俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

11 / 39
10.約束

 

 

 

心地の良い浮遊感が失われることで俺は目を覚ました。

 

 

靄のかかる視界の中、辺りを見渡した。

どうやら筒型のガラスケースの中に俺はいるらしい。

その中には先程まで液体で満たされていたようで端々にゲル上の液体が見れた。

 

 

「目覚めたかな、少年」

 

 

声をかけられ振り向く。

口が三日月状に伸びる。

 

 

「おはよう、先生」

 

 

「ああ、おはよう」

 

 

声をかけてきた男性が目を細めて笑った。

 

セルジオ・ピニンファリーナ。

 

いや、元セルジオ・ピニンファリーナ。

 

今はジェイル・スカリエッティと呼ぶのが正しいだろう。

 

「とても落ち着いているようだ。それに私がどのような存在なのかもわかっているようだ。何故君がこのような場所にいるのかは覚えているかね?」

 

「覚えてる。お前の息子とやらに拉致られた。それにお前の存在なんて大体想像できる」

 

「ふむ、どのような?」

 

「興味の為なら勝手に人のクローンを作ってしまうような大犯罪者」

 

「ふふ。ああ、それで正しいだろう。しかし全てわかっていて今の態度なのだとしたら君は私が想像していたより図太いのだな」

 

「諦めるのが得意なだけだ」

 

「それはそれで面白い」

 

「…それより俺はまだ生きているのか?」

 

「ああ、生きている。もっとも死んでいたら今私と話していることは無いがね」

 

「私は霊魂など信じていない」なんて肩をすくめるスカリエッティ。

 

「そんな事より身体の調子はどうかな?」

聞かれて体を見た。

ボロボロにされた傷は完全に治っている。

貫かれた腹も塞がっている。

そしてなにより、

 

 

 

無くなった両腕があった。

 

 

 

「身体の調子はすこぶる良いが気分は最悪だ。とりあえず俺の身体になにをした?」

 

睨む俺にスカリエッティは笑う。

 

「なに、新しい腕や臓器を付け替えてしっかり調整しただけだ」

 

「調整?」

 

スカリエッティが楽しそうにケタケタと笑う。

セレジオを名乗っていた時よりも元気でなによりだ。

 

 

 

「ここに運ばれてきた君は死んでいると変わらなかったからね。生き返らせる為に色々と手を尽くしたのさ」

 

 

「体に変わりは?」

 

 

「ほぼ無いだろうね。君の体はただの人間と変わり無い。以前との違いが出るとしても時が経った後だ、それは成長と呼べるだろうね」

 

 

彼の言葉に俺はあまり驚きを感じなかった。

スカリエッティを見た瞬間に予想はしていた。

良くて体を戦闘機人に改造、レリックウェポンの実験体など。

まあ、そのくらいは覚悟していたが。

 

真っ当な人間の体に復元されるとは。

 

少しだけ、拍子抜けだ。

 

 

「ふむ、その反応を見ると大体は予想していたようだね?」

 

 

「俺のクローンなんか作る奴なんだろ?なにがあったておかしくない」

 

「それはそうだ」

 

どうも俺の言葉が琴線にふれたらしくスカリエッティが大声で笑う。

なにが面白いのだろうか。

 

「俺はてっきりもっと酷い体にされると思ったんだがな」

 

 

「確かに。私にはそう出来るだけの技術はある。それにそうしようとも思ったのだがね」

 

「じゃあ何でしなかった?」

 

投げかけた問いにスカリエッティはため息を吐く。

 

 

「我が息子、レッドが止めたのだよ」

 

 

アイツが?

腹を貫かれた感覚を思い出して腹をさする。

二度は経験したくない感覚だ。

 

「君は人間でないといけない、と彼は言っていたよ。君は絶対に此方の味方につくことはない必ず敵対する。その時に相対するのは自分だともね。どうやら息子は純粋な人間である君と異常種である自分、どちらが上位種なのかを確かめたいようだ」

 

意味が分からない。

展開がバトル漫画すぎて頭がついて行ってない。

 

「というか異常種ってなんだ?アイツも身体は人間だろ?」

 

「ふむ、それは間違えだ。息子の身体には多少機械が埋め込まれている。勿論私が施した。戦闘能力の向上の為にね」

 

 

少し驚いた。

アイツはそんな反則をしていたのか。

どおりで強いわけだ。

おそらく戦闘機人かスカリエッティの多少という言葉から戦闘機人擬きと言ったところか。

ま、今じゃ俺も人造人間擬きだが。

 

「で、お前は俺に何をさせたいんだよ。まさかお前の息子と潰し合えってわけじゃないだろ?」

 

「それもいいのかもしれない」

 

「はあ?」

 

馬鹿なことを呟いたスカリエッティに思わず顔を覗き込んだ。

表情はえらく真面目だ。

 

「私には君や息子が何を考えているのかかが想像できない」

 

「他人だからな」

 

「他人だからこそわかることがあるだろう?それがわからない。君と息子が殺し合い、生き残った片割れは何を思うのだろうね?自らが七峰紅助として上位種だと確信し何を思うのだろう?」

 

ニィとスカリエッティの口角がつり上がる。

 

「私は知りたい。知りたいのだ」

 

なにを?

 

「全てを」

 

だから?

 

「君には私の敵となってもらおう」

 

そして?

 

「君を私が打ち砕こう。正面から堂々と私らしいやり方で。その時息子は何を思うのだろう?そして私は何を思うのだろう?」

 

笑う、スカリエッティは笑う。

遠く、近い未来を想像し。

 

 

 

スカリエッティは笑う。

 

 

 

「私の敵になってくれるかね?」

 

 

 

「元よりそのつもりだ」

 

 

 

この時俺達の関係は決定した。

 

 

 

 

 

 

ガラスケースから出された俺は所持品を確認する。

 

とは言っても財布や携帯電話すら持っていなかった俺はどうやら無事だったらしいデバイスを首にかける。

 

「勝手に改造なんてしてないだろうな」

 

「さあ、どうだろうか?」

 

おどけてみせるスカリエッティに舌を打つ。

改造しやがったな。

 

「君にとって不利になることはしていないさ」

 

「信じたことにしといてやる」

 

「それはありがたい」

 

あらかたの物を身に着けて気がついた。

デバイスのチェーンに足りないものがある。

 

「指輪は?」

 

「うん?」

 

指輪が無い。

 

「このチェーンにかかっていた指輪は!」

 

思わず大声を出す俺にスカリエッティは不思議そうにこちらを見る。

 

「そのチェーンは私が用意したものだが。息子の話では先の戦闘で千切れたと聞いたが」

 

「指輪があったんだよ!!」

 

「しかし、ここには無いね。恐らく君が息子と接触した場所でなくしたのだろう」

 

そんな言葉に思わず唇をかむ。

大切にするって言ったくせに。すぐ無くしてしまった。

 

「準備はできたかね?」

 

「っ、ああ」

 

苛立ちを胸にためつつもどうしようもないことはわかっている。

だから素直に頷いてスカリエッティの声に耳を傾けた。

 

「ではそこのポーターに乗りたまえ。君の世界に繋がっている」

 

地球、ね。

 

「俺の世界に送るのは良いけど勝手にその世界を襲うなよ?俺はミッドに移るつもりだから」

 

スカリエッティが首を傾げる。

何故、と言いたいらしい。

 

「地球は魔法技術が確立されてないから、あまり巻き込みたくない。それにとミッドのほうがお互い暴れられる、だろ?」

 

「くく、それもそうだ」

 

「それじゃあ、俺は行く」

 

「では、また。次は戦場で、といったところか」

 

 

二人で笑う。

ゆっくりとポーターに乗り、飛ばされるような何ともいえない感覚を味わう。

 

思っていたよりスカリエッティとは気があった。

やはりお互い似ているところがあったのだろう。

 

 

欲望に忠実なところとかかな?

 

 

 

 

地球に戻った俺はなのはのもとに向かった。

場所を調べると俺の家にいる事が簡単にわかった。

母さんがいなかったことは運がよかったがサーチャーを飛ばしたのだ、あと五分もあれば気が付かれるだろう。

 

 

なのはは俺の部屋のベッドの上で眠っていた。

 

「よう」

 

かけた言葉にもちろん返事はない。

顔を覗き込むと瞳から出ている一筋の涙が見えた。

俺は彼女に酷いことをしたのだろう。

許してもらうつもりはない。

だから、謝らない。

 

「聞いてくれるだけでいい」

 

ゆっくりと告げる。

 

「俺は本当にお前から離れる。一緒にいたくないとかじゃなくて近くにいると今回みたいにお前を傷つけそうだから。だから少し遠くへ行く。何処へ行くかは内緒、探しても良いけど元気になったらな?俺はそこで自分なりに色々な事をしてみようと思う。次はちゃんと上手くいくようにがんばるから、お前も頑張れ」

 

言って、もう少し言いたいことがあるのに言葉に出来ないと頭を掻いた。

まあ、長引いて気付かれるよりましか。

 

「…………ん?」

 

ふとなのはの首にかかった指輪が見えた。

 

「二つ、ある?」

 

恐らく俺がなくしてしまったものだろう。

なのはが拾っていてくれたのか。

 

「……よかった」

 

心の底から安堵のため息が漏れた。

起こさないようにと優しくチェーンに手をかけ指輪を一つ手に取る。

 

「もう無くさない、絶対に」

 

そう口にしてデバイスがつながるチェーンに指輪をかけた。

 

 

 

「これで、俺とお前は繋がってるから」

 

 

 

そう少しかっこつけて踵を返した俺にその声は放たれた。

 

 

 

「コウ、君」

 

 

 

掠れたような声。だけど確かにそれは彼女の声だった。

振り向きそうになった体を止める。なのはが目を覚ましたのかはわからないけど、多分、彼女を見てしまえば俺は離れられなくなってしまうだろうから。

だから、ただ背中で彼女の声を受け止めた。

 

「私、がんばるから。いっぱい、いっぱいがんばるから」

 

 

泣きそうな声に俺は笑う。

 

 

 

「だからまた、また…」

 

 

 

「ああ、また」

 

 

 

俺は彼女と約束をしたようだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。