設定としては0.壊始で紅助が間に合わなかった。
紅助の好感度がフェイト>なのはだった。
といった感じになりました。
私は、コースケが私の事を好きでいて欲しいとは願わない。
確かにそれは想像するだけで幸せで、とても暖かい気持ちになれるけど、私は願うことはしない。
だって、
私が彼を好きなら、それだけでいい。
そう、だよね。
※
そう、思っていた。
だから私は、
「私は、コースケの事が好きだったんだ」
彼に、そんな事を口にした。
夕暮れ時の喫茶店。
紅茶の匂いが鼻をくすぐって、小さな笑みがこぼれた。
目の前の彼は私が何を言ったのか理解できなかったようで目を見開いて固まっている。
「言っておきながら、唐突……だよね?」
今日は偶々二人の休日が重なって、それじゃあ一日を二人で遊ぼうか、なんてことになっていた。
映画を見たり、洋服を選んでもらったり、小物を見て回ったり。
思い返すと本当に楽しい一日だった。
誘ってくれたのはコースケの方だ。
暇ならどうかな、って少し恥ずかしそうに言う彼が可愛くて私は大きく頷いた。
コースケと二人でいるのは楽しいし、小さい頃より二人でいる時間、と言うよりコースケと過ごせる時間が少なかったからこちらとしても大歓迎だった。
それにコースケは最近になってよく笑ってくれるようになったから。
ああ、そうか。
もう、十年も前になるんだ。
なのはが大怪我を負った事件から。
その時、その場所にコースケはいたらしい、なのはが堕ちるところをその目で見ていたようだ。
当時のコースケの様子は酷いという言葉では足りないくらいに荒れていて、私はそれを見ていることしか出来なかった。
届かなかった、彼が言った。
俺のせい、俺が悪い、ごめんなさい、彼の口から吐き出される言葉。
私は、彼を慰める事しか出来ない。
違うよ、コースケは悪くない、大丈夫だよ、一つ一つ彼の言葉を否定していくことしか出来なくて。
思わず抱きしめた彼の体は冷たく、それがただ怖かった。
このまま消えてしまいそうで、私の目の前から、無くなってしまいそうで。
そんなコースケに対してなのはは可笑しいくらいに強くなったんだと思う。
私は魔法が好きだから、そう言って彼女が笑う。
眩しいような、嬉しいような。
魔法を使えないかもって聞いて、怖いと言うより悔しい。
そう言う彼女に何故、と思った。
私は魔法が使えなくなるなんて怖い、どうしようもなく。
魔法は皆との繋がりで絆で、そして思い出だ。だからそれが無くなってしまうと、誰も私を見てくれなくなる。
今まで積み上げてきたもの、私に唯一あるもの、私がこれから得ていくはずのもの、全部がなくなってしまう。
でも、なのはは違った。
「確かに、魔法があったからフェイトちゃんに出会えた」
思い出すように紡がれる言葉。
「でも、魔法が無くても私はフェイトちゃんに声をかけるよ」
たった、それだけの理由。
なのはは強いな、素直にそう思った。
一緒にその言葉を聞いていたコースケも何かを思ったのだろう。
瞳に少しだけ光が戻っていた。
ずるい、羨ましい、そんな感情の中で「やっぱり勝てない」そんな気持ちも確かにあった。
私ではなのはに勝てない。
コースケは、私じゃ駄目か。
なんて。
その後のコースケは魔導師を辞めて地球のみで暮らすことになった。
「魔法じゃなくても出来ること、俺ももっと知りたいから」そう言った彼の笑顔は綺麗で、やっぱり好きだなって思った。
そして、その笑顔が、今目の前にあった。
だから私は、それを振り払うために、
「うん。私はコースケが好きだった」
そう、口にする。
「君の、笑顔が好きだった」
振り払って、前に進むために、なんだと思う。
「君の、優しさが好きだった」
いつまでも縛られ続けるわけにはいかなくて。
コースケにも悪いから、だからこういう形で私は彼をあきらめる。
「最初は、コースケの事を知りたいだけだった。私とコースケって最初は繋がりが薄かったから」
やっぱり避けられていたのかな、なんて思い出して笑う。
「甘いものが好きなのを知って、初めてクッキーを焼いてあげた時に言ってくれた、おいしかった、ありがとう。その言葉が何よりも嬉しかった」
今にして思えば、それが私の始めての魔法以外で誰かに何かを出来た思い出。
私にも、魔法以外で残るものがあった。
「私の作るお菓子が好きだって言ってくれると、胸が張り裂けそうになるくらい幸せになって、私って君の事が好きなんだなって気が付いた」
私はコースケを知りたかっただけだったのに。
好きになって、好きだから知りたくなった。
「実は、初恋なんだよ? でも、やっぱり初恋って叶わないのかな」
首を傾げくすりと笑う。
もしそれが真実だったら、少しだけ救われるけど、とても悲しいね。
「私がコースケを好きだった頃、コースケの考えてることなら大体はわかるようになった頃があったんだ」
何をしたい、何が欲しい、みたいなのは簡単に。
「でも、わからないこともいっぱいあったんだと思う。私は本物のコースケじゃないから」
やっぱりあれは私の妄想だったんだと思う。
好きで好きでしょうがなかった私の、妄想。
「コースケがね、他の誰かを見ているのが嫌だった。嫉妬、かな」
醜くて、悲しい気持ちだった。
こんな気持ちがあるなんて当時の私は知らなかったから、自分が嫌になりそうだった。
「でも、君の見ている人はいつも私も好きな人。そうじゃ無かったら良かったのに」
そうじゃなかったら、私はコースケを……なんて。
この考えも醜いか。別に過去に後悔を残しているわけじゃない。
世界に可能性があって、私が勝った未来があったらいいな、なんて欲望。
「もう一度言うけど、私はコースケが好きだったんだ」
誰よりもってわけじゃないけど。
「好きだった」
一緒になりたいって思う程度には。
「でも、これで諦める」
ただ知っていて欲しかった。
そんな私がいたことを。
「ごめんね」
それは誰に向けた言葉なのか。
胸が少し痛いけど、
涙は、流れない。
※
私の突然の話を聞いた彼は呆然としていた。
「本当にごめんね。いきなり、過ぎたよね」
大丈夫? そう尋ねる私をやっと彼は見た。
「は、ははっ……」
口から出されたのは乾いた笑い声。
やっぱり唐突過ぎたのかな? 引かれた、のかも。
が、不安になる私をよそに彼はばたりと机に項垂れた。
「そんな、ああ、うん」
ぼそぼそと呟かれる言葉の意味はわからない。
でもやっぱり迷惑だったのかななんて後ろ向きな思いばかりが浮かび上がってきて、いけない。
コースケに嫌な気持ちになってもらいたくて言ったわけじゃないのに。
私は今でもコースケの笑顔が好きだから。
恋じゃなく、愛じゃなく、ただ純粋に好き。
だから、こんな。
「…………あのさ」
ぼそり、コースケが呟いた。
「うん?」
思わず間の抜けた声で聞き返す。
彼は机に項垂れたまま言葉を吐いた。
「俺は、ふられたわけだ。フェイトは、俺のこと好きじゃないってっ」
「え、え?」
早口で捲くし立てるように言われる言葉に耳が付いていかず混乱する。
「でも今俺も言いたいことがあって、聞いてほしいことがあって、知ってほしいことがある」
次第に強くなる声に周りの人がこちらに目を向ける。
ばっ、と顔を上げた彼と視線が交差する。吸い込まれるように絡み合い、彼から目を離せなくなった。
先ほどとは違いゆっくりと開かれる口。伝えられる言葉。
「俺は、フェイトが好きだ」
「…………え?」
※
「それで、私に相談しに来たと?」
「…………うん」
なんとか絞りだした声に目の前の人物、高町なのははため息を吐いた。
コースケに、その……こ、告白されたのがすでに昨日のこと。
あの後、周りの視線に気が付いたコースケは顔を真っ赤にして逃げるように去っていった。
私はどうしていいかわからずただ呆然としていたところ、お店の店員さんに声をかけられ正気に戻った。
と言うか私とコースケが行く喫茶店なんて決まって翠屋なわけであって、声をかけてきた人は目の前にいる人物の父親だったりするわけで。
思い出すだけで、顔から火が噴き出しそうっ。
結局、それからコースケとは一度も顔を合わせる事が無く休暇が終わってしまって、私はミッドに帰ってきた。
それでどうしていいかわからずなのはに相談をした、というわけだ。
「顔を真っ赤にして突然なにかな、なんて思ったけど……そんなことかぁ」
はぁ、ともう一度なのはがため息を吐く。
「わ、私は、真剣にっ」
「だって、コウ君がフェイトちゃんのことを好きだったって、知ってたし」
「……え?」
知って、た?
「なっ、何で、どうして!?」
「え、いや……長い付き合いだし」
何かが崩れる音がする。
でも、じゃあ、私の考えてた、思っていた事って。
「フェイトちゃんはやっぱり気付いてなかったんだ」
「……コースケはなのはが好きだと思ってた」
「わ、私!?」
「……うん」
「た、確かに私はコウ君が好きかもって時はあったけど……今になってみると家族みたいなものだったし、親愛と言うか、お兄ちゃんみたいな」
「恋、じゃ無かったの?」
「……うーん。どうだろう?」
笑って首を傾げるなのはに思わず頬を膨らませる。
「真面目に応えてよっ」
「ごめんごめん。えっと、正直な所、よくわからない。私はコウ君の事は好きだったけどそれが恋とか愛だったのかは怪しいんだ」
「……なんで?」
「拠り所にしてたって言うのが大きいから、かな」
「拠り所?」
「うん。悪く言うと依存してた。私は小さい頃コウ君がいないと駄目な人間だって自分のことを思っていたんだ」
「……なのはが?」
「そう、私が」
想像、出来ない。
なのはは出会った頃から真っ直ぐだと思っていた。
強くて折れなくて、それが彼女で、だからこそコースケの隣にいられたんだと思っていた。
「少し昔話でもしようか」
そう言ってなのはが笑う。
「私はね、人より明るい性格をしているわけではないし人より頭が良い訳でもなければ人より運動が得意なわけでもなかった。人より、って言えるものが無かったんだ」
「そんなこと……」
「勿論今は違うよ。私は私だって胸を張って言える。でも昔の私は言えなかったんだ」
目を瞑るなのはが何を考えているはわからない。
懐かしんでいるのか、後悔しているのか。
「お父さんが怪我をしてね、私は小さかったから何も出来なくて。ううん、しても邪魔なだけだった。だから迷惑をかけないために何もしない、って言うのを覚えた」
「何もしない?」
「そう、何もしない。遊ぶことも、友達を作ることも」
なんでそんな、そう思った。
遊んでよかっただろうし、友達だって作ってよかったはずだ。
「なにも出来ないって言うのが子供ながら負い目だったんだろうね。家族が大変なのに私だけ楽するのは気が引けたんだ」
吐き出されるように言われた言葉に共感するものはあった。
母さんが、アリシアが、って私も考えた時があったから、かな。
でもなのははそれが可笑しいことのように笑っている。それが私にとっては不思議だった。
「そんな時にコウ君と出会ったんだ」
「コースケと」
「最初は煩わしくてコウ君を突っ撥ねてたけど、やっぱり誰かといるって言うのは楽しかったり嬉しかったりして……酔ってたんだ」
「酔う……?」
「うん、その頃の私にはコウ君しかいなかったから。コウ君から色々教えてもらったっけ、友達の作り方とか」
「聞いた事がある。お話をする、だよね?」
「うん、お話をすることが友達の始まり。あの頃はコウ君が私の世界の中心だったなぁ。コウ君といれば何だってわかったし嫌なことは無かったから」
「その気持ち、わかる。コースケの周りは心地良い」
「だよね。コウ君はよく自分が自分がって言ってるけど、結局のところ考えてるのは私達の事なんだ。だから、なのかな」
「うん?」
「私はさ、コウ君じゃなくてもよかったと思うんだ」
コースケじゃなくても?
少し寂しそうに笑うなのはが目に移る。
押せば倒れそうで、握ってしまえば折れそうで、そんな弱弱しい姿。
「本当はお母さんやお父さんにかまって欲しかったんだと思う。その代わりがコウ君だっただけで……」
「…………っ」
言葉が、出ない。
私もそうなのかもしれない。
母の代わりを、彼に求めていたのでは?
「フェイトちゃんは、コウ君のことって好き?」
「…………私は」
どう、なんだろう?
私は、本当にコースケが好き?
「じゃあ、コウ君の好きなところはある? 私で言えば私を見てくれるところ、とか」
コースケの好きな、ところ。
「……笑顔」
言葉は、自然と出た。
「優しい、ところ」
うん。
彼の笑顔は好きだ。
零れるような、自然と出た笑顔。
それを見ると何故か安心してこちらまで笑顔になってしまう。
優しいところも好き。
私が何かに負けそうなとき、何も言わずに傍にいてくれる。
彼は何もしてないって言うけれど、私は確かに助けられていた。
彼が、弱いところも好き。
脆くて、すぐ壊れそうになる。けれどそれを乗り越えてコースケはもっと綺麗になる。
だから背中を支えてあげたくて、傍にいてあげたくなってしまう。
それに、それに……
考えれば、考えるほどに、私が好きな彼は、
「いっぱい、あるでしょ?」
「……うん」
「好きじゃ、たりない?」
「うん」
好きじゃ、たりない。
色んな、色んなコースケが好きで。
思い出した。
これが、
恋。
甘くて、
苦くて、
心地良い、
そんな気持ち。
「コウ君も、そうだったんだよ」
「コースケ、も?」
「フェイトちゃんが好きで、好きじゃたりなくて。だから声にしたんじゃないかな?」
私が、好きって?
「フェイトちゃんがもしコウ君の気持ちがわかるなら、少しでも聞いてあげて。ちゃんと耳で、コウ君の声を」
「…………うん」
「好きで止まっちゃった私からの忠告、声にしなきゃ忘れちゃうから」
「うん」
声に、声にする、か。
今思えば、コースケへの恋を口にしたのは今回が初めて。
ずっと自分の胸の中に閉まっていた。怖かったのかも知れない。口に出して形にすることで壊れてしまうのが嫌だから。
でも、閉まっているうちにわからなくなって、なんで好きだったのかとか、なんで彼を選んだのかとか。
理由なんて、選べない。
好きで、
好きで、
いっぱい好きだから、
彼が、好き。
それが、本当の私の恋。
※
「聞きたいことが、あるの」
そう言った私にコースケはしっかりと頷いた。
静かな、夜。場所はミッドの家の近くにあった公園。
コースケがこっちに来てくれるって言ってくれたからそうなった。
そういう小さい優しさでも嬉しくなって彼を目にした時、自然と笑みが零れた。
「少し、寒いね」
少し離れた距離で向かい合う。
「ああ」
「小さい頃は寒さなんて気にならなかったけど、今じゃね」
「小さい頃と比べたら、そりゃあ」
「雪とか好きだったもん。触っても全然平気で」
「今じゃ触ろうとはあんまり思わないね」
「うん。昔はさ、コースケやなのは、はやてたちといっぱい遊んだね。雪合戦とか」
「必然的に男の俺が集中して狙われた」
「あはは、そうだっけ?」
「そうだった。まぁ、負けた覚えはないけど」
「ルールとか、決めてたかなぁ?」
「……どうだったか」
逃げるように視線を逸らすコースケを見て笑う。
小さい頃はまだ皆一緒が当たり前で、楽しかった思い出しかない。
数瞬の間、自然と視線が合って、口が勝手に動いた。
「コースケは私が好きなの?」
「……ああ、好きだ」
答えられた言葉は素直に嬉しかった。
少し恥ずかしくて胸が温かくなるような喜び。
「何で、好きなの? どんなところが好きなの?」
「…………」
そうだな、と考えるコースケに私はドキドキと胸を震わせていた。
別にわからない、とかそういう答えでもいい。コースケが出した答えなら、どんなものでも。
だから、困ったように苦笑した彼を見て、私は、
「嫌いなところが無いから、全部好き」
安心、したのだろうか。
やっぱり、彼の笑顔を見ると落ち着いて、勝手に頬が緩む。
「俺は、フェイトの優しいところとかいつも支えてくれるところ、芯が強いところ、少し抜けてるところ、全部好きだ」
彼の声を聞けることが嬉しくて、私のために答えてくれるのが嬉しくて、
「だから、フェイトが俺を好きじゃなくなってもそれはそれでいいんだ」
もっと、
「それが、俺の好きなフェイトだから」
もっと、欲しくなる。
「私は、コースケが好きだった」
「ああ」
「笑顔を見ると、安心するし、優しくされると嬉しくなる」
「俺もそうだ」
「でも、私は今まで君みたいなコースケを知らなかった」
知らなかったんだ。
だから、
こんなにドキドキして、
こんなに君の事を、
知りたい。
「そんなに、私が好きなの?」
「……うん、こんなにお前が好き」
「コースケを好きじゃない私でも、いいの?」
「それもフェイトだから」
「それじゃぁ……」
そんなコースケも
「好きに、なっちゃうよ」
ゆっくりと、コースケに近づく。
触れ合うほどの近さで、彼の暖かさを感じた。
「私の初恋はね。少し前の、コースケだった」
笑顔が素敵で、いつも優しくしてくれるコースケ。
「でも、今度の恋は、こんなコースケ、なんだ」
私を、好きって言ってくれたコースケ。
手を伸ばし、指が彼の頬を伝い掌が包み込んだ。
抱きかかえるように引き寄せて、
私と彼の境が無くなった。
こんなにも私は彼のことを好きでいる。