俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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変更点は
・神様転生ではない。
・パクリ臭かった主人公の名前の変更。
・数話を統合して文の増量。
などです。


0.壊始

「悪い、今からお前の人生台無しにする」

 

 

 

それだけを口にして高町の顔は見なかった。

 

 

見てしまえば迷ってしまうだろうから。

 

 

 

0.壊始

 

 

 

俺、七峰紅助は前世の記憶を持っている。

 

 

 

いや、前世と呼ぶには少し違いがある。

 

 

 

俺は七峰紅助として死に七峰紅助として生まれ直した存在である。というのが正しい。

 

 

 

その過程で記憶が持ち越されたと言うべきだろう。

これから話すことは俺の主観ではあるが時間が巻き戻されたとしか考えられなかった話だ。

 

 

 

二十歳の誕生日。建設中のビル付近で空見上げると鉄骨が落ちてくるところだった。

 

 

 

それが俺の最後に見た光景。

 

 

 

気が付けばやけに若々しい母さんに抱かれていた。

 

 

勿論混乱した。

しかし体は上手く動かないし思考だって上手く纏まらない。

なのに記憶だけはしっかりと残っていた。

 

誕生日にもらったプレゼントだって言えた。

 

母からはアクセサリー、友人からは変な玩具、近所の子供からは綺麗な石、だとか。

 

勿論、俺が死ぬ間際であっただろうことも。しっかりとだ。

 

ぐちゃぐちゃとした意識の中、物心がつく以前に他界した父や祖母の顔を見るのが少し不思議な気分だったのを覚えている。

 

 

 

それから、この現象が夢や幻等ではなく確かな現実のものであると認められたのは一年もかからなかった。

 

 

 

知ったのは俺は時間の巻き戻しに巻き込まれたのではなく根本としてこの世界は俺が過ごしていた世界とは全く別の世界であるということ。

 

 

 

気が付いた理由は、母が魔法使いだったから。

 

 

 

………………ああ。

 

 

 

………………魔法使い、だったからだ。

 

 

 

頭がおかしくなったわけではない。いや、死んだと思ったら、という時点で頭がおかしいと思われるべき話ではあるのだが。

 

 

この世界での母は結婚する以前に魔導師と呼ばれる職に就いていたらしい。

 

この世界は次元世界と呼称される数多の世界を内包していて、とかいう話を幼い俺は聞かされたのだが。

 

 

 

なんというか………聞き覚えがあった。

 

 

 

魔法の補助器具として使用される【デバイス】だとか。

 

 

魔法技術の古代遺産【ロストロギア】だとか。

 

 

 

あの魔法少女の世界、だったようだ。

 

 

 

前の世界では専業主婦をしていた母が魔導師というだけど衝撃的だったがこの世界がアニメの世界だった事は本気で頭がおかしくなってしまったのかと疑った。

 

 

 

が、それも一人の少女との出会いでこの世界が【魔法少女リリカルなのは】の世界であると俺に認めざるをえなくした。

 

 

 

 

《高町なのは》

 

 

 

 

この世界の、主人公。

 

 

 

 

見つけてしまった。出会ってしまった。

 

 

普通の、どこにでもいるような子供たちと何ら変わりのない女の子だった。

寂しがりで、強がりで、小さな優しさ、そして勇気をもった、そんな女の子。

 

少なくとも空想上の人物と接しているなんて気分にはなれなかった。

 

彼女とは小さな出会いから始まって、やがて友達と呼べる関係になった。

 

たぶんこの子が俺にとって、この世界の 七峰紅助にとっての初めての友達という存在だった。

 

誰よりも彼女は積極的で、誰よりも彼女は近くにいて、誰よりも彼女は笑いかけてくれ泣いてくれた。

 

そんな彼女だったからこそ周りとは違う自分に負目のようなものを感じていた俺でも友達なんて思えたんだと思う。

 

 

別に周りや母が遠かったわけではない。

母さんは父さんが早くに亡くなったためか俺の事を人一倍気にかけてくれていたし期待だってしてくれた。

 

 

自分を継ぐ魔導師として。

 

 

だからか、前の世界の母と比べてしまった。

前の世界での母はどちらかといえば放任主義だったのだろう。

あれがしたいといえば「がんばってね」成功すれば「おめでとう」失敗すれば「おしかったね」と背中だけを押してくれた。

だから母が決めたレールを進むというのは不思議な感覚で、母との距離を掴みかねていたのだろう。

 

 

 

だから俺は高町に溺れていたのかもしれない。

 

 

 

向けられる喜びとか好意とか悲しみとかに安心を覚えていた。

 

こいつなら俺は俺として過ごしていいんだ、なんて心の何処かで思っていた。

 

 

そんなのは俺の勝手な考えのくせに。

 

 

そんな事にも気づけなかった俺は少しずつ高町を自分の一部にしていっていた。

 

 

 

そうして時間だけが過ぎていき、

 

 

 

物語が、始まった。

 

 

 

後にPT事件と呼ばれることになった高町に、そして俺にとっての始まりの事件。

 

正直のところ俺にはやる気が無かった。全く、これっぽっちも。

俺が介入せずとも高町だけで解決可能なことは物語の知識として知っていたから俺は必要無いだろう。そういう考えがあった。

とはいえ、力を持つ者は行動を起こさねばいけないようで、母の言葉、そして高町の存在もあり俺はこの事件に介入する事になった。

しかし物語の根本を崩すつもりは無かった。高町はこの物語の主人公。そしてテスタロッサの友達になるのも高町の役目。

そこに変わりなどなく。変わってはいけない。

そう思っていたのは恐怖からかも知れない。せっかく決まった未来が存在するのだそれを崩すのは先の見えない闇の中に放り込まれるようなものだから。

その時のことに後悔はしていない。それでよかったとすら思っている。

 

しかし実際に介入してみると見えてくるものが沢山あった。

 

テスタロッサが思っていた以上に無愛想だったり、ユーノが普通にいいやつだったり。

ただ俺はこの事件の最後には立ち会えなかったからテスタロッサの母親と出会う事はなかった。

どうせ会ったところで何が変わるというわけでも無いだろうが子を失った母と言うのはどういったものなのか少しだけ気になっていたから残念だった。

もし俺が死んだ世界が続いていれば母は何を思っているのだろう。そんな風に少しだけ考えた。

 

 

PT事件はそうやって終わりを告げた。

 

 

物語の変化も無く、俺という人間の変化もない。

 

ただ高町が頑張って一つの物語を終わらせた。

 

それだけの話だ。

 

 

 

その年の冬。もう一つの事件が起こった。

 

 

闇の書事件。それだ。

 

 

俺がその物語の始まりを知ったのは高町と共にヴィータに襲われた時だ。

俺はヴィータから高町を護ろうとして失敗した。実力不足だったのだろう。魔力を吸い取られ意識を失った。

魔導師見習いと歴戦の騎士を比べるのは馬鹿馬鹿しい話ではあるが悔しかったのは変わりない。ある意味俺が変われる可能性があった時だったのだから。

 

意識が戻る頃には事件は終息に向かっていた。自分の容態としては酷いものだったらしい。死ななかっただけ幸運だと医師からは励まされた。

夜天の書の管制人格、名前をリインフォースといっただろうか。彼女とは一度だけ顔を合わせた。

その時はまだ入院中で見舞い客としと現れた八神たちの中に彼女はいたのだが泣いて謝る八神に気を取られて話すことはできなかった。

だから退院した後に彼女の姿が消えている事に気が付き少しだけ悲しくなった。せめて一言でも話せれば良かったのだが。

 

こうして二度目の物語は終わりを告げた。

 

八神のような出会いや別れもなく、テスタロッサのように過去を乗り越えたわけでもない。

 

 

ただ物語の終わりがそこにあった。

 

 

それから数年、俺は高町の背中にすがるようにして生きてきた。

魔法関係で最も親しかったのが母を抜くと彼女だったからだ。

おそらくそれがテスタロッサや八神だったのならそっちのほうに俺はついて行っていただろう。

やりたいことなんてなかったしやるべきことなんてわからなかった。

ただ高町の傍にいて生ぬるい安心を感じてさえいられればそれでよかった。

 

 

 

そんな中、それが起こった。

 

 

 

普通の演習を行っていたはずだった。途中までは。

 

 

気が付けば高町が孤立していた。念話は通じない。魔力を感じることも出来ない。そういう状況下を想定した演習だった。

 

心臓の音がうるさい。 何か嫌な予感がした。

 

幸いヴィータは近くにいたので二人で別れて高町を探す事になった。

わけも聞かず手を貸してくれたヴィータに感謝をして高町を探した。

 

 

 

見つけたのは俺だった。

 

 

 

 

高町がおかしな形をした何かに襲われようとしている処を。

 

 

 

 

この時点ですでに俺は気が付いていた。

もっと早く気がつくべきことだった。

ヒントは確かにあったのだから。

 

丁度八年後に第三の物語が開始する。

 

高町から疲れたような様子が見られた。

 

雪の降る世界。

 

演習中の出来事。

 

 

 

 

《高町なのははこの日この場所で墜ちる》

 

 

 

 

高町がエースオブエースへと至るための階段の一段。

 

 

一瞬、自分が何をすべきなのか考えた。

 

 

ここで俺が割って入らなくても高町はまた立ち上がれるだろう。

 

わかってる。

 

俺が守りに入ったところで何が出来る。

 

 

わかってる。

 

 

俺が入ってしまうと高町の未来が変わってしまう。

 

 

 

わかってる。

 

 

 

わかってる。全て、わかっている。

 

 

 

今ここにいる俺も、考えていることも、意味なんてない。

元々俺は存在しない位置にいる人間だ。何もしなくたって高町は最後に笑って終わる事が出来る。

だから中途半端に生きてきた。何もしなくたって未来は決まっているのだから。

 

 

そうやって、

 

 

 

甘えてきた。

 

 

 

そうだ。俺は高町にそうやって甘えてきた。

 

 

 

だって俺が俺を肯定したら高町を否定する事になる。

 

 

この世界は作り物で存在するはずの無い世界なんだから。

 

 

 

でも、俺を肯定してくれるのは高町しかいない。

 

 

 

誰よりも近くにいて。誰よりもわかってくれたから。

 

 

 

情けなくて、何も出来なくて、何もすべきではなくて、

 

 

 

俺はいらない存在だ。

 

 

 

そんな事、わかっていた。

 

 

 

 

はず、なのにッ。

 

 

 

 

身体中を巡る魔力が唸りを上げた。

 

 

 

何を、

 

 

 

無理な高速移動に体が軋む。

 

 

 

している?

 

 

 

相手の刃が振り上げられる。防げるか?無理だ。左腕を持って行かれた。

 

 

 

痛い。

 

 

 

右の拳を振るう。俺の左腕を切り取った刃が砕け散る。

 

 

 

止めておけばよかった。

 

 

 

もう一方の刃が右腕を切り取った。

 

 

 

ああ、ほら。

 

 

 

高町の声が聞こえた。だけど何を言ったのかわからなかった。

 

 

 

死にたくは、無い。

 

 

 

もう一度振るわれた刃を避け相手の懐に飛び込んだ。

 

 

 

また、負ける。

 

 

 

体で相手を押しやり高町から距離を取る。背中に刃が突き刺さされた。

 

 

 

高町はどんな顔をしているだろう。

 

 

 

雪の積もる地面に相手を押し付けた。切り取られた両腕とデバイスは近くに転がっていた。

 

 

 

 

「悪い、今からお前の人生台無しにする」

 

 

 

 

高町に聞こえていたかは分からない。だけど口にして満足はした。

 

体内にため込んでいた魔力を活性化させる。

 

俺の背中に刺した刃を振るおうとして地面でもがく相手を見て口元が緩む。

逃がすつもりはない。押さえ付けるための魔力を強めて俺は笑った。

 

 

 

 

「俺と一緒に逝けよ」

 

 

 

 

《FinalExplosion》

 

 

 

 

全ての魔力を解き放った瞬間、世界が朱く染まった。

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたのは病院の一室で。

 

最初に思ったことは《生きていたのか》。そんなこと。

 

身体の節々は痛むし頭はクラクラする。それにリンカーコアは魔力の枯渇でズキズキと痛んだ。

 

 

だけど、それだけで済んだ。

 

 

ただ生きている事が嬉しい。

本当だったらあの時点で全魔力を放出して相手ごと死んでやるつもりだった。

運が良かった、とはまた違うのだろう。おそらく最後の最後で魔力の放出を止めたのだろう。

無意識下とはいえ自分のヘタレさにはため息が出る。

 

その次に頭に浮かんだのは高町の安否だ。

俺が相手を倒し切れていなかったら高町にも何かがあった場合がある。

 

近くにあったナースコールを見て手をのばそうとした。

 

 

そして、気が付いた。

 

 

いや、既に気が付いていたのだろう。

 

 

気が付かない振りを止めた。

 

 

再確認するように思う。

 

 

 

【両腕が無いんだった】と。

 

 

 

おそらくあったはずの両腕は俺の魔法に巻き込まれてデバイスごと塵屑にでもなったのだろう。

デバイスが体から離れていたため非殺傷にする事まで気が回らなかったのが原因だ。

勿論切り落とされた時点で覚悟はしていたが落ち着いてみるとおかしな感覚だ。

 

そこにあったはずのものがそこにない。

 

動かす感覚だって頭に残っているのに動かすべきそれがない。

 

夢を見ている感覚に近い。

 

目の前の状況が信じられない。

 

 

ぼんやりとした感覚の中で確かにそんな思いはあったが不思議と後悔だけは無かった。

 

 

あの時になにかが切れてしまったのだろう少しだけ清々しくすら感じた。

今思えば高町に何かをしてあげたのは初めてな気がする。

今までは何もせずただ受け止めるだけで生きてきた。

それでいい。それが一番なんて考えて高町に甘えてきた。

それじゃあ駄目だということはわかっていただろうに。

 

それを無視し続けてきた結果がこれだったのだろう。

 

気が付いてしまった。

 

 

俺が本当にしたかったこと。

 

 

物語通りに進めたかったわけじゃない。

 

 

高町に笑っていてほしかったわけでもない。

 

 

俺が俺であっていいと認めてほしかった。

 

 

そして認めたかった。

 

 

この世界の中心である《高町なのは》に、

 

 

そしてこの世界のどこにもいない《七峰紅助》が、

 

 

この世界にいていいんだと、生まれてきてよかったのだと、

 

 

だからだろう、何もしないくせに高町に近づいた。

 

 

だけど何もしないなら認められるはずもない。

 

 

そんな当たり前のことに気が付くのにこんなにも時間がかかった。

 

 

だけど気が付けて良かった。

 

 

気づかぬ内に笑みを浮かべていると病室の扉が開かれた。

 

何かを落としたのか床を叩く軽い音が響く。

 

その音につられて扉を見て思った。

 

 

助けられたのか。よかった、と。

 

 

 

 

高町なのはがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺は次々とやってくる見舞い客の対応をしていた。

高町も俺の隣でそれにつきあっている。

 

あの時、俺を見た高町は涙を流した。

 

彼女の涙を見るのは久し振りで思わず苦笑を浮かべた俺に対し高町はゆっくりと口を開いた。

 

 

「お話がしたい」

 

 

そう言った高町を俺は止めた。

 

待ってほしい、と。

目を覚ましたばかりだから状況が知りたい。落ち着かせてほしい。

 

 

そう言って、逃げた。

 

 

高町と話す勇気がまだなかった。

 

 

それは彼女が喋る事は正しいだろうから。

それなりに長い付き合いだからわかる。

高町は俺に謝るだろう。

自分のせいでと言って。

そうだ俺が腕を無くしたのは高町のせいだ。

高町じゃなかったらこんなことにはならなかっただろうししようとも思わなかっただろう。

 

 

高町だったから、守りたいと思った。

 

 

だからこそ謝られたくはない。

自分の行動を否定されたく無かった。

 

やはり高町はあまり良い顔はしなかったが納得だけはしたのか小さく頷いてそれ以上は何も言わなかった。

 

それからは医師の話を聞いて高町の連絡によって次々と現れた見舞い客の対応となった。

 

一番最初に訪れたのはヴィータだった。

 

「よう」

 

病室の扉から顔を出したヴィータに軽く声をかける。

八神やシグナムの姿は無い。珍しく一人のようだ。

部屋に入ってきたヴィータは気まずそうに目線をさまよわせる。何を言えば良いかわからないというのが顔を見ればすぐにわかる。

ある程度目線をさまよわせた後、一点で止まった。

 

 

俺の腕だ。

 

 

「そ、その……腕、は」

 

「ん、ああ、襲われた時にやられた」

 

出来る限り軽く言ってはみたがヴィータは顔をしかめて俯いてしまった。

 

「治らない、のか?」

 

絞り出したような声に苦笑を漏らしながら俺は首を縦に振った。

 

医師の話によれば確かに数年前からクローニングの技術は高まってきてはいるがそれも完璧なものではない、と。

多くの費用が必要だしそれが成功する可能性も低い。必ずしもクローニングしたものが患者の身体に合うものとは限らないという話しだ。

少なくとも俺のようにまだ若い子供が受けられるものでは無いと聞いた。

 

俺の一言一言にヴィータの様子は沈んでいった。

余所から見ればどちらが患者なのかわからないのではないだろうか。

 

沈黙を数秒、重々しい空気が溜まっていくのがわかる。

 

すると突然ヴィータが頭を下げた。

 

「ごめんッ」

 

いきなりの行動に目を丸くする俺にヴィータは続けた。

 

「もう少し、早く気が付けばッ」

 

自分が、ということなんだろう。

もう、ため息が漏れそうだ。

このお人好しは自分がそちら側だったらと言いたいのだろう。

 

 

 

馬鹿にしやがって。

 

 

 

頭の中に溜まりだした怒りを押さえつけて顔に笑みを貼り付けた。

 

「謝ってもらわなくていい」

 

「え?」

 

「俺が弱かったからこうなっただけだろ?それに母さんから魔導師がどれだけ危険なものなのかは何度も聞いていたから、覚悟はしてたよ」

 

「でも」

 

「でもとか、聞きたくない。お前はお前なりに出来ることをしてくれたんだから俺はそれで満足。謝られる事なんか無い」

 

「………………」

 

「それでもまだ恩を売りたいならまた今度頼むよ。生憎とこんな身体になってしまったんで恩は相当安いからさ」

 

俺の言葉にまたヴィータは沈黙し少しの間を置いて小さく頷いた。

お世辞にも納得したとは言えない表情ではあるが少し前よりはましになった。

 

「またくる」

 

それからヴィータはそれだけを言って病室から出て行った。

次に来るときは明るい顔が見たい。そんな事を少しだけ思った。

 

ヴィータの次に現れたのはテスタロッサ。フェイト・テスタロッサだった。

 

余程急いできたのだろう息を乱している彼女に少しだけ驚いた。

 

 

心配されているんだ。そんなことを。

 

 

テスタロッサとは友人ではあるがただそれだけだっ思っていた。

彼女に対する高町や八神のように大きな何かがあったわけでもなく高町のおまけのように友人になった俺達だから周りも気にせずこんなにも心配してくれるなんて思わなかった。

 

「だ、大丈夫か?」

 

荒く息をつくテスタロッサに声をかけると彼女はゆっくりと顔をあげた。

 

テスタロッサの瞳が俺を見た。

 

一瞬、腕を見たところで目が細められた。

やっぱり、なんて黒い気持ちが湧いてくる。

そんな俺に対してテスタロッサは一度目を閉じる。

 

そして笑った。

 

「思ったより元気そうだね」

 

「え?」

 

「重傷って聞いたから心配したんだよ?」

 

「わ、悪い」

 

「謝る位なら心配させないでほしい、かな」

 

「え、あ……うん」

 

思っていたより軽い。テスタロッサのその様子に思わず面食らった。

 

少し考えてみれば気を使われている事に気が付いた。

 

確かに辛い顔や泣き顔より笑顔を見ていた方が良いにきまっている。

テスタロッサを見る。

 

相変わらず彼女は笑っていて思わず俺の頬も緩んだ。

 

「えっとさ、テスタロッサ」

 

「うん?」

 

「なんかさ。えっと、その……ありがと」

 

「…………うん!」

 

小憎たらしく笑うテスタロッサから目線をはずし顔を隠した。

頬の緩みが止まらない。おそらく今の俺は酷く間抜けな顔をしているのだろう。

そんな表情を見せるわけにもいかず不思議そうにこちらを見てくる高町とテスタロッサから顔を背ける。

テスタロッサにしろ高町にしろなんでこうも他人を気遣えるのだろうか。

俺は誰かのために笑ったり泣いたりなんてしてやれないだろう。

だから俺はこの二人やその周りにいる人達のことが理解出来ない。

 

ずっとわかってみたいと思っていた。思ってはいた。

 

それから高町とテスタロッサ、そして俺の三人で他愛の無い事を話して時間を潰した。

腕が無い事なんて忘れていたし胸の奥も少しだけ軽くなった気がする。

 

 

「フェイトちゃんは強いね」

 

 

テスタロッサが帰った後、高町がぽつりと呟いた。

 

 

「私は今のコウ君を見て涙しか出なかったのに、フェイトちゃんは笑えるんだもん」

 

 

自嘲するように笑って高町は俯く。

 

 

「少しだけ、悔しいな」

 

 

俺は何も言えなかった。

 

 

それから、八神やユーノ達が来てそれぞれ見舞いをしていったが高町の表情は優れる事はなかった。

 

そして次に見舞いに来たのは俺と高町の両親だった。

 

最初に頭の中を埋めたのは恐怖だ。

母さんは今の俺を見たら何を思うのだろう。そんな事を母と目があった瞬間、考えた。

 

 

母さんは俺を見ると目を見開いた。

 

 

瞳には涙が溜まっているのが見える。

母の涙を見るのは多分初めてだ。

父が亡くなった時も涙を流さなかった母さんが今泣いている。

驚きに体が動かなくなってしまった俺を母が抱きしめる。

 

 

「馬鹿ッ」

 

 

母さんのかすれた声に言葉が詰まった。

 

 

「こんな身体になってっ。腕がっ……無いん、だよ?」

 

 

抱きしめる力は強く俺がどれだけ心配をかけていたのかが少しだけわかった。

 

 

「でもっ、ね」

 

 

嗚咽の混じり始めた声に体の奥の何かが震えた。

腕があったら抱きかえせるのに。

 

そんなことまで考えて、

 

 

 

「無事で、本当に無事で・・・・・・良かった」

 

 

 

涙が出た。

 

 

 

 

 

高町の両親、士郎さんと桃子さんの二人からは頭を下げて謝罪された。

俺は別にそんなのを見たくて高町を助けた訳では無いのに。

ただ、最後に二人は「ありがとう」と言ってくれた。

それだけは嬉しくて、少しだけ救われたような気がした。

 

士郎さんと桃子さんが病室から去った後、俺と高町しかいなくなった病室に静寂が流れた。

 

ゆっくりと高町が立ち上がる。

 

そろそろだとは思っていたけど俺の目の前にたった高町を見て、少しだけ決心が揺らいだ。

 

いつから泣いていたのだろうか。涙で顔をぬらした高町が俺を見つめている。

 

 

「お話がっ、したい。コウ君と、お話がしたいっ」

 

 

ぽたぽたと涙をこぼしながら高町が言葉を口にした。

搾り出すような声に胸が震える。

俺はこいつにこんな声を出させているのか、なんて。

あの高町なのはにこんな声を出させているのか。

 

弱く今にも潰れそうなその声に胸が震えた。

 

こんなになっても高町は高町で、俺なんかと分かり合おうとしている。

 

「……わかった」

 

負けを認めるように俺は頷いた。

俺がいくら変わろうと高町は変わらないのだろう。

俺より綺麗で、強く、大きい。彼女はそういう存在だ。

 

「それで、何を話す」

 

息を吐いて心を落ち着かせた。

せめて冷静でいないと今のこいつとは話せないだろうから。

 

「なんで、あんなことしたの…?」

 

そこからか、と俺は天井を見上げる。考えるふりだ、実際はそんなにたいしたことを考えてはいない。

 

「別に、理由なんてなかった。と思う」

 

「え?」

 

切れの悪い答えに高町は声をあげた。

 

「本当に理由なんてなかったと思うよ。気がついたら飛び出してた」

 

「そ、そんな理由でっ私、納得出来ないっ!」

 

だろうと思うよ。

思わず苦笑が漏れた。

腕があったら俺は今すぐ腕を組んで首を傾げていただろう。自分でだってよくわかっていない事だ。

確かに俺は高町に認めてほしかった。

でも、両腕を失ってでもか?

たぶんそんなことは無い。死ぬのは恐いし、痛いのは嫌いだ。

だけど飛び出したのはそれ以上の何かが俺の胸の中で芽生えたせいなのだろう。

 

しかしそんな形の無い答えを言ったとしても高町は納得できないだろう。

だから仕方なしと俺は口を開いた。

 

 

「じゃあ一つ目、お前が心配だったから」

 

「心配………?」

 

「最近お前の体調が優れてなかった。疲れも溜まってきていた」

 

「そんなっ」

 

「ことあるよな?」

 

俺の言葉に高町は口を閉じて俯く。

 

「言っても聞かないと思ったから言わなかったけどさ、無理してただろ、お前?」

 

びくりと震えた高町の肩を見てため息が零れる。

こいつは隠し事が下手だ。

 

「魔法はお前にとって大きなものだと思うよ。だけど好きな事ばかりやってても上手くは回らないだろ?今の俺みたいにさ」

 

「…………私は、そんな」

 

「それじゃ、二つ目」

 

「ま、待って!」

 

待たない。そう高町を無視して話を進めた。

 

「たぶん後ろめたい気持ちからだよ」

 

「え?」

 

首を傾げた高町に笑みを向ける。

たぶんこれは今俺にも分かる確かな本心だ。

 

「ずっとお前に頼って、何もしてこなかったから」

 

「私、に?」

 

何を言っているんだろう。高町はそんな表情を俺に向けた。

 

「出合った時からそうだったと思う。その時から周りにいるやつらに嘘ついてたからさ」

 

「嘘……?私、にも?」

 

「お前は、俺のことなんて何も聞いてこなかっただろ?」

 

だから楽だった。

 

「お前が魔法を知ってからもそう。高町は何でもしようとするから俺はついていくだけで楽だったよ。ジュエルシードだってフェイトとの和解だって同じで全部お前に任せた。俺が面倒臭がりだって高町なら良く知ってるだろ?だから《高町に付いていけば損はしない》なんて考えてたんだよ。多分闇の書の時もそう俺がもし倒れ無かったとしてもお前の言葉にただ頷いていただけだと思う」

 

へらへらと笑う俺に対して高町は何かに耐えるように小さく体を震わせていた。

高町が何を考えているかは分からない。

 

だから、こんなことになってしまったのだろう。

 

 

 

「俺は、お前がいないと何も出来ない人間だ」

 

 

 

「違うッ!!!」

 

 

 

爆ぜるような声で高町が叫んだ。

 

 

「違うよ!違うもん!!コウ君はそんな人間じゃないっ!!」

 

 

「そのコウ君が言った言葉なんだけどな」

 

 

涙を振りまきながら首を振るう高町はこれでもかってくらい大きく口を開いて叫んだ。

 

 

「頼っていたのは私だッ!!!」

 

 

次に驚くのは俺の番だった。

頼っていたのは高町のほう?意味がわからない。

 

 

「小さい頃、隣にいてくれたのはコウ君だったよ!フェイトちゃんと友達になった時、背中を押してくれたのはコウ君だったよ!ヴィータちゃんと出合った時、護ってくれたのはコウ君だったよ!魔法のことを皆に話す時、手伝ってくれたのはコウ君だったよ!」

 

 

何を言っているのか分からない。

俺が隣にいたから、何が変わった?

俺はいただけだろ、何になった?

 

 

 

「勇気を、折れない心を、進むべき道を、コウ君はいつだってくれたよ!!」

 

 

 

なんだろう、それは。

勇気はいつだって俺に無いもので折れない心はいつだって欲したものだ。

 

進むべき道なんて見えたことが無い。

 

 

「ずっとコウ君に何かしてあげたいって思ってた!私みたいに寂しい時に!悩んだ時に!苦しい時に!不安な時に!コウ君みたいに隣にいて、助けてあげて、一言で背中を押してあげたかった!」

 

 

両腕を広げ高町は叫んだ。

 

 

「だってそうでしょうッ?私はコウ君にそれだけの物を貰ったんだから!!私はコウ君に恩返しをしなきゃいけない!じゃないと隣に立てないんだもん!私がコウ君の対等になれないんだもん!!」

 

 

追いかけていたのは俺のはずだ。

 

背中を見ていたのは俺のはずだ。

 

何が、何を、言っている?

 

 

「なのに、なのにこんなのってないよ!どうすればいいの!私の腕がコウ君のものになるなら今すぐ切り落としてもいい!コウ君が自分の両腕をそんな風にした犯人が許せないって言うなら探し出して同じように両腕を切り落としてやりたい!だけど、コウ君が言いたいのはそういうのじゃないってわかってる!コウ君なら笑って許してくれるてわかってる!」

 

 

だけどねッ!!

 

 

 

「今コウ君に笑って許されたら、私が私じゃなくなっちゃうの!私は私を許せなくなるしコウ君から離れられなくなるの!私はコウ君の隣にいられる私でいたい!コウ君の隣に立てるのは高町なのはだって誇りたい!!」

 

 

「でも私はどうすればいいの?どうすればよかったの?もう何をすればいいのか、何を伝えればいいのかわからないの、ねぇコウ君っ」

 

 

高町の体が崩れ落ちる。

 

 

 

「わからないよっ。私、もう何もわからないよぉ……コウ、君」

 

 

 

虚しく床を掻く高町の指を見てふと友人の言葉を思い出した。

 

《世界いつだってこんなはずじゃないことばかりだ》

 

俺はそんな現実に立ち向かえないかもしれない。

 

 

俺だって何もわかっちゃいないのだから。

 

 

 

俺は彼女を壊したようだ。

 

 

 

 

 

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