東方Projectと名作シューティングゲームのクロスオーバー!
オリジナルの主人公と早苗さんが外の世界で一度出会い、そして幻想郷で再び出会う物語です。

シューター(シューティングゲーム愛好家)である「轟アズマ」は地元でも有名なゲームの達人で、近所のゲームセンターが主催する大会でも優勝する程度の実力を持っている。ハンドルネーム「AZM」もこの界隈ではそれなりに有名であるのだ。

ある日アズマは「その腕前なら全国大会での優勝も視野に入るだろう」とゲーセンの店長やライバル達に言われ、彼らに推薦される形で全国大会に参加することに。

ところがアズマは志半ばにして緑色の長髪に蛇と蛙の髪飾りをつけた珍しい女性シューター「さな☆ポン」に完膚なきまでに叩きのめされてしまう。

清々しいほど思い切り敗北を喫したアズマは「打倒さな☆ポン」を掲げ、さらなる鍛錬を続けるが、彼女にはとある重大な秘密があって……。


下記のサイトで公開している作品「銀翼と妖怪寺I.F.早苗編」のリメイクとなります。
http://banshee.ai-saloon.com/sp.php?no=4210&word=%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88%E7%A7%BB%E6%A4%8D%E8%A8%88%E7%94%BB&r=

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某所で公開している東方Projectと名作シューティングゲーム達のクロスオーバー小説のIFストーリーを単発の短編小説として手直ししてみました。
台本小説だった形式を廃止したり、追加されたシーンも用意したりと、実質的にはリメイクというよりかは一つの新作のような立ち位置に相成りました。

下記のサイトで公開している作品「銀翼と妖怪寺I.F.早苗編」のリメイクとなります。
http://banshee.ai-saloon.com/sp.php?no=4210&word=%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%B3%E3%83%88%E7%A7%BB%E6%A4%8D%E8%A8%88%E7%94%BB&r=


超時空戦闘機の幻想入り

 これは、今もなおSTG(シューティングゲーム)を愛する一人の少年と、やはり同じくSTGを愛した一人の少女が、時と場所を越え再び出会う物語である……。

 

 

 

 

 

 ゲームセンター……。幾多ものブラウン管がその画面をちらつかせながら、誰が来るともわからぬこの蒸し暑く淀んだ薄暗い空気を照らしている。同じような筐体に同じような大きさの画面。それらがズラリと並ぶ様は圧巻である。しかし、そこに人はおらず寂れていた。かつての熱狂を、栄光を知る者には想像もできなかった惨状であろう。

 

 

 

 

 

 今は昔、時は1978年、「インベーダー」がこの国を襲った。彼らの襲来によって多くのゲームセンターが産声を上げ、喫茶店までもがテーブルをゲーム機にしてしまうほどであったそうだ。ゲームの中でインベーダー達は「凸」の形をした自機の放つ無慈悲な砲撃に散っていったが、実際には侵略は大成功といったところだろう。

 

 この国を熱狂させた「インベーダー」を越えるものを生み出すぞと息巻く多くの創造者(ゲームクリエイター)が新たなゲーム作品を産み落とし、あるものは歴史の闇に埋もれ、あるものはやれ「盗作だ」とか「劣化コピーだ」とか後ろ指を指され、あるものは栄光を勝ち得てきた。そうしてシューティングゲームが栄えてきたのが1980年代のことである。しかしその熱狂もいつまでも続くわけではなく、今ではご覧のありさまである。ああ、閑古鳥が鳴く。いや、これはゲームのデモプレイの効果音か?

 

 既に21世紀を迎えて久しい。周囲を取り巻く環境も大きく変わり、ゲームセンターもその姿を変えていった。いや、変えていかなければ、時代に適応していかなくては生き残れない世の中になってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 この物語はそんな昔ながらのゲームセンターの姿を残した数少ない「楽園」で幕を開ける……。

 

 

 

 

 

 俺の行きつけのゲーセンは相も変わらずボロっちぃ外観に、無骨で薄暗く蒸し暑い内装をした冴えない場所であった。だけれど、コイン1枚で地球を救うヒーローになれる場所でもある。これは何もゲームの中だけの話ではない。神業を見せるプレイヤーの後ろには攻略の参考にするためか、ただ魅了されているだけか、一人二人とギャラリーが集まってくる。上手なプレイヤーは現実の世界でもこうやって皆に注目されるヒーローになれるのだ。俺はゲームの中でも現実の世界でもヒーローになれるこの冴えなくも愛おしいゲーセンの空気に慣れ親しんできた。

 

 そんな普段はパッとしないゲーセンだが、今日ばかりはいつもと勝手が違うのである。相変わらず寂れた場所であるが、その特定の場所だけは機械の廃熱だけではなく、興奮した人間にしか出せない「生き生きとした熱気」にも包まれていたのだ。

 

 壁いっぱいに広がるスクリーンに映し出された画面はシューティングゲームのもの。しかもそれが二つある。固唾をのんで見届ける多くの目、騒ぎ立てる実況の声、そんな中響き渡る爆発音にレーザー照射音。俺こと「(とどろき)アズマ」は左側の画面を操作している。そう、今日はこのゲームセンターで誰が一番ゲームの達人かを競う大会が開かれていたのだ。

 

 ルールは単純明快、特定のステージを2分間でどれだけスコアを稼ぐことが出来るのかを競うものである。単純ゆえに白熱するし、少しのミスが命取りとなる。この場でシューター(シューティングゲーム愛好家のこと。もちろん俺もシューターだ)同士の真剣勝負が幾度となく繰り広げられ、多くの勝者と敗者が生まれた。俺も幾多もの強者を打ち破り、そして今の相手が最後の一人、つまり決勝戦に臨んでいる。

 

 お互いに一歩も譲らぬ展開に会場はこれ以上ない程、熱気に包まれる。しかしその時も終わりを迎えようとしている。レバーやボタンを通じて俺は確かな手ごたえを感じた。そう、何もかもが上手く行ったのだ。そして2分が過ぎた。ここで俺は勝利を確信し、ガッツポーズをとる。

 

「決まったァー! 一進一退の攻防が続いていたが、ラスト10秒の立ち回り方で差が出たかっ。これは圧倒的だァー! 『YMT(ヤマト)』選手に決定的な差を見せつけながら『AZM(アズマ)』選手が今まさに勝利っ! これがエースの動き、王者の風格! 勝者は()()()()()()()()()()ぁー!」

 

 やたらとテンションの高い実況の叫び声と観客のどよめきが響いている。悔しがりゲーム筐体にうなだれる「YMT(ヤマト)」と呼ばれた先程顔を合わせたばかりの我がライバルと、名前を呼ばれ拳を掲げながらガタッと椅子から立ち上がる俺。勝者と敗者がハッキリと別れた瞬間。そう、俺は勝ったのだ。

 

 地元のゲーセンで開催されたとあるシューティングゲームの大会、俺はコレに出場していたのだ。みっちりこのゲーセンで練習していた俺は決勝戦まで勝ち上がり、そして今まさに優勝した。

 

 今もデカデカとスクリーンに投影された二つのゲーム画面がこの戦いの結果を物語っている。うなだれる準優勝者の手を取ると、何ともチープな雰囲気ではあるが表彰式が始まる。何よりも俺の名前が広まるのが嬉しい。

 

 実はこの店の大会で優勝したのは今回が初めてではない。「YMT(ヤマト)」さんに、そして大会を運営していた店長(大会では実況役も買って出ていた)に全国大会の存在を聞かされる。

 

「あんたなら全国相手でもテッペン取れる! そうしたらAZM(アズマ)は晴れて『全一』だ!」

 

 そう年甲斐もなく騒ぎ立てるのだ。なるほど、全国か……。

 

 全一ってのはいうなれば全国一位のこと。確かに憧れはするがまさかこんなに身近な存在になるなんて夢にも思わなかった。

 

「君が優勝してくれれば、うちのいい宣伝にもなる。手配はうちでするから是非とも今度の全国大会に参加してほしい!」

 

 自らの名誉の為、そして赤字続きと度々ぼやく行きつけのゲーセンの店長を少しでも助ける為、俺は全国相手に戦うことを決意。かくして俺は大都市のアリーナにまで足を運ぶことになった。だが、全国大会は世界の壁の厚さを、厳しさをこれでもかと俺の記憶に叩きこむことになったのである……。

 

 

 

 

 

 この日の為に時間限定とはいえ、店長は大会でプレイすることになるゲームを無料で練習させてくれた。そこでさらに己の腕を磨いた俺は、今まで以上に無駄のない動き、長期戦(連射的な意味で)にも耐えられるペース配分を会得していた。

 

 それだけではない。このゲームには数多くの隠されたボーナスがたくさんある。いまだ謎に包まれる全貌を少しでも明かす為に、他の常連たちと一緒に攻略ノートまでこさえたのだ。おかげで緊張感にも負けずに全国大会も順調に勝ち上がっていき、ついにベスト8にまで上り詰めたのだ。優勝も見えてきたぞ!

 

「体調もいい、知識もばっちり。最高のコンディションだ、負ける気がしないぞ!」

 

 おっと「AZM(アズマ)選手」だって? どうやら俺の名前が呼ばれたようだ。俺のハンドルネームは「AZM」、読みは本名そのまま「アズマ」だったりするが、珍しすぎる名前なので誰も本名だと思ってくれない。

 

 こんな感じでシューターにはアルファベット3文字のハンドルネームを持つものが結構いるのだが(地元で戦った『YMT(ヤマト)』もそうだったし)、それはゲーム内のスコアランキングで入力できるのが(古いゲームだと特に)アルファベット3文字であることが多いからだ。

 

 さて、いよいよである。ここを決めればいよいよ準決勝。俄然気合が入っていく。さすがに全国相手という事もあり、さっきの勝負は危なかったのだ。辛くも勝利できたものの、もっとヤバい相手が単純計算であと7人いると思うと身震いする。もちろん武者震いだ。さあ、次の相手は誰だ……?

 

「初出場ながら快進撃を続ける、AZM(アズマ)選手っ! そして次の相手は……おーっと、こちらも初出場の選手のようです!」

 

 さあ、どんな奴だ? どこからでもかかってこい……!

 

 舞台の反対側から出てきた対戦相手はあまりに意外であった。女の子なのである。特徴的なカエルの髪飾りのついた長い緑髪をなびかせ、蒼とも緑とも取れる澄んだ瞳を会場全体に向ける。その眼差しは男臭い戦場にサッと吹く一陣の風となった。

 

「な、なんとっ、次の相手も初出場っ! しかもベスト8唯一の女性選手だ。これはどうなるか全く読めなぁいっ! さあ皆さん大きな拍手を、『さな☆ポン』選手、入場ッ!」

 

 さ、「さな☆ポン」だって? 真ん中の星マーク含めての名前らしいが、なんちゅうハンドルネームだ……。ま、まあいい。相手が女だろうと手加減無用だ。いつものように華麗に魅せて勝利をもぎ取って見せる!

 

「ぶつかり合うニュージェネレーション達っ。しかし先に進めるのはどちらか一人だっ! 今ここで雌雄を決しよう! それでは、スタァートッ!!」

 

 店長に負けずとも劣らずのハイテンションな実況が決戦の火ぶたを切る。軽快なBGMが流れ始めた。よし、ゲームスタートだ。さっそく見せつけてやる。まずは機体を右にやってザコ編隊を片付ける。この時あえて1匹だけ残して反対側のザコ編隊を倒し……、このタイミングで逃がしていた最後のザコを倒すと……やった成功だ。ボーナスが入ったぞ! これは俺も知らなかった要素だ。

 

 さて、次は中央から大型の敵が現れるが、弾幕がチト辛いので安全を取って右側の地上物を破壊して、弾幕が止んだ瞬間に一気に目の前に張り付きながら撃ち込んで……。

 

 ワーっと歓声が上がる。ふふふ、完璧な動きが出来ている。今度もこの俺の勝利だ!

 

 最後に待ち構えるボスは左右のパーツを壊さないように誘導ミサイルを破壊し続けて稼ぎ、ラスト3秒でパーツ破壊、すかさずボス本体の目の前に張り付きショットを連射すればちょうど時間が切れる瞬間にボス撃破。これが一番無駄なくギリギリまで粘れる稼ぎ。そして、何のアクシデントもなく俺はその通りに立ち回った。

 

 よし、勝てた。そう確信して「さな☆ポン」の方のゲーム画面を見る。

 

「そ、そんな馬鹿なっ!?」

 

 結論から言うと俺はここで敗退してしまった。ベスト8からは勝者のプレイの様子をリプレイで流すのだが、その挙動を見て俺は愕然とした。俺は事故を起こさないように出来るだけ安全なパターン構築を行ってきたが、「さな☆ポン」のものは安全性度外視のガンガン稼ぐような動きをしていたのだ。

 

「あの弾幕に真っ向から突っ込んで被弾しないだって? こんな動き、人間業じゃない。なんて奴だ!」

 

 まるで一人だけスローモーションの中で操作しているんじゃないかと思わんばかりの精密な動き。今分かった、俺は負けたんだ。完全敗北だ、悔しいが認めようじゃないか。さて、勝負が終わると互いに握手をするのがこの大会のルールだ。汗ばんだ手を拭うと、悔しさで涙が出そうなのをこらえて「さな☆ポン」と向き合う。

 

「今回は俺の負けです。でも今度は『さな☆ポン』さんを越えてみせる! 次の大会でまた会いましょう!」

 

 差し出す手をふわりと取る「さな☆ポン」。こうして手と手で触れると女の子の柔らかな手であり、その指先からあの凶悪なスコアを叩き出したとはとても思えない程であった。このままがっちりと握手を交わす。

 

「ええ、いつでもお待ちしております。AZM(アズマ)さん♪」

 

 かくして全国大会はベスト8という結果に終わった。幸いだったのが俺を負かした「さな☆ポン」はその後もさらに勝ち上がり、優勝してしまったことだ。おかげでハイライトではあったが、テレビにもちょっとだけ出た(『激突! ニュージェネレーション』なんてタイトルだった気がする)し、店長も十分宣伝になったと温かく迎えてくれた。

 

 それにしても、初出場でいきなり優勝だなんて本当に奇跡めいている。それもその筈だ。「さな☆ポン」はこの後も様々なイベントに大会にと活躍していき、いつしか「奇跡の女性シューター」なる称号まで手にしてしまったのだから。

 

 それでも俺は打倒「さな☆ポン」を掲げ続け、鍛錬を怠ることはなかった。イベントで会えば話をするし、大会で再び競うこともあった。そしてようやく俺が白星を得た時は腹の底から雄たけびを上げたことを覚えている。

 

「ようやく俺の勝ちだな。リベンジならいつでも受け付けてるぞ」

「……ふぇっ? あ、ごめんなさい。ちょっとボーっとしていました」

 

 何だか何もない空間に向かって喋っていた気もするが俺の見間違いだろう。さらに腕を上げた俺は「さな☆ポン」にちらほらと勝てるようにはなってきた。だが、結局俺は負け越してしまったのである。

 

 

 

 

 

 そう、負け越してしまっ「た」のだ。私生活が忙しいのか、ここ最近の異様なSTGの盛り上がりもついに下火になったのか、「さな☆ポン」のメディア露出は次第に減っていき、そして消えていった。いつだったか、交換した連絡先を用いて、どうやら彼女が生きているらしいことは分かったが、どこか思いつめたような元気のない様子であることは電話越しにでも十分に伝わってきた。

 

 きっと一時期はアイドルのような扱いだったのに自分の大好きなSTGが下火になったことで、元気もなくなってしまったのだろう。「さな☆ポン」とは迷惑にならないようにと週一くらいの頻度で連絡を取り合っていた。他愛もない雑談や、今度出る新作の話などなど……。

 

 だが、ある日を境にプッツリと連絡も取れなくなってしまった。彼女の身を案じながらも俺には何もできない。STGの大会は規模を縮小しつつも辛うじて続けられていたが、我が最大のライバルである「さな☆ポン」のいない大会などには興味はない。いつしか俺も表舞台からは姿を消すようになっていった。

 

 そして大会そのものが開催されなくなるのにもそう時間はかからなかったのである……。

 

 

 

 

 

 あれから、「さな☆ポン」と連絡が取れなくなってから何年が過ぎただろうか。鈍色の雲が立ち込め、吹く風も冷たく肌に突き刺さる11月、今俺は寂れたゲームセンターの前に立っている。ここは俺がシューターとして全国へ目を向けるようになった、「さな☆ポン」という最強のライバルと出会うきっかけとなった、いわば俺にとってすべての始まりと言える場所だ。

 

 だが、このゲームセンターは終焉を迎えんとするところであった。経営が立ち行かなくなっていた中、店長の持病が悪化してしまい、ついに店を畳むことになったのだという。そういえば俺もここに来るのは久しぶりだ。

 

 今日は最後の日という事を風の噂で聞きつけ、俺も時間を作ってここにすっ飛んできたのだ。相変わらずボロくて冬が目の前とは思えない程蒸し暑い。目を閉じるとあの日の興奮がよみがえる。だが明日からはこの空気が永遠に失われてしまう。

 

 ふと、俺は大きな筐体があるのを見つけた。乗り込んでプレイするタイプの大型筐体だ。俺のいない間にあんな高そうな筐体仕入れたのか。店長、無茶しやがって……。赤字続きで随分と老け込んでいるじゃあないか。

 

「ゴホッ、ゴホッ……。『ソーラーアサルト』だよ。この銀翼のシリーズは私も好きでね、ついつい採算度外視で仕入れてしまった」

「仕入れたのならもっと早く教えてくださいよ。惜しいことしたなぁ、知っていればすぐにでもすっ飛んでましたよ。俺だってこのシリーズ大好きなんですから」

 

 シリーズでは珍しい3DSTGありながら、大型筐体であることが仇となりどこのゲーセンでもすぐに撤去されてしまったという不幸な作品である。ここが閉店するという事は今日見つけたばかりのこの作品も本日限りのプレイとなる。

 

 俺は大型の筐体に乗り込み、コインを入れた……。

 

 前々から興味ある作品であり、プレイの様子を収録したビデオも見たことがある。その記憶を頼りに、概ねサクサクと進むことが出来た。特にこのシリーズはパターンの暗記が要となる。十分すぎる予習は今回のプレイでも十二分に役に立っていた。

 

 その後も上手く立ち回り、気がつけばもう最終ステージ最奥まで来てしまった。これから、高速飛行で一気に敵要塞に突っ込むこのゲーム最大の見せ場がある。

 

 操縦桿を握る手が汗ばんだ。握る手にも力が入る。ゴクリと生唾を飲む。さあ、行こうか……!

 

 

 

 

 

 おかしい、ステージが始まったというのに未だに最初の障害物が出てこない。処理落ちでBGMとのシンクロがずれているのだろうか? 少し興ざめ。それにしても随分と長いな。

 

 画面がカクついたかと思うと、急に画面とBGMにノイズが走り始める。耳障りだ。画面までもが揺らぎ始めて本格的に故障したらしいことが素人目にも分かった。立ち上がるのもしんどそうだが、店長を呼んで見て貰おう。そう筺体を降りようとしたが……。

 

 降りられない、どういうことだ? 文字通りのことなのだ。どこを見渡しても見慣れぬ機械。まるで本当にコックピットの中にいるような錯覚さえ覚える。あり得ない事象に頭が混乱する。

 

Watch your back!!(背後に注意せよ!!)

 

 視覚も紫色のノイズで不明瞭な中、混乱するこちらのことなど無視してシステムボイスが鳴り響く。というか背後だって!? ありえない、何かの間違いではないのか? このゲームで背後から敵の攻撃を受けるだなんてことはない。大体後ろからの敵をどうこうする手段なんて持ち合わせていない。仕方ない、回転するように動き回って追跡を振り切るしか……。

 

 ズガーン! と衝撃が走る。まるで本当に被弾したかのようなリアルな感覚。機体が大きく揺れ、モニターからはアラート音が鳴り響く。機械がオーバーフローしているのか、時折煙を上げている。

 

 リアルすぎる。まさか……、いやそんなはずはない。でもこれはまるで……、「ビックバイパー」の中にいるとしか考えられない。というかゲームで被弾したなら派手に爆発するはずではないか。そうだ、これはゲームじゃない。リアルで起きている事なんだ。

 

 信じがたいが、今置かれている状況をまとめるとそのような答えに導かれてしまうのだ。

 

 いつの間にかゲームの世界に迷い込んで戦死する。冗談じゃない! そんな理不尽なことで死んでたまるか! 機体のスピードを最大にし、右も左も分からぬノイズ空間の中をフラフラと飛び続ける。すると目の前に小さな光が見える。あれはもしや出口だろうか? 俺は迷うことなく光へ飛び込んだ。

 

 愕然とした。そこには宇宙の要塞などではなくて田園風景が広がっているのみであったのだ。地球に戻ってきてしまったのか。再び後ろで爆発音が響く。エンジンに無茶をさせたからか。どんどん高度が下がっていく。

 

 突然目の前に大きな山が現れる。このままではぶつかってしまうだろう。折れてしまうのではないかというくらい操縦桿を傾ける……が、もはやコントロールのきかない銀翼はそのまま山頂に突っ込むように墜落。転がり落ちるように大破した銀翼から這い出る。

 

「イツツツ……」

 

 強打した衝撃で頭がフラフラする中、周囲の状況を確認する。ここはどこだ? 焦点の合わない視界が真っ先に捉えたのは鳥居。大きな鳥居があるということはここは神社で間違いないだろう。だが、肌寒い! 随分と標高が高いのか?

 

 ブルブルと震えていると、神社にいたであろう住民が飛び出してきたではないか。タッタッタと駆けよってくるその姿は蒼い巫女服の少女なのだろうか? 普通巫女さんといえば紅白の衣装であるし、なによりも何故か露出した腋が気になる。そんな彼女がどんどん近寄ってくる。

 

「まあまあ。そんな凄い音をたてながら、『守矢神社』に何の用ですか?」

 

 緑色の長髪、特徴的すぎるカエルの髪飾り。差し伸べられる細い手。こいつ、まさか……? まだ何とも判断がつかないが、見れば見る程かつてのライバルの顔にそっくりである。ううむと唸っていると……。

 

「あれれ、警戒されているようですね。では名乗っておきましょう。私は『東風谷早苗』、ここ守矢神社の風祝です。そんな怯えずとも妖怪じゃありませんし、貴方を取って食べたりはしませんよ?」

 

 妖怪? それにしても声までそっくりだ。それに今のは本名だろうか。早苗、さなえ、さな……ポン? うむ、彼女がかつて「奇跡の女性シューター」とチヤホヤされていた可能性がますます高くなった。ここが何処かも俺にはよく分からないのだ、目の前にいる少女が知り合いだとしたら幾分心強い。ダメ元でちょっと聞いてみよう。

 

「人違いだったら忘れてくれ。あんた、ひょっとして『さな☆ポン』じゃないか?」

「ど、どこでその名前を? その名前を幻想郷で聞くなんて! はっ、貴方もしやアズマさん!?」

 

 目を見開き驚く巫女。俺の顔を近くで見て何か感じるものがあったようである。こりゃ図星だな。幻想郷ってワードが気になるが、改めて名乗っておこう。

 

「やっと思い出したな、お前の永遠のライバル『轟アズマ』だ。久しぶりじゃあないか。最後に話した時は元気なさそうで心配したが、今はすんごく元気そうで安心したぞ!」

 

 何故か実体化したビックバイパー、見たことない山に神社。分からないことは多いが、何よりも古い友人に出会えたというのは心強い。俺は今までの経緯を話す。大破した銀翼の正体を聞いてすごく残念そうにしていた。そしてどうして早苗さんが元気がなかったのかという理由もここでわかったのだ。

 

「つまりこの幻想郷って場所に引っ越すにあたって友達に何も言わずにお別れするのが辛かった……と」

 

 引っ越したってまた会いに行けばいい。そう言ったのだが、ここ幻想郷は結界に守られており普通は出入り出来ない場所なのだという。なるほど、それで葛藤していてあんなに元気がなかったのか。

 

 ならばせめて友達にサヨナラくらい言えばよかったじゃないか。俺はそう問いかけたのだが、さな☆ポ……もとい早苗さんはそれも無理だったというのだ。引っ越しの理由がちょっと人に説明しづらいからなんだとか。

 

 まさか、ストーカー被害にでもあっていたのか? これだけのトップランカーな上に早苗さん自体は整った顔立ちの美女。その腕前を妬んで、その美貌を我がものとするべく邪な思いで近づく不埒な輩でもいたのだろうか。だとしたら腹立たしい。

 

 が、それが引越しの原因ではないようだ。そうしているうちにもう一人誰かが近寄ってくる。

 

「早苗、今の大きい音は何だった? 宇宙人でも落ちてきたか?」

 

 でっかいしめ縄を背負った大人の女性が胡坐をかきながら浮遊して近づいてくる。常識を逸脱した光景に俺は驚きのあまりしりもちをついてしまった。人が空を浮いている。神様とか仙人の類か!?

 

「神奈子様っ! 外の世界の人間相手に宇宙人呼ばわりは失礼ですよっ!」

 

 今の空飛ぶ女性は「八坂神奈子」といってこの神社の神様なのだという。風貌はそれっぽいが、断じて早苗のお母さんではない。

 

 妖怪に神様に結界で守られた幻想郷……。頭がおかしくなりそうだが、ここ幻想郷では今までの常識はあまり役に立たないのだろう。俺は少し激しく頭を振った。

 

 早苗さんが外の世界で空中に向かって話しかけていたことの正体もわかった。信仰の力を失いかけて姿の消えていた神奈子様と話していたのだ。神様は信仰の力を失うとその存在を維持できないものらしく、外の世界で信仰を得られなくなったために幻想郷への引っ越しを決意したのだという。

 

「というわけでアズマ君のことはある程度知っているのだよ。まさか早苗の友達までこっちにやって来るとはな。早苗、外来人を一人で放っておくことは出来ないな。彼の世話は任せよう。同じ年頃同士の方が親睦も深めやすいだろうしな」

 

 それだけ言うと何か含んだような笑みを浮かべつつ神奈子様は神社へと入っていった。

 

 不思議な世界の幻想郷、何故か実体化してでも大破してしまったビックバイパー、神様がすぐ傍にいる日常、そしてかつての友人であり、何やらそれ以上の関係になりそうな予感を孕むさな☆ポンこと東風谷早苗……。

 

 色々と考えること、やりたい事は数あれど、俺が下した答えは……。

 

「あの日の勝負の続きを!」

 

 でもどうやって? 幻想郷にゲームセンターなんてあるの?

 

「大丈夫、ここ幻想郷ではもっと熱い勝負があるんだもの! その名も『弾幕ごっこ』!」

 

 何か聞いたことない勝負が出てきたぞ? 弾幕ごっこがどんなものか聞いてみると、空を飛び弾幕でその力強さと美しさを競う勝負であるという。早苗さんがふわりと浮遊すると簡単に見せてくれた。

 

「おいおい、俺は飛べないぞ? ってか飛べたの、早苗?」

「大丈夫、何も生身で飛べだなんて言いません。あるじゃないですか、超時空戦闘機!」

 

 ビシと指さす先には銀色の翼が……大破してるじゃないか!

 

「無茶言うなよぉ。壊れちゃ飛行機も飛ばないよ」

「な・ら・ばー」

 

 ガシっと俺の腕を掴むと地面を強く蹴りつけ、飛翔し始めた。わわわっ……!

 

「修理してもらうまでですっ! 河童のエンジニアならきっとやってくれるはず。ここに連れてきましょう!」

 

 河童のエンジニアだって!? 俺はこの幻想郷で正気を保っていられるのだろうか、何か心配になってきた。そんな葛藤など露知らず、早苗に手を引かれた俺はそのままぐいぐいと一緒に空を舞うことになってしまった。やりたいことも多い、謎も多い。でも今一番大切なのは落っこちないことだ。ヒェ~怖い!

 

 

 

 

 

 かくして俺はこの幻想郷という不思議な地で銀翼「ビックバイパー」を駆り、相棒である早苗さんと共に様々な異変を解決していくことになるのだが、それはもう少し先の話になる。

 

 そして歯車は回り始めたのだ。銀翼と風祝の数奇な運命がここから始まる……




ここでは初めての投稿となりますが、いかがでしたか?
大元となった小説のスピンオフという扱いの為に、この話の続きは用意しておりませんが、後日大元となったほうの小説もここで公開するかもしれません。

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