俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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23.I fall in love from now

 

あれから数日後かたった。

 

 

私はまだ彼と話せていない。

 

 

 

※

 

 

 

休日を与えられた。

 

 

いや、与えられてしまったと言った方が正しい。

 

切欠はあの訓練、なのだろう。

 

「ガス抜きくらい上手にしてや」

 

なんてはやてちゃんに嫌みまで言われつつティアナ達と共に休日をもらってしまったわけだ。

情けないし恥ずかしい。

しかもおまけとばかりにその日にコウ君の休みも入れておくとのことだ。

ようは一緒に出かけてこいと。

ありがたい、のだろうけど……だろうけど。

そんなわけで私は今、六課の宿舎前でコウ君を待っている。

あれ以来ちゃんと話せていないコウ君と出かけるというわけなんだけど正直の所怖くてしょうがない。

誘うこと自体はメールなんかでぱぱっとやってしまったけど面と向かってしっかり話すとなると……

 

何を言ってしまうか、わからない。

 

それなのにいきなりデートだなんて……

 

……デート、デート、か。

何か、ごめんね、ティアナ。

 

そんな事をブツブツと頭の中で繰り返していると声をかけてくる人物が一人。

 

「あ、悪い。待たせた、みたいだな」

 

勿論、コウ君だ。

とんできた声にびくりと体を跳ねさせたら私を不思議そうな目で見たコウ君に慌てて笑顔を返す。

 

「ま、待ってなんかないよ! 大丈夫だから!」

 

漫画かなにかか、なんて頭の中で突っ込みを入れつつコウ君の様子をうかがう。

普通と言えば普通。

それもそうか、後ろめたい気持ちがあるのは私の方でコウ君にはコレといってどうと言うことはないのかもしれない。

そりゃあ勝手に嫉妬してティアナに八つ当たりしたわけだけどさ……

考えてみればみるほど駄目な自分が掘り起こされる。

悶々と考えに耽り出す私に対してコウ君は困ったような苦笑を浮かべると頬を掻く。

 

「えっと、遅れておいてなんだけど……行こうか?」

 

「あっ」

 

また困らせた。

思わずそんな事を考え歩きだそうとするコウ君に手を伸ばす。

 

「うん?」

 

振り向いたコウ君に向けられた手が宙をさまよう。

 

「あ、えっと、あの……」

 

しどろもどろになりながら吐き出した言葉は、

 

 

「手を繋ぎ、たい……あの、繋いで、くれません、か?」

 

 

恥ずかしい、尻すぼみに消えていく。

何を言っているんだ、なんて思い伸ばした手を下げようとするとそれを止めるように腕を惹かれた。

 

「ほら、行こう?」

 

その言葉に、繋がれた手に、気が付くと頬が緩んでいたのは私がやはりコウ君の事を想っているからか。

引かれる手に足が、胸が軽くなったのに単純だなんて一人ごちながら歩を進める。

 

遅れてきたのはこれで許すとしよう。

 

 

 

※

 

 

 

コレと言って行き先を決めていなかった結果、とりあえず喫茶店に向かう事になったわけだけど……

 

「なんでエリオとキャロが……」

 

せっかく新人のみんなとは時間をずらして出かけたのになんて思いつつ小さい二人の影に目を向ける。

幸いこちらは気付かれていないようでなにか話で盛り上がっている様子の二人を見つつコウ君が呟く。

 

「小さいカップルと言うより兄妹だな、あれは」

 

「そうだね」

 

微笑ましさを覚えつつコウ君の言葉に相槌を打つが私が実際に思っていたのはまた別だ。

 

昔の、まだ幼かった頃の私とコウ君の事を考えていた。

私達もあんな様子だったのだろうか?

そうだとすると嬉しいような、悲しいような。

良くも悪くも私たちは変わってしまった。

それを後悔しているわけではないけれど。

ふとコウ君に目を向けてみるとエリオ達を見つめながら薄く笑みを浮かべている。

そんな彼を見て何故か私は安心していた。

何に、と言えば私にもよくわからないのだけれど。

 

 

「なんかさ」

 

エリオ達をぼんやりと眺めていたコウ君がぽつりと呟く。

 

「こうやって眺める視界の端から端は平和なんだよな」

 

カフェテラスの様子を一望しこちらに笑いかける。

 

「でも見えない所ではまた先生みたいな奴が何か企んでて赤い彼奴みたいな奴が誰かを憎んでんだよな」

 

その言葉に負の感情は感じられない。

笑顔、明るい声、彼が何を考えているのか私にはわからない。

 

「もうさ、なんていうかさ、ほっておいてくれたらこっちも忘れられるんだけどな」

 

「コウ君は……何もおもってないの?」

 

「おもってない?」

 

「先生が憎いとか、ないの?」

 

ぼそぼそと呟く。

コウ君が口角を持ち上げた。

 

 

「憎いよ、殺したいほど」

 

 

ドクリ、胸の奥の何かが震えた。

 

コウ君は笑顔で、笑顔で笑顔で笑顔で笑顔で、

まるで当たり前のように、生まれてからそうだったように、そう吐き出した。

 

「たぶん、運が良ければ俺が先生を殺して、運が悪ければ先生が俺を殺すんだろ」

 

言葉がでない。

何となしに紅茶を傾けるコウ君はどこまでも日常で、

 

「……違う。ああ、何だ。違う違う、そういう、殺す殺さないじゃなくて」

 

一度、コウ君の動きが止まる。

まるで何かを振り払うように頭を数度振り乱し掌で目を覆った。

 

「始めたから、終わるんだよ。うん」

 

誰に向けた言葉か、何を差した言葉か。

何故、そんな言葉に私の中の何かが震えているんだ?

 

「たぶん、これって最低な事だ。だから、先に謝る。ごめん、なさい」

 

一瞬、手の隙間から黒い瞳が覗く。

暗く鈍い黒。私はそれを、怖いと、そう感じて、

 

 

「今、お前と出会わなければ良かったなんて、思った」

 

 

絶望した。

 

 

 

※

 

 

 

一度だけ。

一度だけ考えた事がある。

 

私は本当にコウ君の事が好きなのか。

 

そんな事を。

 

例えば、幼い頃の私は彼を両親の代わりとしていなかったか。

していた、のだろう。

コウ君は私になかったかものを、欲しかったものを誰よりも早く埋めてくれた人だ。

何の見返りも求めず、ただ側にいてくれた。

 

確かに私にとってコウ君という存在は両親に近い。

 

だからもっと側にいたかったのだろうし、貰った分だけのものを返したいと思ったのだろう。

 

だけど、それだけじゃないはずだ。

 

それだけの理由で私はコウ君を求めているわけじゃないはずだ。

でも、

 

でも……

 

 

私は何故コウ君が好きなの?

 

 

それは、

 

 

 

出会ったからだ。

 

 

 

※

 

 

 

ゆっくりと落ちていく。

まるで底なしの沼に突き落とされたような絶望感。

だけど、そんな自分をただぼんやりとと眺めている自分がどこかにいた。

たった一度の言葉でこんなにも傷ついている。

私はこんなにもコウ君を強く想っていたんだ、なんて風に思っている自分がいる。

表側が黒く塗りつぶされていく一方、裏側は細く鋭く、白、私が私になっていく。

なんだろうこの感覚は、ティアナとお話した時に、コウ君への想いを初めて自覚した時に近い。

うん。

 

 

「やっぱり、私はコウ君が好きだ」

 

 

今、恋に落ちてる。

 

口にした言葉が表と裏を入れ替えた。

視界が広がっていく。自然と頬が緩んだ。

 

「私にとってはね、コウ君は特別なんだ。コウ君の周りは心地が良くて、私が私でいれた」

 

それは君が私を特別と言ってくれたから。

君が私を誰かにしてくれたから。

 

「そばにいるだけで満たされる、っていうのかな。別にコウ君が私を好きでいてくれなくてもいいのかもしれない」

 

勿論、私は傷つくのだけれど。

それでも側にいないことに比べれば。

 

 

「確かに、私とコウ君が出会わなかったら違う幸せがあって辛い思いもしなかったかもしれない」

 

私だって先生は憎い。身も心も焼かれてしまうくらい。

これはどうしようもできない気持ちだってこともわかっている。

 

「それでもね、私はコウ君と出会ってよかったって思うの」

 

今の私は、幸せで満たされているから。

辛いこともいっぱいあるけどそれ以上のものがあるから。

 

「だから、これは私の我が儘」

 

辛い思いをさせてごめんね。

私のせいだってわかってる。

先生と出会ったのも、もう一人の君が生まれたのも。

 

それでも、うん。

 

それでも君には、

 

 

「私と出会ってほしい」

 

 

 

それが私の恋だから。

 

 

 

※

 

 

 

言い切った私に彼は呟くように言う。

 

 

「やっぱり、なのはを好きでよかった」

 

 

こぼれるような笑顔が彼の手の隙間から見えた。

反射的に頬が熱をもつ。それを追い出すように何か口にしようとすると、

 

「だから」

 

落ちる水滴のように、

 

 

「助けてほしい」

 

 

彼がつぶやいた。

一瞬の思考停止、彼が何を言ったの理解するより早く言葉は溶けるように宙に消えた。

そして間を置かずコウ君が突然立ち上がった。

 

「なにか、来る?」

 

畳み掛けるように状況を理解できない私に対してコウ君の行動は素早く、私はその後についていく。

連れられて来たのは路地裏で、私は出会った。

 

 

一人の少女に。

 

 

そして後に思うことになる。

 

 

 

これは、運命の出会いのようだ。

 

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