俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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2.決意

 

放課後の教室。窓の外に広がる景色をただぼんやりと眺めていた。

最近、何かを眺めるということが増えている気がする。

別に何か悩み事があるわけでもないし考え事をしているわけでもない。

強いて言うならば考えることが無くなった、と言ったところだろう。

管理局を辞めて平穏な日常を送ってみるとその日常が何も無いものだと気がつく。

そのことに落胆したわけではない。確かに管理局にいた頃は何処か安心があった。

未来が見えていたと言えばいいだろうか。高町の後ろについて回って確かに色々なことがあった。

危険なこと、笑えること、怒れること、ソレは簡単に手に入ったし手に入らないようにすることもできた。

しかしそれから離れてみるとわかる。

平凡な人生は平凡でしかない。ソレは何も生み出さないし何も感じさせない。

だからこそ俺は何かを成したい。のだけれど……

 

「どう生きていくか、どう死ぬか、それが問題だ。ってね」

 

もしも自分が年相応の精神だったのなら悩まずに済むことなのだろう。

しかし……まあ、俺の頭の中はこうなわけで一人の人生を変えてしまったことを悩んだりそのせいで自分の進退を決めかねている。

高町にはカッコいいこと言っておいて情けないがこれでも頑張っているほうだ。

元々情けなくてカッコ悪い人間なんだから這って動くくらいが関の山である。

 

とはいってもこんなところでぼんやりしていても何かが変わるわけではあるまいし。

ため息を一つ、座っていた席を立つ。

 

それと同時に背中に衝撃を感じた。

 

後ろから伸びて来た腕に誰かが抱きついてきたと気付く。

 

「高町?」

 

ふと浮かんだ人物の名前を口にすると返ってきたのは笑い声だった。

 

「ふっふっふ」

 

聞き覚えのある声が耳をくすぐる。

 

 

「残念、はやてちゃんでした!」

 

 

「…………」

 

「えっと、紅助君?」

 

「……ああ、八神さんでしたか」

 

「あれ!? 何でそない他人行儀なん!?」

 

ちょっとでも心臓が跳ねた自分が恥ずかしい。

なんと言えばいいだろうか。残念。そう、凄く残念な気分だ。

こちらを体に絡んだ腕を解きながら俺は八神を見た。

 

「お前……仮にも女なんだから慎みというものを持ったらどうだ?」

 

「うーん、私と紅助君の仲やん。これくらい大丈夫!」

 

何が大丈夫なのか。そんな疑問を飲み込んで八神から体を離した。

 

八神はやて、相変わらずこいつの事だけは苦手だ。

何を考えているのかわからないと言うかなんと言うか。

弱みを隠すのが上手いのかそういうのはあまり見たことが無い。そのくせ他人の機微には人一倍敏感なんだからたちが悪い。

今までだって八神がいて助けられたことが何度かある。小さな借りではあるが借りは借り、残しておいて気持ちのいいものではない。

しかしこいつは隠し事や嘘が得意だから借りを返そうにもそのタイミングが見つけられいなんてことになってしまうわけだ。

 

今だってそう。にへらと間の抜けた笑顔を顔に貼り付けてこちらを見つめている。

 

こいつが嘘を付くのが得意と言うことは出合った頃からなんとなくわかっていた。

ずっと一人だけで過ごしていた事は知識として知っていた。

そういうストーリーのはずだから八神は他人に弱みを見せることは付け入られる隙を晒す事と同意のものだったのだろう。

だからこそ闇の書が覚醒するまで、ヴォルケンリッターの四人ともう一人が現れるまでたった一人での生活を続けていたのだろう。

勿論それもストーリー上の設定と言ってしまえばそれまでだし裏で誰かが手をまわしていたのかもしれない。

だけど俺の知っている八神は自らの殻に篭って体を丸めている小さい子供、そんなところなんだ。

 

もう一度言うが俺は八神が苦手だ。

 

いつもいつも一人で抱え込もうとする八神。

 

嘘をついて偽物の笑顔を顔に貼り付けている八神。

 

なのに人の事を誰よりも気にしてしまう八神。

 

八神のやり方は好きになれないしたぶん八神も優柔不断な俺を好いてはいないだろう。

しかし俺と八神はそんな関係で満足している。

ああ、今だってそうだ。

 

「それで、何の用だ?」

 

「え? ああ、まあ……うん」

 

「ん?」

 

切れの悪い返答に思わず首をかしげた。

八神も笑みを若干ゆがめて頬を掻いている。

 

「いや、別に……あの、その」

 

「なんだよ?」

 

「あ、えっとえと……紅助君が泣いてるように見えたー、なんて」

 

「はい?」

 

「や、やっぱ今の無し! 忘れて、お願いやから忘れて!」

 

思わず呆ける。赤く染まった顔を手で覆い隠そうとしている八神を呆然と見つめる。

 

「えっと、泣いてるって?」

 

「わ、忘れてって!! 言わんとけばよかった、ああもう恥ずかしいッ」

 

「忘れろって、言われても……」

 

「うぅっ、しょうがないやん……そう、見えたんやから」

 

萎む様に体を丸めてうずくまった八神。

俺といえば目の前の状況に困惑していた。

八神の言っていることは意味がわからないしこいつがそんな事を考えるとは思っていなかった。

ようは何故か俺が泣いているように見えて慰めようとした、ってところだろうか。

 

思わずため息が漏れた。

 

相変わらず顔を赤くしてうずくまっている八神の頭を小突く。

 

「な、なんや!」

 

「まったく……誰が泣いてるって?」

 

「なっ、まだ言うんか!」

 

「そうぽろぽろと泣けるような緩い涙腺はもってないっての。お前らじゃあるまいし」

 

「こ、こっちは心配して上げたのになんやそれっ」

 

「はいはい。でも、まあ……」

 

「う、うん?」

 

「気持ちだけは、気持ちだけは貰っとく」

 

「え?」

 

「その、ありがと……」

 

ぼそりと呟いて八神に背を向けた。

やばい、頬が熱い。八神にしてはこちらとの接し方がやけに強引でぎこちないと思ってはいたがそれが此方にもうつってしまったようだ。

少しだけ漏れ出た弱み。それを八神に付け入られる前に逃げるか。

そう考え逃げるように教室の出口へ向かった。

が、それは数秒遅かったのだろう。教室の扉に手をかけた瞬間、先ほど感じたような衝撃を背中に感じた。

後ろから伸びてきた手にまた抱きつかれたと気がつく。

 

「ふっふっふ」

 

聞き覚えのある笑い声。

 

「えへ、えへへ。待ってって、紅助君」

 

「や、八神。なんだよ……まったく」

 

赤みの引かない顔を俯いて隠す。八神の回復がこんなに早いとは誤算だった。

 

「なんや、もう……紅助君はツンデレなんやから」

 

「誰がツンデレだっ」

 

「飴と鞭っていうんかな? 汚いわぁ、紅助君汚い!」

 

話を聞け。

 

「いいかげん放せっ」

 

体を揺すってしがみ付いていた八神を振り落とす。

さすがにこれ以上くっ付かれていると暑苦しい。主に顔とか、顔とか。

振り下ろされた八神は俺から離れると顔を隠すように背を向けた。どうやらお互い一杯一杯になっておたようだ。

 

「あんな、紅助君」

 

「ん、なんだよ?」

 

「なんや……ありがとうな」

 

「うん?」

 

「最近色んなことあって紅助君とはギクシャクしとったから……今日は少しでも話せてよかったわ」

 

「あー……えと、そんなにギクシャクしてたっけ?」

 

「私がかってに感じとったもんやから気にせんでええよ。それに勘違いやったみたいだし」

 

「はあ……」

 

やっぱり理解は出来ない。

もう俺と八神は分かり合えない関係にあると割り切ってしまったほうがいいのでは、という考えが頭に過ぎる位には。

要するに「私は貴方と最近上手に付き合えてないような気がする。でもソレは気のせいでした」という言葉を伝えられたわけだ。

 

だからなんだって言うんだよ。

 

その言葉を俺に伝える意味がわからない。

八神が言うように彼女の自己満足なのだから気にしなければいいのだろうか?

ならば何故口にした?何か理由があったのではないだろうか?俺に伝えたい何かがあったのではないだろうか?

そんな疑問が胸の中でしこりとなって暴れまわる。

気持ちの悪い感覚だ。しかしそれを吐き出すのは惜しいと頭のどこかで考えている。

 

「ねぇ、紅助君?」

 

「次はなんだよ」

 

「もし、もしもやけど……紅助君と私がもうちょい早く出合ってたら、もっと仲良くできたかな?」

 

「…………」

 

「なんや、自分でも意味わからんな。なに聞きたかったんかな?ごめんな」

 

「……はあ」

 

「うぅ、呆れとる?」

 

やっぱり意味がわからない事だらけだ。

だけど、世界なんてそんなもの。

 

「そういうのも悪くは、無いね」

 

「ん、なんか言うた?」

 

「んにゃ、なんも」

 

「そう?」

 

不思議そうに八神が首を傾げる。

まだこちらに背を向けたままだけどお互いの表情はなんとなくわかった。

 

笑っているのだろう。

 

俺だって、こんなに頬が緩むのだから。

 

 

 

 

 

 

八神と別れ教室を出た後、また俺に声をかけてくる人物がいた。

 

「なんか嬉しそうだね、少年」

 

「……お前もな、少女」

 

金糸の髪を揺らしながら笑顔を此方に向けてくる少女、テスタロッサが俺の目の前に立っていた。

 

「何かあったのかな?」

 

「何も、ただ気分がよかっただけ」

 

「……本当に?」

 

「ああ。俺にだってそういう時があるんだよ」

 

「そっか」

 

何がおかしいのかテスタロッサはクスクスと笑った。

 

「最近のコースケ、少し変わってきたね」

 

「変わった、って俺が?」

 

「うん。落ち着きをもったって言うのかな?最近のコースケは柔らかくなったよ」

 

「つまり以前の俺は落ち着きが無かった、と?」

 

「ふふ、うん。そうだね。前のコースケは何事にも面倒臭そうでどんなことでも早く終わらせようって感じだった。けど今は小さなことでも良く考えてる、そんな感じに見えるな」

 

「別に何か考えてるわけじゃない。それに今だって何事も面倒だ」

 

「でも、頑張ってるよ。最近のコースケ」

 

「凄いことだよ、ソレは」そう言うテスタロッサを見て頬が熱くなるのを自覚した。

どうやら今日は厄日のようだ。体温の調整が上手くいかない。

大体、何でこいつらはこうも恥ずかしい言葉を惜しげもなく吐けるのだろうか。

いつだってこいつらは、テスタロッサはこうだ。

 

そういえば……

 

テスタロッサとよく話すようになったのはいつ頃だっただろうか。

 

彼女は出合った頃は思いを胸に秘めてあまり口に出さないタイプの人間だったと思う。

そしてその頃の俺もあまり他人との関わりを作ろうとは考えていなかった。

高町さえいれば十分だったしそれで満足していたという事もあった。

だから接点と言うものはあまり無かった。だけど親近感だけは持っていた。

テスタロッサは俺と同じような人間だと思っていたから。

俺が生まれ直したように特殊な生まれを持ち、高町なのはという少女に助けられた。

だからこそだろうか、俺は彼女が苦手だった。同属嫌悪、そう言えばいいのだろうか。

鏡を見ているようで駄目な自分と前を見ているテスタロッサの違いがよくわかった。

そんな関係が変わったのは確か闇の書の事件が解決した後当たりだったか。

何があったのかは正直覚えていない。しかしその時期は高町だけでなくテスタロッサともよく傍にいたことを覚えている。

彼女が焼いてくれたクッキーが好きでよく口にしていたのを覚えている。

あの頃から俺はテスタロッサに惹かれていたんだと思う。

高町と違う、とても近くにいた彼女に。だけどその関係も時がたつと同時に変わっていった。

時間が経つというのはそういうことだとわかっていたし自分の心の変化にも感じることは少なかった。

だけどテスタロッサはまだ近くにいてくれたのだと思う。

 

気がつけば俺は彼女に弱みを漏らし、彼女は俺に勇気をくれた。

 

今の俺が一番の友達を選ぶとしたらそれはテスタロッサを選ぶだろう。

 

テスタロッサになら俺は弱みを晒しても安心していられる。それだけ信頼している。

 

彼女はいつだって俺に答えをくれたのだから。昔も、そして今も。

 

だから、俺は今、彼女に褒められたということを……その、だな。

 

 

嬉しい、そんな風に考えてしまっているわけだ。

 

 

頑張っている。そんな一言で頬が緩む。

もう一度、聞きたいなんて恥ずかしくて口が裂けても言えない事まで考えてしまっているくらいだ。

 

「どうしたの、コースケ?」

 

「い、いや……なんでも、無い」

 

どうしてもにやけてしまう顔を手で覆って隠す。

さすがにこんな顔をテスタロッサに見せることだけはしたくない。

 

「変なコースケ」

 

変にしたのはお前だ、なんて文句をいってやりたい。

本当に、本当に今日は駄目な日だ。思わず緩んだ顔のままため息を吐こうとしたその時。

 

 

「そう言えば、なのはとはどうなのかな……最近?」

 

 

手で覆い隠した顔が引きつるように固まった。

それがテスタロッサにも伝わったのだろう。彼女は優しげに微笑む。

 

「その様子じゃ、少し悩んでるみたいだね?」

 

「……否定は、しないけどさ」

 

頬の熱が一気に冷めていくのを感じた。

気分が上がっていただけあって眼を逸らしていたことに気が付くとショックが酷く大きい。

 

 

「今のコースケは何を悩んでいるのかな?」

 

 

優しい、何時ものテスタロッサの声だ。

少しだけ安心して俺に口を動かすだけの余裕をくれる。

 

 

「高町に、何かをしてやりたい……」

 

 

呟いた言葉はいまいち纏まりのない漠然としたものだ。

それでもテスタロッサはしっかりと俺を見て返事をした。

 

「なのはに?」

 

「ああ、ずっとアイツを頼りにしてたから。次は俺が何かをしてやりたい、なんて」

 

「でも何をしてあげるべきか悩んでる、かな?」

 

「そんなところ。今の俺は高町になにかできるのかな?」

 

こぼした愚痴に我ながら情けないなと思っていると聞こえてきたのはテスタロッサのため息だった。

 

「まったく、コースケって変なところで馬鹿だよね」

 

「馬鹿って、おいっ」

 

「本当の事でしょ? 何をしてあげるべき、コースケはそう言ったよね」

 

「言った、けど」

 

「じゃあ、もし私があれをすべきだって言ってコースケは納得できるのかな?」

 

「ソレは応え次第で変わってくる、そうだろ?」

 

 

「私は、納得できないと思う!」

 

 

強く言われた言葉に思わず一歩後ずさった。

 

 

「コースケは今誰のことを考えているの?なのは?それとも自分自身?」

 

 

「そんなの高町にっ――――」

 

 

決って、いるのか?

 

 

俺は本当に高町のことを思って今の悩みに到ったか?

 

 

ヴィータの話を聞いてなにを思った。

 

 

何で俺が?本当に俺じゃないといけないのか?

 

 

高町と話をして何を思った。

 

 

俺がなりたい。ヒーローに。そしたらアイツは俺に。

 

 

「全部、俺のためじゃん……」

 

 

泣けるほどに馬鹿馬鹿しい。

 

全部、全部全部全部。全てが自分自身のためだ。

なんて自分勝手だ、今も昔も変わってないじゃないか。

俺は今まで高町を盾として生きてきてこれからは高町を理由に生きていこうと言いたいらしい。

 

本当に馬鹿げてる。

 

 

けど、

 

 

 

「いいんだよ。自分のためで」

 

 

 

テスタロッサは微笑んだ。

 

 

「コースケはコースケのために頑張っていいんだよ」

 

 

「自分のためになのはを助けてあげたい、どこかおかしいかな?」

 

 

「私にはそれがとても綺麗な理由に見えるよ。単純で愚直で、面倒臭がりのコースケらしい」

 

 

「自分の胸に誰かを残すのは理由だよ。コースケの胸にはなのはがいるかな?」

 

 

「コースケは胸を張れないかもしれない。だったら私が曲がった背中を叩いてあげる」

 

 

「コースケの理由、私は好きだよって言ってあげる」

 

 

「大丈夫」

 

 

「そこから先はね」

 

 

 

「コースケが決めた道だよ」

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると次は葉が生え揃い始めた木をぼんやりと眺めていた。

 

俺の家の庭に生えたその木は父が子供の頃に祖父母と共に植えたものらしい。

それを知ったのは今から20年も前。

つまり、俺が生まれ直す前。

 

 

時々こうやってこの木を眺めることがある。

 

 

昔が懐かしい、とか多分そんな感じなんだと思う。

 

 

突然、首もとから伸びてきた腕に抱きすくめられる。少し驚いてその細い腕を見た。

 

「高町?」

 

「うん、驚いた?」

 

クスリと笑う声と共にキュッと抱きしめられる力が増した。

 

「驚いた。母さんと買い物に行ったんじゃなかったのか?」

 

「今帰ってきたところ。戻ってきたらまだぼんやりしてるコウ君がいてびっくりしたよ」

 

言われて時計を見る。

木を眺め始めてから既に長針が二回転近く進んでいた。

 

「この木、好きなの?」

 

「多分、いや……好きだよ。この木」

 

もう一度木を見る。

何の変哲もない木だ。

それ程大きいわけでもないし、華やかさがあるわけでもない。

ただ俺より長く生きている、その程度。

 

その程度の癖に何でか俺はこの木に惹かれた。

まあ、そんなにかっこよく言うほどの理由ではないけどな。

 

高町を背負いあげるようにして立ち上がる。

 

「きゃっ!?」

 

「一つ、聞いていいか?」

 

「ま、まず降ろして!聞くから、降ろして!」

 

あわてて足をばたつかせる高町を床に下ろす。

頬を膨らませた高町を見る。

 

 

 

「もし俺が魔法を使うのを止めてくれっていったら高町は魔法を止められるか?」

 

 

 

俺の言葉に表情を固めた高町を見て思わず苦笑した。

 

「え?」

 

「やっぱり今のなし。聞かなかったことにしといてくれ」

 

高町から背を向けて、

 

 

腕をつかまれた。

 

 

「わ、私」

 

振り向いて気が付いた。

 

泣きそうな顔をした高町がいた。

 

「私、コウ君が言うならっ、でもっ」

 

「止めたくない、って言うんだろ?」

 

 

高町が耐えるように目を閉じた。

 

「止めなくてもいいよ。嘘、冗談、戯れ言、魔が差した、なんとでも思ってくれていい」

 

「どれも、違うのにっ?」

 

泣くのをこらえながら言い返す高町。

やっぱりコイツは《高町なのは》だった。

 

俺程度の嘘じゃ通用しない。

 

 

だから決心は付いた。

 

 

「じゃあ、高町の好きなお話をしよう」

 

「お話……?」

 

「ああ、お互い伝えたい事を伝えよう。ルールはただ一つ、嘘はつくな。それだけ」

 

一度、頬を緩めて言った。

 

「じゃあ、まず俺から」

 

 

額をぶつけ合っていつも通りの、俺達の距離に戻る。

 

 

「俺はさ、正直お前に魔法を止めてほしい。魔法と関わるとお前が傷付くから。それは小さいのもあるし俺みたいなのもある」

 

高町が少しだけ跳ねたのが額越しにわかった。

 

「俺はお前にそんな怪我をしてほしくない。小さい怪我でも、苦しむ顔なんて見たくないんだ。お前が俺を信じてくれるなら俺がお前を護る」

 

その言葉は汚くて卑怯だ。

でも俺は嘘だけはつきたくない。

ルールなんて関係なく汚いからとか卑怯だからとかそんな小さな事で嘘をつくやつが高町の隣に立って良いはずがない。

 

「いつまでも笑顔でいさせる自信があるわけじゃない、魔法以上にお前を満たせる自信なんてない」

 

高町なのはという存在にとってどれほど魔法が大切なものか、少しだけでも俺はわかっている。

だけど、それでも俺は退きたくない。俺は高町にとっての魔法以上の存在に成りたい。

 

 

「俺は俺の為じゃないと動けない人間だよ。今までがそうだったし多分これからもそうだ。他人のことはわからないし、もうわかりたいと思うことも止めた」

 

 

だから、俺は俺の決めた道を進もう。

 

 

「今まで通り俺のやり方で、自分勝手な考えで、お前の気持ちも考えないで」

 

 

 

俺はお前を幸せにしたい。

 

 

 

俺はそれだけを伝えたかったようだ。

 

 

 

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