俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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やっと18話、18話を投稿できました。
まだ18話なんですね、まだ18話、書き直しすら終わってない、もう心が折れそうです。
とりあえずこの話が【18話】なのでこれからもよろしくお願いします。


18.しんじてよ

 

 

 

 

 

 

 

昔、私が紅助さんに恋をしてから少し時がたった頃。

 

あることを紅助さんに聞いた。

 

紅助さんがいつもデバイスと共に首にかけている指輪のことだ。

確かその時はただ話題が欲しかった、それだけで聞いたことだったっけ。

少しでも紅助さんと話していたくて、何でもいいから、なんて口から出た言葉。

 

「その指輪、いつも首にかけてますよね?」

 

「うん?」

 

不意を付くように言った突然の問いに紅助さんはこちらに目を向けた。

 

「指輪です、指輪。指にかけるわけでもないしお洒落って言うにはかけてない日は無いですし」

 

「ああ、これ?」

 

そう首にかかった指輪を手に取った紅助さんが少しだけ微笑む。

優しげなその表情に小さく胸が震えた。

そんな自分の反応に恋をしてるんだなぁ、なんて思いつつ紅助さんの声に耳を向ける。

 

「俺がミッドに渡ってくるときに貰ったプレゼント、かな?」

 

「フェイトさん、とかからですか?」

 

「いや、フェイトの友達で、まぁ、俺の友達でもあるやつから」

 

……紅助さんの友達。

 

改めて私が知っている紅助さんは彼のほんの一部でしかないと気付く。

私は紅助さんの私と出会う以前のことはほんの少ししか知らない。

管理外世界出身であること。片親であること。何かがありミッドへ渡ってきたこと。

そのくらいしか私は知らない。

勿論知りたいとは思うけれど聞こうとまでは思っていなかった。

いつか話してくれる時が来ればいいかな、くらいで。

信頼していたしその分信頼されているとも思っていた。

だから紅助さんにどんな友達がいても、いくら紅助さんがそれを嬉しそうに話していても、

私は、別に、

 

だけど、

 

だけど、

 

 

少しだけ、少しだけ嫉妬して、

 

 

少しだけ、後悔して、

 

 

やっぱり、聞かなければよかった、とか。

 

思ったり、して。

 

「ティアナ?」

 

気付けば私は紅助さんの顔から視線を逸らすように俯いていて、それを心配した紅助さんが私を呼ぶ。

 

自分でも今のこの気持ちを制御できないことはわかっていた。

小さい事でこんなにも落ち込んだり、逆に喜んだり。

もどかしく煩わしいこの気持ち、しかしそれが愛しい。

ゆっくりと顔を上げ紅助さんを見る。

 

浮かんでくるのはやっぱり、好き、そんな気持ち。

 

 

もう、どしようもない。

 

 

 

 

 

 

空へと桃色の砲撃が上っていく。

 

結界を引き裂いて上へ上へと昇っていくそれはゆっくりと空に溶けて消えた。

 

「……なのは、さん?」

 

見覚えのある魔力光、やはり何者かとの戦闘中だったのだろうか。

レリックの回収が滞りなく終了し、リイン曹長から聞かされたはなのはさんと今日配属される予定だった外部協力者に連絡が取れないという話。

その外部協力者の名前を聞いた時、正直のところ聞き間違えたのではないかと本気で疑った。

 

外部協力者は、紅助さん、私の義兄だ。

 

何度も聞きなおして、やはりそれが自分の知る紅助さんだとわかった時に感じたのは少量の怒りと多量の情けなさだ。

 

もう何年も前の事だけれど私はしっかりと覚えている。

陸士学校に入学する前、私は紅助さんと約束したのだ。

 

私は管理局へ行き、彼は彼の選ぶ道を行く。

 

私は自分で、自分の力でこの道を歩むことを決意した大事な約束。

 

紅助さんに私の、私と兄を背負わせたくはなかったから、決めた約束。

 

なのに、

 

約束したはずだよね、

 

私が信じられなかったのかな、

 

頼りなくみえたのかな、

 

そんな言葉が頭の中をグルグルと回る。

 

聞きたかった。確かめたかった。

 

彼の真意を。

 

なんで私との約束を破ったのかを。

 

 

だから、空へと昇るそれを見た瞬間に私の足は動いていた。

 

頭の中の冷静な部分では危険だ、様子を見るべきだと警告を促しているのに足は止まらない。

 

幸運だったのはそれは戦闘終了の合図であった事。

 

不運だったのは私は見てしまった事。

 

紅助さんに良く似た、

 

誰かを。

 

 

その場から去ろうとするその人物と一瞬だけ目が合う。

 

 

輝くような金色の目に目を奪われる。

 

それも一瞬の事、その誰かはすぐさま背を向けると姿がぼやけて姿を消した。

そこに残ったのは倒れ付すなのはさんとソレに駆け寄る紅助さん、そしてそれをただ見ていた私。

 

何がどうなって、とか。

 

わからない。

 

 

私の理解の外で何かが起こっている気がした。

 

 

 

 

 

 

「本日より古代遺物管理部、機動六課に勤める事になりました七峰紅助です。一応嘱託魔導師、外部協力者として雇われています。どうぞよろしく」

 

 

そう、紅助さんが簡潔、というよりてきとうに自己紹介をしたのを見て頭に血が上るのを感じた。

任務が終わり、六課の本部へと帰還した私達に待っていたのはそんな事。皆も怪我を負ったなのはさんの事を気にしているのだろう、その表情は優れない。

私だった元はと言えば紅助さんが約束を破った事を問うつもりだったはずだ。

それがあんな摩訶不思議な状況に陥ったせいで有耶無耶になっていた。

勿論あの紅助さんのそっくりさんの事も気になるのだが口に出すと紅助さんは良い顔をしないのだ。言いたくない事を問い詰めるわけにもいかないし迷惑もなるべくかけたくはない。だから今はそのことを忘れる事にした。

実を言うとはやてさんからも口止めをされている。「見たものは忘れたほうがいい」なんて古臭い上にわかりにくい台詞で、だったが。

確かに気にならないと言えば嘘になるし今すぐにでも知りたいと思っている。

けど、私は紅助さんを信じているから。いつか話してくれるって。だから遅くても早くても関係なんて無い。

 

 

 

信じられたいなら信じる。

 

 

 

そんなくさい信念を私は持っているのだから。

 

 

と、話がずれてしまったが。

 

ようは私が信じていた紅助さんに裏切られた。そういう話だ。

 

紅助さんが一人でいる時をみて話しかける。

 

「紅助さん!」

 

「んぁ?」

 

間抜けな声をあげる彼を見てまた怒りの度合いが少しだけ上がる。

曲がりなりにも紅助さんは私の兄なのだ。彼が私の義兄だと言うことを知っているのはスバル、フェイトさん、そしてはやてさんの三人だけだ。別に話す必要なんてないと思っていたし一度話してしまうと余計な事まで口にしてしまいそうであまり話したくはない。

まあ、兎に角私と彼が家族だと知っている人物は限られるのだが。

だからといって兄の情けない姿を人前に晒せるほど駄目な妹をしていないのだ。

 

猫背になった背中を叩いてピンと伸ばす。ポケットに突っ込んだ手を引っ張り出して寝癖で乱れた髪を手櫛で寝かしつける。

 

「よしっ」

 

「……えっと、なに?」

 

怪訝な表情を浮かべて私を見る紅助さんに指を突き付けてやる。

 

「仕事中はちゃんとしてください!」

 

「え、あぁ、うん」

 

「返事はしっかりっ!」

 

「は、はい」

 

「もう……えっと、それじゃあ話、いいですか?」

 

 

私の言葉に紅助さんは苦笑する。

紅助さんだってただの馬鹿ではない。私の言いたいことくらいはわかっているのだろう。

 

「なんで紅助さんがここにいるんですか?」

 

「…仕事だから」

 

当たり前だろ、と言うように口を開いた紅助さんを睨む。

 

「約束、覚えてないんですか?」

 

「……覚えてるよ。けど俺は別にはやてやフェイトに誘われたからここにいるわけじゃない。もっと上にいる人物に雇われてる。簡単に断れる話じゃなかった」

 

「でもっ」

 

「ティアナを信じていないわけじゃないよ」

 

「本当、ですか?」

 

「嘘付いてどうする。それとも、ティアナは俺と一緒はいやとか?」

 

「そんなのじゃないっ。そんなのじゃ、ないんです、けど……」

 

思わず俯いてしまう。

本当はこんな迷惑をかけたかったわけではなかったのに。

ただ紅助さんは本当に私を信じてくれているのかって、少しだけわからなくなっただけ。そんな子供のような駄々。

信じられたいなら信じる?信じ切れなかったのは私だ。今日の私は本当に駄目だ。なにをやっても紅助さんに迷惑をかけそうな気がする。今の私は彼の側にいるべきではない。わかっているけど、離れたく、ない。

 

そんな私に対して紅助さんは俯いたままの頭を掴み乱暴に撫でてくる。

 

「泣いてる?」

 

「泣いて、ません」

 

「じゃあ顔見せてみ」

 

「……見せられません。見せたく、ないです」

 

はあ、と紅助さんのため息が聞こえた。

 

 

「泣き虫にはもうなれてるんだよ」

 

 

両頬を掴まれ無理やり顔を上げさせられた。滲んだ視界に紅助さんがいて嫌がる私に呆れたよう顔で口を開いた。

 

「泣いてんじゃん」

 

「まだっ、泣いてません」

 

屁理屈だ。まだ涙を流してないだけでまぶたの奥には今にも零れ落ちそうなほどの涙が溜まっていた。

 

「泣いてもいいよ」

 

「泣きまっ、せん」

 

「強がり」

 

「私、強いっ、強い子だもんっ。泣きたく、ないですっ!」

 

「知ってる。泣き虫で強情で聞き分けがあるんだかないんだか」

 

「泣き虫じゃぁない、です。こんなの、紅助さんの前だけでっ」

 

「俺だけ?」

 

「そう、です」

 

「じゃあ、俺だけが本当のティアナをしっているわけだ。まぁ、ティアナのことは全部知ってるけどな」

 

だから、

 

「色々考えてることも知ってるよ。俺のことで迷ったりしてることも」

 

 

だけど、

 

 

「俺は、信じてるから」

 

 

「なに、を?」

 

 

「ティアナが俺のことを信じてくれてるって」

 

 

そう言って紅助さんは笑う。

 

 

 

「信じてやらなきゃ、信じれないだろ?」

 

 

 

聞き覚えのある言葉に笑みがこぼれる。

 

 

 

「くさい、すごくくさいですよ」

 

 

けど、

 

 

 

「嫌いじゃ、ないです」

 

 

 

私にも紅助さんと同じものがある。

 

 

 

それが嬉しく、幸せで、

 

 

 

私は、

 

 

 

私は醜く甘い恋をしているようだ。

 

 

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