったことを口にした。

 けれど帰ってきた答えは、僕の予想を超えるものだった。

 

「違うよ先生! 散歩競技は世界大会もある、知る人ぞ知る超ハードスポーツなんだよ!」

「えぇっ!」

「プロの散歩選手は世界一を目指し、しのぎを削って散歩技術を競い合い……」

 

 熱の篭もった様子で語る風香さん。

 その顔は、真剣そのものだ。

 

「“デスハイク”と呼ばれるサハラ横断耐久散歩では、毎年死傷者が――」

「――ス、スミマセン、散歩がそんな恐ろしいことになってたなんて知りませんでした」

 

 まさか散歩がそんなことになっていたなんて……。

 先生として、あとでしっかり調べておこう。

 生徒の部活のことを何も知らないのは、良くないよね。

 

「やほー、ネギくーん!」

「あっ、裕奈さん」

 

 バスケットボールを持った裕奈さんに声をかけられて、振り向く。

 話しをしている内に、中等部体育館に到着していたようだ。

 

「うちで強いのは、バレーとドッヂボールだっけ?」

「あと、新体操とか女っぽいのが強いです」

「へー……」

 

 ドッヂボールと言えば、黒百合のみなさんですね。

 ……あれ? 千雨さんしか思い出せない。

 すごかったからなぁ……色々と。

 

「ちなみに、バスケは弱いよ」

「ほっとけ!」

 

 後ろから、裕奈さんの叫びが聞こえた。

 あ、あはは、バスケはあまり強くないようだ。

 

 

 

 

 

 その後、僕たちは幾つかの運動部を見て回ることになった。

 文化系の部活は、数が多すぎて今日中に回ることが出来ないそうだ。

 確かに、これだけ大きな学園ならば、それも頷くことが出来る。

 

 更衣室でからかわれ。

 屋内プールでからかわれ。

 屋外のコートでからかわれ……。

 

 あれ、からかわれてばっかりだ。

 ……うぅ、僕、先生なのに。

 

「あれ?あれはなんですか?」

 

 屋外のコート。

 その端っこに建つプレハブ小屋を指す。

 

「あー、あれは“マッサージ研究会”だよ」

「何故か運動系の部活として登録されている、謎の部活ですよ」

 

 謎なんだ……。

 でも、マッサージが運動系だとは……いや、運動系だね。千雨さん的に。

 

「って、ということは、千雨さんの?」

「そうだよー。千雨ちゃん、ちょっと怖いからあんまり行きたくないけど」

 

 怖いのかぁ。

 いや、確かに怖いかも。

 

「まぁでも、今日は案内だしね」

「覗いてみますか?」

「は、はい!」

 

 千雨さん以外の、マッサージ師かぁ。

 どんな人たちなんだろう? やっぱり、千雨さんみたいな人たちなのかな。

 

「聞いた話によると、千雨ちゃん以外は普通らしいよ」

「はい、普通の人たちだという話を、聞いたことがあります」

「そ、そうなんですか?……って、そうですよね」

 

 千雨さんみたいな人が何人もいれば、大変だ。

 マッサージ師の常識なんか解らないけれど、それが普通ではないということはわかる。

 

 僕は、風香さんと史伽さんに続いて、マッサージ研究会の門を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――4――

 

 

 

 お姉ちゃんと一緒にネギ先生を連れて回り、おそらく最後になるであろう部活の見学に、私たちは“マッサージ研究会”の門を叩いた。

 

 千雨さんは、優しいと思う。

 だけど、なんだか怖いのだ。様子が。

 

 このライオンは心優しいと言われても、吠える姿は怖い。

 そんな感覚に似ているのだと思う。

 

 だけど、マッサージ研究会そのものは、普通だと聞いていた。

 なんでも、高等部の人が趣味で設立して以来放置されていたけれど、千雨さんが入って持ち直したそうだ。

 

 マッサージをしながら勧誘したら自然に集まった、と朝倉さんのインタビューで答えていた。

 

 だから、マッサージ研究会の門を叩くことに、警戒心なんか持っていなかった。

 朝倉さんのインタビュー記事も、千雨さん以外は普通に活動していた、と書いてあった。

 

 そう、でも――――私はきっと、甘かったんだ。

 

 

 

「Hey Lock On!!」

 

 

 

 入ってまず聞こえたのは、アップテンポなかけ声だった。

 

「ヒッヒッヒッヒッ♪ 百会≪ひゃくえ≫ッ!!」

 

 黒い髪の部員さんが、額の上辺りを指で突き刺すようにしながら、ステップを踏む。

 目が真剣で、怖い。

 

「ケッケッケッケッ♪ 肩髃≪けんぐう≫ッ!!」

 

 茶髪の女の子が、肩を見ながら指をさして華麗なステップをする。

 顔が真剣で、怖い。

 

「箕門≪きもん≫~♪ 大椎≪だいつい≫~♪ 天枢≪てんすう≫~♪ 日月≪じつげつ≫~♪」

 

 身体の色んなところを指さしながら、華麗なステップと共に聞いたことのない単語で歌う。

 十人弱という人数でありながら息はぴったりで、正直、気持ち悪い。

 

 全員が妙に爽やかな顔をしているのが、それに拍車をかけていた。

 初めのうちは真剣な顔だったのに、後半になるとこれということは、どこかで快楽に変化したということなのだろう。……帰りたい。

 

「すごい……なんて華麗で素敵なんだ」

「ネギ先生っ?!」

 

 ネギ先生が、ぼんやりとした目でそう言った。

 た、大変だ。いつの間にか、洗脳されてる!?

 

「――いいなぁ」

「お姉ちゃんっ!?」

 

 お姉ちゃんまで、そんなことを言い始めた。

 よく見れば目が虚ろだ。な、なんとかしないと。

 

「二人とも、しっかり――」

「――あれ? ネギ先生か?」

 

 そんな時、思いもよらぬ声――普通に考えれば、居て当たり前だけど――によって、私たちは正気に戻ることが出来た。

 

 私たちが顔を向けると、そこでは千雨さんが、いつものように無表情で立っていた。

 

「こ、これは一体……」

「あぁ、効能は覚えたが場所は覚えられないって言ってたからな。世界最大のマッサージ専門学校の理事長が、秘密裏に使ったという、伝説のダンスをなんとか調べて持ってきたんだが……」

 

 そう言って、千雨さんはそのダンスに視線を移した。

 あれ?何故か千雨さんが引いている。

 

「やりすぎた」

「ダメじゃないですかっ!?」

 

 うぅ、なんてところに出くわしてしまったのだろうか。

 運が悪すぎるよ、本当に。

 

「ところで、鳴滝とネギ先生は何で……あぁ」

 

 私が学園案内だと説明する前に、千雨さんは納得したように頷いた。

 そして、踵を返して私たちから離れると、すぐに何かを持って戻ってきた。

 

 手に持っているのは、持ち運びができる小さな黒板。

 そこには、いくつかの“コース”が書かれていた。

 

 

 

<背中コース>

・すっかりほぐれる。

<腰コース>

・しっかりほぐれる。

<首コース>

・きっちりほぐれる。

 

 

 

「どれにするんだ?」

「何の話ですかっ?!」

 

 いや、マッサージの話しだと言うことは解るけど。

 だけど、脈絡がなさ過ぎる。

 

「全身コースがいいのか? それなら――」

「話がかみ合ってないよっ!」

 

 正気に戻ったお姉ちゃんが、すかさずツッコミを入れた。

 戻ってきてくれて、本当に良かったと思う。

 お姉ちゃんがあの謎のダンスを始めたら、私はここに放火して失踪する。

 

「に、逃げましょうっ!ネギ先生!」

「あ、あわわわわ」

「はは、早く行くよ!ネギ先生っ」

 

 後ろからあのダンスで追いかけてくる、マッサージ部員。

 私たちはそんな非現実的な錯覚に囚われながら、命からがら逃げ出した。

 

 

 ……うぅ、やっぱり怖いよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――5――

 

 

 

 ツボーズウォッチングを堪能した後、私は部活に出た。

 

 元々高等部の生徒が趣味でのんびり活動していたマッサージ研究会。

 私はそれに所属して最初に、公開マッサージによって部員収集を行った。

 

 結果として、マッサージ研究会は“同好会”から“部活動”にランクアップした。

 

 しかし、この学園でツボーズが見えるのは私一人。

 顧問の先生ですら見ることが出来ず、私が一番上手かった。

 そのため、結果として教育能力ばかりが高くなってしまった。

 

 こんな能力、弟子でもとらない限りは役に立たないだろう。

 マッサージ専門学校の先生を務める気は、ないし。

 

 やはり自分の手で患者さんに触れるのが、一番だと思う。

 

 午後は一日、そうして過ごした。

 マッサージダンスの途中にネギ先生達が来たが、何故か逃げてしまったのだが……。

 

 それ以外では、順調に部活を終える事が出来たと思う。

 

「ふぅ、今日は妙に疲れたな……」

 

 久々に、マッサージ巡りでもしようか。

 自分がマッサージを受けるというのも、けっこう大切なことなのだ。

 針灸の勉強ついでに、行ってみるのも面白いかも知れない。

 

「まだ……四時前か」

 

 時間は充分。

 私の休日の〆には、良いものになると思う。

 

 麻帆良のマッサージ巡りのために、ゆっくりと歩き出す。

 

 

今日も充実した、良い一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――6――

 

 

 

 風香さんと史伽さんに三時のおやつを奢った後、僕たちは世界樹にやってきた。

 大きな枝に乗って見る、眼下の風景は、言葉をなくすほど美しいものだった。

 

「わぁ――」

 

 夕焼けに照らされた、オレンジ色の麻帆良。

 温かい朱色に包まれていく町並みは、優しくて綺麗だった。

 

「――この樹には伝説があるんですよ、片思いの人に告白すると、想いが叶うっていう」

 

 そう語る風香さんと史伽さんの姿は、見た目よりもずっと大人っぽく見えた。

 二人とも十四歳で、僕よりも四つも年上の女の子なんだ。

 

 やっぱり、こうしてみると、僕はまだまだ子供なんだと実感する。

 それが少しだけ……ほんの少しだけ、切ない。

 

「片思いの人、か」

 

 故郷の同級生だった、アーニャ。

 うーん……なんか、違う。

 

 従姉妹の、ネカネお姉ちゃん。

 いやいや、それは違うよっ。

 

 同室の、木乃香さん。

 木乃香さんは、優しい。けれど……。

 

 よく迷惑をかけてしまう、明日菜さん。

 ネカネお姉ちゃんにちょっと似てて、乱暴だけど優しい……お姉ちゃん、かな?

 

 そして――千雨さん。

 凛々しくて綺麗で、時折可愛い笑顔を見せる人。

 自分の目標をしっかり持っていて、夢を叶えるために諦めずに頑張る人。

 たまに少し変だけど……意志が強くて、優しい人。

 

 そういえば僕は、何故マッサージをさせないようにしているんだろう?

 きっと、千雨さんにマッサージをして貰えば、すごくすっきりすると思う。

 けれど、いざ“させてくれ”と言われると、何故か逃げてしまう。

 

 風香さんや史伽さんのように、恐怖心から逃げている訳ではない。

 確かにちょっと……すごく怖い時もあるけれど、それで逃げたりなんかは、しない。

 

 

 風香さんと史伽さんに子供扱いされて、逃げようとして捕まって、結局頬にキスをされた。

 

 

 混乱する頭の中で、僕はやっぱり考えていた。

 どうして自分は、千雨さんのマッサージから逃げてしまうのだろう……と。

 

 

 

 

 

 答えはまだ――でない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――了――

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