今より未来を紡ぎ遥か昔より来た少女。
少女の名はヴィヴィオ。
※
頭の中に自分とは違う自分がいる。
どこかそんな風に感じる事は幾度となくあった。
身体を、心を燃やすような怒りを宿した自分。
身の不幸を顔を伏せて嘆く自分。
ただ前だけを、あったはずの未来に手を伸ばす自分。
全て投げ出して楽になりたいという自分。
それでも、一人の女の子が好きで幼い頃に繋いだ手を忘れられない自分。
どこからが確かな自分でどこまでが自分の迷いなのか。
ただそれらが混じり合い、潰し合い、零れ落ちた気持ちは【後悔】、そんな物だった。
もし出会わなければこうはならなかっただろう。
なのはは物語の通りの道を行き、俺も今とは違う道を進んでいただろう。
そうだった方がお互い幸せだったんじゃ、なんて。
腕が痛む。
思考が揺れる。
俺は何をしたいのか?
俺は何をするべきなのか?
何故ここにいて、何をしているのか?
腕が痛む。
思考が揺れる。
しかし彼女に声をかけたのは、
始めたのは、俺だから。
だから、俺が終わらせないと。
腕が痛む。
思考が揺れる。
俺が俺じゃなくなるような。
何かが頭の中に流れ込む。
腕が痛む。
腕が痛む。
腕が痛む。
腕が痛む。
腕が痛む。
「だから、これは私の我が儘」
俺は、
「それでも君は」
なのは?
「私と出会ってほしい」
ああ、お前は、そう言う奴だったな。
だから、だから俺は、こう思うんだ。
「やっぱり、なのはを好きでよかった」
そして、そんな強い君だから。
「助けてほしい」
俺は泣きたくなるんだ。
※
声が聞こえた。
誰かが呼んでいる。
何かが来る。
この声は、
俺?
※
その少女を見つけた瞬間、風が吹いた。
頭の中の霧が晴れるような、まるで生まれ変わるような感覚を俺は感じていた。
金の髪、紅と翠の瞳。
俺はこの少女を知っている。
ヴィヴィオ。
【最後のゆりかごの聖王】
そのクローン。
もう、そこなのか。
物語の終わりが、見え始めた。
ヴィヴィオをなのはに任せ、その体に繋がっていた鎖を見る。
その鎖の先、括り付けられた箱にはレリックが一つ。
確認次第六課のメンバーに連絡を渡す。
最も速く現れたのはエリオとキャロの二人。
そして、ガジェットの群れだった。
「なっ!?」
タイミングが悪い、そう吐き捨てエリオ達に指示を出すなのはを確認する。
彼女はガジェットの群れの対処をするようでエリオ達はヴィヴィオが現れた下水道の捜査。
俺はと言えばヴィヴィオを収容したヘリでの待機。
都合がいい、そう思った。
ヴィヴィオの事が気掛かりだったからだ。
俺を呼んだ声はなんだったのか、
何故その先にヴィヴィオがいたのか、
何故ヴィヴィオを見た俺は今まで感じていた靄のような物を感じなくなったのか、
疑問はつきない。
ヴィヴィオといればすべてがわかるという訳ではないだろう。
しかし、何故か俺はこの少女の側にいなければいけないと思っている。
この気持ちはいったいどこから来るものなのか。
それも、疑問の一つなのだが。
※
はやての魔法によって幻影ごと落とされていくガジェットを見ていたとき、それは現れた。
強大な魔力反応。
同時にそれは魔力を弾けさせ砲撃魔力を吐き出した。
「ハッチ開けて!今すぐ!」
反射的に叫ぶと同時、バリアジャケットに身を包む。
ハッチが開ききるより先に、僅かに出来た隙間から文句をもらいつつ飛び出す。
砲撃がこちらに向かってくるのはわかっていた。
問題は防げるかどうか。
ちらりと背後の様子を確かめる。
未だにヴィヴィオの意識はない。
離れた場所にはこちらへ向かうなのはの姿、どうやら彼女がたどり着くより先に砲撃は俺とぶつかるだろう。
俺がやるしかない。
ヴィヴィオは俺が守らないといけない。
……?
なんでそんな事を、
浮かんだ疑問は構成した障壁が砲撃とぶつかり合うと同時に四散する。
ヘリのハッチが開いているから衝撃さえ後ろに通せない。
身体に力を入れ、なのは達のように多いとは言えないが、ありったけの魔力を注ぐ。
それでも、砲撃は俺の身体を後ろへと下がらせる。
まずい、思わず弱音が零れる。
それが悪かったのかその言葉が戸惑いを生んだ。
障壁に罅が走る。
「っ、あ」
抑える力が弱まり体がさらに後ろへずれる。
どうすればいい、意味の無いとわかる問いが頭をよぎる。
弱音は更なる弱音を呼ぶ。
また、腕が痛み始めた。
どうすればいい、問いに答えは出ない。
どうすればいい、繰り返す問い。
どうすればいい、
問に答えたのは背中へ向けられた視線だった。
思わず視線がが後ろを向いた。
紅と翠、二つの瞳が俺を見ていた。
「あ」
ただそれだけの事で頭の中にあった弱音が全て吹き飛んだ。
まもらないと、
ただそれだけが繰り返される。
まもらないと、
なぜこんなにもそんな想いが湧き出るのか。
わからない、わからないけど。
誰かが、何かが叫ぶ、まもらないと、と。
歯を食いしばる、目を見開く、体中の魔力を振り絞る。
出来ることはこれくらいだが、それでも俺はあの少女を守りたい。
そう、想いが固まった瞬間、
色鮮やかな魔力光が俺を包み込んでいた。
カイゼル・ファルベと呼ばれる、虹色の魔力光が。
俺の体や張っていた障壁、さらには敵の砲撃すらその光は包み込んでいく。
するとひび割れた障壁は一瞬で修復され砲撃魔法を押さえ込んでいく。
消えていく砲撃の光を呆然と見つめるしかなかった俺はゆっくりと後ろに目を向ける。
何が起こったのかなんてわからない。
混乱しか残らない俺の視線の先。
ハッチが開ききって風が吹き抜けるヘリの中、
紅と翠の瞳が、ヴィヴィオが俺を見つめていた。
「助け、られたのか……?」
その呟きは風にのって消えた。
また、腕が痛み始める。
どうやら、
何かが始まったようだ。