俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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タイトルの件ですが、

漢が紅助
英がなのは
かながティアナ

となっています。
その他は本編で主観になることは無いと思うのでそれだけ覚えていてくだされば良いです。



13.わたしのりゆう.わたしのこたえ

 

 

紅助さんを訪ねてきた女性は同姓の私が見ても思ってしまうくらいに美人だった。

 

 

まずは髪が凄く綺麗、光を弾く様に輝く金糸の髪は女だからこそ羨ましく、どんな手入れをしているのか問いただしたいくらい。

それに顔が小さく細い体とバランスがいい。その中でも赤く光る宝石のような瞳がどこか幻想的な雰囲気を醸し出している。

それに体は先ほど言ったように細いのだが出るところが出ていて隙の無いスタイル。ため息すら漏らしそうになる。

 

そして何より彼女自身から滲み出るような雰囲気。

儚げなそれは私でさえ守ってあげたいと思う。濡れる瞳は色気を、落ち着き無く動く手は愛らしさを、そしておずおずと口にしたコースケさんの名前には愛情がこもっている様な気がした。

 

 

だから、

 

 

彼の胸で泣く女性に、

 

私の知らない笑顔を彼に浮かべさせた女性に、

 

昔から彼を知っていた様子の女性に、

 

 

言葉にも出来ない、煮えたぎるような想いを抱いた。

 

 

こっそりと二人の様子をのぞいてしまったことに後悔する。

言いようがなくどうすれば治まるかもわからない胸の痛みにうずくまる。

 

 

「ティアナ?」

 

 

だから心配を含んだその声に救われた気がして勢いよく顔を上げた。

 

 

そして、

 

 

彼の後ろで微笑む女性を見て、

 

 

 

ずきり

 

 

 

胸が一際強く痛んだ。

 

 

 

 

 

「私はフェイト・T・ハラオウン。よろしくね」

 

「……ティアナ・ランスターです。ティアナでいいです。フェイト、さん」

 

無垢な笑顔で差し出した手がとられるのを見てこの人は本当に良い人なんだなぁと、ぼんやり思った。

 

どうもこのフェイトさんという女性、とても慌ててこの家を訪ねてきたらしく近くに頼れる家も泊まりのホテルも用意していないらしい。

だから紅助さんと話している内に暗くなった空を見て内心困惑していたとか。

まあ、自宅が管理外世界にあると言うとこんな時間になると転移施設もやっていないので困ってしまうのは当然か。

それなりに、本当にそれなりに察しのいい紅助さんがそんな彼女に気付かないはずもなく。

 

「時間、大丈夫? なんなら泊まっていく?」

 

なんて提案したそうだ。

今更だが紅助さんはホストにでもなったほうが稼げる気がしないでもない。

 

 

そして今夜だけこの家に泊まることになった彼女と私は何故か机を挟んで向かい合ったいた。

 

 

紅助さんはキッチンで夕飯の用意をしている。

本当だったら私も手伝いたいくらいなのだが私は兄がいた頃、何故か包丁だけは持たせてもらえず簡単な料理しか今でも作れないわけだ。

だからいつもは紅助さんに料理を習いながら夕飯の準備をしているのだが、お客さんを一人にするのは心苦しいと言うことでこんなことになってしまったというわけらしい。

 

「ティアナは、コースケの妹……でいいのかな?」

 

「えっと、はい。血は繋がってないですけど、養子としてはそんな感じです」

 

思わず「こーすけじゃなくてこうすけです」なんて文句を言いそうになる。

しかしそれが言いなれているようでフェイトさんはこれと言って問題ないという顔をしている。

ニコニコと笑うフェイトさんはキッチンに立っている紅助さんを見ていて、その眼差しには少しだけ熱がこもっていた。

 

また、胸がズキリと痛む。

 

だから、こんな言葉が零れたのだろう。

 

 

「フェイトさんは、紅助さんの……その、恋人、なんですか?」

 

 

言って後悔する。

知りたい、けど聞きたくない。

矛盾した気持ちが胸を蠢く。

 

この人が彼の恋人じゃ無かったら何だと言うのか。

 

恋人だったら、なんだと言うのか。

 

私に出来ることは祝福するくらいで……

最初にこの人を見た時も、今この時も、二人はお似合いに見える。

悲しいような、嬉しいような。私の前では彼はあまり笑わないから、フェイトさんが来て彼が笑ってくれたのは嬉しい。

納得できない気持ちが何故か心にはあった。

でも、この人ならという安心感もフェイトさんは持っていた。

 

 

だから、私の目の前で体中を真っ赤にした彼女を見て思わず首を傾げた。

 

 

「わ、私がコースケの恋人!?」

 

茹蛸のようになりながら慌てるフェイトさんにやはり可愛らしい人だと再認識する。

 

「違う、違うよ!? 私とコースケは友達であって……こ、恋人とかじゃっ!」

 

「……えっと、まだ付き合ってないってことですか?」

 

続く私の質問に「そ、そうじゃなくて」と泣きそうになりながらも否定する彼女。

 

「私はコースケの恋人じゃないし……その、付き合うつもりも、ないよ?」

 

「え?」

 

思わず呆然とした。

何故、と言う気持ちで心が埋まる。

私は元々兄と二人で暮らしていたからこの歳ながら多くの人と関わってきたつもりだ。

だから人を見る目はあると思うし。その人の仕草や表情で大体のことはわかる。

 

紅助さんと初めて会った時もどんな人物かは大体わかった。

 

寂しがり屋で優しい人。

 

そして実際そうだった。

 

だから目の前の彼女のこともわかる。

紅助さんとよく似た匂いがして、とても羨ましいと感じる。

私も、そんな風になりたいとも思う。

 

 

だから、彼女ならって、

 

 

思ったんだ。

 

 

 

 

 

 

私は兄の事を話す紅助さんが嫌いだ。

紅助さんは寂しがり屋だから兄の死を引き摺っているのはわかっていた。

でもそれは私の背負うもののはずだ。兄の事は私が背負うべきものなんだ。

 

だから紅助さんにはそれを引き摺ってほしくなかった。

 

でも紅助さんは優しく。それは誰にでもだし、なんにでも。

 

だから彼は流されやすい。

 

私の悲しみで彼も悲しんでいるんじゃないだろうか。ずっとそう思ってきた。

 

でも私にはどうすることも出来ないのはわかっている。

 

私が追うのは兄の夢でその背中だ。

それは変えられないから紅助さんを変えるのは私じゃ無理だ。

 

 

だからフェイトさんに、なんて気持ちもあった。

 

 

奥歯をかみ締める。

そんな私の姿をフェイトさんは見ていたのか気が付けば彼女は優しい微笑みを浮かべていた。

なんとなくわかる。この人は紅助さんと似た人だ。私のこの気持ちを軽くしようとしてくれる。

 

 

「私は、コースケの事が好きだったよ」

 

 

ほら、やっぱり。

 

 

「それは勿論、likeじゃなくてloveの方。コースケの隣で好きって囁いてもらえるだけでどれだけ幸せなんだろうって毎晩考えたしコースケに何をしてあげたら幸せになってくれるだろうっていっぱい考えた。だから何が好きなのか、どんな事をすると笑ってくれるのか、色々試してもみた」

 

思い出すように言う彼女の顔は少し悲しそう、そして寂しそう。

その顔がどんな表情より、どんな人の表情より美しく感じて私は息を呑んだ。

 

「そしたらね、コースケの考えている事がわかるようになった。今あれがしたい。あれが欲しい。そんな小さいことから何でも。もしかしたらそれは私の妄想かもしれない、愛した人の気持ちがわかったら嬉しいって言う馬鹿な」

 

 

だけどね、

 

 

「わかるようになったら、好きになるのをやめちゃった」

 

 

「なん、で?」

 

思わず疑問が零れる。そんな私に彼女は微笑んだ。

 

 

 

 

「コースケが見てるのはいつも私じゃないから」

 

 

 

 

微笑んで、泣きそうな顔をした。

 

 

「コースケには私じゃなかったのかな。それが辛くて、怖くて、逃げたんだよ」

 

臆病かな?と泣きそうな顔で言う彼女に私は言葉が出なかった。

私はその気持ちを知ってる。

コースケさんは私を通して兄を見ていると思っているから。

 

だから、それは、私の気持ちでもあって、でも、

 

「私が頑張れば、どうにかなったのかも知れない。でも、私が好きなのはそのコースケだったから……私が求めて、コースケが変わってしまうのが嫌だった」

 

変わってしまうのが、怖い?

私は紅助さんに兄を見て欲しくなくて、でも、それで彼は変わってしまうの?

 

「私はコースケの傍にいられるだけで、多分幸せなんだと思う」

 

フェイトさんは自分の胸に手を置き目を閉じる。

 

 

「だから、恋とか愛とか、ずっと考え続けた私の紅助は……」

 

 

それはまるで祈るようで、

 

 

「私だけの紅助は……」

 

 

それはまるで、

 

 

「心の奥に大切にしまっておくんだ」

 

 

 

恋する乙女のようだった。

 

 

 

 

 

 

その夜、私は何故か紅助さんと同じベッドで眠ることになった。

元々来客用として使っていたものを紅助さんが使っていたというのもあったし兄の部屋はまだ誰も使いたくないと言うのもあったから。

フェイトさんには私のベッドで我慢してもらい私は紅助さんと眠ることになった。

私の事を完全に子供扱いしている紅助さんに少しがっかりしつつもそれが紅助さんなんだって安心もする。

 

「歳は、そんなに離れてるわけじゃないのに」

 

小さく文句を言って紅助さんの寝顔を見つめる。

 

 

あの話を終えたフェイトさんを私はとても美しく感じた。

 

人として、女性として彼女は一つの終わりを迎えている。

 

だけどそれは悲しくて、私は彼女のようになりたくないとも思っている。

 

私は私が想う紅助さんへ気持ちが何なのかよくわからない。

 

それが恋なのか、

 

それが愛なのか、

 

わからない。

 

 

「もし、ティアナが私と同じ気持ちになった時。今話した私の気持ちは忘れてくれると嬉しいな」

 

 

そう、フェイトさんは言った。

 

 

「ティアナはティアナだから、私と同じ後悔はしないでね」

 

 

悲しそうに、寂しそうに、そう言った。

 

もしかしたら私の辿る道は彼女と同じなのかもしれない。

でも、後悔だけはしたくない。それは確かで、フェイトさんから託された思いでもある。

私も紅助さんがこんなにも近くにいるだけで嬉しい。

それは紅助さんを心の拠り所にしてこの形容しがたい気持ちから逃げているだけなんだろうか。

 

フェイトさんのように紅助さんの事を考えれば何かが掴めるのだろうか。

 

紅助さんの頬を撫でる。

 

もしもこの気持ちが恋や愛だとすれば、私はいつか後悔することになるかもしれない。

 

でも、私は私でたった一つの答えを探したい。

 

その答えが後悔だというのなら、私は、その先に、後悔の向こう側へ、

 

 

 

私は私の答えを探すようだ。

 

 

 

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